ep6 Starting the Escape
最後の晩餐を終え、本格的に逃げる準備に移る。
とは言っても、水や食糧の確保はできているし武器として使えそうな物も一通り積み込んだので俺達が逃げる為の準備は終わっている。
今やっているのは、ここにいる生き延びる意思のある人の為の準備だ。
遡ること数分前、最後の晩餐を終えみんなでコーヒーを飲んでいる時だった。
「学園が所有してるバスの定員は30人、それが6台だから180人までならバスで逃げられる」
裕也が呟いた一言、それがなにを意味するのかは明白だった。
「裕也、わかってると思うがやれることは少ないぞ?それでもやるんだな?」
俺の問いかけに裕也は何も言わずに頷いた、それを合図にその場にいた全員が立ち上がる。
「佐々木さんは放送で教員にバスを集めるように伝えてくれ、蓮と裕也は工具とパーツの用意を、桐生先輩はバスの誘導をお願いします!」
俺が声を上げると、アイコンタクトだけで全員が行動に移る。
俺は一度部室を出て外の様子を伺うことにした。
部室棟の3階に上がり、周りを見渡す。
昼間より酷くなってる、生きた屍は数を増して街を闊歩している。
「想像していたより酷いみたいですね、ボク一人で逃げるのは厳しそうだなぁ」
俺の横から声が聞こえる、俺と同じように外の様子を見に来た奴だろう。
「なんで一人なんだ?あんた仲間はいないのか?」
俺の問いかけに彼は首を横に振った。
「サークルの仲間はみんな外にいるんだ、山奥にいるから無事だと思う。でもここから逃げるとなると信頼の置ける仲間が必要だ、一緒に戦ってくれる仲間がいなきゃ生き延びられない、ただ逃げるだけじゃダメなんだ」
彼の言うことは正しい、逃げるだけではダメなんだ。
この状況では戦わなければならない時が必ず来る、そんな時に信頼できる仲間がいなければすぐにやられてしまう。
「なら俺たちと一緒に来るか?俺は自動車部の川崎幸太だ、あんたは?」
「サバイバル同好会の平野亮太です。役に立てるかはわからないけど、君たちとなら一緒に戦えそうだよ」
お互いに協力する意思を示し、握手を交わす。
「そうと決まれば早速みんなに紹介しないとな、変わり者ばかりのチームだけど悪く思うなよ?」
そう言い放ち、俺たちはガレージに向かった。
平野は「そういうのも慣れてるよ」と笑いながら答えて俺の後をついてくる。
小太りの冴えない感じの男だが、その瞳には力強さを感じた。
それは自動車部に集まった仲間が持っているものと同じだった。生き残りたい、その為なら全力で戦うという意思の表れ。それを彼は持っていたのだ。
程なくしてガレージに着く、バスの受け入れ態勢が整い、あとはバスが来るのを待つだけだ。
「みんな、新しい仲間だ、こいつはいい戦力だぜ」
俺の声にみんなが集まってくる、誰一人悪く思う奴はいなかった。
「サバイバル同好会の平野亮太です、役に立てるかはわからないけど、これからよろしくお願いします」
平野くんは深々と一礼して挨拶を終える。
「俺は榊原裕也だ、メカなら一通り弄れるから何かあれば俺を頼ってくれ」
裕也はそう言って平野くんと握手を交わす。
「私は放送部の佐々木絢香です、私は成り行きでお世話になってるだけなのでお役に立てそうにありませんが、よろしくお願いします」
絢香さんも一礼して笑顔を見せる。
「ボクは大井蓮だよ、ボクは運転がと車弄りしかできないけど、何か役に立てれば嬉しいな」
絢香さんに続いて蓮も挨拶を終える。
「私は剣道部の桐生冴子だ、よろしく頼む」
桐生先輩も挨拶を終えて剣道部らしく一礼する。
これでチームは6人になり、脱出に向けての選択肢が広がった。
「幸太くん、少し話があるんだけど……」
平野はそう前置きして、俺に耳打ちをする。
その内容に俺は耳を疑った、どうやってそんなものを大量に用意したのか、どうやって隠したのか、聞きたいことは山ほどある。
「おいおい、それって違法じゃないのか?」
俺は平野に至極真っ当な疑問を投げかける。
「基本的には違法じゃないよ、部品を別々に輸入してある程度まで組み上げることは問題ない。でも形にして使えるようにしたら違法になるよ」
なるほど、でも平野はもう完全に組み上げてるというのだから見つかれば逮捕間違いなしだ。
しかし、今の現状を考えると違法であっても使うしかない。取り締まる人間が生きているかもわからない状況だ、法律なんて気にしていられない。
「こんな状況だ、使うしかないだろう。それでどこに隠してあるんだ?」
平野は何も言わずに視線を動かす、その視線の先にあるのはガレージの壁だ。
いや、おそらく壁の向こう側の部屋という意味だろう。隣の部屋は元はサッカー部の部室だったが、マネージャーの女子を部員全員で輪姦していたとかで廃部になったらしく今は空室になっている。
「まさか、隣に隠してるのか?」
平野は小さく頷くと、隣の空室へと向かう。
俺も後を追って空室の入り口まで行くと、平野は無言で鍵を開けて中に入って行くところだった。
空室とはいえ元はサッカーの部室だが、基本は更衣室として使っていた事は明白だった。
壁際に並んだロッカーがそれを物語っているが、おそらくサッカー部が使っていた時には無かったものもありそうだ。
平野は次々とロッカーを開けて中身を確認すると、本体のみを一通り回収し外に持ち出す。
そしてそれをガレージの中に運び込み、床に並べていく。
そしてまた隣の空室に向かい、今度は積み上げられた段ボールを運び始めた。
俺と協力すること20分、全ての段ボールを運び終えて気がついた。
「これ、どうするよ?流石に全部は載せられないぞ?」
運んだはいいもののこの段ボールを全て持っていくのは無理がある。車3台でも合計30個の段ボールなんて流石に積みきれない。
段ボールの中が何かなんてすぐに想像がつく、それ故にここに置いて行くのも勿体無く思えてしまう。
「段ボール1箱の中に10ケース、1ケースが500だから全部じゃなくても段ボール2箱分をそれぞれの車に分配するよ」
平野はそう言って、段ボールを開封してゆく。
段ボールの中から出てきたのは黒色の長方形の箱、よく戦争映画なんかで見る鉄で作られた箱だ。