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好奇心は小心者ですら殺す  作者: えねるど
5月20日(火)
16/46

回想 ~放送室にて~

 俺と田丸女子は椅子に座り向かい合った。

 田丸女子は今までにないくらい真剣な表情をしながら、「それではどうぞ」とまっすぐに俺を見つめて言う。


 よし、訊いていこうか。


 ひとつめ。まずは小手調べだ。


「ストリキニーネって何か知ってます?」

「……遅効性の猛毒。中枢神経に作用するのと、服用から十五~三十分かかるのが特徴だね」

 

 これは黒川との会話から出た為、事前に調べていて知っている。


 単純にこの田丸女子の知識力を試した質問だったが、普通の女の子が知るようなことじゃない。

 先の推察力といい、只者ではないという事だろうか。


 あとは()()()の事柄についてどこまで知っているかが勝負どころだな。

 真剣な表情のまま答えた田丸女子は、どこか大人びて見える。まあひとつ上だしこれが本来の姿なのかな。

 

 ふたつめ。順序立てて。


「マーキュリーの構成人数は?」

「全部で七名」

 

 これも知っていることだった。

 お遣い道中、偶然会った黒川から教えてもらった。


 そういえばあの時、黒川に三つ質問をしたが、見返りの報酬は求められなかったな。

 なんでだろう。


 みっつめ。ここからは知らない事だ。


「アホレンってのは誰?」


 この俺の問いで田丸女子は少し真剣な表情が崩れた。

 具体的に言えばにやりと笑った。


白夜蓮(びゃくやれん)ってサッカー部の子、会ったでしょ? だからウチのところへやってきたんじゃないの?」


 白夜――あのサッカー野郎か。


「お察しの通りです。英梨さんのことは彼から聞きました」


 田丸女子は眼鏡のテンプルを人差し指と親指でで摘みながら少し俯き「あんにゃろめ」と小さくつぶやいた。

 その顔は今までで一番乙女に見えた。


 俺は何かを察しつつも、一番訊きたい事へ進むことにした。

 昼休み、バラバラと崩れた彼女(金髪美少女)への手がかりを組み直すために。


 さてよっつめ。慌てずにピースを集めよう。


「続けます。マーキュリーの創設者っていうのは誰なんです?」


 心なしか少し前のめりになっていた俺。大して田丸女子は真顔に戻っていた。


「組織内情報だと、少し高くつくけどいい?」

「……具体的には?」

「質問の内容によって飴ちゃんの量が増えますよーってコト」

「構いません」


 飴なんざ十個でも百個でもくれてやる! ……あ、いや百個だと割と懐に響くな。


「気前のいいお客さんは嫌いじゃないよ! えへへへ!」


 そう笑った後、田丸女子も前のめりになった。顔が近い。


「けど春枝君。他言無用を約束してね」


 ああ、わかってるさ。把握するのも納得するのも俺一人だけでいい。


「創設者はC。この学校の英語教師のクリス先生だよ」

「先生……」


 自分の中の焦燥感を押し殺しながら、昨日の放課後、白夜が言っていた事を思い出す。


――金髪ってのは創設者のことを言ってるんだろうけど。


 ということはだ。

 金髪=創設者=クリス先生。

 これは間違いなさそうだ。


 しかし確かに白夜は言った。ぶどうこんにゃくの受取りは(ユー)からお願いされている、と。

 俺の恥ずかしい依頼をぶどこん三つで受けてくれた金髪少女。


 つぎで5つ目。ここをスカれば俺の財布が無意味に空を飛ぶことになりそうだ。


「じゃあ、(ユー)ってのは誰なんです?」

(ユー)?」


 田丸女子は黒目を左上に動かし、顎に人差し指を当てた。


「……春枝君、攻略先間違えてそう」

「はい?」

「いや、なんでもない! えへへへ!」


 田丸女子は椅子の背に上半身を預け仰け反るような形で笑った。


「Uはね。文芸部の1年生だよ。岸絵(きしえ)って子」

「その子は金髪ですか?」

「いやいや、金髪ではないよ!」

「髪は長いですか?」

「うーん、女の子にしては短めだねえ」

「天文学室によく居たりとかは?」

「大体文芸部室で読書してるよ!」

「ぶどうこんにゃくが好きだったりします?」

「ごめん、そこまでは知らない!」


 もう何個質問したか忘れたが、その岸絵って子があのときの金髪少女じゃなさそうなのははっきりした。

 それでは白夜が言った「(ユー)にお願いされて」とはなんだったのか。

 靴箱に報酬詳細の手紙(ラブレター)を入れたぶどこん好きは誰なんだよ。


 粗方、俺の中の具体的な質問は終わった。

 あとは漠然とした金髪少女の正体の謎だけが残った。


「ありがとうございました、英梨さん」

「お! 終わりかね春枝少年。何か掴めたのかね!」

「いや、結局よくわからずじまいで……」

「そっかそっか、そりゃ結構! 悩むのだ! 悩むことが高校生の務めなのだよ! えへへへ!」


 おばさんみたいなことを言うな、とは口にしなかった。


「最後に、一つ訊いていいですか」


 椅子から立ち上がり、カバンを持ちながらダメ元で聞いてみることにした。


「いいよ!」


 俺に合わせて、田丸女子も帰る準備を始めながら俺の方を見ている。


「昼休み、生徒会長が言っていたことの意味って解りますか」

「生徒会長? 黒川さんの……何だっけ?」

「確か、その答えに到達したら、悲しむ人がいると思うから、って言ったんですけど……どういう意味か分かります? 誰が何故悲しむんでしょう」

「ああ。ああ……。あは!! あはははは!!」


 突然爆笑を始める田丸女子。何だよ。


「あの、分かるんですか? 教えて下さい」


 十秒ほど爆笑した後、彼女は涙目でようやく口を開いた。


「こればかりはさすがに抽象的にしか答えられないけど、要は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことかな」

「……はあ」


 はあ?


 帰り支度を止めずに田丸女子は平淡に答えた。


「春枝君も男の子になろうとしてるんだから、そこらへんは自分で考えなさいな」

「はあ」


 なんだ、これ俺が分からないだけなのか。もやもやする。


「そうですか……わかりました、ありがとうございます」


 明らかに落胆のこもった声で返事をしてしまう俺。

 そりゃ肝心なところは八方塞がりだものね。


 新たに得た情報といえば、Cこと創設者のクリス先生と、(ユー)こと文芸部の岸絵さん。

 そこら辺から再び探るしかないのか……いっそ黒川に頭でも下げて訊こうか。


 溜め息を飲み込んでドアに手を掛ける俺に、


「じゃあ、質問十個で飴ちゃん五十個! 明日までによろしくね! えへへへ」

「ごじゅっ……ッ!!」


 田丸女子の無慈悲な宣告が下された。


 1つ確か五十円位だったよなあれ。

 約二千五百円……。


 これはしがない高校生には痛恨の一撃だ。

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