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RAND  作者: 市田気鈴
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第1話 始まり

まずは書き溜めていた第1話から。前の作品よりは筋道が立っているので何とか完結までこぎつけたいです。

 見れば見るほど広大な自然であった。広大な土地に大きな崖岩、それを突き破ってでも主張する木とその根っこ、奥に行けば水源もあるというではないか。ロックにとってこの自然を見ることはとても活力になる事であった。しかし自分の仕事はこの惑星の調査と資源の回収、感慨に浸っている暇はなかった。


「そろそろ休憩は終わりだ。例のガス地帯に侵入する。全員マスクに不備がないかチェックしておけ」


 隊長のマークが呼びかける。それを聞いた隊員たちは重い腰を上げたりスーツを着た状態で伸びをしたりと各々気を引き締め始めた。

 彼らはここZ58惑星を調査する部隊。全員がガジェットを最大限に扱うために幼い頃より訓練を積み重ねたエリートである。

 ロックは休憩がてらに外していたマスクを再び装着する。スーツ越しに見える景色は肉眼に勝るとも劣らずクリアなものだ。同時に右腕に装着された機関銃の弾数や肩に装着されている外付けのミサイル弾の発射状況も映し出される。


「今は呼吸確保できるかだな。エアーモードはどうだい?」

『問題なし』

「それさえわかれば大丈夫さ」


 ロックの呼びかけに対応するようにマスク内に電子音性が流れる。余計な操作はなく声だけで操作が可能というのは便利なものであった。するとマスク内にマークの声が聞こえる。


「全員マスクに不備は確認したか?通信チェックも兼ねているからどちらも問題なければ右手を挙げてくれ」


 その言葉にロックは右手を上げる。彼に続いてスーツを装着している5人の人物が次々と手を挙げた。スーツ越しでもわかるようにマークは満足そうに頷く。


「では行くぞ。今回はこの奥にある妙な電波の発生源を調べることが目的だからな」


 マークが手を3回握って開くと彼を手前に歩を進め4人でひし形になるような陣形を組む。さらにその後ろにロックを含めた3人が三角形になるような陣形で並ぶ。空中に移動するためのいつもの陣形だ。


「全員遅れるな…ゴー!」


 マークの指示で前面の4人が背中にあるジェット機構で空中に飛び立つ。煙が弧を描くのはまるで彼ら自身がロケット弾になっているかのようであった。しかし見惚れることはなくすぐにロック達も隊長たちに続いて空を飛ぶ。

 このジェット機構はかつての作業用に使われていた『2型モルモット』や『3型マンキー』にはない素晴らしい機能であった。現在彼らが使用する『4型ウォンバット』は戦闘と汎用性に優れておりこの惑星のような未知の世界では特に使用されていた。つまりガジェットの完成形のひとつであった。

 ロックはこの空中移動が好きであった。ガジェットを着ているため風邪を斬る音はうるさくなく、景色が流れるように動くのは気持ちの良いものだ。飛ぶことのできない人間が高いところを怖がるのは自然なことだろう。しかしガジェットを駆使することに慣れた彼にとって宙を駆けることは仕事の中での一種の息抜きとなっていた。

 こうも穏やかであると地球のことを思い出す。別に特別な生活を送っていたわけではないがとても穏やかなものであった。寄宿舎で皆と共に学び、遊んでいた頃。特に友人と共に何かを作ることが彼にとって楽しかった。木工や紙を使った質素なものだが創作意欲が湧いてしようがなかった思い出だ。こんな昔の穏やかな日常を思い出すのに空中移動はうってつけだった。

しかしいつまでも浸っている時間はない。気持ちの良い空中移動を満喫していると少し先にいるマークの声がマスク内に流れる。


「2つ前の穴だ。突入用意!」


 さっと短い指示が流れて間もなく第1陣が再び放物線を描いて真っ逆さまに巨大な崖岩の大きな穴に飛び込んでいった。一方で第2陣であるロック達はジェット機構をホバリング状態にして浮遊しながら通信を待つ。

 間もなく危険なしの通信が入ると3人はホバリングを解除して着陸する。すでに第1陣は着陸して警戒状態を取っておりその視線は奥に続く天井の高い洞窟に目を向けていた。


「毎度思うけど隊長が第1陣にいるってどうなのよ?」

「でも結局前にいるほうが指揮を必要とするパターンが多いからなぁ」

「それにいざとなったら変わりはいくらでもいるでしょ」


 左にいるリュータがロックと彼の右隣にいるオルレアンに第2陣専用のチャンネルを通して問う。この惑星では問題の場所を調査することが多く襲ってくる相手もただの策を用意しない獣のようなもののため、前衛の方が危険となる。とっさの判断が求められるのは前衛のことの方が多いのだ。


「代わりなんているか!マーク隊長ほど優秀な人はここに派遣されている中ではいないぜ」

「ロジエールさんならいい線行くと思うわ」

「あんな嫌みにだけ特化したピンボケにできるかよ」

「それよりもあなたたちおしゃべりはやめた方が良いんじゃない?」


 第2陣の通信チャンネルに割り込んできたのは第1陣で突入したアシュリーであった。予想だにしない人物の口出しにリュータとオルレアンは面食らう。


「アシュリー、いきなりこっちのチャンネル使うなよ」

「ご愛敬ね。隊長にバレる前に注意してあげようと思ったのに。それにロックもこういう時は止めなきゃダメだよ」

「今止めようと思ったんだ」


 言い訳っぽく返答するロックだが、アシュリーがすぐにチャンネルを変更していたので聞こえていたかどうかは定かではなかった。

 少し鼻息が荒くなるロック達であったが、うじうじ考えているわけにもいかない。部隊は警戒しながら奥へ奥へと歩んでいった。

 ガス地帯で洞窟内と聞けば視界も悪いだろうと予想していたが幸いそれは裏切られた。洞窟の天井はところどころに穴が開いておりそこから漏れ出ている光が暗さを緩和している。さらにガスもうっすらとした紫色でそこまで大量に出ているわけではなかったのだ。疑問なのはガスがこの地帯に漏れ出ていないことであったが…。

 隊長が気付いたように声を上げる。


「バレンリウムか」

「どっかで聞いたことがある気が…なんでしたっけ?」

「宇宙に進出したころに発見された成分だな。日の光に当たると酸素になるというものだ」

「たしか23世紀の驚くべき発見のひとつでしたね。今となっては目新しさもありませんが」


 隊長に続くリュータやオルレアンの会話で合点が行く。バレンリウムのガスならば勝手に無毒化するからだ。

今は地球にない物質なんかは珍しくもなくなっていた。いや正確に言うと「今も」だ。もちろん以前はもっと感動もあり新しい発見に騒めき立ったらしいが、他の知的生命体の発見の方が重視されていたのと資源として活用されるような新たな物質ではなかったからだ。その頃にはすでにRANDも普及していたため注目に値しなかったのだろう。

 とはいえ、現在のような状況では身体に有毒なのは変わらない。エアーモードとなっているガジェットに不調が出ないことを祈りつつロック達は歩を進めていったのであった。

 30分も歩いただろうか、目的地までかなり接近していた。そもそも今回こんな場所までくることになったのは妙な電波の発生源を調査するためなのだがそれが何なのかは不明であった。この星に来てから2年近く経つがこういったことは起きたのは最近だ。

 進んでいると全員が自然に足を止める。その原因は彼らの視線の先にあった。


「あれは…」


 約2メートルの水晶の塊のような物があった。薄く青く魅せるような光は吸い込まれるような美しさで、同時にその雰囲気が不気味さを掻き立ててもいた。例の電波はどうやらあの水晶から出ているようだ。


「発生源発見ですね。これはどうしましょうか?」

「無論持ち帰る。この電波については調べる必要があるからな。しかし前にロジエール達が持ち帰ったのとは別の色をしている」


 何も電波の発生源が不明とはいえ彼らにまったく見当がつかないわけではなかった。3週間前にロジエールを隊長とする別部隊が調査に向かった際に同じように電波を発する水晶を発見したのであった。しかしその水晶は黄色でこれよりもはるかに小さかった。おまけに発していた電波がそもそも別物だったので今回の調査ではそれも調べる必要があった。


「削ります?」

「いや全部持ち帰る。根元の土台になっている岩を外して3人もいれば持ち帰れるだろう。ロック達に頼みたいのだが」

「了解です。じゃあワイヤーを…」


 その時だ。なにか奇妙な音が洞窟のさらに奥から聞こえてくる。獣の叫び声とは似ても似つかないその音は複数あるようで間もなく地面や天井を這って動く怪物が突撃してきた。体格差はあるが体は浅黒く2メートルあるかないかという大きさ、隆起した筋肉の目立つ腕や脚、しっかりと裂けた大口、顔の3分の1近くを占めている大きな目、多くは音で外敵の存在を察知するこの奇妙な生物はゼオと呼ばれるこの星特有の生物であった。知的らしいものはなく同類以外を見境なく食そうとする獰猛な生物でZ58惑星に戦闘用ガジェットが必要となる原因でもあった。

 しかしロック達も素人ではない。ゼオの叫び声が聞こえるや否や彼らはすぐに水晶を守るように陣形を整え、姿を確認した瞬間には攻撃を開始した。ガジェットの右腕から銃口が現れると轟音を上げて弾が撃たれる。機関銃のように連射される攻撃にゼオたちは次々と動きを止めていった。さらにアシュリーとオルレアンが少し下がると肩に外付けされている小型ミサイルを発射する。小型でも誘導性能があるこのミサイルは天井を移動する数匹のゼオに見事に命中する。体の半身を爆発により失ったゼオたちはそのまま落ちていき下にいる同族の進行の邪魔をする骸となるのであった。

 しかしここでゼオが2匹、骸が上手いこと盾になっており多少の傷を気にせずにロック達に接近してきた。


「ロック!ギャリー!」

「「はい!」」


 マークの声に反応してロックとその隣にいたギャリーは素早く左腕から腕の半分くらいの長さのブレードを取り出す。スイッチを入れるとブレードには電撃が走りロックとギャリーは2人がかりで接近してきたゼオを斬りさいた。もう1体の接近してきたゼオはマークがブレードで見事に首を落としていた。

 その後の制圧はあまりにもあっけなかった。約5分間もの間、ゼオは立て続けにロック達を襲ってきたがガジェットの機能と武装の前になすすべもなく駆逐されていった。ようやく銃火器の音が落ち着くとロック達の目の前に広がるのはバレンリウムのガスに混じった硝煙と撃ち抜かれたり体が焦げていたりで生命活動を停止させた怪物たちだけであった。

 危機を一つ乗り越えると、皆がそれぞれ口を開く。


「ようやく収まったよ…。弾薬も機関銃の方は切れてしまったし、たまったもんじゃないぜ」

「こんなにいるなんて聞いていなかったわ!作戦立案者は私たちを殺したかったっていうの!」

「せめてもの幸運は敵が正面からしか来なかったことだな。取り囲まれたら目も当てられなかっただろう」


 口々に疲労と不満をぶちまけている中で、ロックは洞窟の奥に目を凝らす。別に何かがいたわけでもないし踏み込もうとも思わない。ただこれらのゼオがどこから湧いたのかは気になった。ここが彼らの巣と考えれば納得できるがその割にはボスともなるような特殊個体がいない。それとも勝てないと踏んで逃げたのだろうか。いやこれまでゼオの巣に踏み込んだことはあるが彼らにそこまでの防衛本能はない。あるのは同族以外を襲おうとする凶暴性だけだ。

 不信感を持っていたのはロックだけでなかった。ギャリーはゼオの死体の1体を興味深そうに見ていたし、隊長であるマークは洞窟内に何かないかというようにガジェットのマスクから発せられる特殊な光でここら一帯の成分を調べていた。

 マークは一通り辺りを確認すると水晶にゆっくりと触れる。


「何もない。となれば考えられるのは…やはりこいつか」

「隊長はそれに何かあると思うんですか?」

「むしろこれ以外に考えられない。ロジエールの話もあわせて考えれば納得だ」

「ロジエールさんの時も何かあったんですか?何も知らないんですが」

「報告書に記録されたことじゃなかったからな。この前あいつらの部隊が結晶を回収する直前にもゼオが襲って来たらしい。話ではかなり小規模でこいつらより少なかったけどな。私は運が悪かった話として本気にしていなかったが」

「この水晶に惹かれて来たということですか…」

「もちろんまだ仮説の領域だがな。ただ前と比べて水晶のサイズが大きいからこれに引き寄せられたと考えればあり得ると思わないか?」


 マークの考えにロックは頷く。少なくとも筋の通った話だと思った。会話には入ってなかったがギャリーもこの話を聞いていたのは繋がっている通信チャンネルを見れば明らかだ。その上で話に入ってこなかったのは彼も同じ意見だったからだろう。

 しかしこの考えが正しいと思うとロックとしては身震いする気持ちであった。もしこれを持ち帰ってまたこの電波をゼオたちが感知でもすれば自分たちの危険もあり得るのであった。この星は調査するべきことこそ多いものわずかに開拓できている場所ですら有り余るほどの資源があるのだ。加えて自分たちの生活圏もある。それらにゼオが飛び込んでくる危険が常に付きまとうだけでも神経が磨り減るだろう。


「なんにせよ、これは丁重に持ち帰る必要がありそうだ。ロックお前たち第2陣で運んでくれ」

「あー…了解です」


 マークの命令に煮え切らない返しをロックは口にする。もとよりおとなしいロックとしては別に普通のことでもこんな返しをすることは多いのでマークは別に取り合わなかった。ただロックとしては実際これを持ち帰りたくはなかった。


「隊長、これ本当に持って帰るんですかぁ?」


 間の抜けたような言い方でリュータがロックの気持ちを代弁する。彼も先ほどのゼオの襲撃でこの水晶への警戒心が出たようだ。他にも数人、声には出さないが困ったように頭を掻いたり腕組みしたりして無言の主張をしている者達がいる。

 しかしこういう時に限ってマークという男は隊長として檄を飛ばせる人物でもある。


「いいかお前ら。この星の重要性や我々が何者であるかをお前らはわかったうえでここにいる筈だ。何よりもここに我々がいて選ばれたものとして人類に貢献できることがどれほど大事かわかるだろう」


 強くそれでいて人を安心させるような低い声でマークはマスク越しにみんなに訴える。こんな当たり障りない言葉で最低限の納得はしてしまうのだから自分たちもちょろいものだとロックは思った。それでもここで事実を突きつけ、皆を鼓舞させるのはマークだからこそできるのであって、リュータが言うように替えの利かない存在としての説得力を表していたのであった。

 ロック達第2陣は手早く水晶を引っ付いている根元の岩ごと地面から引きはがすとすぐに3人で運べるようにワイヤーで固定する。第1陣も彼らを囲むような陣形に変えて彼らは自らの拠点を目指して再び飛んでいった。

 これが人類に何か進歩を促すためのものであることを彼らは切に願っていた。そうとしか考えられなかったのだ。









 その日は小雨が降る天気であった。おかげで肌にはべったりとした感覚がつきまとう。こんな天気が数日続いているが慣れることはなかった。しかしこれも地球に住む者の特権なのかもしれないとアーノルド・ルイスは思う。地球だからこそこの天気や湿度を味わえて…。いや彼としては他の星へ住んでみたいという気持ちの方が強かった。生まれてこの方地球にしか住んでいないのだが、彼はこの星があまり好きではなかった。最先端の技術や他の星から流れる豊富な物資は生活を豊かにしてくれるものだがずっと地球で生活を送っているんだからありがたみもない。むしろ数える程度しか行ったことのない旅行で訪れた別惑星の方が何倍も魅力的であった。地球の様々な国を見るよりも1回の宇宙旅行の方が彼にとっては価値があったのだ。もっとも彼が他の星を表面上しか知らないからこそ考えることとも言えたが。

 地球に住んでいるのは政府の高官である父の意向でもあった。地球に住むのは今となっては一種のステータスと言えるだろう。別に宇宙に出て別の惑星に住むのが悪いことではないし、それを好む人もごまんといる。しかし地球を超えるような知的生命体がいないとわかったこの時代ではこの地球こそが特別である自分たちを生んだ星という考えのもとに神聖化されていった。

 地球は特別な場所なのだろうか。宇宙の秘密が次々と明らかになるほど地球人が特別だと声高に主張する人がいる。かくいう彼の父も同様であった。気持ちはわからないでもないがそれは傲慢というものだろう。もし数百年前に自分がいたとしてもこんな考えには至らなかっただろうとアーノルドは思う。

 こんな悶々とした思考が途切れることのない彼を興奮させたのはその父のある提案からだった。


「Z58に一緒に行くか?」


 アーノルドは耳を疑った。地球政府でもなかなかの重役である父がいきなり自分を連れて他の星に行くなんて心中でも図るつもりなのかとすら思った。


「父さん、何かあったの?」

「いきなり疑うというのも失礼だな。仕事で行くんだがいい機会だからお前にもついて来てもらおうと思ったのだ」

「そういうことか…。いや待てよ、Z58って調査中の資源の星って場所だろ?なんでそこに父さんが?」

「あの星を知っているとはよく勉強しているじゃないか。まあ査察だな。あと軍事大臣の付き合いで」

「また物騒な…ガジェットの査察とか?」

「そこはお前の知ることではないさ。それで行くのか?」

「そりゃお供するよ」


 アーノルドにとって断る理由などなかった。久しぶりに他の惑星に行ける。地球に辟易していた彼にとってこれだけで心が躍る気持ちだ。この時ばかりは普段苦手な父親に対してコネをありがとう!と言いたいものであった。

 もちろん気を抜いてばかりというわけにもいかない。仮にも父親の影響だけでなくアーノルド自身の努力もあって彼は政府で働いているのだ。たぐいまれなる才能と純粋な勤勉さがどこまでも良い方向にもっていった結果が今の彼と言える。そこまで築き上げた自分の地位を彼は心が躍る状態とはいえあっさりと忘れるような男ではなかった。

 さっそくZ58惑星について現状で分かっていることを調べ始める。星自体はかなり前から確認されていたが星に地球の拠点が完成してからまだ50年程度であった。自然豊かな星でバレンリウムやボゾン(液体に溶けてそれを粘り強くさせる成分)といった別の惑星で発見されてきた物質などもここにはあった。この星を語る上で最も重要なのはゼオという生命体の存在だろう。まるで暴走列車のごとく突撃を繰り返し自分たち以外の種族をすぐにでも叩きのめそうとする。そのどう猛性は危険であり、この星に多くのガジェットが配備されているのもそのためだろう。

むしろ100年経っていまだに不明な点が多いことの方がアーノルドにとっては驚きであった。RANDが発見、実用化されてから数世紀も経っている。ましてやガジェットもとっくに完成形であった『4型ウォンバット』が複数配備されているような時代にも関わらずにいまだに情報が少なくゼオの発生源すらも突き止められないのは疑問であった。

 調べてわかる資料の少なさとそれゆえの今回の査察の関係は気になるところがあった。ただ調査の発破をかけるつもりならわざわざ軍事顧問のお偉いさんが出向く必要性は…あるのかもしれないがもっと適任者がいてもおかしくないはずだ。それこそどこかの国の責任者や政府の環境大臣やらいくらでもいるだろう。軍事大臣が赴くとなれば…。


「ガジェット?」


 アーノルドの口から漏れ出る一言だがこれも確証を得ない。いや軍事が絡むとなればガット以外考えられないのだが、他惑星で専門的にいくらでもやっているのだからわざわざ資源兼調査中の星の場所に行く必要が無いのだ。もうひとつゼオも考えたが知的生命体のくくりでやはり環境大臣が出向くだろう。

 なんにせよ何か裏があるとしか思えなかった。政府の中枢を知る父が自分を連れて行くというほどならよほど機密というものではないだろうが、ただの地球外出張として浮かれるわけにもいかないようであった。


「これは気を引き締める必要があるかな。もしかしてなにか政府にとってやばいものを自分に見せようとも思っているのか父さんは。それでいよいよ俺にも政府の機密事項を取り扱いさせようと…考えすぎか。でもあの人の狡猾さなら…」


 再びアーノルドの口から誰に言うともなく言葉が紡がれる。才能と行動力にあふれる男だが考えにはまるとつい独り言が増えてしまうのは彼の悩みでもあった。だが自分がブツブツと呟いていることに気が付くのはもうしばらく後であった。


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