ep4 RADIO Dead 2
佐々木絢香に連れて行かれたのは、技術棟2階の倉庫だった。ここに放送部で昔使っていた簡易放送機と接続用ケーブルがあるらしく、それを運ぶのを手伝って欲しいそうだ。
「これで全部か……台車使ってエレベーターで降りよう、こっちも必要なものを持って行きたいし」
接続用ケーブルを探すついでに武器になりそうなものをまとめていたのだが、かなりの重量になってしまった。
模造刀に小型コンプレッサーと釘打ち機、それもガス式とエアー式が一台づつ。
他にも非常食の缶詰や飲料水が箱で置いてあった。
「その方がいいですね、食料はこの先手に入らないかもしれませんから……」
彼女も納得したようで、倉庫の奥にある台車を持ってきて荷物を載せていく。重たいものは俺が載せ、軽いものは彼女が載せてくれた。
俺は台車を押しながらエレベーターに向かう。彼女はその後ろをついてくる、まるで昔のRPGゲームの様だ。
エレベーターに乗り込み一階まで降りる。そして台車を押しながらガレージに向かって歩みを進める。
ガレージの中に入ると、裕也がコーヒーを片手に一服しているところだった。
「裕也、ちょっとまずいぞ……放送部の部室に屍が侵入してる。あのドアなら一晩くらい耐えてくれるが、それ以上は持たないかもしれない」
一服している裕也に状況を伝えると、彼は少し考えながら口を開いた。
「放送部の部室が占拠されたのはわかった。だが、どうして絢香先輩がいるんだ?」
やはりそこも説明する必要があるようで、俺は彼女を連れてきた経緯と放送部の仮拠点としてガレージの奥を使う事を掻い摘んで説明した。
「なるほど、それなら仕方ないな。とりあえず放送拠点の準備なら手伝うしかないよな?でもその前に対策だけしておくから、30分だけ留守番頼むぜ」
裕也はそう言って、鉄パイプと小型のガス溶接機を持って出て行ってしまった。
「そういう訳だから、俺と二人でやりましょう。高いところの作業は俺がやりますから、佐々木さんは機材の準備をお願いします」
彼女は小さく頷くとガレージの奥にあるテーブルの上に簡易放送機を設置し、必要なケーブル類を放送機に接続し始めた。
その間に有線放送用のスピーカーのケーブルを切断して、放送機に届くようにケーブルを延長していく。
15分ほどで放送部の仮拠点が出来上がり、テスト放送を開始することにした。
まずは、放送機に接続した車用のオーディオから音楽を流してみる。
するとノイズもない綺麗なピアノの音が校内に響き渡った。
曲の終盤でボリュームを下げると、彼女はマイクの電源を入れて挨拶を始めた。
「現在午後5時12分を回りました、放送部緊急企画『RADIO Dead』のお時間です。パーソナリティは私、佐々木絢香がお送りしまーす」
普段の彼女とは思えない軽快なトークから始まり、テスト放送と言っていながらそのまま本番に入ってしまった。
もちろん校内には彼女の声が響き渡っている。
「佐々木絢香がお送りする『RADIO Dead』記念すべき第一回は自動車部のガレージからお届けしてます。リクエスト、連絡事項は内線番号418番、418番までお願いしまーす!ここで自動車部からのお知らせです、自動車部の幸太さんお願いしまーす」
いきなり振るなよとは思いつつも、振られたからには何かしら話さないといけない。なのでとりあえず部員の招集と現在の状況を伝える事にした。
「はい、自動車部副部長の川崎幸太です。まずは自動車部の部員にお伝えします、速やかに部室まで来てください。続いて全生徒および職員にお知らせします。校外に出るのは大変危険です、出たら命はないと思ってください。現在、放送部の部室が既に制圧されています。いつ校内に来てもおかしくない状況です。サークル棟地下には近づかないようにお願いします。私からは以上です」
マイクの前から身を引いて、彼女に一礼する。
彼女は笑みを浮かべ、マイクの前に戻るとふたたび話を始めた。
「幸太さん、ありがとうございました。ここで活力の湧くナンバーを3曲続けてお送りします……」
彼女が曲の紹介を終えると、独特のギターの音が鳴り響いた。あるアニメのオープニングの曲だ。
そのアニメで描かれたのは今俺たちが直面している世界、屍が歩き回る世界だ。
俺は音楽に耳を傾けながら、昨日までガレージの奥に眠っていたバーベキューグリルをガレージの前に置いて火をつけた。
それと同じくして、裕也が溶接機を持って帰ってくるのが見えた。
「とりあえずドアの補強は終わった、放送部以外の部室は無事だったから非常口の補強しかしてないけどな」
裕也は溶接機を置いて、俺の横で一服し始める。
「予定では今夜はここでバーベキューだったけど、この状況でもやるか?肉は昨日買ってきたのと俺が朝買ってきたのがあるし、腐らせる前に食わないとまずいだろ?裕也が中止といえばやめるけど」
そう、昨日はこんなことになるとは思っておらず、呑気にバーベキューでもしようかと話していたのだ。
「最後の晩餐にはちょうどいいかもな?それなりの肉も買ってきたんだ、食わなきゃ勿体無いだろ?」
その一言で俺と裕也は最後の晩餐の準備を始めた、独特のギターサウンドと力強い歌声を聴きながら……