ep3 RADIO Dead 1
部室を出た俺は放送部の部室に向かっていた。
放送部の持つ有線放送の回線を使用して部室に来るように伝える為だ。
放送部の部室が開いている事を願いながら歩き続け、サークル棟の地下1階の奥の部屋にたどり着く。
念の為ノックをしてみるが、返答はない。
数秒待ってドアノブを握った瞬間、ドアの向こうで鈍い音が響いた。ドアに何かが、人の身体がぶつかるような音だ。
耳を澄ませると、数名の足音と割れたガラスを踏むような音が微かに聞こえる。
サークル棟の地下にある部室は4つ、放送部、写真部、映画批評会、サバイバル同好会だ。
地下にある部室は部室ごとに非常口があるらしい。じゃあそれはどこに続いているのか?
サークル棟の位置関係を思い出せば一目瞭然だ。
「もうここまで来てるのかよ……マズいな」
音を立てないようにゆっくりと引き返し地上に出る。
裕也に状況を伝える為にガレージへ向かう途中、技術棟から出てきた人が見えた。
肩にかかる黒い髪と飾り気のないステンレスフレームの眼鏡がその人物の正体を物語っている。
放送部の部長、佐々木絢香だ。
今まで一度も話しかけたことはないが、ここで声をかけなければ彼女は屍の餌食になり、放送部の部室の中の屍は校内に入ってきてしまう。
そうと分かれば、声をかけるしかない。
落ち着いて、怖がらせないように近づく。
「佐々木さん、これから部室に行くんですか?」
出来るだけ自然な感じで声をかける。
「はい、外がこんな状況だから音楽を流してみんなに落ち着いてもらおうと思って……」
やはり外の状況を知っているようだ。
「佐々木さん、放送部の部室はもうダメです。非常口から侵入されてます」
部室の状況を伝えると、なにかを考えるように暫く沈黙が続いた。
外から聞こえる人々の叫びだけが響き渡り、数秒の沈黙すらも苦しく思えた。
やがて彼女は顔を上げて優しく微笑んだ。
「自動車部の部室を借りてもいいですか?あそこなら放送部の部室の真上だから……」
その言葉がなにを意味するのかを俺は理解した。
校内の有線放送に使われるケーブルが一番最初に接続されるスピーカーは自動車部のスピーカーだ。
それを利用して自動車部に臨時の放送拠点を構えるという事だろう。そうと分かれば答えは決まっている。
「部室は狭いから厳しいけど、ガレージの奥の方なら好きに使ってください」
部長の許可なく承諾してしまったが、この際どうでもいいか。
こんな美少女の頼みを断る男がいるだろうか?いるとしたら、そいつは男好きだろうな。
「ありがとうございます、邪魔にならないようにしますので、暫くの間よろしくお願いします」
深々と一礼する彼女は、顔を上げると俺の手を握り技術棟に向かった。
彼女に引張られ、俺も技術棟へと足を運んだ。