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好奇心は小心者ですら殺す  作者: えねるど
5月21日(水)
18/46

入学式の写真

 日々進化し続ける科学の結晶の一つ、スマートフォン様の有り難き機能の一つである目覚ましアラームで、見ていたかもわからない夢から目が覚めた。

 ゆっくり上半身を起こし、しばらくボーっとする。


 そのうちドタドタと階段を駆け下りる音が響いてきた。

 恐らく妹だろう。

 部屋が隣の我が妹と、ここ最近目覚ましの時間はほぼ同じだ。

 よく煩めの音楽が隣から聞こえてくる。


 脳を覚醒させるために先ずはホチキスの場所を思い出そうと試みた。

 が、やっぱり思い浮かばない。


 スローモーションのようにゆっくりと立ち上がり、机横の引出しの前でしゃがむ。

 下から順番に開け、ホチキスを探していくと、代わりにひらりと入学式の写真が出てきた。


 親馬鹿な父親が事ある毎に記念写真を撮ることに俺は抵抗がないが、高校生にもなって入学式の写真を校門前で撮らされるのは流石に少し恥ずかしかった。

 引き攣った笑顔の俺の後ろに写る新入生徒にたまたま目が行き、俺は目が飛び出るかと思った。


 こいつは――。


 俺の目と記憶が間違っていなければ。

 この横顔はどうみてもオースティンと名乗るあの子だ。

 金髪の差し金で数日前にデート(笑)をして、淋しい別れ方をしたあの子が写っていた。


 しかし、写真のこの子は長髪だった。

 色は黒髪で同じだが、デート(笑)をしたときは肩までないくらいの短さだったはずだ。


 まあしかし女性の髪形と秋の空なんて言うし、髪は切っただけかもしれない。

 秋の空に続くのは心だっけか。


 こんな身近にヒントが隠されていたことで、俺は完全に睡魔から解放された。

 さらによく見るともう一つ驚く事があった。


 写真の中のオースティンなる子が話しかけているであろう人物に、これまた微妙に既視感があったからだ。

 金髪でそれなりの年齢の男性。

 多分だが最後の砦であるCことクリス先生だ。


 オースティンなる写真の中のその子は、クリス先生に話しかけている様に見える。


 腹の底で何かが沸き立つのを感じながら写真を制服の内ポケットに入れた。

 と同時に腹の虫も鳴り、俺は一階へ朝食を摂りに行くことにした。


 * * *


 いちごジャムを塗ったトーストをがぶりと一口。

 咀嚼をしながらさっきの写真を思い浮かべる。


 たまたま入学式の日に何かのきっかけで話していただけの生徒と先生……とも考えられなくもないが、ここ最近の出来事といい、組織創設者と組織の一員の金髪少女の差し金少女、というだけでたまたまではない雰囲気があの写真からは漂っている。


 一つ、レアアイテムを手に入れた感覚に、俺は無意識に顔が綻んだ。

 それを斜向かいで見ていた妹が、同じくトーストにかじりつきながらあからさまに気味悪がっている。

 自分の表情を無理矢理真顔に戻し、わざとらしく咳払いをして牛乳の入ったマグカップを左手で持つ。そんな目で見ないでくれ妹よ。


 そうだ、昨日コイツはホチキスを貸して欲しそうにしていたじゃないか。

 早く見つけて渡してやらねばならぬ。

 これ以上妹に嫌われるのは精神的につらい。


 残りのトーストを口にねじ込み、牛乳で流し込んだ後「ごっそさん」とキッチンにいる母親に向かって声を掛けた。

 そのまま足早に自室に戻り、引出し漁りの続きをはじめた瞬間にホチキスが見つかった。


 よしよし、妹様へ献上しに行くとするか、と呟きながら階段を再び下る。

 妹からのお礼の笑顔を想像しながら。


 ……まあその後、昨日母親に借りたのでもう要らないと一蹴されるのだけどね。

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