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RAND  作者: 市田気鈴
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第24話 決起

ロック同様に友も悩む。そして私も展開に悩む…。

 例の大型会議室をこんな短いスパンでこの場所を使うのは、後にも先にもこれが最後ではないだろうか。10年近く、この星で働いてきたバロックですら、そのように感じた。

 アーノルドが去ったところで、悲しいなどの気持ちは一切湧かなかった。彼がいたおかげで、新型ガジェットや武装を回されやすかったが、感謝こそすれど職場で信頼できる相手とまで思ってもいない。敢えて言うなら彼の不安定さは気になったが、所詮は政府の人間。今後クローン人間に積極的に関わることはないだろう。時の流れでそういった感情は薄れるか、割り切ってほどほどの距離感を保つかだ。

 それよりも重要なのは、今後の作戦の展開についてであった。バロックの神経は昂り、いつも以上に興奮している。

 目の前には相当な人数が席についていた。アーノルドを除けば、先日の衛星取り付けの会議と同人数だ。数分前にオドオドした様子で入ってきたクローン人間2人が席に座ったことを確認すると、手元のモニターを見る。どうやら彼らが最後であったため、隣にいる議事進行に合図をした。


「それでは人数も集まりましたので、始めたいと思います。ちょっと業務が忙しい中、緊急の会議のため、あまりお時間を取らせませんのでご容赦ください。では議題を早々に、バロック指揮兼技術顧問からお話を」

「これを見て欲しい」


 前置きの言葉もなく、バロックは早々に映像を提示する。例によって立体的に映るその土地は、会議参加者に疑問を抱かせた。一帯にただの生い茂る森があるだけだ。パッと見てわかるものじゃないのだ。

 そんな中で、ひとりの痩せた男が首をかしげる。


「これは?」

「数十年分のゼオの動きのデータを衛星に読ませて調べた結果、この地域が提示された」

「我々がいまだに調査できていない奥の方でしょうか」

「そうとも言い切れない。たしかにここからは距離があるも、まったく調査していない場所でもなかった。上空を過ぎたり、この地域の角辺りはここ数年あるにはある。だがこの地域の中心部分は、まったくなしていない。奇妙じゃないか?」

「奇妙ですけど、それだけが理由じゃ納得できません」

「誰がこれで説明は終わりだと言った?ここ最近のゼオの動きと移動経路を考えると、この一帯を何度も通っている。

そして1年以上前に発見された例の水晶が従来のこちらの電波を妨害する、あるいはわざと誘発するものとわかった以上、我々が気づかなくてもおかしくない。

現に例の衛星で調査した結果はこれだ」


 手元のパネルを再び操作すると、映像が変化した。さきほどの立体映像は上がり、その下にアリの巣のように空洞が張り巡らされていた。

 これが映し出されると、明らかにざわめきが大きくなった。再び質問が来る前に、間髪を入れずにバロックは話を進める。


「上にある森は単純に隠すため、例の水晶を使えば電波妨害も可能。長い期間、迎撃やこの星の物資の搾取を中心にしてきたからか、ゼオの動きにもっと早く気を配っていればわかっただろうが…それは過ぎた話だ。

これを自然の原理というには無理がある。この星は資源こそ豊かだが、生物はゼオ以外にいない。彼らがここを拠点のひとつにしているのは疑いようがない」


 長年、調査しても発見できなかったゼオの拠点が発見されたのだ。年々、この凶暴な相手に悩まされる状況。この星に来てから自身もずっと解決したかったが、政府にはあまり本気で取り合ってもらえなかった。クローン人間の人材は他よりも余分に出してくれるが、所詮はその程度だ。クローン人間が多いこの土地だからこそ、ないがしろにされたに違いない。

 しかし水晶の発見、ゼオの行動の活発化、加えて政府の人間が来てくれたため物資をより回しやすくなった。おかげでようやくここまで漕ぎつけたのだ。

 この星を本当の意味で自分たちが制圧できるのだ。そのためにやるべきは、ただひとつ。ゼオの殲滅あるのみだ。

 息を大きく吸ったバロックは、力強く言葉を並べ始める。


「長年の相手の拠点がわかった以上、我々が取るべき行動はいったいなんなのか。それはわかりきっているだろう。ようやく奴らの邪魔に悩むことも、命の危険と隣り合わせになることも、なくなるのだ。そう、我々は今こそ…」


 これから力説を始めようという中、言葉を切る。一人の男がしっかりと手を上に伸ばしているのが見えたからだ。クローン人間の中でも顔なじみのその男は、勝手に話そうとはしないようだ。


「マーク、なんだ?」

「ちょっと質問したいことがありまして。バロック指揮の話したいことはよくわかります。ただまさかここに全ての戦力を割くわけではないでしょう?敵の拠点は、これ以外にもあるかもしれないのに」

「その可能性はもちろんある。だから今回の作戦は、敵の中核を叩くことに絞っている。

 少しさかのぼるが、ここ1年ほどでゼオの活動は活発になった。これは諸君らも疑わないだろう。その理由はわからないが、推察はできる。例の人間型のゼオだ」


 この話題を出したときに、部屋全体の緊張感が張り詰められたのがわかる。部屋に備え付けられた空調だけのせいでないことは明らかだ。


「奴は何度か目撃されているが、その度に他のゼオを率いて、コントロールしている節が見られる。我々の仮説としては、何らかの理由で他の個体よりも優れたあのゼオが生まれたことで、動きを活発化、この星に来た我々を本格的に倒すために動き始めたのだと思う。水晶の利用についても、他の有象無象の奴らが思いついたとは、これまでのこの星の戦いの歴史から考えられないからな。

そもそもゼオがキミらと同じように造られているという事実が判明したのも、あのゼオが姿を見せたことでそういった家庭が生まれたからだ。奴も少なからず知能を持つ可能性を持つと考えるのは、自然じゃないか?」


 このバロックの問いかけには、会議室にいるクローン人間にも納得した様子だ。同時に緊張感が解けないことが、いまだに彼らにも不満や疑念を抱いていることがうかがえる。

 だがそれを気にするほどの余裕は、今のバロックにはなかった。一刻も早く、ゼオに決定打を与えて、戦いを終結させたかった。


「さてまだ質問もあるかもしれないが、時間も押している。当面の作戦についても軽く話すから、何か言いたい奴らは直接話してほしい」


 切り上げるバロックに追求しようとする輩は誰もいなかった。部屋に張り詰めた緊張感は解けることはなかった。特にバロックの推し進め方の強引さに疑念を抱く者は多く、ひそひそとそれを口にする者も少なくなかった。

 同時に彼が急ぎすぎていると感じている者もいた。あの男もとっくに余裕がなくなっているのだろう。









「送り出すのが送別会と言うのなら…これも送別会になるのか?」


 手元にあるパンの塊を食いちぎりながら、リュータは疑問を浮かべる。

 ロックはリュータ、アシュリー、オルレアンと共に、食事をしていた。店内の客の入りは決して多くはなかったが、いつもよりも騒々しく感じた。酒が入っているせいもあるだろうが、それでも無理に騒いでいるような雰囲気は否めなかった。


「会っていうには人が少なすぎるよ。私たちだけじゃいつものご飯だと思うな」

「そもそもリュータの話す“送る”って、戦場に送り出すって意味でしょう。アーノルドさんへの会とはだいぶ意味合いが違うわよ」

「じゃあ、なんて言うんだ?」

「前祝いとか、決起会とか…そういうのはアーノルドさんから聞いたわ」

「えー、あの状況でそんなつまらないこと聞いていたの?オーラ、ちょっとそれは空気読めないなー」

「あんたは酔った時に、変な呼び方をやめて欲しいわよ」


 アシュリーとオルレアンが呼び名で話しているのをよそに、リュータは口元の酒を拭いながらロックに顔を向ける。


「じゃあ、本格的なやつをやろう。次の作戦はそれくらい大きいものなんだ。バチは当たらないだろうさ」

「時間あるかねぇ。俺らはガジェットの調整だけでいいけど、隊長たちは会議や打ち合わせもあるから、作戦実行まで捕まらないかも」


 その日の午後に、招集されたロック達が告げられたのは、ゼオの拠点を叩くというものであった。それがどれほど危険かは、常に現場で戦い続けてきた彼らがよくわかっている。


「バロックはこれで本当に戦いが終わるのかと思っているのかね。あの人は実際に現場で戦っているわけじゃないから、あいつらの底知れない生命力を知らないんじゃないか?」

「僕もさすがにこれで終わるとは思えないよ。でも皮切りにはなるんじゃないかな。

 それにこれまでよりは、あいつらに悩まされることもなくなるはずさ。それだけでもこの作戦は前向きにとらえようよ」


 大きなステーキにかぶりつきながら、ロックは答える。迷いのない彼にとって、今回の作戦は前向きなものであった。ゼオが大幅に減少する可能性があるならば命の危険も減るのはもちろんのこと、あの人型のゼオの存在に心を揺さぶられることもなくなるだろう。もっとも彼はすでに自分たちとゼオは違うことに区切りをつけているので、今さら不安になることもほとんどないのだが。

 余裕な態度を見せるロックに、リュータは目を細める。


「でもそれで俺らがここから出られるわけじゃないだろ」

「あれちょっと意外。リュータって、そういう願望あったんだ」

「むしろ俺はさっさと地球に戻りたいんだよ。ちょっと言い出せなかっただけで…」


 口を濁すリュータに、さしずめルオンに気遣っていたのだろうとロックは思った。彼は彼で内輪を重要視する性格だ。他の部隊に突っかかりやすいところもあるが、仲間への情は厚い。それゆえに、ルオンが皆と仕事することを喜んでいるのを見て、口にしなかったのだろう。

 そこにオルレアンの小言を無視しながら、顔を赤く染めたアシュリーが入り込んできた。


「じゃあ、リュータの目標は私と同じだね」

「目標ってものじゃねえよ。だいたいそれが許される筈がないじゃないか」

「チッチッチ。それじゃダメだよ。命令されたから、許されるかじゃなくて、自分でどうしたいか、そのために自分が努力したいかなのさ」

「お前までロックみたいなことを…」

「とにかく考えるだけじゃダメ。それを心から願い、実行に移さなきゃ!」


 やれやれといった表情で、リュータは酒の入ったグラスに少しだけ口をつける。いつもと比べると、酔いは深くなかった。

 今度はそんな彼と対照的に目が血走って酔いが回っているオルレアンが、口元の液体を拭いながら会話に介入した。


「じゃあ私も目標を!変な愛称を少しでも減らす!」

「なになに?オーラはそんなに気に入らない?」

「気に入らなければ、こんなこと言わないわよ。でもそれだけで終わりじゃない。クローン人間の蔑称すら変えるわよ」

「また大きく出たねぇ。ロックに勝るとも劣らずだよ」

「そういやロックは目標あるんだろうな?あれだけ俺らとは違うような発言しているなら、一つや二つ」

「友の墓を建てたい。それだけだよ」

「それって人間に俺らの存在を、認めさせるようなものだぞ。無茶言うなって」

「だーかーら!そういう無茶でもやりたいことをやるのが大事なんだって!」

「えらくロックに肩入れするわね」

「私もアーノルドさんの言いたいことがわかってきたの」


 得意げにアシュリーは鼻を鳴らして答える。

 そんな彼女にリュータはすっかり自信なさげな様子を見せた。


「それがわかれば、俺もこんなに悩まずに済むのかなぁ…」

「リュータも目標あるんだから、悩む必要ないよ」

「あんたが楽観的すぎるのよ。私は…」


 友人の各々の表情がうかがえる。自分の情けなさに辟易する者、この先に希望を持つ者、目標を口にしながら当惑の感情を隠せない者、それぞれ思うことはあるだろう。だがこれが感情を持つ生物にとって当然のことなのだろう。

 ロックにとって、友人たちがこうなるのは当惑するが、つい最近まで自分も彼らと同じだった。なれば、今の彼らに自分が出来ることは、前を向く手助けくらいだろう。


「じゃあ、これを決起会にしよう」

「イイねぇ。それくらいやらないと、あの作戦に希望を持てないよ」

「“会”ってほど人はいないって言ったの、あなたでしょ」

「でも俺は賛成だ。ってか、そうでもないとやってられねえよ」

「僕としては目標のための決起会って言いたかったんだけど…まあ、それは各々に任せるということで」


 ロックは立ち上がり、中身が半分ほど減ったグラスを上げる。思った以上に酔いが回っていたのか、一瞬ふらついた。


「それぞれの目標に向かうために、この集まりをその皮切りにしたいと思う。それでは…あー…ご唱和を。乾杯!」


 ロックの音頭に合わせて3人もグラスを上げる。

 他愛ない集まりにも意味を持たせる。これがそれぞれ違う気持ちに、一種の団結を覚えた。その仲間意識を改めて感じさせたのは、安心を覚えるものであった。


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