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RAND  作者: 市田気鈴
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第5話 防衛戦

ようやくここまで戦いが出来た気がします。しかし彼の方にまで戦わせようとする必要はなかったかもしれません。

 心臓が張り裂けそうなほど鳴る。体が締め付けられるようにこわばっている。初めてガジェットを装着した6年前でもここまで緊張と恐怖を覚えることはなかった。ロックはガジェット内で荒れた呼吸を落ち着かせようとしたが、敵がそれを許さなかった。

 通信が入った時、ロックはすぐにガジェットのバイザーを閉めて現場に向かおうとしたが間もなく他の部隊から驚くべき情報を得た。ものすごい数のゼオが『空を飛んで』こちらに向かっているというのだ。ロックとアシュリーは素早く空へ飛びあがると、同じ内容の通信がさらに2つ入ってくる。どうやら地上から来るゼオと同様に多方向から攻めてきたようだ。


「なんでこのタイミングでそんなに来るの!?しかも空を飛ぶゼオって!」

「ぼやいている暇はないよ、アシュリー!まず宇宙船に近づく輩を片っ端から倒す!」


 すぐに2人はゼオが出現した一番近くのブロックへと向かう。着いた途端に彼らは目を見張った。たしかにゼオが空を飛んでいたのだ。体格は一般的なゼオよりも小ぶりで前腕から腰辺りにかけて翼が生えている。彼らはその長い腕を羽ばたかせてこちらに大軍で向かっていた。移動速度はガジェットよりもはるかに劣るもその数は100以上はいるのではないだろうか。


「本当に飛んでいる!あんなゼオ見たことないわ!」

「そうか。先日の事故、こいつらがいたから空中にいた輸送船や護衛隊を倒せたのか」

「だったらここで止めなければ」


 ロックとアシュリーの会話に1人の女性の声が混じる。声の主はタートルに身を包んだクレアだ。彼女の横に他の部隊のガジェットが護衛にいる。よく見ればロジエール部隊のメンバーだ。


「クレアさん、どう対処します?」

「タートルの射程なら十分に届きます。ウォンバットの方たちで漏らした相手を追撃してください」

「「「「了解」」」」


 緊張した声色でクレアは手早くロック達に指示を出す。それもそうだろう。この空を飛ぶゼオの存在だけで多くの危険が考えられるのだ。これまで生活圏を守っていた壁の意味をなさなくなるし、ガジェットの空中移動の際にも襲われるリスクは格段に上がる。そのあらゆる危険を瞬時に理解できたのは普段からゼオ相手に戦っている彼らこそだからなのかもしれない。

 クレアが空を飛ぶゼオの集団に狙いを定めるのをロックはつばを飲み込んで見守る。ここで下手に刺激すれば彼らの狙いは間違いなくこちらに向いてくる。そうなれば機動力が低い彼女のガジェットでは逃げられないだろう。それどころか今回は銃火器を追加でつけているためもはやただの固定砲台だ。そんな動けないスーツに身を包んでもこの危機を乗り越えるという覚悟は傍から見てもはっきりしていた。

 ありったけの銃火器のロックを外す。背中に装備する誘導ミサイルはもちろんのこと、脚部の連想ミサイルポッド、肩の長距離用に改造されたキャノン砲は集団の中央辺りに狙いを定めた。


「ふぅ…いきます!」


 掛け声と共にタートルの装備する大量の銃火器が一斉に掃射される。まだ距離があるも十二分に届いており空中にもかかわらず強烈な爆撃を撃ち込んだような様子であった。

 しかしそれだけでやられるゼオたちではない。攻撃範囲は充分であったが空を飛ぶことでいかようにも動けるようになった彼らは綺麗な旋回で回避していった。さらに攻撃を受けて骸となったゼオが上手い形で盾となり他の攻撃から防ぐのもあった。結果的に3分の1は倒せたがクレアとしては不満の残る状況となった。

 間もなくゼオの集団が一斉にクレアを目掛けて突撃していく。すぐに両腕の機関銃で向かってくる相手に発砲した。数体は顔に当たってそのまま落ちていくが2、3体はタートルに張り付く。元々接近戦を想定していないこのガジェットではへばりつかれると対応策が一気に限られるという欠点があった。本来はそうなる前に撃ち落とすことが理想的だがこうも数が多くてはそれも困難だ。

 しかし間もなくへばりついたゼオの体は真っ二つになる。ロックとアシュリーが取り出したブレードで彼らを沈黙させたのだ。さらにクレアが漏らした相手にロジエール部隊の2人がミサイルと爆弾で応戦する。


「思った以上に残ってしまいました」

「あれは数が悪いわ!クレアさんほどの実力者だからここまでできたって誇るべきよ!」

「アシュリー、大声はやめてくれよ。この状況じゃうるさいのは集中できない」


 ブレードで接近してきたゼオを慣れた手際で2体仕留める。防衛戦なので近接武器は必要ないかと思ったが、いざという時の装備は便利なものであった。

この数には辟易するがロックもアシュリーと同じ気持ちであった。こちらにタートル慣れしたクレアがいたことは幸いであった。おそらく自分やアシュリー、ロジエール部隊の2人では3分の1どころかその半分すらも仕留めきれたかは懐疑的だ。実際、今のようにブレードを振るっていた方が彼としては馴染んでいた。

 しかしこのままではジリ貧なのもわかっていた。ゼオの数はとにかく多く、これまでと勝手が違う相手だ。戦い方が大きく変わることはないが多方向から向かってくる敵を銃で狙うのは思った以上に難しく、ミサイルにも限りがある。しかも場所は生活圏の壁の上。下手に仕留め損ねて生活圏の内側へ落としでもすれば被害の想像はつかなかった。

 こんな制約の中でゼオを相手にするのはいくらロック達でも厳しいものがある。


「これはいつになったら落ち着くんだろうな!」


 ロジエール部隊のひとりが小型爆弾を投擲しながら叫ぶ。すでに肩のミサイルポッドは外されており、広範囲に攻撃できる武器が爆弾しかないのを物語っていた。本来は上から投げ落として爆撃のように使うもののため使い勝手は悪いものの彼は投げた爆弾に機銃を当てて空中で爆発させていた。鮮やかな手並みに感嘆するばかりだ。


「死ねば落ち着くことはできるかもね!」

「アシュリー、縁起でもないことを言わないでください」


 皮肉気味に言うアシュリーにそれをたしなめるクレアだがそんな2人もまったく怯むことなく攻撃を続ける。空から向かってくるゼオを狙って両腕の大口径機関銃を休みなく撃ち続けるクレアに、彼女に取り付こうとする相手を電磁ブレードと腕の機銃で容赦なく沈黙させる。


「うわぁ!」

「マズい!」


 そんな中でいきなり聞こえる声にロックは反応する。ロジエール部隊のひとりがゼオに上から襲われて、もみ合いながら落下していくのが見えた。ロックはすぐさまブレードで後ろからゼオを突き刺して彼から引き剥がすもガジェットを装備していた男はそのまま落下していった。おそらく攻撃を受けたことでブースト機能がイカレたのかもしれない。

 手早くロックはワイヤーを落ちていく男に向かって撃ち出す。間に合え―――心の中でそう思うほど内心焦っていたが、その望みはなんとか叶った。ギリギリのところで片足に上手くかかり地面への激突は免れた。


「すまない、助かった」

「みんなで一緒に乗り越えるんだ。礼を言われることじゃないよ。引き上げるぞ」


 ゆっくりとワイヤーを巻き上げていく。RANDの持つ強大なエネルギーは同型のガジェットを人が入った状態でも引き上げるほどの馬力があった。すると突然ロックに影がかかった。


「動かないで!」


 引き上げられている彼の動きも素早かった。ぶら下がっている間抜けな体勢ながらも両腕の機銃でロックの後ろを狙っていたゼオの頭を瞬く間に蜂の巣にしたのだ。ロジエール部隊の射撃能力の高さには頭が下がる。


「助かったよ。ありがとう」

「お互いさまというものだ」


 引き上げた男を抱えてロックはそのまま壁の上に降り立つ。さっきよりは勢いも弱まったがいまだにゼオの大群がロック達に狙いをつけている。このまま防衛ラインを下げるわけにはいかないのでロックは彼の代わりに飛び立とうとするが…。

 突如、上空のゼオ数十体にミサイルが命中する。威力は申し分なく、攻撃を受けたゼオは火に包まれながら落下していった。ロックが後ろを振り向くとタートルを装備した人が2人、ウォンバットを装備した人物が3人援軍に来てくれたのだ。ロックは安堵した。普段は探索の方が中心であるマーク部隊では援軍がこれほど頼もしいものだとは思わなかったのだろう。

 開かれた通信から野太い声が聞こえる。


「援護に来た。生活圏の方はすでに非難が完了している。宇宙船の方はすでに着陸態勢に入っているから宇宙に逃げることは無理だが何とか食い止めよう。負傷者はいないか?」

「彼のガジェット、ブースト機能がダメになっているんです」

「正直なところ、全員の弾薬が尽きかけているので一旦戻らせてほしいですよ」


 アシュリーがゼオに向けて機銃を撃ち込みながら不満そうに漏らす。ここまで戦線を維持できただけでも御の字と思ったのだろう。


「わかった。敵も減ってきたしこれくらいならやれるだろう。キミたちは戻って弾薬の補給を。それと場合によっては別の場所に援護を頼む」


 入れ替わるようにゼオたちに相対した援軍はすぐに攻撃を開始した。弾数を気にせず攻撃を行えるのは安心するだろう。

 ロック達は近場の搬入口へと向かう。直接、ガジェット装着場へ向かうよりもこういった装着場へのエレベーターがある方から向かう方が早いのだ。ブースト機能が壊れた彼は同じロジエール部隊の男に抱えられる。その2人を守るようにアシュリーは彼らと共に搬入口を目指す。一方でロックはすっかり鈍足のタートルを装備したクレアと共に向かっていた。追加装備や装甲はいくらか外してきたというのにその遅さはやはり気になるものであった。

 そんな中、またもや通信が入る。おそらく今日はまだまだ同じように他の仲間達から連絡が来るだろう。しかし今回使われた通信は全員に繋がっている大規模なものであった。相手はリード・バロックからだ。いつもの嫌みな様子はなく、かなり焦った声だ。


「おい聞こえているか!?北北西の方でゼオの集団が抜けたぞ!数は数十体で政府の宇宙船を狙っている!手が空いている奴はすぐに行け!」


 まくしたてるように命令を下すとチャンネルが閉じられる。閉じ方があまりにも煩雑だったのでどこか間違った操作でもしたのか、他の誰かが指示系統の混乱を危惧して無理に切ったのかもしれない。すぐに機械的な合成音声で先ほどと同じような内容の命令が丁寧に流れる。どうやら後者のようだ。


「クレアさん、僕ならここから飛ばせば行けるので向かいますがお一人でも大丈夫ですか?」

「私は大丈夫ですが、ロックこそ弾薬を補給していないのに向かうのは危険じゃないですか?」

「ブレード主体で戦っていたからまだ弾はあります。どっちにしろ宇宙船に当てないようにするためミサイルは使わないと思いますが」

「わかりました。武運を」


 クレアの激励にロックは腕を上げると方向を変えて少し遠くに見える宇宙船を目指す。この方向では見えないが裏にはゼオの軍団が船体にへばりついていると思うと、身体が震えてしまった。





 今回の宇宙出張は自分にとってイヤなものとなるという考えは軍事大臣と会話した日から何度思ったことだろうか。しかし今の状況が間違いなく最悪と言えるだろう。船体は揺れ、先ほどの機内アナウンスではゼオが空を飛びこちらへ向かっているというではないか。あの着陸準備中に自分が見た黒い影はやはり自分の悪い予感の元凶であったではないか。

 さっきから固定されたベッドに捕まりつつアーノルドは同じ考えばかりを馳せていた。死ぬかもしれないという不安、まだ重力ブロックは無事であるなどというマシなこと探し、そしてまた不安がぶり返すように溢れて窓の外を見ようとも思えなくなる、そんなことの繰り返しだ。

現状どう動いていいかがわからないのも困りものだ。素直に避難するべきとも思ったが、緊急の脱出ポッドに乗っても出たところでゼオに襲われる可能性もある。しかもこの揺れる船体で下手に動き回るのも危険だろう。結局、自室にいることが安全なのだがこれはこれで不安な気持ちを煽るだけの状況であった。


「さすがにこんなところで死にたくないよ」


 荒い息を吐きながらアーノルドはつぶやく。人間は思考を放棄したくなるほど追いつめられると笑うしかないと言われているが、笑顔のひとつも出せないあたり自分はまだ余裕があるのかもしれない。もちろんこれ以上の最悪は自分の人生において一度たりともなかったが。

 アーノルドとしては出来ることはないかと思ったが、すぐに無謀であることを悟った。せめて父親の安否確認だけでもと思ったが電話は当然のように繋がらず、あっちの宇宙船の様子を知るためだけにこの揺れる船内を移動するのは危険すぎる。今はただガジェット部隊が何とかしてくれるのを願うばかりだ。

 そんなことを考えていると固定電話が鳴る。まさかこんな状況で自分に電話をかけてくるとはいったいどんな大バカ者なのか。無視しても良かったが父親の可能性も考えてアーノルドは受話器を取った。


「はい、アーノルドですが」

「アーノルド君か!?助けてくれ!」


 声の主はこの2日間で聞き慣れた男性の声であった。リッブ・バンドルの声色は鬼気迫るものがあるのと同時に情けない涙声も混じるという形容しがたいものとなっていた。


「どうかしましたか?」

「扉が開かないんだ!場所は305号室で」


 ぶちりという音ともに通話が切れる。すぐにバンドル氏の部屋番号にかけたが電話線が繋がっていないというアナウンスがなるだけであった。宇宙船内での会話は電波方式だし、いざという時のために有線でも繋がっているはずだ。そして自分の電話線が問題ない様子であると考えると、バンドル一家の電話に何かあったことがうかがえる。それならばと思い、政府用の回線からブリッジへと連絡を試みるがなんとそちらも繋がらなかった。


「くっそ!コードや通話電波を流すシステムを壊されたか!」


 そうなるとゼオが船内に侵入している可能性も少なくない。もしそうならば尚更この部屋から動くのは危険が伴うだろう。しかしあのように助けを求められて何もしないという選択を取るのは心苦しいものであった。


「どうか途中で会いませんように!」


 護身用の拳銃と廊下に設置されていた緊急用のカナテコを手に取ってアーノルドはバンドル一家の部屋を目指した。こんな無謀な行動を取るとは自分はとうとう気でも狂ったか。それとも自分の命を軽んじるようになったか。壁伝いに揺れる船内を進みながら自分の愚かさに呆れていた。

 それでもこの行動が正しいという想いだけは揺るぎなかった。救助はプロに任せればいいと思うがそのプロがどこまで来ているのかもわからないし、あの様子だとよほど緊急の救助を所望していたのだ。それを見捨てることはアーノルドにとっても後悔が残るだろう。アーノルドは高尚な人間になりたいのだろうか。それはある意味、間違っていない評価であった。彼は欲しかったのだ。自分は地球至上主義にあぐらをかいている父親とは違うという何かを。それは彼自身もよく理解しており、そんな俗っぽい自分を恨んでいた。少なくともこんな想いで危険を顧みようとしない自分は間違いなくバカだろうしわかっていて行動に移すあたりが尚更バカだと思いアーノルドはため息をつく。

 十数分後、予想よりも早くバンドル一家の部屋に着いた。途中クルーに会えなかったが、ゼオに鉢合わせするよりかはましだろう。アーノルドは扉を思いっきり叩いて中の人物に呼びかけた。


「バンドルさん!大丈夫ですか!」

「アーノルド君!来てくれると信じていたよ!どうやら電子ロックが誤作動を起こしてそのまま電源が切れたみたいなんだ!」


 自分はいざという時のために扉の電子ロックは切っておいて扉は開けっ放しで出られる状態にしていたため、バンドルの行動はどんくさいとアーノルドは思った。しかしそれをいちいち指摘している暇はない。


「ちょっと扉から下がっていてください!」


 アーノルドは扉の隙間を覗き込む。たしかに鍵がかかっていたが幸い中途半端な状体で電源が切れたようだ。隙間にカナテコを滑り込ませるとてこの原理を利用して思いっきり扉をこじ開けた。意外にも扉はバリバリという音を鳴らしながらすぐに開いた。中にはすっかり怯え切ったバンドル一家がいた。リッブ・バンドルは温和な笑みがすっかり消えており、妻の方は泣きそうな表情で車いすに座る娘を抱きしめていた。息子テキスも同様に怯えていたが妹の手前のためか涙はこらえた跡が見える。例の病気の娘は意外にもあまり怖がっている様子はなく、むしろ苦しそうに顔をしかめていた。


「あぁ、キミのおかげで救われたよ…」

「そういうのは助かってからにしましょう。娘さんは苦しそうですが大丈夫ですか?」

「薬は飲んだから徐々に落ち着きます」


 弱々しい声でバンドル夫人は答える。2日前に夕食であった時のようなきびきびした声色は見る影もなかった。


「ではとりあえずこの部屋を出ましょう。俺の部屋だと狭すぎるから…」

「じゃあ食堂へ」

「それがいいでしょう」


 食堂は船の中では真ん中あたりに位置するため、船の端側にある部屋と比べると安全だ。それに大きな部屋ならばスタッフの一人や二人はいるだろう。ただし階段があるため娘の方はバンドル夫人がおぶっていくことになった。リッブ・バンドルには護身用に先ほどのカナテコを手に持つ。さすがに訓練経験も無いような中年男性に拳銃を持たせるようなことはできない。

 いざ食堂へ向かうためにバンドル一家は部屋を出てアーノルドもその後に続こうとする。しかし次の瞬間、アーノルドにとって人生最悪の状況が更新されることとなった。

 とてつもない轟音と共に船体の窓とその周囲の壁の一部が破壊してゼオが現れたのだ。書物で調べたよりは小さく、腕から腰に掛けてムササビのような翼がついている。それを見てアーノルドはこれが例の飛ぶゼオだと理解した。同時にバンドル一家に対して叫んだ。


「逃げて!」


 その次にはゼオを目掛けてすぐに発砲する。戸惑いなく頭を狙ったが、窓が壊されたことで気圧差による強烈な風が狙いをそらした。重力装置がまだ作動しているおかげで船外に放り出されることはなかったが、姿勢を低くしないとよろけるほどの風ではろくに狙いをつけられない。仮に命中していたとしても護身用の拳銃では頭に当たろうともゼオを仕留めることは不可能であったろう。

 アーノルドは死を覚悟した。死ぬ直前には走馬灯としてこれまでの記憶や経験が駆け巡るというが、彼は思ったことは後悔や屈辱といった負の感情だった。何もできない人生だった。政府に入っても、この救助にしても中途半端に終わるであろう自分の人生を、いや自分自身の甘さを恨んだ。結局、自分は歴史に名を残せるようなことは何一つできないただの…。

 しかしゼオが彼らを襲ってくることはなかった。このゼオの胸に刃物が現れたのだ。どうやら後ろから突き刺されたようだ。それだけで即死はしないが電磁ブレードであったため、身体に電流が走り間もなく絶命した。彼を助けた人物はゼオからブレードを引き抜いて死体を退かすように蹴り飛ばす。ガジェットに身を包んだその姿はアーノルドにとって救世主そのものであった。


「何とか間に合いました。お怪我は…ルオン?」

「えっ?」


 ガジェット装着者の問いかけにアーノルドの心には安心の中に疑問が入り込む。この事態が鎮静化されたと知るのは彼らの出会いから数分後のことであった。


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