プロローグ
━━━━ドサッ
切り捨てられた人が炎の中に倒れ、黒い炎が燃え広がっていく。まるで、辺りを焼き尽くすかの様な炎は全く衰える事もなく周囲を呑み込み続ける。そこ光景は、地獄絵図そのものの光景の様だった
「男と老人は殺せっ!女は生け捕って犯っちまえっ!!」
戦いには勝者と敗者がある。勝者には栄光と名誉、そして戦利品が与えられる。だが、敗者はその逆だ。それは死あるのみ。敗者の全てを奪われる。そう、それはこの村の様に
村の中央の広場の周辺には死体がいくつも転がっている。村の中では殺人・略奪・暴行等お構いなしに行われている。略奪をした男が一軒の民家から出て来た。その民家は今にも崩れそうで、炎にも今にも呑まれそうだ
そんな民家の中に少年はひとり立っていた。全身は泥で汚れ服もボロボロ。目の前で両親を殺された少年は、虚ろな目でその光景を見ている。涙を流す事もなく、ただ、見ていた
ザァーーーーー
いつしか略奪者は去り、辺りには悲しみの雨が降っていた 。少年の他には生存者は居ない。村の住人は少年以外は皆殺しにされていた。どこを歩いてもあるのは死体だらけだ
夜に炎を消し去った雨は止んでいた 。物音ひとつしない。死者が渦巻くこの村に、少年がただ1人歩いていた。燃えずに無事だった民家を見つけると、そのままベッドに倒れ混み寝てしまったんだ
━━━━夢を見ていた
━━━━不思議な夢
目の前には、強面の赤ら顔で2本角を頭から生やし、口には4本の多きな牙が生え、指に鋭い爪、虎皮の腰布を巻いていて、右手にはトゲが無数にある巨大な金棒を持った大男がいた
"汝、力を欲するか?"
力?なんの為に?
"復讐の為に"
復讐?
"村を襲われたのであろう?友を殺されたのであろう?"
あぁ………別にいらない
"愚か。貴様に復讐の機会を与えてやろうと言っているのだぞ?"
それは有難いけどね。村で俺は虐げられていたし、あいつらになんの気持ちもないんだよ
"なんと"
って言うか、あんた誰よ?
"我は鬼。破壊と混沌を司る者"
へぇ。悪いけど鬼さんよ。俺はもう、生きる気力もやる気なんかもぜぇーんぜん無いんだ。ほっといてくれないか
"そうはいかん。何故なら貴様は転生者。この異世界にて、授かった能力で気楽に天寿を全うするはずだったのだ。それがこうなってしまった。これは許されざる事だ"
もう別に良いんだよ。異世界ってのも意外と面倒だったし、ここで終わるんならそれも良いと思うんだよねぇ
"しかし………それでは転生させたのに申し訳ない"
気にしてないっての
"まぁ聞け。貴様はこの異世界で優雅に暮らせるはずだったのだ。だが愚かな神の適当な裁きで貴様には苦労をさせてしまった。その詫びをさせて欲しいのだ"
なんだそれ?
"貴様は転生する時に戦国時代に行きたいと言ったと聞く。確かか?"
まぁ、言ったな。ただ同じ世界では駄目だって言ってた気がするけど?
"左様。しかし貴様はこの世界から異世界に1度行っている。つまり、異世界から見たら異世界のこっちの世界に行く訳だ。それなら問題ない"
ややっこしいな。なんか理由付けが強引な気がする
"難しく言うな。今回は貴様の望み通り戦国の世へ飛ばしてやる。最高の能力も付けてな"
んー、能力とかはいらない。生かしてくれるのなら、のんびりさせてくれ。どこかで百姓でもしてのんびり暮らしていきたい
"否。我がそうはさせん"
決定事項をおしつけるな
"これは詫びなのだか"
いらない
"むぅ………"
じゃあ、しばらくはゆっくりさせてくれ。そしたら能力ってやつを貰ってみるからさ
"うむ………仕方あるまい。では貴様に新たな名を授けよう"
名前を?
"貴様は戦国の世で生きてもらうからな。今までの名では流石に不都合なのだ。そうだな………虎丸にするか"
虎丸?
"きっと意味がある。多分役に立つ名のはずだ。貴様は次に目覚めてからは虎丸と名乗るがよい"
きっとに多分って。まぁいいさ。とりあえず頑張るよ
"うむ。暫しの別れぞ"
━━━━夢
━━━━忘れていた夢
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ふわあああぁぁぁぁ………」
ゆっくりと目を覚ました。なんか、かなり昔の事を夢に見てしまったな。もう随分と忘れてしまっていたのに、あの時の事を思い出してしまうなんて
「兄ちゃん、起きたかい?」
荷台を引いているおっちゃんが声をかけてきた。このおっちゃんは、村から空っぽの荷車を引きながら出て行く姿を見つけて声をかけたおっちゃん。荷物がないなら運賃払うから乗せてくれって言ったら、一瞬ポカーンとされたけど快諾してくれた
「ああ、悪い悪い。ここはどこ?」
「さっき橋を渡ったから、もう少しで清洲の町だ」
「おおぅ、着いたか!」
荷車の荷台に乗せて貰って、とある片田舎の村から清洲の町に出てきた。村でのんびり生活するのも悪くなかったんだけど、やっぱり俺は男。ひとつ腕試ししてみたくなったんだ
「悪いね。乗せて貰ってるのに 荷台で寝ちゃってて」
「別に構わねぇよ。帰り荷もなかったし、荷台に乗せるだけでこっちゃあ兄ちゃんに金貰えて特したってもんだ」
「ははははっ。そんなもんかねぇ」
「おうともよ。まぁ、約束通り街の入口まで送ってやるよ」
「ありがとう」
俺はおっちゃんと話ながら、さっきの夢を思い出していた。最近はこの夢を特に頻繁に見る。多分、あの鬼との約束の日がもう少しなのかなって気がするんだ。今までは自由奔放に生きてきたし、そろそろって事か
「兄ちゃん、町が見えたよ」
「おおう!」
そんな事を考えていたら、視線の先に遠目だが街の建物が見えてきた。あれが清洲の町だ。俺が清洲の町に来た目的は、いろんな所へ名前を売り込むため
名前を売り込むには戦で戦功をあげるのが一番だ。それに、 近々この町の近くで戦がありそうな気がするんだ。何故か分からないけど、そんな気がするんだ
「兄ちゃん、着いたよ」
「ありがとう。………よしっ!」
俺の物語は、この清洲の町から遂に始まったんだ