Freedom Universe
話すうちに俺の冷静さもある程度回復した頃合いで、そろそろ俺のターンだ。
「俺からも質問していいか?」
「……何?」
「名前。教えてくれないか」
「……どうして?」
俺の質問に金髪は片方の眉毛を上昇させた。
そういえば眉毛は黒いのな。
てことはその金パは染髪によるものなのだろうか。
「依頼、というものにはやっぱり信頼関係が一番だと思うんだ。依頼を受ける側もする側も、お互いの素性をどの程度分かっているかどうかで精神的なノイズも軽減すると思うし、それに今回に関しては依頼主の俺がキミの応え方に納得がいっていない。ねじれの位置の考えに疑心も募るってものだ。そこで、このままだとアンフェアなのでキミの素性を少しでも知りたい」
俺のしょっぱい熱弁に、金髪は徐々に眉を顰めていくのが分かった。
「……春枝、ナンパ?」
「ちがっ」
クソ、この女もしかして頭悪いのか?
それとも茶化すつもりで言ってやがるのか、どちらにせよ少し腹が立った。
「あのな――」
「ユー」
金髪は綺麗な顔に優しさを一滴落としたような、見たことの無い柔らかい笑顔をしていた。
「えっ」
「名前」
「ユーって……。海……じゃなくて岸絵さんと同じUか?」
金髪はゆっくりと首を横に振った。
「ユー。わたしの下の名前。」
「ユー?」
「自由の由に、宇宙の宇で、由宇」
「由宇」
由宇。
容姿に似合う、なんて綺麗な名前なんだろう。
「本当は私から教えるつもりはなかったけど、確かに春枝の言うとおり、今回依頼が十分果たせたとは言えない」
ユー……ああそうか、白夜が口走ったのはこいつの本当の名前だったのか。焦りっぷりも合点がいった。
「名前を教えることで春枝の疑心が減るかはわからないけど」
由宇……。
どうしてだろう。
姿を見たときからではあったが、言葉にならない感情が存在する。
懐かしさ?親近感?
しかし聞いたことの無い名前だ。
俺と名前が似ているからだろうか。
ただひとつ、間違いなくこの感情が「恋」ではないことは分かる。
そんな感情じゃない。
理由は……現状は違うからとしか言えないのだが。
「ちなみにコードはY。もうわかってると思うけどコードは単純に名前のローマ字頭文字一文字」
由宇の言葉は俺の耳に届いてはいるが、俺の中で湧き上がる得体のしれない気持ちが今の俺を独占している。
胸が温かくなるというか、ポワリと不思議に顔が緩むというか。
それでいて少し切ないというか。
一体全体、なんていう感情なのか……またしても分からない事が増えてしまった。
名も知らぬ、行き場のない感情を生み出した俺は、勝手に視界がぼやけて行った。
「春枝? 春枝!?」
俺の顔を見ながら目を丸くして少し大きな声を出す由宇。
「どうしたの? 大丈夫? 春枝君!?」
多分、俺は笑顔だったと思う。
目に見えてあたりふたりと動揺する金髪由宇はレアショットだ。
是非目に焼き付けておきたい。
が、今はぼやりかすんでうまくフォーカスが合わない。
ガタリとパイプ椅子の音が鳴り、スカートのポケットから薄い桃色のハンカチらしきものを俺に差し出している由宇。
なんだ、感情の希薄な冷徹人間かと思ったけど、ちゃんと人間らしさがあるんじゃないか。
左手で由宇の優しさを受取りながら、少し俯いて右手の甲で両頬に残る水脈を拭った。
そのまま勢いよく息を吸い込み、ゆーっくりと全てを吐いた。
「大丈夫、ごめん、ありがとう」
由宇の目を見ながらそう言うと、由宇は怪訝そうに首を緩やかに傾けた。
「何が大丈夫?」
「俺が」
「……何がごめん?」
「驚かせ……て?」
「……何がありがとう?」
「名前を教えてくれて」
迅速な応答に、三度怪訝な顔をする由宇。
未だこの感情に名前は付けられないが、一つ気づいたことがある。
そしてそれは確信に近い。
俺は、昔、由宇に会ったことがある。




