しまうシール、取り出す写真
俺はその後、事が終わって汗だくになった。
……いや別に変な意味ではない。
先のプリクラ筐体の指示に弄ばれ、満身創痍故の発汗だ。
近くの木製ベンチに腰を下ろし、俺は左掌を団扇にし天井を仰ぐ。
それにしてもなんだ、あの機械のナビゲーションは。
甲高くテンションの高い女が終始ナレーションを務め、俺と岸絵は言われるがまま従ったが、
「背中を合わせて」だの「顔を近づけて」だのと、やたらと密着レベルが高い指示ばかりだったのだ。
仲の良いカップルならいざ知らず、俺と岸絵は今日知り合ったばかりの男女だ。
緊張やら困惑やらでそりゃ変な汗もドバリと出るぞ。
普段からそんなに多汗な方ではない俺だが、今は全身くまなく汗を感じる。
何とかぎこちなくプリクラを撮り終えた俺たちに、ナビ女は次に違う小スペースへの移動を命じ、らくがきをしろとのこと。
ここで俺は何をしていいか分からずギブアップをし、こうしてこのベンチに移動してきたというわけだった。
岸絵はというと、無邪気な笑顔で「では、わたしに任せておけ、です」とペンを握りしめながら言い放ち、小スペースからかれこれ五分以上は出てきていない。
天井の照明を見上げ、ながら自分の前髪にため息をぶつけた。
……。
一人になったことで冷静さを取り戻し、衝撃の事実が俺を襲う。
――俺に、友達が出来た!?
嘘だろおい。
しかも女って……。
友達って何するもんなの。一緒に映画とか見るの?
いやいやそれじゃデートになっちまうし。
流れで、成り行きで、意図せずできた初の友達がいきなり女の子って……。
三次元あみだくじをやらされているかのような複雑な胸中だが、なによりも友達ができたことに喜びを感じずにはいられず、無意識に顔が緩んでしまう。
「何をだらしない面をしてる、です」
「おわっ、と」
いつの間に、らくがきの終わった岸絵が座る俺を見下ろしていた。ちょっぴり眉を顰めながら。
「おお、終わったんだね。お疲れさま」
俺の言葉に岸絵は小さくコクリと頷き、手に持っていた細長い紙キレを差し出す。
できあがったシールだった。
「それは、春枝の分、です。大事にしやがれ、です」
言いながら俺の右隣に座る岸絵。
距離が近い。ものすごく良い匂いがする。
徐々に元気になっていく心臓付近に手をやると制服の内側に何か入っている感触があった。
すかさず右手を内ポケットへ、するとそこには一枚の写真が入っていた。
そこに映るものを見て、俺の頭に濁流の如く忘れていた記憶が入ってきた。
俺が何のために岸絵に接触を試みたか。
友達になる為ではない。
いや、なったのはすごくうれしいんだけども。
座ったまま真剣にできあがったシールを見つめる岸絵に、
「あのさ、ちょっときいてもいいかな」
敢えて声をワントーン下げて尋ねた。
「なんだ、です」
岸絵は大事そうにシールを鞄に仕舞い込みながら、こちらに体を向ける。
座る距離の近さにドキドキしたまま、俺は内ポケットの写真を取り出した。




