第1話 印
私が目覚めたとき、辺りは真っ暗だった。
「・・・夏輝っ!夏輝ぃ・・・っ!!」
暗闇の中に響き渡る声。
誰の声か、と考える間も無くすぐに分かった。
貴方の声だった。
大好きで、愛しい貴方の声だった。
でも、貴方は声はとても悲痛で、辛そうな声だった。
聞いてるこっちも、涙が出てきて。
私は泣いた。
大好きな声。
だけど、今はその声を聞くのが悲しい。
ねぇ、お願いだから───。
あの、優しい声で私を呼んで・・・───。
泣いているうちに、自分に何があったのか、思い出してきた。
私は貴方と旅行の約束をしてた。
でも私は寝坊をしてしまったんだ。
起きて時計を見て、やばいって思ったの、覚えてる。
私は急いで荷物を持って、貴方のところへ走った。
走って、走って、貴方の姿を見たとき、すごい愛しさと嬉しさがあった。
私の視界には貴方しかなくて、信号が赤ということも目に無かった。
貴方は私の姿を見て笑い、そして叫んだ。
「──夏輝っ!!」
貴方しかなかった視界。
その世界に車のクラクションが鳴り響いた。
記憶はココまでしかなかった。
でもしっかり、起きたことを理解した私。
「飛び出し・・・、余所見ってコトになるのかな・・・?」
全身の力が抜けた。
「子供じゃん・・・。私・・・っ!!」
涙がぽろぽろと零れた。
もう涙が止まらなくて。
頭の中は“後悔”と“寂しさ”で埋め尽くされていた。
───もう、貴方に会えない・・・?
そう思ったら、とてつもない不安が迫ってきて。
私は貴方のもとへと戻りたくて、辺りを一生懸命走りまくった。
でも貴方の姿は全然見えなくて。
私は叫んだ。
「京ー・・・っ!!」
私の声は、貴方の耳に届く前に暗闇に飲み込まれてしまった。
「・・・っ。」
もう、寂しくて。
どうしようもなくて。
「京ぃ・・・っ。」
私はその場に泣き崩れた。
私の頭の中では、貴方との思い出がくるくると回っていた。
一緒に歩いた、夕焼けのオレンジに染まった道。
「人間ってさ、死んじゃえば楽だとか思ってるけど違うよなー・・・。」
急に口にした言葉。
私は驚いて、貴方に聞いた。
「急にどうしたの?」
貴方は私の方を見ながら言った。
「ん?だってさ、死んでから人を恨む奴とかいるじゃん?人を不幸にして何がいいのかねー・・・。それなら、早く天国行ってさ、大好きな人の隣に今度こそ居たいよなっ!」
そう言ったときの貴方の笑顔は、太陽よりも何よりも眩しくて。
その笑顔だけは絶対に失ってほしくないなって思ったんだ・・・。
今、貴方のその笑顔を失わせているのは私。
「っ・・・。」
私は涙を拭くと、立ち上がった。
貴方が大好きだから。
貴方が何よりも大切だから。
この精一杯の気持ちを貴方の笑顔に捧げたいから。
「京ーっ!!」
貴方に届くかは分からないけど。
「大好きだよー・・・っ!!」
貴方へのこの想いを伝えなきゃって思ったから。
途端に、視界が真っ白に覆われて。
目を開けた先には貴方の泣き顔があったんだ。
「夏輝・・・っ!」
貴方の目から零れる涙が私の頬を濡らしていた。
「京・・・。」
一言喋るだけでもズキンッと激しい痛みに襲われた。
「笑・・・って?」
私がそう言うと、貴方の涙が一瞬止まった。
「笑い・・・続けてて、ね?」
泣いていたため赤くなった目を細め、貴方は笑ってくれた。
「大好き・・・。ずっと、ずぅ・・・っと・・・。」
「俺だって・・・っ!!」
貴方がすぐにそう言ってくれたのがすごく嬉しかった。
意識が朦朧としてきて、目に貴方の姿を焼き付けておくんだ、そう思った。
「ありがとう・・・──。」
この一言に、全ての意味の“ありがとう”を込めて。
一言を言い終えると、私の意識はまた暗闇へと戻された。
「がんばれ、京・・・。」
また溢れてきそうになった涙を私はすぐに拭った。
さっきとは違い、暗闇の中に小さな光を見つけた。
私はその光へと歩みだした。
私は思いついた。
私の胸には、星型のような痣がある。
私は、何かは物はないかと自分の身に付けている物を見た。
ふと、目に止まったのは、貴方から貰ったストーンのついたキーホルダー。
私は自分の胸の痣の周りを切った。
切ったところは痛いが、コレできっと貴方に会ったときの印になる。
私は再び歩き出した。
いつの間にか光はもう目の前にあった。
私は光の中に入る前に、叫んだ。
「京ー、ありがとぉーっ!!」
届いたかな?と思いつつも私は前に振り戻った。
貴方の記憶と共に、私は光の中へと入っていった────。