エピローグ
これが最後です。
RANDの発見は人類にとって有益なものであったが、傲慢さと保守的な考えを人類に植え付けたことは間違いなかった。クローン人間の誕生、宇宙進出の科学力、無限ともいえるエネルギーの想像、永遠の生命、どれをとっても神の領域に足を踏み込んでいるものであり、これほどの技術を持てば増長することは致し方ないだろう。
だが全てが上手くいくわけではなかった。かつてRANDの研究で大きく貢献したロベルタ・クーベルトの記録に残されていた人格をデータ化して、クローン人間に移し替えるというものは致命的な欠陥があることがわかった。移植された人格は生前の頃と比べると、攻撃性が高くなり感情のコントロールがままならないものになるということであった。また繰り返し行うことで人格自体がすり減る様に消耗し、最終的には理性のない欲望と残った攻撃性だけを満たすだけのものになる。
この事実の証明にはあらゆる機関が関わったことが知られている。政府の上層部が一早く気づき、研究の見直しを図ったことが知られているが、巷ではひとりの下役人が奔走したことが発端と言われている。
しかしこの研究は無意味ではなかった。人格を操作することの危険性を、クローン人間の当初の目的と彼らの社会的扱いを世間に知られるきっかけになった。
こじんまりした車が道路を緩やかに走っていく。車内には最近、政府内で力をつけている男とその秘書が話していた。
「人生、上手くいかないものだ。世間が知っても風当たりは強い」
「こんなに難しいこととは思いませんでしたよ。私もまだまだ世間知らずです」
「そう思うと、お前やロックはずいぶんデカい口を叩いていたよな」
「元をたどれば、アーノルドさんが焚きつけたんですけどね。私としては地球に住めることになったし、命の危険も無い仕事にありつけたから万々歳ですけど」
クローン人間の地位は決して良い物ではない。しかし十数年前と比べると改善されたのも事実であった。例の研究でクローン人間の実態を世間が知ったことと同時に、これまで宇宙の各地にいた政府に不満を持つ者達が一斉に声を上げたからだ。またこれまで生まれてきたクローン人間の寿命の延長、一部のクローン人間の欠損部分を補うような疑似的な体の製作などクローン人間にも生きる選択肢が増えたことも大きい。
とはいえ、人類がクローン人間の存在に支えられている状況では、彼らは必要不可欠である上に、クローン人間もこれまでの生き方をすぐに変えることはできなかったため、今でも地球外や命を懸ける現場ではクローン人間が圧倒的に多かった。
そんな社会の中で、アーノルドは政府内でも地位を着実に上げていった。彼の秘書であるアシュリーもその実力と賢明さには目を見張りながら理解していた。
「あの音声プレイヤー…俺がやろうとしたことを後押ししたんだろ。あの時の俺はクローン人間のために何かできないかを模索していたからな」
「さあ、どうでしょう。あれの提案はロックだったものですから」
「あいつの墓の前で聞いてみるかな」
一度固まった世界はすぐには変わらない。それでも努力のひとつで、かけがえのない友人の願いをかなえたことを胸に彼はその友の元へと向かうのであった。
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