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第5話 平和な日常


信長と会った日から1ヶ月はたった。俺の怪我はとっくに治っていて、無事に清洲の町の家に戻ることが出来た。ただ信長からは褒美は意外な物だった


そして俺は今、その褒美で市ちゃんの遊び相手として屋敷に出入りしている。怪我が完治して信長にお礼を良いに言った時信長からこう言われた


『褒美として、貴様に市の遊び相手をさせてやる。ん?市も懐いているのだろう?ならば問題ないではないか』


って言われて、今は市ちゃんの屋敷週1で通って愚痴を聞いたり、遊び相手になったりしている。まぁこれに対しては不満は無いんだけど、意外と愚痴を聞くのは大変だ


なんでも市ちゃんは、いろいろと習い事も多いらしい。だから不満もストレスも半端ないみたいで、こないだチラッと市ちゃんが言ってたけど


『お兄ちゃんにお話を聞いてもらえなかったら、前みたいに爆発してたかも』


って笑いながら言ってた。ちなみに前みたいに爆発って言うのは、俺が市ちゃんと初めて会った時の事らしい。実はあれ、爆発して家出していたって聞いた時には本当にビックリした


そりゃ柴田のおっさんも焦って探してた訳だし、俺が連れさったと勘違いもするだろうね。信長様も市ちゃんを連れ帰って来た俺に恩を感じる訳だよ


で、市ちゃんに呼ばれない6日間は俺もいろいろと習い事を始めた。武芸は清洲の町の道場で毎日やってるし、お市ちゃんにお茶も教えて貰うようになった。目上の人と会う時の作法も少しだけど分かってきた


まぁ、そんなこんなの感じで現在に至る。ちなみにここまでにいろいろとあった。まず、信長の呼び方が信長様になった。なんとなく変えたけど、最初っから呼べって感じだよな


そして、その信長様が結婚した。お相手は帰蝶様って言って美濃を治めている斎藤道三の娘さんらしい。市ちゃんと一緒に野次馬根性全開で見に行ったら、めっちゃくちゃ美人さんでびっくりした


俺が帰蝶様に見とれていると、市ちゃんに脇を摘ままれた。結構痛かったけど、そんな事より何故か怒って拗ねてしまった市ちゃんの機嫌をとるのに物凄く苦労した。そして今は市ちゃんの部屋でお茶を頂いている



シャカシャカシャカ━━━━



最近は正座にも慣れてきて、1時間正座してても痺れる事はなくなった。お茶の作法も市ちゃんから教わり、付け焼き刃でも一応は形にはなってはきたみたいだった


「どうぞ」


「いただきます」



ズズズ━━━━



「結構なお手前で」


「お粗末様です」



カポ━━━━━ン



戦国乱世………今日も平和だ………



「どうだった?お兄ちゃん」


「んー。ちょっとまだお湯っぽい感じがする。抹茶の風味っが余りしなかったよ」


「うーん、おかしいなぁ。信長お兄様に教わった通りにやってるんだけどなぁ」


俺、15歳。市ちゃん9歳。端から見ればお茶の真似事をして飯事(ままごと)で遊んでいる子供の様に見えるかもしれないが、当の俺達は至って本気だ


以前俺は、信長様からお茶を飲ませて貰った事がある。正確に言えば、市ちゃんの付き添いで付いて行った時に、市ちゃんがコソッと分けてくれただけなんだけど。で、俺がその時の事をふと思い出して


『信長様のお茶は美味しかったねぇ』


ってホロッと言っちゃった。そしたら市ちゃんは満面の笑みで笑うと、直ぐに信長様からお茶の入れ方や分量等を聞いて来て俺にお茶を入れてくれたんだ


だけど、何回やっても同じ味にはならなかった。諦めきれない市ちゃんは、何度も信長様の所に通い茶器などの茶道具を全て借りて来て、全て同じ様にして今日は飲ませてくれたんだが


「むうぅぅぅ」


「まぁまぁ市ちゃん。最初よりは美味しかったし、練習すれば信長様のお茶に近づけるよ」


「ぶうぅぅぅ」


頬っぺをプクーッと膨らませて不満顔の市ちゃん。小学校で言えば3・4年生の女の子だ。何をしても可愛いし、見ていて飽きない。そしてなにより気持ちもほっこりとしてしまうな


ドタドタドタドタ━━━━


「虎丸は居るか!」


聞き覚えのある声。この足音。そしてお市ちゃんの所に急な来訪。これをするのは織田家の中で1人しかいない。俺はスッと身なりを正すと、部屋の一番下座の位置へと移動した


「市っ!虎丸はおるかっ!」


「はい。お兄様」


織田信長その人の参上だった。市ちゃんは華麗な動きで瞬時に大和撫子モードになると、上品な言葉使いで信長様に返答をした。どうやら信長様は俺に用事があるらしい


「居たか虎丸、お前を元服させ織田家で召し抱えるぞ」


「は?」


「近頃美濃がきな臭い。近い内に戦になるやもしれんからな。聞けばお前は15、もうとっくに元服しても戦に出ても良い頃だ」


「お兄様。虎丸様を戦場(いくさば)にお連れになるのですか?」


戦と聞いて心配そうに信長様に聞く市ちゃん。やっぱり戦場は生と死の狭間、戦国時代なら尚更負ければ死ぬのが当然の世界だ。心配になるの仕方のない事だろうな


「大丈夫ですよ、お市様。俺もそろそろ戦で手柄を立てて、お市様に相応しい男になりたいと思います」


「虎丸様………」


俺の言葉を聞いてポッと頬を染める市ちゃん。どうしたんだ?熱でもあるんだろうか?心配して信長様を見ると、信長様は若干呆れた様な顔をして俺を見ている。ジト目ってやつだ


「貴様は………市に求愛でもしてるつもりか?」


「はぇ?」


「まぁ良い。そう言う事だから市、虎丸を連れていくぞ」


「はい。お兄様」


「それから市。帰蝶が市に会いたいそうだ。すまぬが会い行ってやってくれ」


「分かりました」


そう言うと信長様が部屋から出て行くので、俺もそれに付き従いついていく。しかし求愛なんてしたっけな?市ちゃんも赤くなっていたし不思議だ


「虎丸」


「はい」


「召し抱えると言ったが、実績が全く無き者をいきなり家中に召し抱える事は出来ん。分かるな?」


「はい」


「そこで貴様を勝家の小姓として付ける。そこでまずは武芸を学んでこい。勝家には戦までには形にせよと言ってある」


「分かりました」


「市は貴様に懐いておる。これまで誰をやっても駄目だったにも関わらず………虎丸っ!」


「はいっ!」


「俺の期待に答えてみせよっ!」


「必ずっ!」


俺は片膝をついて平伏し信長様を見送った。なにか、俺の中で今までにない気持ちが込み上げている。それは前世でも、その前でも無かった、心の底から熱い気持ちが込み上げてくる。そんな感じだった


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