伸びた前髪
黄緑色のお湯の入った浴槽に浸かりながら鏡を見る。
濡れた前髪は鼻の頭まで垂れ下がっている。
そろそろ髪を切りにいかなきゃな。
しかし美容室は精神的苦痛の巣窟だ。
なんであんなに美容師というものはお喋りなのだろう。(※個人の意見です)
喋らないと死んでしまう病気か何かなのだろうか。
こちらはできるだけ見知らぬ人とは喋りたくない。
気を遣って疲れるしね。
だからといって寝たふりをするのも失礼な気がするし、本当に寝てしまって頭をぶんぶん上下させて迷惑を掛けてしまたこともある。
それ以降、しっかりとハサミ捌きを見ている事にはしているのだが、恐らく沈黙が気まずいのだろう。
大抵の美容師は世間話や好きな趣味、俺の学校の話など、他愛もない話を振ってくる。(※個人の意見です)
それに対し無難に無難に、極力話を広げられない様無難に返答をする。
もうそれをするだけで相当なストレスだ。
「休みの日って、なにをしてるの?」
放っておいてくれ。
どうせ、誰々とどこどこへ行った、の様なアクティブな返答を期待し、そこから話を広げようとしているんだろう。
悪かったな、友達が居なくて。
ていうか馴れ馴れしく話しかけるな。
そりゃ高校生だし、美容師にとっちゃガキかもしれないけど。
それでも俺お客様なわけよ。
しかも担当毎回変わるところだから、ほぼ初対面よ。
それに絶っっっっっっ対興味ないでしょ。俺の休みの過ごし方なんて。
気を遣って話を振ってきているのは分かるんだよ。
そういう気の使われ方も本当にストレス。
だからといって、思春期(認めちゃった)の高校生が美容室ではなく、床屋に行った日には、下手に刈上げにされてスポーツチックな髪型にされかねない。
ひっそりこっそり高校生活を勤しむ俺にとって、突然のスポーツ刈りは恥ずかしさがキャパオーバーだ。
まあ、誰も俺の髪型の変化なんて気づかないんだろうけどね。
あ、生徒会長だけは別かな。
きっと黒川なら笑いを堪えながら「どうしたの、その頭。思春期?」なんて言うんだろう。黒川は優しいからな。
襟足ももみあげも前髪も、全体的にそれなりに長めの髪な俺だが、そろそろ生徒指導の教師に目を付けられそうな髪の長さに到達している。
はあ……美容室か。
億劫が一つ増えたところで、上を向き目を閉じる。
そして今日の放課後の放送室でのやり取りを回想する――。




