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RAND  作者: 市田気鈴
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第8話 新たな一歩

書いていると主人公二人とも頑張ってくれているのが実感できます。脇役も頑張っています。そして私は無我夢中で振り回されている気がします。

 ガジェットを装着したロック達は生活圏を囲む城壁の上に立っていた。場所が高くなったためか吹いてくる風が荒々しく感じる。もっともこの風のおかげで先ほどまでのゼオの大群と戦った後に残る弾薬や肉の焦げた戦いの匂いを吹き飛ばしてくれるのだが。

 見下ろすと筋肉質のゼオが十数体、壁を睨みつけていた。上にいるロック達には気づかない様子でじりじりと壁のそばに行ったり来たりしている。頭ごなしに突撃していないあたりに警戒しているのがわかった。


「相手はいつものゼオ」

「いつものように突っ込まないのは不気味だが、数はそこまででもない」

「だがこっちも万全ではないしなぁ…」


 バラーラがため息交じりに呟く。それも当然だろう。今回の彼らが装着したのはいつもの4型ウォンバットだが、追加武装が一切ないのだ。肩部のミサイルも大型のキャノン砲もなく、試作のどこで使うのかと問われるような武器もなかった。先ほどのゼオの襲撃で武器の数はかなり少なくなっていた。特に爆薬は広範囲の敵に当てられるため使いこまれており、タートルにも装着されていたので現在ウォンバットに装着できるようなものはなかった。おかげで今の彼らが使える武装は標準装備である両腕に備え付けられた機銃と電気が流れるブレード、そして一人一個というなけなしの爆弾だけだ。


「ここで爆弾を一気に落としても良いがあいつらの動きが気になるな」


 ギャリーの見立てはこの場にいる全員が思っていた。たしかに今のゼオはロック達に気づいていないように見えた。しかし明らかに自然とは別の物相手に突撃せずにうろついているのを見ると、以前ロックが気づいた頭を使ったゼオを連想させる。つまり彼らが何か目的をもって動いているような気がして仕様がなかった。そうなると持っている爆弾を落として討ち損ねた相手を追撃という最善策をとってもいいのかが迷う。


「さて…どうするかな」


 ロック達3人が指示を仰ぐように視線を向けた先にいた男が疲れたように口を開く。今回の防衛に当てられたのは4人。ロック、ギャリー、バラーラと同じく装着場の近くにいて、彼ら指揮するために隊長格の男が選ばれたのだ。それがロジエールであった。


「ここで爆弾を落としてハイ終わりとするのが一番楽なのだが、彼らがそれをさせてくれない」

「じゃあ、降りて戦いますか?」

「むしろそちらが狙いな可能性もある。相手は我々をおびき出そうとしているのかもしれない」

「なんでそんなことを?」

「そこまではわからない。だが彼らは我々に気づいていないはずなのにさっきから同じ行動を取っているとういうことは、司令塔なるゼオにこういった行動を常に取っていろとでも命令されているのかと思ったからだ」

「もしロジエールさんの推測が正しければ…」

「伏兵の可能性もある。なればこそ我々は注意を怠るわけにはいかないな」


 ロジエールの考えにロックはマスクの中で感心の息を吐いた。すぐに考えて可能性を導き出せるのはこの男の強みであった。マークが基本的にリーダーシップに富んでいる典型的な隊長的存在だとすれば、彼の場合はできるだけ石橋を叩いて渡るために考えを巡らせるチームのブレーン的存在だ。それなのにいざという時は体を張るのだからこそ一癖も二癖もある集団をその知能でまとめ上げていけるのだろう。

 ロジエールは少し腕を伸ばした後に、目下の怪物どもに視線を移した。ガジェット越しでも彼らを見下していることがよくわかった。


「シンプルにやろう。爆弾を落として疑似爆撃。さらにそこから私ともう一人で降りて接近戦だ。他の2人はまた空を飛ぶゼオが来た時のためにここで待機」

「援軍を呼んでも良い気がしますが…」

「すでに打診はしたが人手足りないという理由で来ないな。もっともこの人数で行けと言われた時点でよほどの数でもなければ増援も期待できない。それに最低限の準備はしているようだ」


 ロジエールは中央部の建物に顔を向ける。さすがに遠くて見えないがおそらく中心施設にはすでにいざという時の防衛のガジェット部隊が待機しているのだろう。


「さて私と一緒に来てくれる勇敢な者はいるかな」

「それじゃ俺でしょう。この中じゃあんたの部隊に所属している唯一の人間だ」

「よろしい。それではロック君とギャリー君はここで待機してくれたまえ。それと爆弾はどちらか一つは残しておいてくれ」

「「了解」」


 そう言うとロジエールとバラーラは一歩前に出る。ロックも爆弾を持って彼らの横に着いた。


「本当の知恵とは断固たる決意である。まあ、私はナポレオンではないから通り一辺倒の決意しかできないが」

「まーた偉人の言葉の引用ですか。誰ですそれ?」

「ナポレオンについては何度か話したことがあるんだが…まあいい。それでは構えよう…始め!」


 ロジエールの掛け声と同時に3人は爆弾を下のゼオに向かって落とす。小型とはいえ3つもの爆発が同時に起こればその威力はなかなかのものであった。目下にいたゼオの叫びが聞こえる。肉が焼かれて苦しみにのたうち回る声だ。しかしロック達はそれに同情などしない。手際よく生体反応を調べるとまだ6体ほど生きていた。

煙が渦巻く中でロジエールとバラーラが素早く降りる。煙の中ではゼオも困惑したようにただまっすぐに突撃しようとするが、ロジエール達は慌てなかった。4型ウォンバットは汎用性に優れたガジェット、そのため煙の中で視界が悪くても対応は十分に可能であった。ロジエールとバラーラは絶妙なコンビネーションで下にいたゼオを駆除していく。ある者はブレードで胴体を真っ二つに、ある者は機銃で顔を撃ち抜かれた。


「さすがマーク隊長にも勝るとも劣らずの人だ」

「ああいうのを見ると世代が違うからというのも言い訳に聞こえるよな」


 この様子なら自分たちの出る幕はないだろうとロックは思ったが、警戒を怠るわけにはいかない。ここ数日で現場ではゼオはもはやただの野蛮な獣とは一線を画す存在であるという認識になっていたからだ。

 間もなくその考えは正しいことが証明された。少し離れた木の陰から何かが大きく飛び上がった。すぐに城壁の上で待機していたロックとギャリーは機銃を構える。現れたのは例によって翼を持ったゼオであった。大きく飛び上がった彼らはロック達目掛けて滑空してくる。速度は決して速くなかったが右や左へフラフラと動くため狙いを定めにくかった。これまで地上にいる相手しか狙ってこなかったため、360度の動きが可能である相手を狙うのはたった1回の遭遇経験では難しかった。しかも標準装備の機銃ではかすっただけでは致命傷にならないのも厄介であった。いつもの誘導ミサイルを使えないだけでここまで戦いが辛くなるものなのかとロックは内心で苛立った。せめてもの救いは現れた空を飛ぶゼオがこの前の集団などではなく5体しかいなかったことだろう。

 ロックは片手から両手で構えて機銃を連射する。もちろんゼオはよけるために体をひねったり滑空の進路を変えるが、それを見計らったようにギャリーがブレードで1体斬りふせた。ゼオが生活圏内ではなくロック達に向かったことから、すぐに彼らの本質が変わっていないことがわかった。あれが敵意を向けられただけですぐに気がそれる怪物であることが。それを理解した瞬間のロックとギャリーの動きは素早かった。ロックが注意を惹きつけるように両腕の機銃で相手に発破をかける。ギャリーは極力ゼオに関心を持たれないために下がってからブースト機能を使って飛び上がり、敵の避ける進路を見て攻撃を加える。この連携を彼らは打ち合わせもなく行動に起こした。普段でこそ性格が本質的に合わない二人ではあるが、こと戦闘においては阿吽の呼吸で見事な連携をすぐに行えた。

 1匹やられたことで他のゼオがギャリーに気を取られるがそれを見過ごすロックではない。すぐによそ見をしたゼオの一匹の頭部を両腕の機関銃で蜂の巣にする。一方でギャリーは再び飛び上がり、残ったゼオの3匹をおびき寄せる。上に向かって飛んでいくギャリーを追うように3匹は連なった。そしてギャリーは待ってましたとばかりに最後の爆弾をひとつ下へ落とす。それは下にいたゼオに命中して体を爆炎で燃やした。2匹が盾になったため一番下にいた1匹は生きていたが片方の翼に火が移り、混乱したように急降下していった。ロックはこれに向かってワイヤーを撃ち出して生活圏内に下りないように軌道修正させた。気が動転したようにバタバタと空で暴れるゼオはワイヤーが撃ち込まれたことに気づかない様子であった。そのままぐるっと弧を描く軌道を取るとゼオはそのまま城壁の外側に叩きつけられて動かなくなった。

 あっという間にゼオ十数体をたった4人で無力化した。ガジェット内で汗をかいているのを実感しながらロックは息をつく。


「ロジエールさんの予想は当たっていたね」

「まったくだ。おかげで討ち漏らさずにすんだ。もっとも楽な戦いではなかったが」


 ロックの言葉に通信越しのギャリーは少し呆れ気味に答える。戦闘時間はたしかに15分もないほどのあっという間の戦いであったが、この時間に考えて動いて攻撃してと詰め込まれた内容があったことを考えれば彼の皮肉的な言い分は最もであった。

 それでも数時間前のような悲劇にならなかっただけマシであろう。決して最高のコンディションとは言えない状態で被害なく敵を鎮圧できたのだ。ロックとしては特別報酬を貰えるかもしれないなどと期待すらしていた。

 間もなく上からギャリーが降りてきて、さらに城壁の下にいたロジエールとバラーラも彼らの隣に着く。


「不意打ちにはよく反応してくれたよ。さすがはマークのところのエースだ」

「まあ俺らの方が多くやったけど」

「バラーラ、下手な煽りだな。状況も違うのにどっちの方が多く倒したかなんて言っても比較にならないのは明らかだろ」


 ここぞとばかりに口を挟むバラーラにロジエールが諌める。ただこんな煽りにもならない言葉でもリュータなら乗ってしまいそうだとロックは思った。

 これで戦いが終わるかと思ったがそうではなかった。ゼオがレーダーの範囲内にいる探知機がマスクの中でなった。すぐに銃口を向けて4人ともその方向を見る。それを見た時彼らの動きは完全に止まった。弾が切れたわけでなく、機銃を撃つには距離が離れていたからでもない。その姿にあまりにも驚いたからだ。

 彼らの視線の先には大きなゼオが翼をはためかせながら空中で止まっていた。その大きさはたしかにそこら辺のゼオよりも一回りも二回りも大きく、今の武装で倒しきれるかは疑問であった。しかし彼らがそれ以上に注目したのはその背中に立っている存在の方だ。

 身長は160cmもなく、ボロボロの布を体や顔に巻き付けている。間から見える目は濁った青色をしていた。間違いなくそれには手も足もあり、ゼオのような不自然な長さや形をしていなかった。つまりそのゼオの背中には人間が乗っていたのだ。













 アーノルドはどうも考え事をしていると口が寂しくなることが多かった。そのためいつも飲み物は準備するようにしていた。もしかしたらすぐに潤う口を乾かすために独り言を言っているのだろうかとすら思ったこともある。

 そんな彼はタバコを吸う時もたまにあった。もっとも仕事の苛烈さを考えると体力の重要性はよく理解していたので吸うのは電子タバコだが。一度だけ本物のタバコというものを味わったことはあるが、あのむせ返るような苦しさはどうも彼には合わなかった。それでもたまに口にくわえたくなるため彼は健康用のマイナスイオンも含まれた電子タバコを使っていた。

 現場による報告が終わった後、彼は煙草を口にくわえながら案内された大人数用の休憩室にあった映像による外の景色を見ていた。できれば外に出て体を伸ばしたいところであったが、現在再びゼオが生活圏付近にいるとの情報があったため室内にいるしかなかった。

 映像には別にガジェット部隊が戦闘しているところが流れているわけではない。ただ悠然とこの星の大自然が映し出されているだけであった。相変わらず彼の目には宇宙船から見た時と同じようにこの景色に暗い思惑が孕んでいると思えた。ただ少し違ったのはそれが数時間前よりもはるかに酷く感じさせたことであった。その原因は先ほどの報告の中にあった。

 Z58惑星に人間に匹敵する可能性のある知能を持つ存在を示唆された後、彼らの報告は本来予定されていた内容に切り替わった。しかしこの報告の内容が余計に政府に脅威を抱かせる内容に変化していたのであった。地球時間で約2週間前、この惑星で巨大な水晶の塊が発見された。一見サイズが大きいだけで地球の水晶と何ら変わりはないのだがそれは特殊な電波を発しており、どうもゼオを引き寄せるような性質を持っているようであった。現在は電波を遮断する素材のケースで保管されているため問題はなく、新たな物質の発見かと思い喜ばれていた。上手くいけばこの星に住むゼオをコントロールして軍事用に開発できるかもしれない、そんな淡い期待も持っていたからこその軍事大臣という人選だったのだろう。

 だが今は一転、この水晶の存在は怪しげな雰囲気を持つ不信感満載の物体となっていた。

知能を持つ何者かが裏で糸を引いてこのタイミングで水晶を活用したのではないかと。もちろん明確な目的はわからない。しかしゼオをその場所に集めること、人間をおびき出してゼオの食い物にすることなどと想像ならいくらでもできた。Z58惑星を開拓して何年もの間この物質が見つかってこなかったのが尚更その考えに拍車をかけた。この物質が見つかったのはその謎の電波が発生したからだ。もしかしたらその電波は自然に発生したものではなく、誰かが意図的に発生させたものだとしたら…。

 いずれにせよ、現在のZ58惑星は資源豊富な星ではなく地球の仇になる存在が示唆される星となっていた。


「勘弁してほしいものだぜ!こんなところで命の危険にさらされるなんてさ!」


 同じ休憩室にいた役人が聞こえるような声で露骨に不満を漏らした。先ほどの報告でこれ見よがしな発言をした若い役人であった。身長はそれなりに高く豊かなブロンドの髪は整った顔によく似あっていたが、その横柄な態度と普段の人を見下したような目つきと口元がせっかくの容姿を不意にしていた。ブルベル・ブレアウィッチはアーノルドと同期で政府の下役人であった。アーノルドとの共通点はもう一つあり彼の父親も政府の高官であった。ただ彼と違って父親の存在を大いに活用しており、あらゆるコネクションを築いていた。そのため少々ワガママかつ尊大な態度を取ることが多い。それでも政府内であっという間に近所のガキ大将のごとく自分の取り巻きを作って根回しを行ったり、それなりに仕事をこなしたりと評価できる点はいくつかあった。


「こっちはさっさと帰りたい気持ちだぜ!アーミーもそう思うだろ?」

「まあ、あまりいい気分ではなかったことには同意するな」


 ブルベルの呼びかけにアーノルドは肩をすくめながら答える。アーノルドはこの鼻に着くような彼の態度は気に入らなかったが、ブルベルの方は親が政府の高官であるシンパシーを感じてアーノルドにはそれなりに親しいつもりであった。それでも随所に失礼な態度はあったのだが、これが彼にとって当たり前なのがアーノルドを困惑させる。特にアーミーというあだ名は気に入らなかったが、ブルベルとしては軍人のように潔いというニュアンスらしい。

 相も変わらず取り巻きに囲まれながらブルベルはアーノルドに呼びかける。


「まったくこんなことなら来るんじゃなかったぜ」

「俺はまだ父さんに連れてこられただけだが、お前はもともとの仕事だろ」

「こっちはちょっとした旅行がてらの気持ちだったんだよ。しかも噂じゃ今後の調査のために政府の誰かが誰か残るみたいな話があるじゃないか」


 彼の言う通り、現在この未曾有の状況に政府の誰かが残ることが提案されていた。形式上は責任者であるが実際はこの星の重要性のアピールのようなものだと思った。同時にそれがこの星は絶対に放棄しないという約束にもなるだろう。軍事大臣やアーノルドの父が休憩室にいないのもこの星のお偉いさんと話し合っているからだ。もっともこの2人は反対している様子であったが。

 もし残るとなればあり得る人物はそれこそ自分かブルベルだろうとアーノルドは思った。今のところは一介の下役人ではあるが、親が政府の高官であるが故のコネや重要性を考えるとアピール性と人質もどきのこの立場にうってつけの人物であった。

 間もなく大臣や父が休憩室に現れた。その目つきは鋭いものだった。


「話は難航したがさすがに今回のような想定外の出来事で我々が残るわけにはいかない。我々は予定通りの査察を行うことを決定した」

「つまり…」

「誰も残る必要はない。こんなことで身の危険を脅かす必要もないしな」


 きっぱりと言い切る大臣の声に安堵の息が周りから聞こえる。それも当然だろう。こんな予測できない危険があるような星にいきなり残される可能性がなくなったのだ。もしかしたらこの事態が終息すればそれなりに出世の道も開けるかもしれないが、未知の内容が多すぎて身の危険を感じるほうが圧倒的だろう。百害あって一利なしどころか万害あって一利あるかも…といったところだろう。

 だがそれでもアーノルドには確固たる決意があった。そして気づくのであった。その決意を口にするチャンスは今が良いということを。アーノルドは背筋を伸ばしはっきりと手を挙げた。いきなりの行動にその場にいた皆が彼に視線を移す。


「希望すれば残れますか?」


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