服装頭髪検査
我が賢道高校には生徒誰もが眉を顰める忌々しい行事の一つ、抜き打ち服装頭髪検査なるものがある。
大体月に一度、突然発生するそのゲリライベントは数々の生徒が私物を没収され、服装の乱れや髪型により内申点を下げてきた。
水曜日の今日、二時限目の数学の授業で、呪文のような公式を寝ぼけ眼で見ているときにそのゲリライベントが開催された。
乱入するように生徒指導の教師と体育教師の二名が教室に現れ、全員を起立させる。
ひとりひとり順番に髪型や服装のチェックがなされる中、今日は漫画や携帯ゲームを持ってこなくてよかったと安堵をする俺。
その安堵は、順番に回って俺の元へやってきた生徒指導の教師の「生徒手帳を出しなさい」のセリフでどこかへ消え去った。
ふと脳裏によぎる昨日のゴミ箱シュート。
案の定、制服のポケットには生徒手帳は入っていなかった。
「ほれ、早く出しなさい」
ひとしきり必死に探すフリをした後「家に忘れました」と小声で伝えた。
「馬鹿者。名前は」
「春枝です」
「二年六組の春枝、生徒手帳不携帯……と」
そのガタイのいい生徒指導の教師は小さなメモ帳に俺の名前とクラスをメモしたようだ。
どのみち推薦なんて通る頭のない俺は内申など気にすることはないのだが……。
これ以上は問題だけは起こさないよう気を付けねば。
そのあと、カバンを開けて見せ、そろそろ髪を切れと言われて俺の手番は終わった。
「春枝君、生徒手帳持ち歩いていないの?」
隣の黒川が笑いながら訊いてくる。
「たまたまね……そういう生徒会長はどうだったんだよ」
「私はほら、生徒会長だし」
腰に両手をあて得意げな顔を浮かべる黒川。ちょっと可愛い。
その得意顔の黒川が小さく手招いた。
少し近づくと俺の耳に顔を近づけ、かなり小さな声で、
「まあ、実は抜き打ち持ち物検査の実施は生徒会でも日時を決めるのに一枚噛んでいるから……」
「え、それはつまり今日がその日だと知っていたってことか」
「そうなの」
元の位置に戻り、笑顔を続ける黒川。
そりゃ事前に知ってりゃ態々余計なものを持ってきたりはしないだろうね。ずるっ。
「今度の時、俺に事前に教えてくれないか?」
「だーめ」
「ええ、そこを何とか頼みますよ黒川さん」
俺のキモい懇願台詞に、目を閉じ無言で首を振る黒川。
「これは生徒会の特権だし。悔しかったら来年生徒会に立候補しなさい」
それは嫌だ。面倒の極みだ。
口をへの字に軽く黒川を睨み付けていると、着席の号令がなった。
気づけば乱入教師二人は姿がなく、数学の授業へと無事帰還したようだった。
少ししてから、ちらりと右に目をやると黒川が真剣な眼差しで板書をしている。
スラリとした体形にふくよかな胸、サラサラの長髪で誰に対しても優しく気配りもできる。
おまけに生徒会長で先生方からの信頼も得ている。
眉目秀麗とか、容姿端麗とか、その辺の称号を兼ね揃えたようなこの女の子が、比ぶべくもない俺の様な粗末な人間と友達でいてくれることが、俺にとっての高校生活随一の誇りだ。
まあ、俺が一方的に友達と解釈しているだけで、向こうはその気はさらさらなく、分け隔てなく接する人間の一部にすぎないのかもしれない。
ただ、小学中学と特定の友達も遊ぶ間柄の輩もほとんどおらず、学生生活は妹と遊ぶことだけで終わるものだと思っていた俺にとっては、たかが教室で座っている少ない時間かもしれないが、話す人間がいるということがどれだけ幸せな事かは言うまでもない。
友達、といっても遊んだり一緒に何かをしたりするわけではないけれど、これまでを鼠色に過ごしてきた俺にとって明るい挿し色になっていることには違いない。
そんな黒川に心の中で改めて感謝を言い、呪文の板書に戻った。




