第12話 疑念
新型機を出すわ、大事な脇役は荒れるわで書いていて取っ散らかってきました。次回あたりまでは準備段階です。
これほど体が軽い日が続くとはロックは思いもしなかった。友との約束が果たせただけにとどまらず、それがきっかけで友人ができたのだ。閉鎖されたこの星で新たな出会いを経験できたことは彼にとって形容しがたいほどの喜びであった。昂る気持ちはとどまることを知らず、空を飛ぶロックの動きは大胆になっていった。
「はしゃぎすぎるな。せっかくの試作機が壊れると何を言われるかわかったものじゃないからな」
マークの声が電子音となってロックの耳に届く。久しぶりの防衛でない任務は試作機のテストであった。先日物資と共に届けられた試作機「6型レイヴン」はまさに現在の状況に必要となっていたガジェットであった。大鴉の名を持つこのガジェットは従来の「4型ウォンバット」と違い、空中での戦闘に特化したガジェットだ。
背中のジェット機構は大型化しており地球で使われている航空機のような翼がつけられていた。さらに巨大な噴出口が取り付けられており、これが空での最高速度を格段に上げている要因となっている。
武装も強力で通常装備である右腕の発射機から撃ち出す弾丸はタートルの機銃よりも遥かに大きかった。なんでも一種の擲弾になっているようで上空からの爆撃にも使えるようだ。肩にはこれまで同様の機銃が装備されており、誘導ミサイルやキャノン砲をバックパックに外付けが可能である。噂では専用の大型武器も開発中らしいが、詳細は不明であった。
的は大きくなったものの空中の移動速度や旋回能力がはるかに上昇しているため、使いこなせればウォンバットよりも空での戦果は間違いないだろう。
ただし地上での戦いはあまり有効でないのは明白であった。せいぜいタートル同様に固定砲台になれる程度だろう。
「相変わらず探索用というよりは戦闘や防衛のために造られたものだな」
「でもこれ楽しいよ!私はタートルよりも好きだな!」
運用を知って呆れるギャリーに、見せつけるようにぐるぐると動きながらアシュリーは答える。
今回届けられたレイヴンは3機。その内の2機が今回のテストに使われた。使用しているのはロックとアシュリー。特別な理由があるわけではないのだが、ロックの場合はおそらく先日アーノルドを救出したことが響いているのかもしれない。
「7型の方も回してくれてよかったと思うんだよなぁ」
「あれはこの星で使う機会がないだろう。8型の方が絶対に便利さ」
「でも俺、泳ぐの苦手だよ!」
「水中用ってだけでお前が泳ぐわけじゃないよ、リュータ。それよりも今はこっちのテストに集中してくれ」
マークの一声で全員が再び職務へと集中する。正確にはこの呼びかけともうひとつ、索敵範囲に相当な数のゼオが確認されたからだ。しかもそのゼオたちはすでに臨戦態勢であった。前を向けばすでに飛び上がって空中で彼らを見据えて狙いを定めている。さすがに先日の大群と比べると数は劣るもの、一個小隊が相手するには多すぎる数だ。
だがロック達はひるまなかった。それも当然、元よりここにゼオが現れるのは想定済みなのだ。今回のテストの目的はこの星での使用性能やゼオ相手にどの程度戦えるかというもの。さらにはどれだけのゼオを相手にできるかであった。そのために数日前に判明したゼオの巣付近にわざわざ向かってそこに攻め入ることにしていたのだから。失敗すれば全滅確定ともいえるこのテストは無茶苦茶といえるだろう。しかしすでに他の星で得られているデータから今回マーク部隊の不安は微塵もなかった。
「予定通りだ。ゴー!」
マークの短い通信に隊員たちが一斉に動く。ロックとアシュリーは短く旋回するとゼオの大群に向かって突っ込んでいった。もちろんゼオたちは彼らを向かい討つために狙いをつけるが、その速度は驚くほどであった。あっという間にゼオの大群の間を過ぎ去っていき、怪物たちは彼らの場所をすぐに見失っていた。それどころかロック達が通り過ぎたゼオには大きな切り傷がある。レイヴンの翼はゼオの肉体に充分なダメージを与えられたのだ。
さすがのゼオとて切られたことには気づく。痛みに悲鳴のような鳴き声を上げると、彼らの狙いはこの傷を与えた本人たちに向いた。すぐに後ろを振り向くが、その時にはロックとアシュリーはすでに次の攻撃に移っていた。ゼオの集団を見下ろすように飛んでいた彼らは狙いをつけて擲弾を発射する。それが爆発するなどとゼオが理解できるはずもないだろう。彼らは自分たちに向かってきた数発の擲弾に噛みつくと爆発と共にその体が焼き尽くされていった。
この爆発に巻き込まれなかったゼオはいるものの、それを逃がすほどマーク部隊も甘くない。取り逃した相手は4型ウォンバットを装着したマーク達が機銃やミサイルで対応した。
あっという間にゼオの大群は無力化され、炎に包まれた体が落ちていく。
「先日、苦戦したのがウソのようだよ。さすがは空中戦に特化されたガジェットといったところです」
「火力、機動力共にパーフェクト!ちょっと操作性に癖があるけどこれは今後の活躍にも期待できるね!」
「正直、過剰戦力。今回は武装も充実、相手が何者なのかもわかっていたから、ウォンバットでも問題なかったと思うがな」
マークに使い勝手を説明するロックとアシュリーの話に、どこか不満そうにギャリーが口を挟む。リュータやアシュリーと違い、任務には愚痴も漏らさず忠実に実行する彼にしては珍しいものであった。
驚いたマークは体ごとギャリーの方に向けた。
「なんだ、この戦果じゃ不満か?」
「隊長、戦果どうこうじゃないでしょう。こんなものをよこすということは戦えと言っているようなものじゃないですか。俺らはあくまで調査探索班ですよ。戦うためにこの星にいるわけではない」
「ああ、そういうことか…」
考え込むようにマークは顎を撫でる。ガジェット越しの為、金属が触れ合う音が気になった。
この男もギャリーの主張はよく理解していた。それどころかガジェット装着者全員が思っていたことだろう。先日のゼオの一件からこの惑星の目的は変化している気が知るのだ。以前までこの星での任務は調査と資源確保だ。あくまでこれが目的なのであり、ゼオの駆除は目的をスムーズに遂行させるための手立てでしかない。それなのにここ最近の送られてくるガジェットは戦闘事態を目的にしたようなものばかり。5型タートルにしろ、6型レイヴンにしろ、政府はゼオという存在自体を抹消したいのだろうか。
もちろん作業をより円滑に進めるにあたってはゼオの存在は邪魔だろう。だが未だに繁殖能力や住処など不明な点が多いのに、現時点で急ぐほどだろうか。それこそもっと情報を集めたうえで行動に起こすべきなはずだ。
「お前らの気持ちはよくわかる。しかし俺らがそれを考える必要はないだろう。ここで文句を言っても…」
「納得できない仕事に駆り出されるのは不服なだけですよ」
肩をすくめてギャリーが答える。冗談めかした彼の態度は余計に「らしくない」印象を与え、彼にとってこの不満がいかに大きなものであるかを物語っていた。正直なところ、マークも現状には不満を持っていた。クローンとはいえこの年齢でいつまでも戦うのはごめんであり、バロック筆頭に上司にこの疑問を進言はしていた。しかし彼らは一向に取り合う様子はないため、マークも諦めていた。
困った様子にアシュリーが話に入り込む。
「だったら、この後でアーノルドさんに訊いてみようよ!」
約束されていた食事会に不穏な空気が現れるのは明らかとなった提案に否定する意見を申し出る者はいなかった。せっかくの友好関係を不意にしたくはないが、同時にこの疑問を一番素直にぶつけられる上司も彼しかいなかったのだ。
仕事のつもりはなかった。自分たち人間とは違う、そう言ってクローン人間との交流に後ろ向きな者達がこの惑星に多いのは承知している。それどころか地球に住んだことのある人間はどうもクローン人間には否定的な考えが多いようだ。やはり自分と同じような存在がいるのは気味が悪いのだろう。その考えはアーノルドも理解できる。だが実際に会ってみれば自分が今まで出会ってきた人間と何が違うのだろうか。少なくともアーノルドは彼らを友人と見ていた。
この日も仕事(といってもまだ書類の確認と現場の見学程度ではあったが)を終えたアーノルドは車に乗り込む。移動用にあてがわれた中古品だが、いちいち迎えを寄こしてもらうよりもこちらの方が特別扱いされているような気持ちにならず気負いせずに済んだ。
目的の場所に向かう途中にはZ58惑星の栄えた町並みが見えた。開拓中の星とはいえ発展しているものだ。道はそれなりに整っており、陸路なら交通整理もされている。立ち並ぶ店は食事処から風俗店までとごった返すような幅広さであった。この町並みもクローン人間が自分たちと同じような存在であることを実感する要因であった。
目的の店にはほどなくして到着した。先日の店と違い、やかましい印象のある店であった。車を近場の駐車場に止めて店内に入る。店員がアーノルドを見ると少し驚いたように、しかし軽い口調で話しかける。
「おっと、誰かと思えば新しく来た役人さんじゃないですか。ここはあまり上層の人が利用する店じゃありませんが」
「待ち合わせだよ。マークさん達はいるかな?」
「奥のテーブルにいますよ」
ニヤニヤしながら店員は奥を指さす。彼もクローン人間なのか、それとも自分と同じように生粋の人間なのか、この星に来てからそんなことを気にするようになったのは自覚もあったため早く直すべきだと感じた。
礼を言って奥の部屋へ向かう。椅子はなくスペインのバルのように立って飲食するような場所のようだ。店の雰囲気は古さが気になるような場所だが、開拓地にしては立派な雰囲気を保っている。
すでにマーク達が到着しており、飲み食いをしていた。アーノルドが着いたのを見ると各々反応を見せるが、だいたいは歓迎したような好感触であった。
「すまない、少し遅くなった」
「いえいえ、我々も先ほど来たばかりですよ」
「帰還したのはもっと早くなかったか?」
「ちょっとレイヴンの着脱に時間がかかってしまいまして。あとは各々私用ですね」
マークが笑顔で答える。先日搬入された6型レイヴンの実践テストの結果は上々であったという報告は受けていた。予定通りにゼオの住処とそこにいた軍勢を全滅させておりさらにはこちらの被害も皆無であった。詳しい話は専門部門がわかっているだろうが、彼らの報告をバロックと共に聞いたとき、その喜々とした報告の仕方で素晴らしい戦果であったことは容易に想像できた。加えてロジエール部隊の8型も問題なく稼働したと聞く。おかげで職場では順調な滑り出しを実感できた。
アーノルドは店員にノンアルコールビールを頼むと、再びマーク達に向き直る。
「翼付きのゼオにもこれで対抗できるだろうし、キミらが命の危険にさらされることもぐっと少なくなるだろう」
「良いことばかりではありませんよ。どうも操作性に難ありでして…」
「ガジェットを装着したことないがそんなに違うのか」
関心あるように話すアーノルドに、ロックとアシュリーが口を挟む。
「そもそもウォンバットとレイヴンでは空中移動の姿勢がだいぶ違いまして。あれはガジェットを普段装着していなければ困惑しますよ」
「そうなると必然的にゼオと対峙した時も武装の使い方などで困惑しまして…我々くらいなら問題なさそうですが、今後の補充要員がどこまで使えるかは判断しがたいですね」
ガジェットの使い勝手については考えたこともなかったが、やはり現場の人間が言うのではその重みは格別なものであった。同時にこの事実は本来もっと大きく取り上げても構わないような気がした。その割には報告では少し触れられた程度であったのは腑に落ちなかったが、冷静になればここのガジェット装着者はベテランばかりだ。それほど危惧することでもないのかもしれない。または、バロック達の態度を考えるとクローン人間を見下しているのがわかるので、彼らの意見よりも戦果の方を重視しているのかもしれない。後者の理由だった場合は不愉快極まりないため前者の理由であって欲しいが、正直なところは後者が本命だと思っていた。
だからといってこれを素直に伝える勇気はアーノルドには無く、ただ彼らの意見に考え込むような態度しか取れなかった。
「そこは…まあ現場と話し合ってだな。それでもレイヴンの性能は間違いないんだろう?」
「もちろんですよ。飛ぶ速度はウォンバットよりも遥かに早いですし!他にも…」
「上はこの星のゼオを俺らに全て駆除させたいのですか?」
鼻高々に説明を始めるアシュリーの言葉を遮って口を挟んだのはギャリーであった。それまで飲み物をちびちびと口につけているだけの男だったのでこの問いかけには不意を突かれた。
同時にテーブルの空気が変わるのがわかる。この話自体はおそらく切り出す予定だったのであろうが、彼が独断で突っ込んだことは想像できた。
「そりゃあ、この星の開拓を盤石するためにはあれらを倒すのはやぶさかでないと思うのだけど」
「アーノルドさん、訊きたいのはそういうことじゃないのです。本来、俺らのここでの仕事は開拓を目的にした調査や探索であり、化け物共と戦うのはあくまでその延長線の話です。なのに最近のガジェットや武装の多さ、これではどっちが目的だかわかったものではありません」
彼の発言の意図を理解できないほどロックは鈍い男ではない。
マーク部隊は優秀だ。仕事や任務はしっかり遂行し、友や背中を預ける仲間を信頼している。そこの優秀な一隊員と知られているギャリーが淡々としかしはっきりと打ち明けるのは、現状がどれほど不満か、その上で納得いく根拠が欲しいのだろう。
アーノルドは再び考え込む態度を取る。今度は彼らへのアピールではなく、いかに自分の意見を伝えられるかを考え込むためであった。
わずかな沈黙の後、アーノルドは口を開く。
「俺はここに来たばかりだし、政府の役人とはいえキミらに命令を伝えているわけではない。しかし政府だって考えなしに作戦や命令を打ち立てているわけではないんだ」
ギャリーが失望するのが手に取るようにわかる。おそらく自分を囲むクローン人間達やこの話を盗み聞きしているような輩も抱くのは同じ感情だろう。仕方のないこととはいえ、彼らの力になっていないこと、自分の無力をひけらかしているような気分の両方がアーノルド自身も不快かつ後ろ向きな気持ちにさせた。
「…そうですよね。いきなり問い詰めるようなことをして申し訳ありません」
「いや俺も力になれないのが悪いんだ。せめてキミらに説明できることがあればいいが、それについては本当に知らない。だからこうやって事実しか述べることはできないんだ。しかし…」
「しかし?」
「俺はキミらを友人と思っている。だから友人としてキミらが任務に集中できるようにこの身を粉にする覚悟はあるつもりだ。薄っぺらい言葉と思われるかもしれないが信じて欲しい」
頭を下げるも、なんて歯が浮くような臭いセリフがスラスラと出てくるものだろうか。アーノルドは自分の甘さを嫌悪した。言葉自体に偽りはない。この星で大臣が自分に伝えたかったことと同時に、彼らをよく知るためにも自分の出来ることは全力を尽くす身構えはあった。しかしこの状況ではその覚悟も大したものと思われないだろう。
「それは…」
ギャリーは驚き、言葉に詰まる。顔はアーノルドの方に向いているも目はマークの方に助けを求めていた。
この時、アーノルドにクローン人間への理解があればこの言葉と態度はギャリーにとって未知の体験だと理解できたのかもしれない。
仕方なさそうにマークはギャリーに助け船を出すことにした。
「この話はここで終えましょう。今は親睦を深めましょう。えっと飲み物はまだですし、何か食べます?」
「唐揚げありますからケチャップとマヨネーズをかけましょう」
「…クレア、そこはレモンじゃないのか?」
「美味しいじゃないですか。ロック達は何が良い?」
「「「「レモンのみでお願いします」」」」
「俺もロック達と同じかな」
何事もないように彼らの交流は始まった。それでもこの交流の間、ギャリーは気まずそうにアーノルドと関わろうとしなかった。
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