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RAND  作者: 市田気鈴
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第9話 再び

今回は物語が大きく進むとっかかりでしかありません。つまりそれなりに大切な話ということです。

「いやはや残っていただけて感謝いたします」


 バロックはアーノルドの手を取って感謝の言葉を述べる。彼としてもこれからが佳境という頃に政府に見捨てられる可能性がなくなったと考えると安心なのだろう。


「この星がどれだけ資源豊富か、あの方々はわかっていない。地球だけでなく他の星でも活用可能な物がここにはゴロゴロ眠っていますし、長年開拓してもまだ奥まで我々は入り込めていないほど広大なのですぞ。それを別に」

「私としてもこの星の重要性は理解しているつもりです。この機会にできるだけ多くのことを学びたいのです。それこそ今後仕事をするにあたっても」

「その時はぜひ私のことも忘れないでいただきたいですな」


 バロックは笑顔でしっかりとアーノルドの手を握る。この一言やアーノルドに案内した部屋でどことなく彼の意図は見えた気がした。彼が案内された部屋は決して広くはなかったが、彼の地位には立派すぎる個室であった。生活用品は一通り揃っていたし、シャワー室までついていた。また大きめなデスクの上にハイスペックなPCも備え付けられており仕事部屋とも兼用であることがうかがえられる。今のうちに恩を売っておこうという魂胆は火を見るよりも明らかであったが、アーノルドはせっかくなのでありがたく受けることにした。一度この星の危険を目の当たりにしている分、やりすぎなくらいの扱いの方が身の安全も考えられると思ったからだ。

 アーノルドがこの星に残ると言ってからすでに2日は経っていた。その間は他の役人たちと共に査察という名目で見学していた。地球にもある技術ばかりだったが目新しさはあった。戦闘もある星のため、建物や設備の造りは強固だし、ガジェット用の倉庫なんかは地球の数倍はあろうかという大きさがいくつもあるというのだ。こういった点からはやはり未知のものが見つかろうがなかろうがこの星には危険が付きものであることを理解させる。

 アーノルドの発言に他の者は懐疑的だったり、衝撃を受けたりと多種多様な反応を見せた。それも当然、彼の立場ならばわざわざこんな危険な星にいなくてもいずれは十分なポストで働けるポテンシャルと地位を得られるはずなのだ。それなのにこんな決断をしたのは同僚からすれば一種の凶行と言えるだろう。特にブルベルは唖然としており、この2日間ずっと質問攻めであった。

 しかし大臣と彼の父親は意外にも否定しなかった。前者は驚きこそしたがその後は感心した様子であった。おそらく自分の考えるような優秀な人材にアーノルドが近づいていると思ったのだろうが真意は不明である。父親ワイズオルの方は終始無言であった。公言した場所が政府関係者しかいない場所とはいえ、あの場で下手に否定的な態度を取れば露骨なひいきと取られるからであろう。さすがに自分と息子の立場に少しでも不信感を与えるような発言は大勢の人がいる場所では彼も控えた。その代わり、ブルベルと同じくらいの頻度で残ることを取りやめにする提案やその理由を根掘り葉掘り聞こうとしていた。

 アーノルドがこの星に残る理由はいくつかあったがどれも単純なものであった。彼はこの星をもっと知りたかった。自分のクローン人間に会ってみたかった。大臣の話していたことを正確に理解したかった。挙げだすとキリがない。

 アーノルドは彼らにわざわざ残る理由を説明しようとは思わず、「今後のため」としか話していなかった。というのも、ここであれこれ話されて色眼鏡でこの星やクローン人間達を見たくなかったのだ。どうも地球に住む人間は他惑星やそこに住む人間への蔑視や激しい傾向がある。アーノルド自身もわずかでもあるのではないかと何度も自答した経験があるくらいで、他の者達はおそらくもっと顕著であろう。そんな彼らの発言を何度も聞いて自分の決心が鈍ったり、その後の経験に影響を与えないとは言い切れない。だからこそ彼はできる限り口を閉ざすことを選んだ。

 結果的に彼はこの星に残ることは部屋を案内してもらったことで盤石の物となった。いまだに父親がやめるように話すが、少し前に大臣が説得していたことを盗み聞きしたためこれ以上の余計な心配も消え去った。

 部屋の紹介を終えたバロックと共にアーノルドは移動廊下に乗る。地球と比べるとこの移動廊下の数の少なさも一つの特徴であった。予算が足りないのかと思ったが、しっかり設計したうえでこの数らしい。


「まあ、あなたが来てくれたことや先日の発見で予算は増えるでしょうね」

「俺のような下役人じゃお金は引き出せませんよ。後者の理由だけで充分でしょう」

「いやいや、ここに来るようなエリートを見逃すような政府ではありませんさ。それに下役人とはいえあなたも入ってそれなりに長いんでしょう?」

「7年程度です。まだ新人ですよ」

「それだけいれば結構です。重要なのは政府の役人がいるということなのですから」


 バロックはこぼれ出る笑みを絶やさずに答える。たしかに彼の話す通り、惑星に政府関係者がいるかいないかでは大違いであった。政府関係者がいるだけで何かと理由をつけた予算が回されやすくなるのだ。それを利用して研究や開発、はたまた物資の調達というのは当たり前のように行われていることであった。ずさんすぎると思われがちだがこれも人の多さがもたらした弊害であった。敢えてもうひとつ理由を挙げるとしたら未だに根底にある地球に住む者の尊大な差別意識が関係しているのかもしれない。もはや地球以外の星というのはとっくの昔に軽視される存在なのだ。だとしてもこれほど大規模な資源ある星にこれまで政府関係者がひとりもいたことがないというのは不自然ではあった。


「ここでの仕事はそこまで大層なものをしてもらうわけではありません。書類のチェックに押印、地球との通信で行う会議に参加してもらうことです。あとはもろもろ雑務もありますがそれはその都度知っておく程度でいいでしょう。クローン共の仕事を奪うわけにはいきませんからね」

「ずいぶんな言い方ですね。彼らも人間ですよ」

「ほう、あなたはそう思いますか。悪いこととは言いませんがね、あれはあくまで我々人間とは違う存在と見るべきですよ」

「人間の姿をしているのにそう考えろと?無理でしょう」

「そうでしょうか?少なくとも彼らと何年も仕事をしている私はできていますがね」


 怪訝かつ不快な表情をしていたのだろう。アーノルドの意思をくみ取ったのか、バロックは言葉を続ける。


「これは嫌みとかではないのですよ。すぐにわかります。あなたは彼らの仕事についても学んでもらう必要がありそうですね」

「…この機会に知るべきことは知るつもりですよ」

「残ったのを後悔しているのでは?」

「まさか…目を背けたいことにも目を向けないと人生進みませんから」


 強気な態度をとるが、それとは裏腹に言葉にはいまいち覇気がなかった。残ったこと自体は後悔していないが、これから向き合うであろう事実に不安を隠せないところはあった。しかもバロックの話すことに一理ある自分もいるのが尚のこと不快であった。先日現れたゼオを従える人間の存在が影響しているのだと思われる。

 そんな彼に対してバロックはここぞとばかりにグイグイと話を進めた。


「ではせっかくなので会いに行きましょうか。さっきから話の渦中にある存在達に」








 ロック達が2日前に見たあの人間は忘れたくても忘れようがなかった。ゼオの上に人が乗っている。翼の生えたゼオの登場にも混乱したのにそれをはるかに上回る衝撃の存在が数時間後に現れるなど誰が予想できたであろうか。

 あの後、驚きながらもロック達は武器を下ろさなかった。少しでも妙な真似をしようものなら撃ち抜くつもりであったし、

だがあの人間は特に何かするわけでもなくただ右腕を軽く上げただけであった。それが合図であったのだろうか、彼を乗せたゼオはすぐに向きを変えて森の奥へと去っていった。何もしないということが余計に不気味であったが、すでに何か手を打っていたのかもしれない。

 すぐに彼らは本部に戻って責任者や他のガジェット部隊の隊長に知らせた。眉唾かと思った人が大半であったがロジエールの丁寧な説明と4人とも撮影していたガジェットの映像が決定的な証拠となり、あっという間に疑いが驚きと混乱に変わった。

まさかゼオと行動を共にいる者がいたとは誰も思わないだろう。裏切り者の線も考えられたが間もなくこの可能性は否定された。それどころかあれが本当に人間であるかも怪しいという意見が出たのだ。この意見には一理あった。もし同じ人間ならもっと早くその姿を見せてもいいはずだ。また何らかの理由で地球を追われてその姿を隠していたとしたら、今さら見せつけるようにロック達の前に現れる必要はないはずだ。

 そうなると考えられるのはやはり地球人とは別の存在、つまり宇宙人ということだろう。しかもすでに人間が確認している知的生命体…ゼオの突然変異なのではと考えられていた。突拍子もないような話に思えるがこの説はそれなりに筋が通っていた。

ゼオの繁殖能力は凄まじいが、あれらも他の生命体同様に生まれたころは小さい。つまり成長するまでの期間があるということなのだ。そうなると今まで発見できなかったことにも説明がつく。しかもゼオはただの獣ように脳足らずな存在ではあるが、同族を食すことはなく群れで行動するような最低限の仲間意識も持っている。彼がゼオと同族ならば率いることもできるのは納得だ。極め付きはゼオが人間同様の体の形をしているのだ。体のサイズや臓器器官に違いはあれど、胴体に手足、頭に目や口までついているのだ。なにかが間違ってあの人間もどきの形が生まれてくる可能性は否定できなかった。

 この仮説はその日のうちには出されてあっという間に定着した。このように考えると少しは冷静になれる者達がいるらしい。ロックは心配でこのように考えても意味をなさなかったが。


「だけど私らが心配することでもないでしょ?」


 オルレアンがなんてことなさそうに口を開く。あの襲撃から2日間、ロック達の任務は激務そのものであった。探索こそないもののガジェットを装着し続けて、周辺の警備や外壁修理の護衛なんかで全員が入れ替わり立ち代わりで働いていた。ようやくいつものメンバーが集まれた今日は彼らが入り浸る休憩所で昼食を共にしていたのであった。

 口いっぱいに食べ物を詰め込んでいたギャリーはミルクでそれを無理やり流し込むと、オルレアンを睨みつける。


「お前は実際に見てないからそう言えるんだ」

「でもさ、ギャリー。考えてもしょうがないじゃない。あれが何者かなんて、少なくともゼオに乗っている以上は敵対する相手よ。余計なことを考えても意味ないんだって」

「そうかなあ。相手を知っておくことは重要だってマーク隊長やロジエールさんも話していたじゃない」


 席を外していたアシュリーが戻って来て早々に話に加わる。手には山盛りのサラダと肉料理、パンの乗ったトレーがあった。見た目以上に彼女の旺盛な食欲はこの激務の中でも健在であった。

 仲間たちもこれは知ったものだから今さら反応しようとも思わない。


「それは相手の生態をってことでしょ。私が言いたいのは相手の意図とかを知る必要があるのかって事。ここにいる以上、そんなことを気にしていたら足元をすくわれかねないじゃないの」

「割り切っているなぁ。私だったらロックやギャリーみたいにビビっちゃうな。だって自然の摂理から外れた人間なんて私たちみたいじゃない」

「あれは人間じゃなくてゼオでしょう」

「それに俺はビビってはいない」


 3人の話が熱中する中で、リュータは黙っているロックに目を向ける。彼は心ここにあらずといった感じですでに冷めたスープをいまだにスプーンでかき回していた。


「おい、ロック大丈夫か?」

「…えっ?」


 彼の頭の中はあの謎の人間のことでいっぱいであった。ロックにとってあれをゼオと同じ存在に認識できなかった。

 それほどロックにとってあの人間もどきは気味が悪い存在だったのだ。人間に形が似ているだけと言われればそうなのだが、本能的にそれ以上に恐ろしい闇を察知した。あれが自分にとって相容れたくない存在であることは間違いなかったが、その理由を訊かれても説明することはできなかった。

 そんなロックの顔は別に恐怖に満ちているわけではなく、ただ茫然としているだけであった。この表情は友に心配されるのには十分な理由であった。


「こりゃダメだ。すっかり参っているよ」

「うわあ、ロックのこんな顔初めて見たわ」

「お前、疲れすぎだ。ちょっと休んだ方が良いな。一回ルオンのオリジナルのことも頭から離した方が良い」

「ルオンのオリジナル…しまった、忘れていた!」


 ギャリーの言葉でロックは目が覚めたように席から立ち上がる。2日前の件ですっかり頭から飛んでいたが、ルオンのオリジナルを彼に会わせると決心していた。その日のことなのにすっかり忘れるなどなんと馬鹿なことだろうか。


「どうやって会おう…」

「オイオイ、そんなボケーっとした状態で考えることじゃないだろ。俺らで何とかするから、ギャリーの言う通り休んでいた方が良いよ」

「リュータの言う通りだよ。政府関係者の人はまだいる筈だから…いるよね?」

「滞在期間は10日と聞いているけど、この前の襲撃があったからねえ。早めに切り上げて地球に戻るかも」

「だったら急がなきゃ!誰かバロックと連絡とれる人いない?」

「ロック、本気で言っているのか?俺らの中であの嫌み上司と日頃から会える奴なんていないぜ。隊長かロジエールさんくらいだろ」

「あの時にロジエールさんに話しておけばよかったか…」


 頭を抱えるロックにリュータが苦言を呈す。


「あんな奴に頼る必要なんてないぜ!マーク隊長に話をつければいいじゃないか!」

「その隊長が病院と整備班にたらい回されている状態でなかなか会えないんだから、ロジエールさんに頼るしかないでしょ。リュータもそこまで嫌わなくてもいいじゃない」

「あのインテリぶっている雰囲気と言い回しが鼻に着くんだよ」

「呆れた。子供のワガママレベルじゃない」


 文句を続けるリュータに女性陣二人の対応は冷たかった。内容もそれに見合った文句程度なので対応としては彼女たちの方が正解なのだろうが。


「どっちにしろ、今はロジエールさんも忙しい。第一、俺の記憶が正しければ今日はロジエール部隊は南側の壁修理の護衛だからな。会えるのも夜だろう。それに別にリュータに賛同するわけではないが、あの人に話したからと言ってバロックに俺らの私用を受けてもらえるとは限らない。もっと言えばそれが通ったとしても会える保証もないからな」

「ギャリーもこの前フォローしてくれるって言ったじゃないか」

「俺は事実を述べているだけだ。地球の人間なんだから俺らに対して敬遠する気持ちがあるのはおかしくないだろ。やるとしたらお前がその人を助けたというアドバンテージを充分に活かしてだな…」

「なんだ、今日は議論が白熱しているな。何があったんだ?」


 話に割り込んできた声の主はマークであった。脚はいまだにないため車椅子に座っており、クレアがそれを押していた。


「隊長!まだ脚が出来ていないのに外に出て大丈夫なんですか!?」

「体の方は問題なしさ。義足は明日の夕方には完成するみたいだしな。何よりも室内にずっと籠っていると俺も気が滅入るんだ」

「それは建前で本当はあなた達を探していたんですけどね」


 車椅子を押していたクレアがマークを見ながら付け加える。このままだとマークが話の本題から逸れて進まないと考えたのだろう。


「僕達を…ということはなにか任務ですか?」

「いや次の任務は俺の脚が戻ってきてからだ。今度は探索と同時にまた試作機の試運転があるぞ」

「また試作機が来るんですか!?」

「しかも2機あるぞ。片方はロジエールの方でデータを取るからもう片方を俺らがやるんだ」

「隊長、また話が逸れていますよ。あちらをいつまでも待たせるわけにはいかないじゃないですか」

「ああ、そうだったな。お前らを探していたのはバロックさんにウチの部隊と会わせてほしいと言われたからだ」


 この言葉にロック達は内心喜んだ。まさか話をしていたら相手からわざわざ来てくれるとは、鴨が葱を背負って来る…とまではいかないがそれに近い現状となっていた。


「しかしバロックさんが何のようで…」

「一番頼みやすく、一番普通そうなお前らに新たな上司を紹介しようと来たのだがね」


 いつの間にかマークの後ろから2人の男が現れた。1人はすっかり見慣れていた神経質な男バロックだ。そしてもう1人の顔を見た時、ギャリー達は驚いた。まさにロックの話していた通り、自分たちがよく知る親友にそっくりな男が現れたからだ。ロックはロックでまさか相手の方からここに来てくれるとは思わなかった。考えうる限り、最高の状況が出来たと言っても過言ではないだろう。


「アーノルド・ルイスです。これからこの星で働くことになりました」


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