第26話 戦い
時間軸ですが、ロック達の方が少し前となっています。地球の方ではそれなりに時間が進む予定です。
第一陣による攻撃から、ロック達は少し遅れて到着したが、すでに戦いは始まっていた。目的の洞窟やその周りの森林は爆撃を受けたような跡がみられる。レイヴン隊のミサイルと爆弾が効果をなした証拠だ。
目的の洞窟はたしかに大きいが、高さはそこまでもなく、この大自然広がる星ならばわかりづらいのも納得であった。洞窟とその周辺の掘られた穴からは、ゼオが次々と這い出てくる。ほとんどが通常の個体だが、そこに混じって電撃を扱う個体、別の穴からは翼をもつ個体も確認されていた。
しかしゼオ達の抵抗はまだ予測の範囲内と言えるだろう。ロック達より先行していた輸送機から降ろされたタートルの部隊に、水路から進行していったスクィード部隊が続々と現れるゼオを撃ち抜き、燃やし、無力化していくのであった。あれにロック達と同じような知能があれば、怯みもするだろう。しかし実際は、闘牛のごとく向かってくるのであった。
もちろん戦局は有利だが、勝利は絶対ではない。攻撃をかいくぐり、飛びかかるゼオもいれば、発電によりミサイルを撃ち落とすものもいる。物量においては、いまだに相手の方が多い可能性を考えると、油断はままならなかった。
『俺らも行くぞ!突撃!』
マークの掛け声と共に、ロック達は一斉に下降する。速度は落とさない急着陸であったが、改良されたウォンバットでは衝撃も気にならないほどであった。着陸して間もなく肩部のミサイルを目視できるゼオに撃ち込む。
ロック達が降り立ったのは、最も大きな洞窟の入り口らしき穴から離れた場所であった。ゼオの数はそれなりであったが正面と思われる巨大な穴とは、雲泥の差だろう。
『もう少ししたら、正面の方で大きく攻撃を仕掛ける。そうなったら俺らとロジエール達で一斉に突撃。中をかく乱だ』
マークの声がマスク内に響く。ロジエール部隊も反対側に上手く着陸できただろうか。
今回のロック達の最大の狙いは、例の人型のゼオ。なんとか中に侵入してあれを捕縛したいものではあるが、ここまで騒がしくなっていれば、すでにどこかから脱出していてもおかしくないような気がした。
『おい、例の奴だ!』
リュータの警戒するように叫ぶ声が聞こえる。穴の中から先日の電撃を扱うゼオが2匹も現れたのだ。あのゼオには苦い思いしかなく、それを見透かしたかのように電撃を放出してきた。ゼオから発せられる一本の光が、ロックに向かってくる。横っ飛びに攻撃をかわして発砲するが、射線上にいた小型のゼオに攻撃は受けられてしまった。
ロックは軽く舌打ちする程度で、すぐに追撃のミサイルを撃ち込む。あの電撃が簡単に方向転換できないこと、目視でも追えること、以前の戦いから今度は間違いなく倒しきると考えていた彼は、冷静に攻撃を仕掛けていく。
大きな体に撃ちだしたミサイルが直撃する。身につけているガジェットが強化されているとはいえ、撃ち出したミサイルは前から使用する外付けの物のため、絶命するまでは至らなかった。
『投げますよ!』
直後にクレアが敵の集団に向かって、爆弾を投げるのが視界に入る。ロックは先ほどのミサイルの残りを全部撃ち出し、相手の注意を自分に向けさせた。苛立つようにゼオはロックを睨みつけ、電気により発達した筋肉を見せつけるように地に腕を叩きつける。だが間もなく、クレアが投げた爆弾が彼らの近くに落ち爆発、その強靭な肉体は大きく削がれて絶命していった。
あれが自分の目の前で死んでいくのを見ると、少し胸のつっかえが取れたような気分になった。長時間の作戦を覚悟している中、こんな気持ちになるだけでも負担が減るというものだ。
それでも穴からゼオが出てくるが、徐々に出てくる数が減っている気がした。やはり正面の巨大な穴の方に戦力が割かれているのだろう。
途中、タートルの装備者が2人現れる。ミサイルが減っていることから、近くで戦闘していたことがうかがえる。
『突撃の際は我々で攻撃して、穴を広げる。キミらは突入してくれ』
『あなたたちは?』
『おそらく追ってくる敵もいるだろうから、それを食い止める。落ち着いたら同じく侵入するよ』
『タートル2機だけで何とかなるか!クレア、ディーゼル援護してやれ!ロック達はおれと一緒に突撃だ!』
『了解!』
マークの指示に全員が声を上げる。いよいよその時が近づくと考えると見も締まる気持ちであった。
間もなく、離れた場所で大きな爆発があった。さらにガジェット部隊に正面攻撃中の連絡が言い渡される。すぐに横に立つタートルが攻撃を放つ。出てくるゼオの多くが消し飛び、さらに穴の方は的確な狙いで大きく広がっていった。
『突入!』
マークの怒号に、ロック達は一斉に穴を目指して走り出す。わずかに出てくる敵は機銃とブレードで薙ぎ払い、彼らは敵の拠点に入り込んだ。気は引き締めたつもりだったが、この瞬間は妙に時間が遅くなったかのような奇妙な感覚と気持ち悪い不安に襲われたのであった。
アーノルドは仕事帰りに行きつけのレストランにひとりで足を運んだ。久しぶりに行くものだから心が躍らない筈はないのだが、上機嫌というほどではなかった。酒は全く飲まず、前菜が来てもウェイターに声をかけられても、しばらく心ここにあらずといった様子だった。
というのも、先日バズから聞いた話についてまったくと言っていいほど情報が得られなかったからだ。探りを入れて約1週間は経つが、ここまで進展がないことには驚いた。何人かの同期や後輩に声をかけて、各部署で不審な動きがないか調べてもらったが、せいぜいバズの噂と同じものがいくつか出てきただけであった。自分でも金銭の流れを調べてみたが、特に不審な点はない。
もちろん、巧妙に隠されていると言われればその通り、もっと言えばこの噂自体がガセであることは考えられる。しかしバズも嘘をついていたと思えない。そもそもクローン人間に対してそこまで関心がない政府内で、こんな噂が流れるくらいだから何かしら情報があってもいいはずだ。
あまり味の感じない前菜を飲み込むと、誰にするでもなく大きくため息をつく。八方ふさがりな状況は、食事ひとつの集中力ですら削がれてしまう。久しぶりに時間もできたから来たものの、早々に来るべきではなかったと後悔すら始めている。
このレストランは子どもの頃から来ており、家族でひいきにしていた。そんな場所で素直に食事を楽しめない自分に嫌気すら指す。
本命であった父への探りも不発に終わった。あまり期待はしていなかったが、それとなく話を振ってもかわされるばかりであった。クローン人間の話すら拒否的な様子であったのだ。それとも父をこの場に連れてきたら、少しは話が引き出せただろうか。
切り替えもできずに、次の料理を待っていると、聞き慣れてしまった声が彼の耳に入った。
「アーミー、奇遇だな!」
声の方を向くと、どかどかと大股でブルベルが近づいてくるのが見える。
「なんだ、そのイヤそうな顔」
意外な鉢合わせに素直な感情が表情に出てしまったのだろう。ブルベルの言葉は、すぐにアーノルドを驚きから引き戻した。
「すまん。まさかお前と会うと思わなくてな」
「それを言ったら、俺もだぜ。今日は誰かと一緒か?」
「いやひとりだ。久しぶりにここのレストランで静かに楽しみたいと思ってさ」
「それじゃ、ここは空いているんだな」
そう言って、ブルベルはアーノルドの対面に座る。わざわざひとりでいたいことを強調したつもりだが、彼にはその想いは届かなかったようだ。届いても座りそうなもので、その遠慮の無さがアーノルドにとって、ブルベルを毛嫌いする理由に直結していた。
しかし座ってすでに近くのウェイターに注文している以上、別の席に移ってもらうことも言えない。結局、目の前で憎たらしい態度の男が注文するのを見ているしかなかった。
「お前はもう飲んでいるのか?」
「今日は料理を楽しみに来たんだ。飲まないよ」
「なんだよ、連れないな。せっかくだし飲もうぜ」
「この後もちょっとやりたいことがあるのでね。遠慮する」
「ノリ悪いな~」
困ったような表情を見せるブルベルのもとに、間もなくシャンパンが運ばれる。グラスを持って少し上げると、その中身を大きく一口飲む。グラスから口を離した彼の表情はとても満足そうな様子であった。彼は彼でかなりの酒豪なので、相手が見知った同期なら遠慮なしに飲むだろう。ましてや、メニューを見ないで通りすがりのウェイターに注文できることから、彼もここは馴染みの店のはずだ。これは長い時間付き合うことになるかもしれない。
グラスを置いて、疲れたように首を左右に曲げながら彼は口を開く。
「どうも最近、忙しくてな。その割には得られるものが多く感じられない」
「そんなにすぐ結果はついてこないよ。そういうのはふと気が付くものじゃないか?」
「俺としては、一日ごとに成長した実感が欲しいんだよ」
強欲、野心そんなものを隠すつもりは無いようだ。そんな同期にアーノルドは呆れたが、自分も野心はある方だし、極端な考え方をする方なので、人のことは言えないと思った。
「お前は地球に戻ってから、仕事の方は順調か?」
「少なくとも大きな問題には直面していないね」
「なんか出世の話とかは無いのか?」
「そういうのは無いなぁ。前にも言ったが、訊かれても明かすつもりはないよ」
「うん?俺はそんなこと聞いたことないぞ」
「ああ、誰か別の人に話したことだったかな。どうも戻ってから、似たり寄ったりの話を振られることが多くてさ。誰に何を答えたのか…」
「ああ、それも仕様がないか。結局、お前と話し込んだのは迎えに行った時だけだったもんな」
彼の言う通り、アーノルドとブルベルが腰を据えて話すのは、宇宙船で地球に戻るとき以来であった。
ちょうど料理が運ばれてくる。アーノルドのところに肉料理が運ばれてくるのに対し、ブルベルにはいくつかの料理が運ばれてきた。すぐにナイフとフォークで料理に手をつけつつ、ブルベルは会話を中断させるつもりはなかった。
「あんまり実入りのある話は聞けなかった、わざわざ俺の目の前でそう言ってくれたな」
「別に当てつけのつもりじゃないぜ。結局、現場出ていないとわからない話だったし」
「俺も別に現場にいたわけじゃない」
「そうは言っても、地球と比べると命の危険性が段違いだぜ」
マッチ箱くらい大きめにカットした肉を口に運ぶ。よくもあんな大きさをすぐに口に放り込めるものだと感心しつつ、アーノルドはその半分にも満たない大きさで料理をカットした。
ブルベルの存在はうっとうしかったが、料理に集中できる機会を与えてくれるため、ある意味ありがたかった。料理に注意を向ければ、その煩わしい態度を気にせずに済むし、相手も食べているから反応がずさんになるのだと理解してくれるからだ。
「でも今思えば、やっぱり俺もあの時残っておくべきだったと思うぜ。ましてやクローン人間について、技術発展させる話がある現状ならさ」
ようやく料理に集中できると思った矢先、アーノルドの手がぴたりと止まる。昂る気持ちを抑えて、アーノルドはゆっくり問いかけた。
「もしかして最近、噂になっている話か?」
「あー…たしかにそれっぽい話は聞くな」
「そんな言い方するくらいなんだ。お前、何か知っているのか?」
アーノルドは他愛ない話題のように振る。できるだけ警戒心を持たれないように話したつもりだが、彼としては緊張で心臓が飛び出すような心持ちであった。しかし意外なところから情報が得られるかもしれないと思うと、否が応にも昂るものがあるのだ。
一方で、ブルベルは目を丸くして意外そうな表情をしていた。
「なんだ、アーミーは知らないのか?てっきり親父さんから聞いているのだと思ったけど」
「俺は何も知らない」
「へえ、お前のことだから耳に入れば、ガンガン調べていると思ったんだがな。特に出張先で入れこんだ技術のひとつだし」
「噂程度は耳に入っても、調べようがないさ。まあ、この件についてはお前の方が遥かに優秀なんだろうな」
この言葉を口にした瞬間、アーノルドは手ごたえを感じた。ブルベルの口にニヤついて笑みが貼りつけられ、グラスの中のシャンパンの残りを一気に飲み干す。少し口元についた液体を軽く指でふき取る時も、片方の手に持つ空のグラスをゆっくりと回し満足そうな表情を浮かべていた。アーノルドの誉め言葉が、彼の胸に大きく響いたのは疑いようもなかった。
「いやはや、俺はただ偶然にその話を聞いただけなんだけどねえ」
「その偶然も得られなかった俺としては、ぜひともお話を聞かせて欲しいものだな」
「まあ同期のよしみ、お前と俺の仲だしな」
ブルベルは近くのウェイターに新たな酒を頼むと、アーノルドに向き直る。軽薄な表情ながら、目はどこか油断ならないちぐはぐな顔を向けると、もったいぶるように口を開いた。
「さて何から話そうか?」
感想、ご意見お待ちしています。




