第6話 要望
今回はいつもと視点の順番が違います。構成や区切りを考えると今後も度々そうなると思います。
あと設定についてずばり言及するのは次回以降になりそうです。
いまだにガジェットを装着しているロックは生活圏内に入ったゼオの死骸の後始末をしていた。ゼオの死骸は指定されたボックスに廃棄すると自動で地下にある焼却炉へ運ばれる。焼却炉は彼も見たことが無いのだがこれらで火力発電をしていると聞いていた。ロックは外付けの作業用パワーアームを装着して1体ずつ運んでいく。上げる瞬間にばらばらと崩れ落ちるものもあるため気味が悪い。生活圏内にいるゼオの死体はどれも翼をもった者で死んでいるとはいえその存在は不気味であった。すでに死体のサンプルは大量に確保しているものの今後の防衛のことを考えれば気も重くなる。ただ幸い、圏内の避難は終えていたため民間人の死亡はなく、重症者もいなかった。
とはいえ、まったく被害がなかったわけではない。あれほどの物量による攻撃だ。ガジェットを装着する者で不幸にもなくなったという話は聞いていた。今回で死亡したのは13人、ロックが所属するマーク部隊は無事だったが、ロジエール部隊では1人亡くなった。あまり話したことはない人物ではあったが見知った相手が死んだという情報はロックの心を曇らせた。だがそれも同じ部隊の彼らの悲しみと比べればちっぽけなものだろう。
いちおうマーク部隊にも被害はあったのだが、そこまで大きいものではない。先ほど被害を受けた隊長であるマークとロックは出会っていた。
「参ったよ。両脚を食いちぎられるなんてなぁ」
リュータにおぶられながらマークは疲れてように話す。なんでも上からの攻撃に気を取られていたら下から食いちぎられたらしい。彼の脚はコードや部品がむき出しになっていた。幸い、彼は生まれつき両脚がなく機械による義足を利用していたため食い破られても命の危険はなかった。
「義足じゃなきゃ出血多量で死んでいましたよ」
「それでも俺は生きていた。古い世代なのもたまにはプラスになるな。あとは修理費が不安だが…」
「いくらなんでも保証されますよ。むしろちょっと余計に出してもらって新しいのにしては?」
「今後も考えればそれもありかな。まあ、今は治療が先か。リュータ病院まで」
「ハイハイ。ロック後でな」
マークを背負うリュータは近くにいた整備班に移動用の車に乗せてもらえないか交渉しに行った。この時、ロックはリュータに例のことを話そうか迷ったが戦いの後処理などで忙しさを考えると今話すのは余計なことだと判断した。
それにいずれ政府が人前に出ればわかるのだ。なんにせよあの政府の役人はそれくらいルオンにそっくりであった。年齢も自分たちより上のようでせいぜい20代後半から30代前半、世代的にはちょうど合っていた。少し吊り上がった目、高い鼻、自分が思わずルオンと言った時に戸惑っていた表情なんかは年を取ったルオンそのものであった。それほど似ているなら一目見ればすぐにわかるだろう。彼がルオンのオリジナルの人間であることを。
ロックはまた迷うように首をひねる。ルオンにこのことを知らせるべきだろうか。知らせたところで何か特別なことが起こるわけではない。ルオンがそもそも知りたがっているのかもわからない。しかし自分たちは成長していく過程で一度は思うことなのだ。自分のオリジナルに会ったら何か変わるんじゃないかということが。
「ロック!」
自分を呼びかける方向へ顔を向ける。同じようにガジェットを装着していたアシュリーが降りてくるのが見えた。彼女の息の粗さを見るとロックを探すのに飛び回っていたことがうかがえる。だが彼女の表情の深刻さの方がそれを気にしないほどロックを心配させた。
「何かあったのか?」
「早くガジェット脱いで来て!ルオンがいよいよかもしれないの!」
Z58惑星の生活圏内では中央に研究施設が鎮座している。現在そこへ向かう黒塗りの車があった。その中でアーノルドは疲れた表情で渡されたペットボトルを傾けて水を飲んでいた。いつもと変わらない水にもかかわらず、がぶがぶと飲めるほどとても美味く感じる。スーツも髪も乱れて埃と塵まみれになっていた彼だがケガはなく至って健康であった。
アーノルドとしては命があるどころか五体満足でいられたことが本当に奇跡だと思った。あの凶暴な怪物と目をあった時は人生の終わりを覚悟した。これまでの自分の負の想いが一挙に噴き出ていながらその想いを馳せるのに無我夢中というなんとも無茶苦茶な感情だった。あの時、自分は間違いなく生きることをあきらめたと思っていただろう。
「しかし俺は生きている…」
これまでのマイナスな独り言とは違う、しみじみと自分の生を実感するような一言であった。
アーノルドは車内からちらりと着陸場に鎮座している宇宙船に目を向ける。すでに消火活動は終了しており、今は動ける船員やここに住む作業員たちが点検していた。相当な数のゼオが貼りついていたようだが、実際に船の壁を打ち壊したのは数匹でいずれも侵入した間もなくガジェット部隊に殺されたらしい。他にもいくつかの計器や電波発生装置、一部の防衛用火器管制装置なんかがゼオの攻撃の衝撃によって作動しなくなったがだいたいが修理をすれば再稼働できるほどであった。
この情報を聞いたとき、自分がいた場所にゼオが突っ込んでくるとはなんと運が悪いのだろうと思った。たかだか数ヶ所しか船の壁を破れなかったのになぜよりにもよって自分のところに…。
もちろん彼が仏心を出さなければそのような危険に陥ることはなかっただろう。だがさすがに助けを求められてそれを無視することはできなかった。
救助後にリッブ・バンドルが泣きながら手を握って感謝の言葉を述べたことを思いだす。夫人は嗚咽を漏らすほど助かったことに感動していた。息子もすっかり脱力して緊張が途切れたためか涙が目からこぼれ落ちていた。病気の娘だけは薬が効いてきたのかすやすやと眠っていた。相変わらず彼女だけはどこか並外れた精神を持っているように思えた。すでに一家そろって病院まで送り届けられている。
いずれにせよあの一家が自分に放った感謝を思い出すだけで悪い気はしなかった。もちろん命と天秤にかければその程度とはいえるものなのはわかっていてもだ。
「相変わらず考え事が多いな」
向かいに座るワイズオルがアーノルドを見て呟く。彼が乗っていた宇宙船は揺れこそしたが破壊されはしなかったため、ワイズオルは息子ほど憔悴しきった様子はなかった。ただし一度大きく揺れた際に転んで手首をひねったため包帯を巻いている。アーノルドはその話を聞いたとき、父親が無事であったことの安心と自分ほど危険な目に会っていないのにケガをしたことへの呆れが入り混じっていた。
「そんな感じであの時も動かなければゼオなんかと鉢合わせすることはなかっただろうに」
「それはしょうがないだろ。バンドルさん達が危なかったんだ。放っておくわけにもいかないだろ」
「放っておくべきだった」
ワイズオルはきっぱりと言い切る。その言葉には一切の感情が排除されているようであった。
「…冗談だろ?」
「冗談ではない。今後を考えればお前は生き延びるべきなんだ。あの家族全員の命よりも貴重だ」
「父さんはあの人と友達だろう」
「それとこれとは話が別だ。将来政府を背負って立つ若者と金があるだけのパトロンではどう考えても前者の方が重要なんだ」
そう言うとワイズオルはグッと体を起こして警告するようにアーノルドに指を向ける。
「いいか、もっと自分の価値を考えるべきだ。いざという時は誰かを盾にしてでも逃げろ。お前は政府に地球に必要な存在になるべきだからな」
父の政治家としての容赦のなさを見た瞬間であった。元より家にいる父と比べてその敏腕はよく理解しているしその黒い面もよく理解していたつもりだ。しかし実際に直面するとその底知れなさに恐ろしくなる。人間はかくもここまで残酷になれるものなのか。
しかしこの発言は同時にアーノルドにとって一種の自信となった。それは父親に認められていることではなく、父親が望む行動とは別の行動を取ったことにだ。まだ自分は父親の考えるような冷血な政治人ではない。それを確信したことは彼にとって大きなものであった。
「まあ、しかし今回は結果的に良い方向に転がったな。バンドルがお前にはとても感謝していたから今後も資金援助は期待できそうだ。それこそ私がいなくなってもな」
「まるで引退するような口ぶりだな。それに俺は別に父さんに頼っているつもりはないぞ」
「私だって別に干渉しているわけではない。しかしいざという時の協力者という者は作っておくべきだ。特に我々のような仕事では。それと私はまだ引退するつもりはないぞ」
互いに押し黙る。特に話題もなければあまり話すような親子関係でもなかった。
こうなった時にアーノルドは再び思考の渦へと入り込むのであった。父は自分のことを息子として見ているかは微妙な気がした。いや見てはいるのだろうがそれはあくまで政治家としての自分の息子だろう。その証拠に自分の命を優先しろと警告しても、自分の息子の心配とした言葉はなかった。今さら父親らしさを求めるわけではないので気にはしないが、政治家として同じ職場の息子を心配するのよりは遥かにマシなことだろうと思った。少なくともその方が自分の仕事にコンプレックスを感じることは少ないだろうとアーノルドは考える。
相変わらず考えをめぐらすおかげでアーノルドはこういう静かな状況も気にしないことが多いが、父親のワイズオルはどうしても気まずい気分になり話を振るのであった。
「ところで大臣と何か話したか?」
「前に電話で話したとき以来会ってもいない」
「ああ。じゃあもしかしたらもう研究施設の方に行っているのかもな」
「電話すればいいのに」
「地球の電話がここで使えるわけないだろう。専用の通信機はごたごたして渡してもらっていなかったしな。まあそれはどうでもいいことだ。とにかく詳しい話はされていないみたいだな」
「なんか重要なものを見せるような口ぶりだったけど」
「重要といえば確かにそうなるか。私としては今後のためにただ知っておいてほしいくらいのことだが…まあそれでいい。とにかくあるがままを受け入れる覚悟をしておくんだな」
大臣同様に父親も含みある言い方をするが、アーノルドはその内容についてすでに予想していた。そのきっかけはアーノルド達を救出したガジェット装着者の一言によるものだ。
『…ルオン?』
あの一言の後に装着者はすぐにかぶりを振って自分たちの護衛に当たってくれた。揺れる船内で直前に命の危険があったアーノルドからすれば迅速な対応はありがたかったのだが、あの当惑したような問いかけを無視できるほど彼は鈍感ではなかった。
ルオン…おそらく人の名前だろう。自分とその男を装着者は勘違いしたということだ。単純な人違いと普通なら考えられるかもしれないが、あの言い方はそれとは違う独特な雰囲気があったのだ。
そしてふと思い出す。地球のいくつかの場所に点在している特別な学校とそこにいる生徒を。別に隠されているわけでもないし、なんならそこの学校にいる生徒がどういった存在なのかをアーノルドは知っていた。その存在も多くが認知されているわけではないが、ちょっと勉強すれば知ることは十分に可能である。
わからないのはなぜ父親や大臣が今さらそんな言い方をするのかであった。彼らを隠しているわけでもないのに、まるで危険な殺人兵器でも開発しているような口ぶりで彼らはこのことを隠しているのだろうか、それがアーノルドにはわからなかった。もっともこれは予想の範囲なので自分が外していたり想像を超えてくる可能性は十分あるが。
「見えてきたぞ」
父の声掛けでアーノルドは顔を上げて外を見る。大きなドーム型の建物が見えた。いずれにせよここでうだうだと考えるのは無駄だろう。あの場所へたどり着けば全て知ることが出来るのだ。同時にアーノルドはもう一度あの装着者に会っておきたいような気もしていたのであった。
ガジェットを外したロックはアシュリーと共に病院へ向かう。いつもの手続きは異様に長く感じ、目的の部屋までの道のりは何時間もかかっているような気持であった。
目的の部屋にたどり着くと扉を開けて音をたてないように注意しながら入る。すでにギャリー、リュータ、オルレアンも来ており横になっている部屋の主を囲んでいた。リュータはすっかり放心したような顔になっており、オルレアンはこぼれ落ちそうになる涙をハンカチで拭っていた。ギャリーに関してはこれ以上ないほど険しい表情をしている。それもこれもこの部屋にいるルオンが原因であった。
ベッドに横になっているルオンはすっかりやつれており口には酸素マスク、腕には点滴がつけられていた。顔の肉は落ち、腕もこの前よりはるかに細くなっている。この前見舞いに来たときは全くといっていいほど変わっているその姿は痛々しい気持ちが湧かせてくる。
ロックとアシュリーが入ってきたことに気づいたルオンは弱々しく笑みを見せる。
「よかった…来てくれた」
「当たり前だろう。来ない理由なんかがない」
ルオンはゆっくりと点滴の打たれていない方の腕を上げる。そのスピードはあまりにもゆったりとしていた。
「もうちょっと長く生きられると思ったんだけどね…こういうことが起こるということは僕は失敗作だということなんだろう」
「そんなわけない。運が悪かっただけだよ。恨むとしたら…」
「恨むものはないさ。キミらと出会えたのだから」
ロックの手を握りながらルオンは答える。ここまで力は弱々しくなっているのかとロックは驚いた。それでもロックは共に不信感を与えないように精いっぱいの笑顔を見せる。
「一緒に仕事ができないのは心残りだな」
「それじゃもう治らないと言っているようなものじゃないか」
「治る治らないじゃないのさ。予定より早かったとはいえもう寿命だからね。…だからこそ失敗作なのさ」
「そんなこと何回も言うなよ。キミは立派だったさ。それに見つけたんだよ、キミのオリジナルを!」
「それは本当かい…!?」
ここに来てルオンは目を見開いて驚く。心なしか握っていた手も少しだけ力が入ったように思えた。
「本当だ。見間違う理由がないほどそっくりだった」
「どんな人なんだい?」
「詳しくは知らない。でも政府の人だ」
「会ってみたいなぁ…」
感傷に浸るようにルオンは呟く。天井に向かう視線はどこまでを見ているのだろうか。彼の目にははるか先の空を、宇宙を、いやさらに先にある地球を見て懐かしんでいるように思えた。
その数秒の後、ルオンはぎゅっと苦しそうに目をつむる。
「ごめん、ちょっと眠るね…」
「いやこっちこそごめん。あまり興奮させるようなことを言うべきではなかった」
「僕としては嬉しかったよ。また来てくれるよな?」
「当たり前だ。今度はその人も連れてきて見せるさ」
「期待しているよ」
それだけ言うとルオンはゆっくりと眠りに落ちる。弱々しくも規則的な寝息であった。
彼が眠ったのを確認するとギャリー達がロックの方を向く。
「本当にルオンのオリジナルだったのか?こいつが危篤だからって嘘をついたわけじゃないだろうな?」
「そんなことをして何の得があるんだよ。あれは間違いなくそうだ。見た瞬間、僕はルオンだと思ったよ。それくらい似ているんだ」
興奮気味にロックは答える。普段は平静を保つ彼でもさっきから言葉が早口になっているのが自覚できた。
「政府の役人ってよくわかったわね」
「あの宇宙船にいたからね。ちょうどゼオに襲われそうになったのを助けたんだよ」
「だったらチャンスじゃない!恩を売っているんだからその人とルオンを会わせられるかも!」
「役人が俺達のことなんかいちいち気にするだろうか?」
リュータはひねくれたように口をとがらせる。正直なところロックも同じように考えていた。いくら助けたとはいえ相手は政府の人間だ。仕事として救助するのは当然のことで、彼がいちいち自分のことを気にする道理はなかった。
ふとロジエール部隊で被害者が出てきたことを思い出す。共に戦線を維持していた2人は同期であったためその話を聞いて大粒の涙をこぼしていた。もっと共に時間を過ごすことが出来たはずなのに…。
ロックにとってはルオンも同様だ。彼が最初一緒に仕事をするためにガジェットの装着者にならなければもっと一緒にいられたかもしれない。そう思うとロックの心は決まっていた。
「でもルオンの命はあとわずかだ。明日にでも終わりを告げるかもしれない。僕としては…彼に最後まで何かしてあげたいんだ」
それがルオンにとって良いことなのかはロックにもわからない。しかし彼が会いたいと思ったなら自分は全力を尽くそうと思ったのだ。
ロックの決心を聞くとリュータが頭を掻きながら口を開く。
「俺らにできることはなにかあると思うか?」
「いざという時にロックと一緒に頼み込むことくらいでしょ」
「私もそれくらいならできるわ。それとも会わせろー!って直談判でもいいよ」
「アシュリー、それは相手をもっと敬遠させるだけだ。とにかくルオンにその人を会わせるためにロックのフォローをするしかないだろ」
各々が自分の思いを口にする。ロックだけでなく彼らの仲間としての決意が現れた瞬間であった。
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