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RAND  作者: 市田気鈴
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第30話 RAND

この星での戦いの理由と、話しまくる歴史上の存在の話です。

 ロベルタ・クーベルト、歴史にはそこまで興味がないロックもその名前は知っていた。RANDの研究者の中でも飛びぬけて有名であり、ガジェットやクローン人間の技術を確立させた男だ。幼い頃に施設で何度も聞いた名前だ。

 とはいえ、彼が生きていた時代を知る人間なんてこの世にはいないだろう。宇宙航行中に事故で、宇宙船ごと行方不明。周辺の区域や星では発見されず、彼の死はそれほど昔のことなのだ。


『そもそもどこから話しかけているんだ?』

『そんなのわからないわよ。でもロベルタが死んだのはもう何年も前。だったらその名を語りたい気取り屋でしょうね』

『録音かもよ。このゼオが何か知らないかな』

『どちらも違う。本物のロベルタだ』


 通信越しの会話にまで割り込んでくる。この時点で普通の人間ではないだろう。ましてやバレンリウムが充満するこの場所なのだから、何かしらの対策はしているはずだ。

 ロックは未だに何も映さないモニターに目を向ける。あの存在が無関係な気はしない。だがそれがロベルタに繋がる根拠は何もなかった。


『混乱するのも無理はない。まず順を追って話をしよう。

 私がこの星にたどり着いたのは本当に幸運だった。宇宙航行中、デブリが宇宙船に衝突し、予定航路は大きく逸れてコンピューターは作動せず。RANDを使った燃料だったため、航空可能距離は長かったが、この暗い宇宙ではどう進めばわからなかった。さまよいつつ、ついに着いたのがこの星だ。

 大自然に囲まれたこの星では、我々の力はちっぽけなものだった。美しい自然あふれるこの星では、我々以外の生物は発見できなかったが、言い換えれば機械技術の発展などはまったくない星。壊れた宇宙船ひとつと手持ちの技術だけでは無理があった。ひとり、またひとりと乗組員は死んでいく。足を滑らせて落ちたのもいれば、その状況に発狂して森へと入り帰ってこなかった奴もいた。助けを諦めずに信号を送り続けるのもいたが、意味はなかった。

 もちろん私も救助を待ったさ。だがそれが不可能だと悟った時、私は不本意ながら生きるためにもある手段を講じた。まずは物資を集めるための人手として、私の細胞を使ったクローン人間を造った。壊れかけの宇宙船をばらし不完全ながらも装置を作り、残った燃料をエネルギーに回した。素材はこの星の植物と死んだ者から取れたRANDを利用した。そうして1匹、また1匹とクローン人間を生みだした。

 数が増えてきたところで、次に私が行ったことはもっと細かい作業ができる私の代理となる存在の作成だ。これも材料がかさむことと期間が長かっただけで、造ること自体は問題なかった。

 しかし私も若くなかった。そのゼオが生まれるのを待っていては先に寿命が来る。そこで理論上でしかなかったが、人格をデータ化して機械に移すこと、私はこれを自分に実行した。結果は見ての通り、今の私が生まれることとなった』


 電子音が一度言葉を切ると、古びたモニターのノイズがさらに激しくなる。ロベルタを名乗る謎の音に呼応しているように見えた。さっきあの音は、機械に人格を移したと言った。そうなれば…。

 ロックが自分の予想に驚いていると、横にいたリュータが鼻を鳴らす。


『バカバカしい。クローン人間の人格までコントロールできるはずない』

『しかし実際にできた。少なくともキミらの前で倒れている彼は、ゼオのリーダー的存在になるように私が造った。言葉を話せるのも教えてきたからな。単語程度しか覚えられなかったが、意味は理解できている』

『それが証拠になるか!』


 ロックは一歩前に出て、リュータの肩に手を置く。彼の声が震えているのは通信越しでも理解できた。彼の感情が伝わってくるようだった。ゼオの正体を知った時に身内で一番不安だったのは彼だったし当然の反応だろう。


『つまり話をまとめると、生きるためにクローンとしてゼオを生みだした。そのモニターに自分の、ロベルタ・クーベルトの人格を移したということですか』

『…そういうことだ。信じられないだろうがね』

『だがこの奇天烈な状況を納得するには信じたほうが楽です。僕はその言葉を信用しましょう』

『ふむ、キミがこの部隊の責任者ということでいいかね』

『現状はそうです』


 落ち着いた声でロックは答える。機械的な言葉からは何もわからなかった。ただここは話す相手はひとりに絞った方が良さそうだと判断した。

 機械音…ロベルタもそちらの方が良いと踏んだのか、ロックに向けて話し始めた。


『そうか。ではここで交渉したいことがある』

『何でしょう?』

『私に協力してほしい。クローン…キミらの言うゼオと共に地球と戦って欲しいのだ』

 感情の無いように聞こえる電子音による言葉はあまりにも無機質で、話の内容がダイレクトに頭に響く。それゆえ、この言葉はロック達に衝撃を与えた。

 ロックは努めて冷静な声で、目の前のモニターに向かって話した。


『我々は地球からこのZ58惑星に派遣されました。凶暴性を持つゼオを倒し、この豊かな資源を確保するためです』

『そうだろうな。私のゼオが襲ってきたのも全てクローン人間だった』

『わかるのですか?』

『ゼオが食べた分はな。あれの口の中を調べれば、血液の成分とRANDの量を調べればクローンかどうかはわかる。そしてそれこそ、私が地球をどうにかしたいという理由でもあるのだ』

『意味が分かりませんが』

『気づいたんだよ。私が死んだ後も人類は想像通りの未来を辿っていることが。私はクローン人間の技術を確立した時点で、人類はすでに傲慢だった。宇宙には人智を超える存在は無いのだと、どれだけの旅を重ねても地球以上の星や生物はいないのだと、そんなことが耳にも聞こえてきそうな時代だ。その傲慢さがキミらクローン人間を今のような道具の立場にしてしまった』

『あなたもそういう目的で造ったのでは?』

『キミらを道具として生み出すつもりなど毛頭もなかった。しかし私が愚かなほど自分本位だったのは認めよう。RANDの存在を解明していくほど、私の頭であらゆる理論が展開していった。素晴らしいエネルギー、死を無駄にしない事実、あらゆる面からその可能性を見出した。そして人間を生みだすという神の領域に手を出してしまった。私は結局自分の欲望に打ち勝てず、その理論を実現化し、それに目をつけられてしまったというわけだ』


 彼の人格が機械に無ければ、ここでため息のひとつでも出ただろう。さっきとは打って変わって、妙に感情のこもった話し方に聞こえた。それともロック自身、心が揺らいでいるからだろうか。


『人格の移し替えもですか』

『そうだ。これについては理論を記した資料だけで実践までは至っていない。少なくとも私の時代では、初めてやったのは私自身だろう。しかし時間の問題だ。その資料は研究所に隠したから見つかるかもしれないし、私のようにRANDに魅入られた者がその理論を思いつくかもしれない』

『それもRANDが…』

『あれの発見は人類最大であり、恐ろしいものだと私は考える。人が死んでから血中に現れる成分は、どれほど研究してもその正体は掴めなかった。そんな未知の物質があるのに、人類の進出を謳うなど滑稽すぎる…』


 ふとロックの頭の中に、アーノルドの顔が浮かぶ。政府の中枢で働いて野心に満ち溢れていた彼だが、同時に自分の無力さも理解していた。ロベルタにはそれと同じような感覚を覚える。彼も天才ながら、自分の行いや人類を憂いた。それでも知識欲と探求心が抑えられなかったのは、一種の人間臭さが垣間見える。


『私はこれ以上、人類が傲慢になる事が辛いのだよ。この宇宙はもっと広い。必ず我々が及ばない存在があるはずなのだ。それを今の人類はわかっていない。

むしろキミらの方が遥かに人間らしくいられるのだ。遺伝子をコントロールして優れた人間として生まれ、その上で苦しい境遇に耐えるキミたちこそが。だから私はキミらとゼオが組むこと…クローン人間がひとつになり地球、人類の敵対存在になる。それにより、ようやく人類は自分たちが絶対的な存在じゃないと気づくはずだ』


 ロベルタの話にも共感できるところはあった。もし宇宙に人間を超える存在が発見されたら、今の人類はどうするだろうか。歩み寄ろうとは思えなかった。ゼオがクローン人間と同じ技術の存在とわかっても、ゼオへの否定は変わらなかった。彼の話すように人類は、許容せずに否定を繰り返すかもしれない。

 ただ彼が望んでいることが本当ならば、どうしても腑に落ちないことがあった。ロックは大きく息を吸うと、胸のつっかえを取る想いを口にした。


『そんな大望があるのなら!なぜ今までゼオを操って戦ってきたんですか!あなたがもっと早く歩みよれば、死ななかった命もあったのに!』

『…私とて全てのゼオの統制を取れているわけでは無い。もともとは不完全なクローンとして生まれた彼らだが、この大自然を生き延びるためにより力を増した。進化したんだ。そこに侵略者として人間が現れた。抵抗もするだろう。それに誤解はして欲しくないが、最初に襲ったのは人間の方だ。

もうひとつ、時間も限界が来たことは否定しようがない。普通のゼオは勝手に交わって増えるが、司令塔となる彼は何代にもわたって己の細胞、染色体を使い生まれ変わってきた。いわばクローンのクローンなのだ。しかし何度も繰り返すことで体、精神的にもガタが来ている。このままでは統制の取れなくなったゼオ達が、見境なく暴れだすことも考えられる。

 だからこんな強引な方法でキミらをここまで招き入れた。戦わなければ我々も死ぬかもしれないからな』


 あまりにも静かな空気が流れるが、ロックはそことは違う場所にいるような気持ちだった。ロベルタは大きな目標を掲げる理想主義者だ。こうあるべきという考え方を徹底している。それが正しいことなのかは、ロックにはわからない。だがこの短い時間でもその信念の強さを知ることはできた。


『決めるのはキミたちだ。自分の道を選ぶ事で、本当の意味で人間となれる』


 自分で考え決断すること、唯一の人間の親友が話していたことだ。与えられた人生を享受していただけの彼が友の死を乗り越えられたのは、本気で向き合い考えたからだ。それはクローン人間として、ある意味初めての経験であった。地球の施設にいた時ですら、自分がクローン人間という存在であることを疑わなかったのに。ロベルタがロックに問いかけているのは、彼もクローン人間を信じているからの発言だろう。やはりアーノルドとどことなく似ているように思えた。

 ちらりとロックは3人に視線を向ける。ガジェットに隠れた表情は見えなかったが、意図を汲むように彼らは頷いた。わかりきっていたことだ、自分たちがどうするかなんて。


『僕たちは…』








 ロベルト上席が泊っていたホテルは予想に反して、みすぼらしいものだった。入り口は裏通りにあり、壁は暗くてもわかるほど古かった。中はそれなりに小綺麗ではあったが、建物の老朽化を隠すことはできていない。


「もっと良いところに泊まれるでしょうに」

「このホテルの所有者とは知り合いなんですよ。長年の付き合いで信頼もある。おかげでかなり安く泊めさせてもらっているんですよ。出費が少ないことに越したことはないでしょう」

「それもそうですが…」


 部屋に招かれたアーノルドは出された熱い紅茶にすぐに手を伸ばす。車で来たとはいえ、この寒い夜を移動すれば体が温かいものを欲していた。

 別れてから2か月近く経つが、ロベルトの様子は何も変わっていなかった。丁寧にしわが伸ばされた服を着ており、相変わらずの落ち着いた態度が見られる。彼は自分の紅茶に角砂糖を入れてスプーンでかき回すと、一口飲んで例の甲高い声で話し始めた。


「いきなり呼び立てて申し訳ありません。どうしてもあなたに会う必要があったものですから」

「別に構いませんが…ご用件はなんでしょうか?」

「ご報告と渡すものがありまして。実は先日、ゼオの拠点と思われる場所に攻撃を仕掛けました。あなたが発注を協力してくれた衛星や武器のおかげです」

「ついに戦ったんですか!それでロック達は無事ですか?何か成果は?」


 矢継ぎ早に訊くアーノルドに、ロベルトは軽く笑う。


「それについてなのですが、これを聞けばわかるかと」


 ロベルトは上着の内ポケットから小さな古い音声プレーヤーを差し出す。古いものに不思議な縁があるのか、と思いながらアーノルドは不思議そうにそれを手に取った。


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