泣いたネコさんと逆さ虹の森のキツネさん
ここは逆さ虹がかかる森。
今日もきれいな歌声でコマドリさんが歌っています。
こっちの枝でちーちー。あっちの枝ではきゅろきゅろろ。
朝の合唱が森中に響きます。
そんな中、一匹だけ泣きながら歩いてくるネコさんがいました。
「にゃーぐす、にゃーぐす……」
泣いているネコさんの姿はあちこちに泥が付いていて茶色くなって歩いていたのです。
コマドリさんはその猫に話しかけようと木の根っこまで降りてきました。
「ネコさんどうしたのです?」
「……コマドリさん。どうもしていません」
「泥だらけではないですか」
「これはちょっと足を滑らせてしまって……」
「そうですか」
コマドリさんが心配そうに見ていますが、泣くネコさんは泣いている理由を言うことは無かったのです。
そこへ通りかかったのはお人好しのキツネさんでした。
コマドリさんがキツネさんにネコさんのことを話します。
「泥だらけの泣いているネコさんですか。理由はわからないと」
「そうなんですキツネさん。何かあるとは思うのですが……」
「う~ん」
キツネさんは少し考えます。
どうして泥んこなのだろう? 言いたくない理由は? どうしてこの森に?
こうして考えているとまるで尋問のよう。
そこでキツネさんは考えるよりも行動することにしました。
「ネコさん。まずは体をきれいにしましょう」
「え?」
「私の住んでいる所がここの近くの池の側なんです」
「……池、ですか」
「ええ、“ドングリ池”と言いまして、ドングリを入れてお願いすると叶うといううわさがあるのです」
「……願いが、叶う?」
「はい。とりあえず温かくしないと風邪もひきますし行きましょう」
キツネさんはネコさんの冷たくなった体に寄り添って歩き出します。
もふもふのキツネさんの温かさが伝わってきて心が少しほっこりとなったネコさん。
なみだがボロボロと止まらなくなります。
「池まではもう少し、落ち着いたら話を聞きますよ。だから今は何も言わなくてよいです」
キツネさんは優しくネコさんに声をかけます。
ネコさんは返事ができないほど泣いていたのでうんと首を動かして返事をしました。
二匹は無言のまま歩いていると怖がりなクマさんと出会います。
「キ、キツネさん!?」
「やぁ、クマさんではないですか」
「がさがさと音がしてたので、ちょっと怖かったですが、キツネさんでしたか」
「怖がりなことは決して悪くはありませんよ」
「おや、そちらの方は?」
隣にいたネコさんに気が付いたクマさん。
キツネさんはここまでのことをクマさんにも教えます。
「泣いたままのネコさん。何も怖いことはないですよ! ここはみんなが仲良くしている森なので」
「……みんな、仲良く?」
「そうです。クマさんの言う通りここの森はみんな仲良しなのです」
「……そうですか」
それだけでネコさんはまた泣き出しました。
おろおろするクマさん。キツネさんはクマさんにも一緒に来ることで落ち着かせようとします。
「クマさんも池まで行きましょう」
「そ、そうですね! ネコさんも安心してくださいね!」
ネコさんはここでも首を動かして返事をします。
泣いている理由はいまだにわかりません。
三匹は寄り添って歩いていきます。
森の中は陽が差し込んでいるため明るく今日はお散歩も気持ちがいい日です。
歩いていると次に会ったのはいたずら好きのリスさんと暴れん坊のアライグマさん。
「なんでドングリを落としてくるのさ!」
「へへーん。引っ掛かるアライグマが悪いんだ!」
「なにっ!?」
アライグマさんは顔を真っ赤にしてリスさんに向かって行きます。
どうやらリスさんがアライグマさんにいたずらをしたようです。
リスさんは木に登ってアライグマさんから逃げます。枝から枝にリスさんはきれいに飛び移っていきますが体の大きいアライグマさんはそうはいきません。
木に登れても枝から枝には体が大きいため飛び移れないのです。
「二匹ともやめたまえ!」
キツネさんが大きな声で止めに入ります。
アライグマさんもリスさんもその声を聞いて動きが止まります。
「どうしたのだ?」
キツネさんがそう聞くと二匹はお互いのことだけを話し始めます。
相手がどうの、あの人がどうの。
自分のことは置いて相手のことだけが言葉に出てくるのです。
それを聞いていたネコさんはしょんぼり顔を落としてさらに泣いてしまいます。
「アライグマさん、リスさん。今回はお互いが悪いのです。普段よりお互いを理解してと言っているはずです」
「そ、それは……」
「っ……はい」
二匹とも落ち着いてお互いに謝ります。
これでケンカも解決。
しかし、ネコさんは泣いてばかりです。
「ネコさん。行きましょう」
ふたたび歩き出す三匹。
池までは根っこ広場を抜けた先であと少し。
「ネコさん、ここは根っこ広場と言って嘘をつくと根っこに捕まりますので気を付けてください」
ネコさんは首を振ってこたえます。
そうしていると広場の中から声が聞こえてきます。
「たすけてー!」
誰かが助けを求めていたのです。クマさんは怖がっていて先に進もうとしません。
キツネさんが先頭に立って中に進んで、その隣をネコさんが一緒に歩きます。
根っこの隙間をすり抜けていくと。
「あ、キツネさん! 助けてください!」
そこには根っこに捕まってしまった食いしん坊のヘビさんがいました。
どうやら嘘をついてしまったようです。
「ヘビさんは嘘をついたのですね」
「ご、ごめんなさい。その気ではなかったのですが」
「ふぅ。根っこさんに謝りましたか?」
「根っこさん。嘘をついてごめんなさい」
ヘビさんが謝ると根っこはゆるんでヘビさんは動けるようになったのです。
その時、風がサーッと吹いて枝葉をゆらしサワサワと音があたりに響きました。
それはまるで、今後は嘘をつかないようにと注意しているようです。
「ありがとうキツネさん。嘘はもうこりごりだよ」
「気を付けましょう」
「そちらのネコさんも気を付けて」
「……はい」
そう言ってヘビさんは去っていきました。
「さて、池はこの先です。行きましょうかネコさん」
「……はい」
「ま、待って! 置いて行かないで!」
こうして三匹はドングリ池に無事、着くことが出来ました。
そこでクマさんがネコさんに池の水で体についた泥を取ってもらい。キツネさんが近寄ってもふもふの毛並みで水をふき取ります。
泥だらけだったネコさんの体はきれいになってネコさんの模様がわかりました。
「ミケネコさんでしたか」
「……はい」
「今は寒くはないですか?」
「……いえ、あったかいです」
「よかった」
「……」
ミケネコさんはキツネさんに寄り添い丸くなって横になります。
でもその目からは涙があふれていまだに止まりません。
話したくないのは時間が経ってから。
そう考えているキツネさんは無理には聞き出しません。
「……ど、どうして」
「ん?」
「どうしてキツネさんは理由を聞かないのですか?」
ミケネコさんが先に尋ねます。
キツネさんも少し考えてから答えようとミケネコさんの顔を見た。
「それはあなたが困るからです」
「困る?」
「そうです。ここにいるクマさんだって困りますよ」
「そ、そうかもな」
「どういうことですか?」
「確かに聞いて答えが出る場合があります。それで解決まで導けるので簡単ですが」
「……」
「導けない時はこうして行動を共にする。一緒にいるということが大事だと私は思うのです」
キツネさんはニコッと笑います。
それを聞いたミケネコさんも涙が少しおさまって笑みが出てきます。
「なので、無理に話す必要はありません」
「ありがとうキツネさん。こんなわたしの側にいてくれて、本当にありがとう」
そう言うとミケネコさんはすーすーとかわいい寝息を立てて寝てしまいました。
「寝たようですねキツネさん」
「そうですね、でも、この顔はきっと問題が解決したようですよ」
寝ているミケネコさんの顔は涙が止まってほっこりと笑みが浮かんだ表情になっていました。