第1話 出会い
「毎度ありっ!」
「また頼むよぉ!」
今は1550年、天分19年4月。俺は岡崎の町に来ていた。なんで清洲に行ったのに岡崎の町にいるのかって?まあ、それには理由があるんだよ
俺の勘通り、確かに戦が清洲の町付近であったんだ。だけどその戦は、一揆を起こした村の若い衆と城主の軍団との小競り合いみたいな物で、参加する隙なんて微塵もなかったし、したくなかった
だから活躍の場も全く無かったし、もちろん武功もゼロ。それでも日々の暮らしには銭がかかる。だから生きていく為に仕方なく清洲と岡崎で交易をする仕事を座に紹介して貰ったんだ
まぁ、途中にある国境の関所での関税と座の手数料で手元に残る利益はそんなには無い。それでも、最近は清洲の町の人達の中でも裕福に生活出来る様にはなってきた
今回は座から綿花を多く仕入れて来て、早く帰って来てくれって言われてる。なんでもかなりの高値で売れる先があるそうだ。最近は俺も、少しお金にも余裕も出来てきてるし、大量に買って帰るとするか
「おじさーん。綿花ちょうだい」
「あいよっ!いくつ欲しいんだい?」
「この背負い篭が一杯になるくらい欲しいな」
「おおっ?!今日はえらく羽振りが良いねぇ」
「やっとまとまった銭が出来たからね。ドーンと仕入れてドーンと売りたいんだ」
「商売人らしくなってきたじゃないか。でも、盗賊に気を付けなよ?ほら、篭一杯なら100本って所だ。沢山買ってくれてから座の手数料は負けてやるよ」
「おおっ?!ありがとう!」
「良いって事よ。毎度ありぃっ!!!」
大量購入でおっちゃんが少しおまけしてくれた。多分、岡崎の町で素泊まりなら1泊出来る位の銭は手元に帰って来た感じ。盗賊もいるって事だし泊まって帰るのも良いかもな
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「うーん。迷ったか」
岡崎の町はそれなりに栄えていて、時間帯によって大通りでは人だかりが出来てしまう程だ。俺は その中を揉みくちゃにされながらなんとか進んで行く。そして、何とか茶屋を見つけてに食事にありつくことが出来た
「抹茶にみたらし団子は最高の組み合わせだね」
モグモグとみたらし団子を食べながら往来する人達をボォーっと眺めていると、焦りながらキョロキョロとなにかを探している武士の様な人が沢山走って来た
「まだ見つからんのか!?」
「未だ、お姿が見えませぬ」
「なんとしても姫様を探すのだ!万が一お怪我でもされたらワシらは切腹物だぞ!」
「ははっ!!!」
武士達は辺りをキョロキョロと見渡すと、また人混みの中に消えて行ってしまった。全く俺がのんびりとしているのに騒々しい人達だ。そう言えば姫様とか言ってたな。可愛いお姫様ならお近づきになりたいな
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「今日も天気。これなら夜までには帰れそうだ」
岡崎の町で1泊せずに清洲へ帰る事にしたので、俺は街道を西へと歩いていた。この辺りの街道は整備されていて歩きやすい。それに一定距離の間隔で松が植えられているから迷う事もない
明るいうちはさすがに盗賊も出ない。俺は大量に綿花の入った背負い篭を大事に運びながら、のんびりと歩く。しばらくして小さな橋を渡っていると
「ラーラララーララララー♪」
子供の声かな。なんとなく耳に残る感じの曲が聞こえてきた。声の主を探してみると橋の下の原っぱで小さな女の子が楽しげに歌っていたんだ
「ララーラー♪ララ………ほえ?なぁに?」
「あっ、いや、楽しそうに歌っているなぁって思ってさ」
「楽しそう?」
「ん?どうした?」
「ううん、別に。ねぇお兄ちゃん。この歌はね唄って言うの」
「唄?」
「うん。お母様に教えて貰ったの。特別な歌なんだって。だから漢字も歌じゃなくて唄って書くの」
「へぇ。きっと大切な唄なんだね」
「えへへぇ。うん」
そう言うと、女の子は再び歌い始めた。さっきよりご機嫌みたいで、女の子が言う唄って言う曲はとても心地よく聞こる。一通り歌った後、女の子は少し悲しげな顔をしながらは俺に問いかけてきたんだ
「ねぇ、お兄ちゃん?」
「ん?」
「お兄ちゃんは、この唄をどう思う?」
悲しげな表情で俺を見上げながら聞いてくる。女の子は、なにかこの歌に思う事があるんだろうな。とりあえず感じたままの事を言ってみるか
「そうだな。この歌は誰かに思いを届けるって、そんな感じの歌なんじゃないか?俺と話す前より話してからの君の唄は優しい気持ちを歌に乗せて歌ってる………そんな感じだったね」
「えへへぇ。そっか、そっかぁ」
女の子は俺の回答にどこか満足そうに笑っていた。悲しげな表情もなくなっていたし、もしかしたら100点満点の回答が出来たのかもしれないな。やれば出来るじゃん、俺
「実はね。さっき、お兄ちゃんと話してからはなんだか楽しくなって、不思議と初めて楽しく歌えたんだぁ。そっかぁ………思いは届くんだ………えへへ」
「………よく分からんけど、良かったな」
「うんっ!」
女の子は満面の笑みだ。やっぱり子供や女の子は笑っていた方が良いな。かわいい。それになにより、なんだかこちらも幸せな気持ちになれる
「ところで、こんな所でひとりでどうしたんだ?」
「えっとねぇ、一緒に居た人が居なくなっちゃったの。清洲のお家に帰らなきゃいけない頃なんだけど………」
「清洲?俺も清洲に行くから一緒に行くか?」
「いいの?」
「別に構わないさ。良い歌を聞かせてくれたお礼」
「えへへ。ありがとうっ!私、市って言うの」
「市?じゃあ、市ちゃんだね」
「うん!」
「俺は虎丸。清洲までよろしくね」
「うんっ!!」
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「よいしょっと。市ちゃんは軽いな」
「うにゅぅぅぅ………」
日も傾いてきて夕日が沈みかけている。途中までは一緒に歩いていた市ちゃんも、疲れたみたいで俺の背中で不思議な寝言を言いながら寝ていた。現在俺は、綿花の入った篭を前に抱き抱え、背中に市ちゃんをおんぶしている
途中までは市ちゃんの歩くペースに合わせて歩いていたので、少し遅くなってしまった。このままだと清洲に着くのは夜中になっちゃいそうなので、俺は少し小走りで清洲の町を目指している
相変わらず市ちゃんは背中でスヤスヤと寝てる。いろいろと疲れてたんだろうな。夕日が完全に沈み、次第に辺りが薄暗くなってきた頃、ようやく天白川が見てえ来た。これを渡れば清洲の町は目の前だ
「そう言えば市ちゃんの家はどこなんだろうな。まぁ、行けば分かるか」
天白川に掛かる橋を渡り始めたその時、橋の向こう側から立派な顎髭をして屈強な体つきの男がこちらに向けて猛烈な勢いで走って来ていた。そしてそのまま刀を抜くと
「貴様あああああっ!!!」
「へ?うわあっっっ?!!」
いきなり斬りかけられた。目の前には前に持っていた大量の綿花が入った篭が真っ二つになって、中身の綿花が川の中へと落ちていっている
「貴様っ!命は無き物と思えっ!!」
いきなり斬りかかってきた相手から伝わる殺気に満ちた威圧で、立ちくらみの様な感覚に襲われる。体中から冷や汗が止まらない。ひとつ間違えれば明確な死と言う事が分かる。その死の恐怖が全身を支配して来た
「くっ!なんだ?なんだ?!なんなんだよっ!」