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RAND  作者: 市田気鈴
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第21話 思慮

折り合いをつけたロックに、いまだに悩むアーノルド。どっちが幸せでしょうかね。

 ゼオはクローン人間と同じくRANDによって造られた存在である。この噂話が真実であることが公表されたのは、ロックが着脱場で聞いてから二日後の話であった。

 まずマークやロジエールといった上の役職であるクローン人間に伝えられ、その後に映像で全域に伝えられた。もちろん、マークが話したような最大限のフォローの言葉も添えられたが、不安になる者も少なくなかった。そのためここ数日は、カウンセリングを受けるクローンの数が後を絶たなかった。もっとも彼らにとってのカウンセリングは、普通の人間が行うような長期的なものではなく、1回話を聞いてあとは専用の鎮静化するための薬を処方というものであったが、これが普通でないことをクローン人間が知る由もなかった。

 ロックも友人が向かったことを知っていた。オルレアンなんかは予想通りではあったが、鈍感そうなリュータが彼女よりも先に向かったことには驚いた。彼は彼で思うところがあったのだろう。


「私はロックも行くと思っていたけどね」


 マスクを外したアシュリーがあっけらかんとした様子で言う。

 現在、ロック達はゼオの動向を探るという目的で調査に赴いていた。ここ最近のゼオの動きからどのようなルートを通っているのかを調査しており、彼らは先日目撃情報があった近くの森林に来ている。

 ロックは木の根元から目を離さずに、アシュリーに答える。


「大方、ルオンやギャリーのことがあったからそう思ったんだろう?」

「そりゃそうよ。私たちだってショックだったけど、ロックはギャリーの死を間近で見ているじゃない。あんたの性格を考えれば、絶対再起不能になっていると思ったんだけど」

「なんだなんだ。アシュリーは僕が死人同然となってくれた方が良かったのか」

「驚いているだけ。正直な話、ロックの戦線離脱も覚悟していたんだよ。むしろどうやって立ち直ったのさ」

「そうだぞ。言わなきゃ、今度は俺の方が心労で倒れてやる」

「リュータみたいにそそっかしい真似はしないとして、私も気になるわ」


 少し上で木の上部を調べていたリュータとオルレアンが降りてきて話に加わる。


「上の方はどうだった?」

「なにも。翼付きが通った形跡はないわ。もっとも森を通るんだから、わざわざ翼付きといないと思うのだけれども」

「おいおい話題をそらすなよ。そんなに隠さないといけないようなことなのか?」


 別段、隠すようなことではなかった。しかしいちいち話すことも、ロックとしては気が進まなかった。あれは尊敬できる人生の先輩からの言葉を聞き、自分の中でようやく整理できたことなので、話したところで彼らが理解してくれるとは思わなかった。

 わざと上の状況を確認して、気をそらそうとしたが、さすがに小細工すぎたようだ。ちらりと自分たちがいる場所を確認する。草は何度も踏まれてすっかりつぶれており、一種のけもの道となっていた。この周辺は以前からロック達も知っていたため、昔からあったものではなく、最近できたものだろう。かなりの数が移動したと思われるが、踏まれてからの時間と経路を予測すると、ここはしばらく使われることはないだろう。突然、ゼオが襲ってくる心配もない。その安心がロックを観念させた。


「ちょっとアーノルドさんと話しただけさ」

「アーノルドさん、お見舞いに来ていたの!?いいなー、絶対美味しいものとか持ってきてくれたでしょ!」

「…アシュリーとリュータが退院直前に勝手に食べたプリンがそれだよ」

「ああ、それで納得した。あれは美味かったもの」

「あんた達、いくらなんでもデリカシーを持ちなさいよ。酷いなんてものじゃないわよ。でもそれだったら、退院前日に私が来た時も意気消沈していたじゃない?」

「実際そうだったよ。でも考える時間が増えて、僕が彼らにできたことを思い出してね。そしてこの前、わかったんだ。前を向いて歩くことも必要であると」


 あまり具体的に説明できていないことは、ロックが一番わかっていた。こんな言い方で彼らが理解するとも思わなかった。事実、彼にとってはアーノルドの言葉ひとつが救いになったわけじゃない。その言葉がきっかけとなり、自分で悩み、考え抜いたからこそ、ようやく立ち直ることができて、ゼオの真実にもぶれなかったのだろう。

 だから目の前で親友たちが首を傾げたり、目を。


「…よくわからない」

「まあ、無理にわかってもらおうとも思っていないよ。それにあれは人の経験を聞いてどうこうできるようなものじゃないんだ。自分で考えて答えを出さなければならないんだよ」

「俺にもわかるように言ってくれよ。あのカウンセリングじゃ、不安になるんだよ」


 胸を掻くような動作で、リュータは不満を言う。アシュリーはやれやれといった様子で首を振り、オルレアンは神経質にそれを見ていた。

 彼女らもそれぞれの思いを胸にしまい、今もこうして任務に当たっている。それはロックも痛いほどわかっていた。だが結局は、今の自分に出来ることはほとんどなかった。出来ることはアーノルドのように、彼らを促すだけであった。


「まあ、とにかく悩むことが大事だよ。とにかく悩んで考え抜くんだ」

「それはどんどん不安になるわ」

「そういう時は、みんなで一緒に話そう。そしていつか自分の納得する方法を見つけるんだ」


 ロックの言葉に嘘偽りはない。心から救われたのだ。自分とは違う人間の存在に、生まれも見たものも違うあの男に、自分の存在意義を、友を思って背負い込んでいた苦しみを、支えることを手伝ってくれたのだ。

 自分と同じ道を辿って欲しいとは思わないが、彼らの心に救いはあってほしかった。

 アシュリーたちは納得してはいなかったが、これ以上問うのも諦めた様子であった。


「キリストにでも祈ってみようかね」

「ロジエールさんがたしか詳しかったね。あと部隊にも、キリスト教の人がいたはず」

「だったら止める。七面倒なロジエール隊長が詳しいものだから、絶対難しいやつだ」

「相変わらずロジエールさんの言い方には棘があるわね。あの人は歴史を学ぶのが好きなだけでしょうに。それにクローンがキリスト教にはまって、何が悪いの」

「でも宗教って、俺らみたいな存在って歓迎されないって聞いたよ」

『我々のような存在が生まれると思っていないだけじゃないか』


 話に割って入るように、マーク、クレア、そしてギャリーの代わりに入った補充員が上から降りてきた。あまりにもすんなりと入ってきたので、少々不意を突かれたようにロック達は驚いた。


「おしゃべりが多かったんじゃないか」


 降りてきたマークは、マスクを外してロック達の顔を順番に見る。言葉とは裏腹に非難めいた雰囲気はなく、少し呆れただけの様子であった。

 マークと同じようにマスクを外したクレアは、特に何か注意するでもなく、話を切り出す。


「それでここの道はどうです?」

「通ってから数日、草のつぶれ方や土の状態、木の傷などから最近できた道ですね。複数のゼオが通ったから、しっかりとした道ができたのでしょう」

「それだけわかれば十分だ。こっちも水晶を見つけた。小物だがな」


 マークの言う通り、補充員の手にはハンドバック程度のケースに入れられた例の水晶が入っていた。最近見つけたものと比べると、かなり小さく、このサイズだと近くにゼオもいなかったことが、マーク達の無傷な様子から察せられた。


「さてそろそろ戻ろう。問題なくいけば、夜の予定に余裕があるはずだ」


 マークの言葉通り、ロック達は帰還の準備をする。今夜の予定はロックにとって楽しみであるとともに、複雑な感情を抱かせるものであった。今夜はアーノルドの送別会なのだ。










 午後からの仕事の最初がアーノルドに妙な緊張感を与えた。昨日、突然緊急の打ち合わせとして入ったものだが、今回はわざわざ例の大会議室で大人数を集めたものだったからだ。しかも先日と違い、今回はロジエールといったクローン人間も参加している。広い会議室に見合った人数が集められたことを考えると、おそらくまたゼオに関することだろう。

 席に着いたアーノルドは、手元に用意されていた会議資料を見る。軽く目を通すが、自分にとって馴染みのある要求リストから、目に触れる機会がほとんど無いような報告書とごちゃごちゃに入り混じっている印象を受けた。


「さて時間になったので始めよう。もう会議資料に目を通している者もいるから、何が言いたいのかはわかるはずだ。ゼオの拠点についてだ」


 バロックの言葉と同時に、会議室の中央に備え付けられている立体モニターから、この星の地形がいくつか表示されていく。


「例の水晶を調査した結果、あれは大きさによって発生させる電磁波にも強さが違うことが判明した。奴らはその違いをよく理解しており、わざわざおびき寄せるために設置する場所を決めたのだと思われる。事実、ここ数日でもいくつか確認できた。今映しているのがその周辺地域だ」


 移された地域は様々であった。森林が生い茂る場所、けわしい岩盤が目を引く崖、激流が轟く水場とそれぞれ共通点はなかった。

 だが敢えて言うならば、ここの全てに一度はゼオが訪れているということだろう。これらの地で水晶の発する電波を観測したのなら、あれらがわざわざおびき寄せるために設置しに来たのは間違いない。


「さてだが我々は敢えて、これらを無視することとした。これ以上、敵の罠にはまるというバカは避けなければ。もっと言えば、そもそもこれ以上つき合う必要がないのだよ。

 それでは本題に移ろうか」


 バロックが次に出した映像には、大掛かりな筒状の物体が映っていた。周囲に円がいくつか備え付けられ、コードに繋がれている。片方の先端には球体が取り付けられており、もう一方はカメラが取り付けられている。

 映し出された物体を見て、ひとりが声を上げる。


「これなんだ?人工衛星?」

「その通り。地球の方で開発中、というかほとんど完成している。我々が得てきたこれまでのデータも絶えず、送り続けて蓄積している。

 つまりこれが到着して起動したら、すぐにでも奴らの拠点を割り出すことが出来る」


 力強く、確信めいた語調でバロックは説明する。だが彼の熱意は、この会議室にいる者にはあまり理解されていないようだった。正確に言えば、ついていけていない気持ちが大きいのかもしれない。先日の会議でバロックの主張は、間違いなく全員に危機感を抱かせたのは間違いない。しかし現状できることが変わらないため、いきなりここまで力を入れて計画していたことを知っても戸惑うだけであるのだ。

 再び誰かが声を上げる。


「しかし絶対見つけられる確証はないのでは?たしかにこの星の通信設備は十分ではないですが、長年調査してきた我々が見つけられなかったのです。そんな衛星ひとつで変わると思えませんが」

「そうでもない。ここ最近で、あの水晶にはこちらの索敵を妨害の電波も発するものがあるとわかった。だからここ最近、ゼオがこちらの不意を突くような動きも可能になったのだろう。

 だからそれを逆手に取る。この衛星には、索敵範囲の拡大だけでなく、その妨害電波をもキャッチすることが出来る。不自然に強力な場所があれば、そこはゼオの根城のひとつと言えるのではないか」


 なるほど、あの衛星がゼオ攻略のために必要なものであることは、少なくとも理解は得られた様子であった。もちろん細かい部分を突き詰めると、他にも疑問点はあるだろうが、これほど意志が強い男のことだからそこにも説明は用意しているだろう。

 結局、彼の力説には全員に理解を得られるだけの力があるのは容易に想像できた。もっとも否定したところで何が変わるわけではないのだが。

 ただアーノルドとしては、この衛星が搬入される時期も気になった。どうもこの資料やバロックの発言を考えると、自分が地球に戻る時期に重なるような気がしてならない。それが悪いわけではないが、ここぞという場面に立ち会えないことは短いながらもこの星で働いてきた身としては、無念な感情を抱かせた。

 その後も会議は衛星を中心に、今後の作戦についての打ち合わせや戦略について話し合いが展開される。どの議論にも熱心に突っ込んでいくバロックやロベルトが、羨ましく思えた。彼らにはそれだけの知識や実力があるのだ。思えば、クローン人間に期待することを諦めて、ただ彼らと同じ場所で尽力することを選んだ彼らの方が力になっているのだ。

 彼らだけでない。この場にいる皆がクローン人間の力になっているのだ。たとえそれがクローン人間を見下している者でも、自分よりかはよっぽど貢献しているだろう。

 どれほど自分が理想だけで、信念を貫き通せない人間かを、この会議の場で実感するアーノルドは、ただ静かにため息をつく。周りの議論が白熱する中では、誰もそのことには気づかなかった。


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