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RAND  作者: 市田気鈴
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第16話 電撃

 ちょっと巻き気味になりました。でも最近の展開の遅さを考えたらこれくらいやっても良い気がします。次回あたりにはこの戦闘も終わらせるつもりです。

 ロックはふらつきながらも額を押さえて立ち上がる。ガジェットのマスク越しのため、額を抑えたところでそこから流れる血は止まることはなかった。呼吸も荒く、流れる血は顔を伝うが、それを気にするような余裕は彼になかった。

 目の前のゼオはうめき声を上げながら血走った眼をギョロつかせていた。その巨体にふさわしい剛腕はガジェットを装備した人間どころか、迫りくる高速の弾丸すらも掴んだのだ。それだけでこの新しいゼオの恐ろしさは充分理解できた。


「どこから出てきたんだ?」

『もしかしたら他の小さいゼオと同じように岩の下に隠れていたのかもな。どう仕留めるか…』


 ギャリーの言う通り、これを仕留めるのは骨の折れる作業だと思った。そもそもロックはこれ以上の戦闘を継続するにはかなり難しい状況であった。とっさに腕で防いだから生きてはいるものの、その腕は間違いなく折れているような痛みを感じ、腕の機銃も銃口がひしゃげて発射もままならない。吹っ飛んだ衝撃でミサイルが暴発しなかったのがせめてもの救いだろうか。

 すると耳に電子音が聞こえる。隊長のマークの声だ。


『全員聞こえるか?ガタイが良いデカいゼオが出てきたんだが、お前らの方はどうだ?』

「俺とギャリーのところにもいます」

『私の方にもいますね。こちらはリュータとオルレアンと一緒です』

『こっちはっ!』


 ロック、クレアが答えた後に一瞬だけ聞こえた声が途切れる。その男は補充要員の声なのはすぐにわかったが、この通信の途切れ方、消えるガジェットの反応、彼がやられたと理解するのは難しくなかった。

 この一瞬にロック達は動揺するも、その思考はすでに敵の数やどうやってあのゼオを倒すことであった。深まる絶望の中でも生きるために次の一手を考えるメンタルはクローン人間の強みなのだろう。

 ロック達の視線の先には例の巨体のゼオとこん棒を拾いもてあそぶようにクルクルと回す人型のゼオが睨んでいた。


「確認できている例の奴は3…いや4体の可能性もある。こっちがあの人型もいる分、きついかな」

『あのデカ物を潰せば良いだろう。問題はあれがただの力だけの奴なのか…』


 ギャリーの言葉は最もであった。あのゼオは見た目が一回り大きいだけでなく、牙や肩の突起などこれまでのゼオとの違いはいくつか見受けられる。力が強いだけの体が大きいゼオならこれまでも見てきたため、こういった違いがあるのはそのゼオがこれまでの個体とは別物であることを証明だ。

 ならば、あのゼオがこれまでとは全く違う力を持っている可能性は否定できない。その怪力以外の特性があるのならば警戒するに越したことはない。


「…だからといって何もしないわけにいかない」

『さっさと潰さないとあの人型がまた仕掛けてくるか、雑魚どもがすぐに来るだろうからな。…やるぞ!』

「ああ!」


 決心さえつけば彼らの動きは素早かった。機銃の発砲はできないものの、ブレードは展開できる。右腕からブレードを展開すると、バリバリと小さく電撃がうなる音が聞こえる。ロックは目標に向かって走り出した。腕には痛みを感じるが、かばう程の辛さはなく、その眼はゼオを倒すことの一点に注がれていた。

 上空ではギャリーが後ろを向いてミサイルを一斉に放つ。ミサイルはバラバラに軌道を描きながら、後ろから迫る翼付きのゼオと煙の中からロックを狙っていた地上の小型ゼオに着弾していった。ギャリーは当たったかどうかの確認もしないうちにパルスナイパーを構えて、再び巨体のゼオに狙いをつける。発射された弾丸は一直線にゼオの頭に向かっていくが、それはむなしく再び腕に捕まれるだけであった。

 しかしその怪物の懐に向かってロックは走った。最初に弾丸を止めた時、ゼオは余裕で止めていたわけではなかった。弾丸を掴むも、回転するその弾を抑えるのにしっかりと足を踏ん張り両腕で力を入れて止めていたのだ。それほど構えなけえれば受け止めきれないほどパルスナイパーの弾丸は強力で、その瞬間は相手が無防備になる絶好のチャンスでもあった。

 少しだけうめき声を上げながらロックは悪い足場をものともせず、跳ねるように向かっていくが、人型のゼオは棍棒で迎え撃とうとかまえる。もはやロックにはあれを真っ向から相手する余力はなかった。だからこそあれを何とかしてくれる仲間のことを信じて突っ込んでいく。

 上空から神速の速度で下っていったギャリーに気づかないゼオではなかった。とっさに後ろへ下がって避けるが、ギャリーは地面に激突せずレイヴンの外装を外してそのまま岩場に着地した。大型の飛行ユニットを装備していないレイヴンは身軽で武装も貧弱だ。しかし空中戦しかできないと思っていたところではそれでも充分であった。機銃はないが取り出したナイフでギャリーは人型ゼオの右肩を刺す。刺された痛みでこん棒を離したゼオはそのままギャリーと組みあった。この瞬間、このゼオの貧弱さに気づく。腕力は決して強くなく、せいぜい鍛えた人間程度だろう。外装を外したとはいえガジェットを装着しているギャリーの力には完全に負けていた。好機と見たギャリーはそのまま取り押さえて腕を折ろうとする。すっかり人型ゼオは無力化されていた。

 もはや邪魔をする相手はいない。ロックはターゲットを見据えて、先ほどの借りを返すかのようにブレードで相手の首に狙いをつける。腕が邪魔なため横から斬り落とすことが不可能、そうなると正面から喉元を突き刺すしかなかった。ロックは迷わず、ゼオの喉にブレードを突き刺す。折れた腕ではそこから腕を動かして首を斬り落とすことはできなかったが、電撃を纏ったブレードは化け物の喉を焼き切るだろう。








「もはやゼオの正体については我々もある程度予測はついているのですよ」


 レーダー室にやって来たバロックは疲れた様子でロックに向かって話す。前置きなしにいきなり言われたことのため、アーノルドが困惑したのは当然のことだろう。

 アーノルドはできるだけ感情を表に出さないことを意識しながら、バロックの言葉に反応する。


「なんだって急にそんなことを?」

「あなたがクローン人間に入れ込んでいるからです」

「たしかにそういう意味では彼らと相対するゼオの存在は気になるところですがね」


 肩をすくめるが、内心舌打ちしながらの反応であった。ゼオの正体にある程度の核心を持っているのであれば、クローン人間をこれ以上戦わせる理由がないと思ったのだ。それか他にもっと有効な手段を用いて手を打つべきだろう。少なくとも今回のような無理をさせるような任務を行わせる必要はない。

 もっともこの言葉は事実半分くらいで受け取るべきだろう。思わせぶりな言葉を提示するのは、この男のいつものやり方であった。だがまったく何もわかっていないのにこんな発言をする男でないのも知っていた。そのためこの発言はあながち間違いでないくらいの理解が正しいだろう。

周りではバロックの入室も意に介さずに職務を全うしているように見えたが、彼の発言には耳を傾けていた。一般の職員でもこの情報は初耳だったのだろう。唯一動じていないのはロベルト上席で、手に持っている小型の端末と大型モニターを交互に見ながら顔をしかめていた。


「ただ決定打が欲しい。あのゼオが我々の見解に一致するものだという完全な証拠となるものが」

「じゃあ、今回の作戦でそれがわかるというのですか?」

「それはなんとも…あの人型のゼオを知るか、あるいは…」

「あなたはそうやってクローン人間にこんな無茶をやらせる。彼らだって生きるべき人間なのに、選択を許されるべき存在なのに」


 少なくとも自分の方がクローン人間に理解を示せているという自負がアーノルドにはあった。彼らがどれほど仲間を大切にしているのか、彼らにも自分で進みたい意志を持つ者がいるというのが、自分たちと同じような感情をもつ者であることを生の体験で存分に味わっていたのだから。

 そんな彼には目もくれず、バロックはあくびを噛み殺すと呆れ気味に口を開く。


「やはりあなたはまだまだお若い。考えの浅いところや感情の揺れ具合も含めて」








「なんで…」


 マスクの中でロックは目を見開いた。たしかにブレードは動かなかったが、喉元を突き刺しさらには電撃を通した。だからこれを倒しきれていないことには驚きを隠せなかった。

ゼオは呻きながらも暴れることなく、両腕で止めた弾丸を投げ捨てた。衰弱するどころか肩の突起には電撃が帯び始め、見る見るうちに力がみなぎっていくようであった。

ロックが驚いているうちにうめき声が静かになっていく。気づけば喉元から流れていた血も止まっており、ゼオは先ほどよりも活気のある姿を見せていた。喉元のブレードを掴み強引に折ると、両腕を思いっきり振り上げる。

考えなどしなかった。反射的に後ろに下がったロックは幸運だ。いつもの任務で得られた経験がこの瞬間大きく役立ったことを彼は実感したのであった。

振り下ろしたゼオの腕は岩盤にぶち当たる。割れることこそなかったもののヒビが入り、こぶしの痕がしっかりと刻まれていた。すぐに追撃が来るかと思ったが、ゼオは首に刺さったブレードを気にしており、取り除こうと太い指を動かしていた。


「殺しきれなかった!」

『なんだって!?』


 揉み合いになっていたギャリーはその言葉に一瞬気を取られる。次の瞬間、人型ゼオが彼の腹部を強烈に蹴り飛ばした。不意打ちを受けたギャリーは引き剥がされ、その間にゼオは体をよろけさせながら背を向けて逃げていく。

 すぐに追うか迷ったが、レイヴンの外装を外している以上、攻撃、捕獲手段ともに乏しく、ブースト機能もない。結局、今のギャリーには歯を食いしばってその後ろ姿を見ることしかできなかった。


「こっちも逃した…!」

「生きていてくれればそれでいいよ」


 悔しそうに言葉にしながらマスクの前面を一度開けるギャリーの隣にロックが着く。ガジェット越しでも肩で息をしているのがよくわかった。


「空気吸ったら、マスクつけなよ。あいつ頭は良くないみたいだ。みすみす僕らを殺すチャンスを逃している」

「俺らよりも首の異物の方を気にするだけ余裕があるとも取れるがな」


 皮肉気味に言いながら、ギャリーはガジェットのマスクを閉める。外装を外したレイヴンではマスクをしていようがいまいが、どうも傍から見ても頼りがいがあるとは思えない見た目であった。しかしそれは今のロックも同じである。腕もブレードも折れて、機銃の発射もままならない。手投げの小さな爆弾と1回分の外付けミサイル発射装置があるだけだ。


『まずあれにブレードが利かなかった理由がわからん。お前の電磁装置が壊れていたのか?』

「ブレードは間違いなく機能していたさ。刺した時点であいつの喉が焼き切れなかったことが異常なんだ。僕の予想が正しければ、あのゼオの能力は電撃をエネルギーに変換できるのだと思う。

 僕がブレードで攻撃したら、あいつは力を増したんだ。肩の突起に電気が帯びていることも考えると、耐性もあるはずだ」

『その仮説が正しいとなるとあの剛腕も貯めていた電撃を力に変えた可能性もあるな』

「…その場合、このピンチは相変わらず。しかし逆転もあり得る」


 ロックの言葉はたしかに正しかった。予想通りの特性を持っているのならば、その電撃を放出させて弱体化を狙える。攻撃手段は乏しいが、ミサイルに爆弾と火力のある攻撃手段はまだ残っているので仕留めることも可能だろう。問題はどうやって放出させるかだ。

 その答えは間もなく判明した。弄っているうちに気にならなくなったのか、諦めたのか、ブレードを取り出すことをやめたゼオはロックとギャリーに警戒を強める。


「向かってくるか…?」

『だとしたらいざという時は頼むぞ。飛べないんだ』


 そんなやり取りをしているうちに、巨体のゼオが大声で吠える。その瞬間だ。肩の突起が不自然に光ったのだ。そこからあらゆる方向にうねる光の線がゼオの周りを包んでいった。突起から溢れる光の線はバチバチと音を鳴らし、周囲の岩盤を削り焦がしていく。

その圧巻の光景はロック達の動きを封じた。まったく動けなかったのだ。その力強さ、強力な光に威圧されていたのは間違いない。

間もなく光が納まった。ゼオの周りの岩盤は焼け焦げた跡と思われる黒い線痕が残っており、そこから薄い黒煙が立っていた。


『お前の考えは合っていたかもな』

「あまり嬉しくないよ。今の攻撃、まったく動けなかった」

『威嚇にも見えたが。しかしあれで電気が放出されるならチャンスはある。充分放出して弱体化したところを狙おう』


 再びあのゼオを倒すために動きだす。まずやるべきことはあのゼオを弱体化させることであった。心なしか、あのゼオは放電した後は少し体の張りが弱くなったように見えた。つまり放電させていれば、あの腕力も脅威にはならないと考えたのだ。

 やることは単純な注意を向けるだけだ。ギャリーは唯一の遠距離武器である携帯銃をゼオに向けて連射する。ロックの方は彼の横に着き、あのゼオが急に接近した時にもすぐに離脱できるように警戒している。

 この乱戦にも関わらず、彼らの耳にはパンッと乾いた銃声がよく響いた。こんな貧弱な武器に頼らざるを得ない状況には情けなさを覚える。

 幸い、ゼオの注意が向くのは早かった。傷もつかないような弾丸であったが、この程度の攻撃にも反応するほど敏感な怪物は、再び雄たけびを上げると肩の突起から電撃を放出する。今度の電撃はロック達にまっすぐ向かってきて、その命を狙った。放電の威力は先ほどの威嚇よりもはるかに強く、ロックはすぐにギャリーを抱えてブースト機能を細かく使いながら避けていった。折れた腕で抱えるのは苦痛であったが、命には代えられない。

 電撃は一度放出すると方向転換するのは難しいようで、電撃を撃っては止めて撃っては止めての繰り返しだった。そのゼオがしびれを切らして最初のように周辺に放電しないのはロック達にとって幸いだった。おかげで視線をゼオに集中させることが出来た。

 時間は短かったが、ロックにとってはこの一瞬一瞬が命がけだったおかげで、とても長く感じた。


「もうだいぶ避けた」


 ロックが小さく呟きの結果は、視線の先のゼオに集約されていた。放出する電撃は速度こそ変わっていないが威力は落ちており、放出するまでの間隔も長くなっている。何よりもその一回りも大きかった肉体が先ほどよりもだいぶ縮んでいたのだ。


「これだけやれば!」

『頼むぞ、ロック!』


 これが最後と言わんばかりに、ミサイルを一斉に放出する。撃ち出された四発の小型ミサイルはゼオを狙って飛んでいった。

 ゼオは電撃を放つが、自身のエネルギーを消耗した今ではせいぜい一度に一閃の電撃が関の山であった。ミサイルをひとつは落とすも残った3発のミサイルが電撃と同じような軌道を描いてゼオに激突していった。


「あれで倒せるかな?」

『不安ならお前の爆弾貸せ!俺が仕留める!』


 奪うようにロックのガジェットについていた爆弾を取ると燃え盛る炎に向かって投げつける。ミサイル同様に爆発を起こすと炎はより激しさを増してゼオを包み込んでいった。炎の中でのたうち回るゼオが見える。声を上げ、腕を地面に叩きつけ、その苦しさを全身で表していた。最後に一度だけ大きくしかしどこか弱々しく吠えると、炎の中で動かなくなった。

 それを確認したロックとギャリーは倒れ込むように横になる。硬い岩盤も気にならないほどの疲弊がどっと押し寄せてきた。


「ようやく倒せた」

『だがもう俺らは戦えないな。さてどうやって離脱するか…』


 次の言葉を紡ぐ瞬間、小さな数体のゼオがロック達に襲い掛かる。あの巨体のゼオが焼かれる前に叫んだ声に惹かれたのだろう。すっかり不意を突かれた上に今のロック達にはこの小さなゼオですら脅威であるのは言うまでもない。体を動かして抵抗するも、

 もはや飽きるほど一日で命の危険を感じた。抵抗こそするが、もはや心も折れかけている彼らにとってはそれにも力が入っていなかった。ぼんやりと意識がはっきりしないまま、ただ無我夢中に腕や体を動かす。

ここで友と終わるのも一興か…そんな想いは瞬く間にギャリーが自分の体から離れていくことですぐに消えていった。体を起こそうとすると誰かが彼の腕を持って起き上がるのを手伝う。腕の痛みに耐えつつ、手伝った人物を見た。そこにはあまり見慣れない装備のガジェットを装着した者が立っていた。


『進行が遅れてすまなかった。ここからは任せてくれ』


 数人の援軍に、安心感で意識がより薄れていくロックであった。


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