オアシス
日の長くなった暖かな夕刻を喜べるような心情ではないまま、岸絵に連れられてやってきたのは、学校から徒歩十分程のところに位置する最寄駅「南張駅」に隣接している「オアシス」という名の小さめの商業施設だった。
おっとりと歩く岸絵は道中、しきりに振り返り俺の顔を一瞥していた。
御付の朱雀も俺とほぼ並んで歩いていたが、そちらの方ではない。
間違いなく俺の方に何度も何度も視線を寄越しては、時折口元がにやりと嗤うのだった。
その微温い笑顔を見るたび苦笑とともに並々ならぬ不安が増幅する。
せめて殺さないでください。
「朱雀はここで待ってろ、です」
一頻りベンチが立ち並ぶ正面玄関の入口前で、岸絵は朱雀にそう告げた。
「え! おじょ、お嬢!」
「わたしは春枝と、話をしねーとならねえ、です」
「しかし、一人だとあぶねえです、お嬢」
「朱雀は心配性すぎるんじゃ、です。少しは信用しやがれ、です」
「そうはいってもお嬢……」
このやり取りの間に逃げられないですかね、俺。
周りを軽く見渡すと、二十メートル先、隣接する駅の入口に入って行こうとする人物と目が合った。
こちらの状況を見透かしてか、バツが悪そうに笑う、複雑な表情の田丸女子だった。
俺は必死に表情を変えたり、目をぱちくりしたり、無言のヘルプを訴えたが、必死空しく田丸女子は歩みを止めずに親指を立ててから駅に入って行った。
見捨てやがって、覚えてろよロリ巨乳が……。
俺が効き手を固く握りしめていると、
「おい、春枝。何をしてやがる、です。早くついてこいや、です」
そういった岸絵が自動ドアをくぐり「オアシス」の中へ入って行った。
どうやら説得されたらしい朱雀は、ムスっとした顔でベンチに座っていた。
「お嬢を待たせんとはよ行かんかい! お嬢に何かあったらただじゃおかねえぞ」
これから何かあるのは俺なのでは?
話をしなきゃならないって言ってたよね。
本当、それだけだよね?
とにかく、銃所持の朱雀にもどこぞのお嬢様の岸絵にも逆らうわけにはいかない。
俺も追っかけ、「オアシス」に入ることにした。
ここが本当にオアシスならいいんだけど。




