おばちゃん魔導士異世界にてまったりマタギ暮らし
「およ?よーよーよーーーーーぉぉぉぉぉぉぉーーーーーー」
なんで私は落っこちているのかなー。意味不明ーーーーーー!いつまで経っても底がないしー!
皆さん、初めまして。米田米子五十三歳。独身です。とある島で理美容院を経営しておりました。なぜ理美容かって?過疎化で人口の少ない島。ただ一軒のビューティーハウスですからね。男女のどちらかしか施術できないなんて許されません。泣きながら理容師、美容師両方の国家資格を取りましたよ。そして、島の誰にも最高の技術をサービスしておりました。
なぜこんな丁寧な言葉で説明をしているかというと。暇だから。そうなんだよ。暇なんだよー。落ちているだけで、本当にヒマナンデス。ひたすら落ちているんだよー!
仕事場からの帰り道。突然足もとに穴が開いた。お一人サイズの黒い穴が。暇つぶしによく読むネット小説のようだ。島には書店はないし、宅急便は週に一度しか本土から来ない。娯楽はネットからが定番だったのさー。
そんな絶賛落下中に、頭の中に声が響く。マジテンプレだよー。
―すまんのー。間違えて落っことしてしもうたー!そこは神の次元回廊だから、人間は生きられん。お前はもう死んでいる。って、謝罪の気持ちで、新しい命をやるけん。おお、そうじゃ。流行りのチートっちゅうのをたーんとやるけんなー。俺Tueeeeじゃぞー。おお、ついでに今住んどる家も欲しいか?……送っといたぞー。ステータスオープンっちゅえば、分かるけんのー。次元回廊の行き着く先、彼女の世界で達者でな!アデューじゃ!―
―本当にごめんなさいねー。ウキウキしすぎて、一周まわって、帰りの次元回廊造っちゃった。うふっ。今アナタがいるのがそれー。その次元回廊は妾の世界に向かう一方通行だから、日本に戻ることが出来ないのー。これから、妾はラブラブデートで忙しいしー。妾もたくさんプレゼントしておくから、妾の世界で元気に生きてねー!―
って、何処の言葉だよ!うふっ。じゃねーよ。ってツッコミを入れたいほどの無責任なセリフを残して、どこぞのバカップルの声が消えていった。そんなかんなで、私は落ちている真っ最中。マジ、あの神さまたち無責任。
私は神さまの言う通り死んだんだと思う。落ちた瞬間になんだか違和感を覚えたから。短い人生だったーって言っても、五十代。充分生きたような気もするし。でもチートで新しい命って、俺じゃない、私Tueeee―――!で美少女転生。楽勝な人生が待っている?
何やら住んでる家も送ってくれるみたいだし。そんな悪い人生でもないのかなあ?はあ、狼狽えるだけ無駄なような気がする。あきらめた方が楽だよね。一回死んでるんだし。日本には帰れないんだし。新しい世界で生きていくしかないんだよね。なんだかなあ。
それに、たーんとなチートって何だろう。生活に困らないようなものがいいなあ。
行き付いた先が、よくあるような中世ヨーロッパ文化だと嫌だ。家の上下水道は使えるのだろうか。この年で壺にトッポンするのは嫌だー。トッポンより、片づけるのがねー、そっちが嫌だよ。島のインフラは整っていたからね。海洋汚染を防ぐために上下水道は整備されていたのよん。
しゅるるるる~~~~~~あーえーいーうーえーおーあーおー
暇なので発声練習をしてみた。でもなー、いつまで落ちるのかなあ。だいぶ長く落ちてる気がする。次元回廊ってやつだから長いのかなあ。でも回廊って言うより落とし穴だよねえ。それも滑り台方式。子供の頃の緊急避難訓練でやった、脱出シューターみたい。あれ、ジャージで下手に滑ると摩擦熱でお尻が溶けるんだよね。思いっきり溶けたのはいい思い出だよ。
しかし、ここは本土から離れた小さな島。なんでそんな所に神さまがいるんだろうか。島の神社に遊びに来ていたんだろうか。永遠の謎だ。
ああ、今日はネット小説をたっぷり読もうと思ったのに。もう、読めないんだよね。ガックシ。ダウンロードしておけばよかったー!
ああ、思考があっちこっちにさまよってー、どんぶらっこっこー。退屈だー。
そんなこんなで落とされて。到着したのはどこかの樹海。空が見えないほどの木の高さと密度がすごい。そして、その中に我が家が立っている。ちゃんと敷地ごと、ブロック塀とフェンスまできっちりある所がすごい。家の基礎も…………ちゃんと施工されている。でも、ここにソーラーパネルの日本の家は似合わないなあ。
わんわんわん
犬の泣き声。これって、家の中から聞こえる。蘭丸!
「蘭丸!いるの?嘘、やだ、ホント?」
いくら家が来ていても、蘭丸までは無理だと思っていた。少し小柄な童顔の2歳になる黒虎毛の由緒正しい甲斐犬(雄)。
バックに入っている鍵で玄関を開けて…………あ、開いた。
「蘭丸――――!!!」
タタタっと軽やかな足音が聞こえてくる。蘭丸の足音。
「わうん、わんわん!!」ヨネちゃん、会えてよかったわん。急にお家が動いて死ぬかと思ったわん。
ん?ワンと共に、何やら言葉が頭に響く?これって、もしかして、蘭丸?
「わうん?」どうしたの、ヨネちゃん。オイラに会えてうれしくないわん?
小首をかしげて蘭丸のつぶらな瞳が見つめてくる。ずっきゅーん。何度目かのハートを直撃。
「うれしいよ!蘭丸とは会えないと思ってたよ!なんだか、言葉が通じるし!!」
「わんわんわわん」お家が動いたときに、オイラにもチートって言ってたわん。何のことわん。
「グッジョブ、神さま!」
グッと拳を握りしめる。一人っきりで異世界生活はさすがに寂しかった。でも、蘭丸と一緒ならやっていけそうな気がする。
「蘭丸~」
ぎゅぎゅーっと蘭丸を抱きしめる。
「わうーん。わわわん」苦しいわん、ヨネちゃん。骨が砕けるわん。
「あーごめん、ごめん。うれしくってさー」
「わん、わんわん」仕方ないわん。ヨネちゃんは甘えんぼさんだわん。
蘭丸を抱っこして家の中に入る。家の中は普通の感じ。冷蔵庫の音がしてくる。生活音がある。なんだかほっとするー。…………うっ!
「ト、トイレ―――!!」
長い落下で冷えたのか、にわかにお腹が!!!蘭丸を床に下して、トイレに飛び込み用を足す。そこでほっと一息ついたので、中二病的なセリフを言ってみる。
「す、ステータスオープン」
氏名:米田 米子
性別:おばちゃん
年齢:五十三
種族:おばちゃん
HP/MP:∞
魔法属性:全属性
魔法種類:全種類
職業:大魔導士(魔法使いを越えた人外魔境) 理容師 美容師
副職業:錬金術師 獣魔師 猟師 漁師
神さまの贈り物:錬金 錬成 鍛冶 採掘 発掘 農業 製薬 言語習得 鑑定 身体強化 身体異常無効化 健康 解体 調教
獣魔:蘭丸(甲斐犬、神獣)
武器:鋏 剃刀 狩猟刀 猟銃(ライフル、散弾銃) 鞭
加護:マルリ絶対神の加護Max 大国主命の加護Max
座右の銘:一人で生きていけるもん!
マジ、健康で一人で生きていけるもん!な、無茶苦茶な神さまの贈り物。それともこれだけのものないと生きられない過酷な世界なのかな。神さまのお詫びって怖い。
職業だった理美容師と見知らぬモノが混在しているし。変だし!猟師は週末鉄砲撃ちだったけど、漁師って。釣りなんてやったことないよ。それに、蘭丸の表示が変。神獣?もしかして、蘭丸も死んじゃって生き返ったのかな。なんだか、切ない。
訳の分からないことがいっぱいできるみたいだけど、一番うれしいのは健康かな。はっきり言って、更年期障害が辛かった。客商売だからね、不調続きは辛かったのだ。
加護ってマルリ絶対神?この世界はマルリ?なんだかかわいいしー。で、大国主命?あれが?なんだか夢が壊れるよ。出雲大社でロマンに浸った私の時間を返せー!
でもさ、年齢「まんまじゃん!美少女じゃないじゃん!!」思わず叫んでしまった。性別もおばちゃんだし。種族もおばちゃん。人間も女も辞めてますってか?意味不明…………ガックシ、五十三歳のおばちゃんかあ。まあ、パンツ下げてトイレに座ったままステータス見てるようじゃ、おばちゃんだよね。なんだか、色々とごめん。謝りたい気分になっちゃったよ。
あ、そう言えばトイレを使って思うこと!下水ってどうなってるんだろう。これ流して大丈夫かな。家にもステータスってあるのかな。「米米House・ステータスオープン!」って声を出してみる。
町内会長さんが、米田の本家と区別しないと面倒だな、うーん。米田米子が住む家。うん。米米ハウスだ、ガハハッ!だからね。町内会長さん。〇〇倶楽部の大ファンだったから。それ以来、この家は米米Houseと呼ばれているのだ。
建築物名称:米米House (大魔導士・米田米子の自宅)
建築物種類:神の加護を持つ無敵要塞(3LDK、平屋木造住宅、愛犬に優しい家)
要塞敷地、上空五十メートル、地下五メートルにわたって神の結界が張り巡らされていて何者からも守られている。家主以外出入り禁止。家主の許可により出入り可能。
上水道は地下五百メートルから汲み上げられるミネラル豊富な軟水。細菌、寄生虫等なし。安全な飲料水。汚水は魔法によって分解処理無害化されて地中に排出。
電気は太陽光発電。充電池の劣化なし、無限に使用可能。家の備品、食料などは要塞の複製魔法により複製される。
米米House。…………チートだ。
複製魔法で物が無くならないことはうれしい。日本の食材とか、消耗品が無くなったら死ねる。特に、島特産の米、醤油。おばさんが仕込んだ味噌。消耗品ならティッシュとトイレットペーパー!
さて、そろそろパンツをあげてトイレから出よう。どっこいしょっと。安心してトイレも流すことが出来ることがわかったから。それにお腹減った。仕事終わりだから夕ご飯ー。蘭丸にもご飯をあげないと。って、ドアを開けると蘭丸がお座りをして待っていた。
「蘭丸ー」
「わうん、わんわん」長トイレだったわん。さびしかったわん。
「ごめんよー。いろいろあってさー。お腹ぐるぐるPだったんだよー。そうそう、蘭丸もステータスを確認しておこうか」
「わうん?」ステータスわん?それなにわん?
小首をかしげる蘭丸。ラブリー。
「蘭丸。ステータスオープン」
名:蘭丸(大魔導士、米田米子の愛犬)
種族:見た目は子犬の黒虎毛の甲斐犬。神獣
HP/MP:∞
神さまの贈り物:物理攻撃無効化 魔法攻撃無効化 状態異常無効 健康 意思疎通
俊敏性:レベルMax(神速)
噛み付き:レベルMax(すべてを噛砕く牙と顎)
咆哮:レベルMax(すべての魔獣が怯む。低レベルの魔獣は腹を出して服従する)
魔法抵抗:レベルMax(精神系魔法などすべての魔法に抵抗性を持つ)
座右の銘:ヨネちゃん大好き! ご飯の次に好き!
蘭丸もチート!を、確認した。 出すものだしたらお腹が空いた。デリカシーがないって?おばちゃんにデリカシーを求めるのは間違っているよ。
じょぼぼぼ~~~~~
カップ麺に熱湯を注いで…………、手に職を持つ働くおばちゃんは手早く食べられる物が好きなのだ。今日は味噌味。明日は塩味。各種取り揃えてありますよ。
さすがに電波は来ないのか、地上波などのテレビを見ることは出来ない。ネットもやっぱりつながらなかった。録画しておいたお笑い番組でも見よう。
蘭丸のご飯を出してから、二人そろっていただきまーす。お笑い番組を見ながらぞるぞると夕食をいただいて。軽くすすいでゴミ箱へ。まとまったら、家の裏手に設置してあるダイオキシンフリーの家庭用焼却炉で燃やしてしまおう。さすがに、ごみの収集車は回ってこないだろうし。
なんで焼却炉があるかって?こちとら、焼却所もないような離島生活。役場で許可された家庭用焼却炉で燃やすしか、処分のしようがなかったんだよ。
カップ麺を食べて元気が出た。明日は家の周囲を探検しよう。寝る前に、狩猟刀、猟銃の準備をしてっと。
両親を早くに亡くした私は猟師をやっていた母方の祖父に育てられた。一緒に山に入り、色々なことを教えてもらった。イノシシ、シカ、キジ(島にはサルとクマはいなかった)など野生動物の狩り方と捌き方。刃物の研ぎ方も砥石で泣くほどやらされた。腰には狩猟刀と鉈をさげて、薪の作り方と火のおこしかた。サバイバルまで仕込まれた。うちのおじいちゃんは孫娘を何にしたかったんだろうか。
猟銃も免許が取れる年になったらすぐに取らされて。警察と公安とは仲良しさ。ちなみに、罠猟の資格は十八歳で速攻取らされた。おかげで強くなりました!ありがとうおじいちゃん。
猟銃を確認して、ケースに入れる。ライフルでいいかな。弾は多めに。狩猟刀は一応枕元においておこうかな。チート家屋だけど、何が起こるか分からないし。おばちゃんだけどさ、色々と思うところもあるのだよ。
鞭も枕元に置いておこう。鞭は若い時にインディな考古学者の映画にかぶれて猛練習。あの、美女の腰に鞭を巻いてクルクルって言うのをやりたかった。周りにはドン引きされたけど。
今頃本家じゃ驚いているだろうなあ。おじいちゃんの遺言でもらった地続きの土地と家がそっくり無くなってるんだから。かわいがってくれた伯母さんには申し訳ない。米子はマルリで元気にやってるよって伝えたい。元気でやれるか分からないけど、これだけのチートだから、たぶんよほどのことがないと死なないだろうと思う。
準備も終わった。テレビとDVDの電源を切って、お風呂に入って、歯磨きして寝よう。
「蘭丸、寝るよー」
「わん!」はーい!
私はベッドで、蘭丸はベッド側のわんこベッドで。一緒にベッドで寝ないのかって?毛がね。甲斐犬は毛がみっちりで抜け毛もすごいのよ。ベッドがものすごいことになるから、飼い始めて一回目の換毛期で一緒に寝るのは諦めたのだ。
あー!静かすぎて眠れない、耳が痛いー!!!………………ぐーーーーーーー
蘭丸と一緒にガッツリ朝ご飯を食べて、山歩きの格好に着替える。玄関でリュックを背負って、ゴム長靴をはいて、帽子をしっかりかぶって、ライフルを担ぐ。立派な猟師の出来上がり!そして、玄関を出てしっかりと施錠。うん!いい天気だ!
「ヴーーーーー」
蘭丸が空に向かって唸り出す。何かいるのかな。
上空に変なものが飛んでいる。巨大な黒い影、でっかい翼のドラゴン?だよね?ドラゴンの肉は美味しいってよくネット小説には書いてある。それならと、肩に背負ったライフルを構える。なんとなく、弾に炎が付いたらかっこいいよなーなんて思いながら引き金を引く。的が大きすぎて、スコープもいらないよ。
ドシュッ、ドシュッ!!
当たったかな。確か結界は私の許可があれば出入りが出来るはず。弾には一応出ていく許可を出してみた。帰ってくる許可は出してない。だって、外れ弾が落ちてきたら怖いじゃん。って、のんきに蘭丸と空を見上げておりました。
「きゃ、きゃうううん?」ヨネちゃん、なんだかさ、こっちに来るわん?
うおおぉぉぉぉぉぉーーーーーって、空からドラゴンが落ちてくるよ!!って言うか、向かってくるよ!
「なんでじゃーーーーー!!!!」
巨大な重機のような物体が真上から突っ込んでくる。いくら神の結界があってもまずいんじゃね?この家よりでっかい。ヤバイ、異世界転移翌日に死亡か!蘭丸を抱っこして空を見上げる。死ぬなら一緒だからね!しばし見つめあったりして。
ぼよん、ぼんぼん。ドグシャ…………
え?結界に弾き飛ばされて落ちた?よかったー、圧死しないですんだー。神の結界ってスゲー!
とりあえず塀の向こう側に落ちてるから。安全かな。恐る恐る植木鉢に乗って塀の上から覗き込んでみると、真っ黒な塊が落っこちてるよ。マジ、ドラゴンだよ。ファンタジーだよ。あ、翼が焼け焦げてる。本当に銃弾が炎を纏ったのかな。魔法って怖い。ドラゴンが少し動いて、鎌首って言うのかなそれをあげて、こっちを向く。
うおっ、目が合った、生きてるじゃーん。手負いを殺すか、助けるか。異世界のやり方はどっちだよー。
≪我に攻撃するとは、そなた何者じゃ≫
耳にものすごく良いバリトンボイスが響く。昔好きだった子〇武〇サマのような声。
「へ?空耳?幻聴?やば、加齢による空耳かな」
あたりを見ても人っぽい人いないし、やっぱり空耳。
≪我だ、我。目の前の漆黒竜じゃ≫
キョトンとして目の前の墜落しているドラゴンを見る。喋ってる?ドラゴンは知能が高くて人語を理解するってパターン?
「まさか、古竜!?」
≪我が古竜ということまでわかるとは。そなたババアのくせにできるな≫
「ババアは余計だ」
真実が痛い!
≪ふむ、そなた、大魔導士か。またインチキ臭いステータスだの≫
「え、私のステータス見えるの?」
≪うむ。仮にも古竜じゃ。他人のステータスを見ることくらいは簡単じゃ≫
古竜ってすげえ。
≪よし、そなた我の傷を治すのじゃ。そしたら、我はそなたの獣魔となってやろう≫
「やだ」
≪なぜじゃ。我は偉大なる古竜。我を獣魔にできるなど光栄の至りじゃぞ≫
「そんなにでかくて、偉そうで、燃費の悪そうなのはいらない。かわいくないし」
≪ババアのくせに生意気じゃ。古竜がかわいくてどうする。我はカッコいいのじゃ≫
「モフモフじゃないからいやだ。見よ、この蘭丸の美しき毛皮」
蘭丸を頬擦りして見せつけてみる。豚毛のブラシでブラッシングしているから、毛並みはピカピカさ。モフモフサイコー。鱗じゃモフれないじゃん。それにこの件、どっかのラノベだよ。本棚にあるよ。
≪ぐぬぬ。そ、それでは、それは後にするのじゃ。とにかくこの翼の傷を治すのじゃ。こんな高密度の魔法砲を放つとは、恐ろしいことじゃ≫
「それに関しては申し訳ない。当たったとしても、怪我を負わすとは思わずに、ほんっとうに申し訳ない。傷は責任をもって治せたら、治させていただきます。初めてなので、良く分からないけれど、ネット小説だと、イメージが大切?えっと、治癒魔法は……細胞が修復されるイメージで…………治れ!」
私が治れと命令すると、光が古竜の翼に集まる。するとライフルの弾と炎に焼かれた翼が修復されていく。我ながらすごい。
≪おお、ものすごい治癒力じゃな。古竜の傷を治すなど、我よりも膨大な魔力を持っていなければできぬことじゃ≫
光が翼に吸い込まれると、古竜は翼を動かして傷を確かめる。
「治ったみたいですね。じゃ、さよならー」
蘭丸を抱っこしたまま植木鉢から降りて、家に逃げ帰ろうとする。
≪待つのじゃ!責任を持つのじゃ!落とし物を拾うたら、面倒を見るのがこの世の通り≫
「知らないですよー。拾ってないしー。元の所に戻ってくださいねー。さよーならー」
そう言いながら玄関に回ろうとすると、ガボン、ボンとものすごい音が背後からしてくる。
古竜が腹を出してひっくり返ってるってことは、結界に気付かないで追い掛けようとして弾かれた?
≪何の結界なのじゃ。我を阻むとは≫
「誰にも破れませんよ。マルリ神の結界みたいだから。じゃあ、本当にさようなら、古竜さん」
≪待つのじゃー!そなたに置いて行かれたら、我は野良竜になってしまうのじゃー≫
「野良竜って。偉大なる古竜さまが野良竜だなんて…………」
≪冗談ではないのじゃ。そなたは我を負かした、ほれ、ステータスを見てみるがよい。すでに我は獣魔になっておるのじゃ。それに、竜殺しの称号が付いておるぞ。つまりは、そなたは我を隷属させたのじゃ、飼いぬしは責任を持つのじゃ≫
獣魔:蘭丸(甲斐犬、神獣)、古竜
称号:竜殺し
「げっ、ただでさえ滅茶苦茶なステータスに、さらなる滅茶苦茶の追加が!…………でも、こんなに無駄に大きな古竜なんていらないー」
≪大きくなければよいのか?小さくなれるぞ。我は万能じゃ≫
古竜はそう言うとシュルシュルと小さくなった。二メートルくらいまで小さくなると、じっとこちらを見つめる。
「まだでかい。玄関入れない」
≪うむ≫
そう言うと、さらに小さくなる。小さくなる。小さくなる。
≪どうじゃー。かわいいであろー≫
えっと、あの巨大だった古竜はポッコリお腹の三頭身手乗りサイズの小さな小さなドラゴンになった。声もイかしたバリトンボイスが子供の声だ。トイレのCMボイス?
でもなー。なんだかここに来ただけで手いっぱいで、新たなペットを飼い始めるのもしんどそう。トイレの躾がなー。
≪我をいれてくれなのじゃー。お願いなのじゃー≫
そう言いながら、ボンボンと結界にぶつかる古竜。必死で繰り返す姿がいじらしい。かな?
「名前はあるの?」
≪我の名?うむ。名ならあるぞ、魂に刻まれた神から授けられた名じゃ。我の名はタロウじゃ!≫
え?タロウ?巻き舌でかっこよく呼んでるけど、太郎?まさか、大国主命にラブラブからの日本語?太郎ちゃん。タローでいいか。
結界越しにじっと見つめてくるチビ古竜。精巧なミニチュアみたい。…………、ちっちゃくなってからのウルウル攻撃はやめて。なんだか、なけなしの良心が痛む。
「わうん。わん、わん」ヨネちゃん。なんだかかわいそうだわん。飼ってあげようわん。
「いいの?蘭丸」
「わんわんわん」ここのこと全く分からないから、いたら便利だとおもうわん。
蘭丸の言うことにも一理あるか。
「分かった。古竜じゃない、タロー。おいで」
≪わん、なのじゃ!≫
手を伸ばすと、漆黒にキラキラ輝く手乗り古竜が結界を通って飛んで来た。手のひらにのる古龍。シュールだ。
「わんじゃない。わんは蘭丸。タローは許可しない限り、大きくなったらダメだよ。無断で大きくなったら捨てるからね」
手のひらにタローを乗せて言い聞かす。
≪我は良い子なのじゃ。ぬしの言うことは守るのじゃ。そうそう。ぬしの名を教えてほしいのじゃ。ステータスを見るだけではダメなのじゃ。声で聴かねばならんのじゃ。それも魂に刻むのじゃ≫
なんだか、色々と重たい子だなあ。
「私は米田米子。故郷の神さまとここの神さまのラブラブデートに巻き込まれて異世界転生?してこっちに来たの。こっちは愛犬の蘭丸。蘭丸の方が先輩なんだからね。下剋上は許さないから」
自己紹介をして、蘭丸に逆らわないように言い聞かす。
「わうん、わう~~~~わん!」ヨネちゃんのイチの子分、ペットの蘭丸だわん。よろしくだわん。ヨネちゃんに何かしたら噛み殺すわん。
≪我もかわいいペットを目指すのじゃ。ぬし、蘭丸殿ヨロシクなのじゃ≫
タローが頭を下げる。なかなか、礼儀正しい子だ。
「わうん、わんわん」おう、わかったわん。
蘭丸は後輩が出来て何となくうれしそう?
「はぁ~、何だから出かける前から疲れたね。早いけど、十時のおやつでも食べるかな」
玄関でいろいろあって、もう出かけるのが面倒になってしまった。
「わんわんわん!」大賛成だわん。
≪おやつとは何なのじゃ?初めて聞くのじゃ≫
「そうかー。タロー、おやつは初めてかー。じゃあ、とっておきのおやつを出してあげよう」
≪よく分からないけど、楽しみなのじゃー≫
「わん、わん、わん、わん!わわわんわん!」オイラも同じものが食べたいわん。わんこの理から外れたオイラは、ヨネちゃんと同じものが食べられるわん。
「そうなんだ。蘭丸。じゃあ、蘭丸もとっておきのおやつを食べよう!」
ライフル背負って、蘭丸とタローを抱っこしたまま悪戦苦闘して家に戻る。居間のソファに蘭丸とタローを座らせて。ライフルと棚にしまって鍵をかける。さあ、向かうはキッチンの冷蔵庫、もとい、冷凍庫。
うひっひ。健康が約束された私は食べるのだ。いつもちびちびとしか食べられなかったアレを。中年の敵であるアレを!
「じゃじゃーん!」
「わんわわん!わんわん!」いいのかわん!これは禁断の食べ物だわん。
≪何なのじゃ?良い匂いがするのじゃ。それにちべたいのじゃ≫
「解禁だよ、蘭丸!……ふっふっふっ。禁断のおやつ。その名は、ラムレーズンアイスクリーム。悪魔のアイスクリーム!今日はトリプルサイズでどうだー」
島にはなかった某有名メーカーのアイスクリーム。お取り寄せして大切に大切に冷凍庫にしまっておいたのだ。バニラと抹茶とストロベリーも密かに大量買いしてある。もちろん他の普通のアイスもちゃんとストックしてある。健康が約束されている今の私なら、どれだけ食べても成人病にはならないのだ!糖尿病の影に怯えることは永遠になくなった!
アイススクープでお皿にこんもり盛り付ける。蘭丸はイヌ食いだけど、タローはスプーンとか使えるのだろうか。小さいけどしっかり指とかあるから練習したら持てるかな。一応添えてみる。
≪ぬし。これはなんじゃ?≫
タローはお皿に乗ったスプーンを指さして聞いてくる。
「それはスプーンって言ってね。こうやって持って…………、すくって口に入れるものだよ」
タローにスプーンの持ち方をレクチャーする。すくってアイスを自分の口入れると、くぅ~~~~、美味い!
≪こうでこうなのか?≫
タローは小さな手で器用にスプーンを掴むとアイスクリームをすくって見せた。
「おお!タローは器用だねえ。そのまま練習をしたらご飯も食べられるかもね」
「わわわん。わんわん」タローはすごいわん。オイラの肉球じゃスプーンは持てないわん。
≪そうか?我は器用か?…………、何なのじゃ!!この天にも昇る心地の食物は!≫
アイスを口に入れた後、目がこぼれ落ちそうなくらい見開いてキラキラ(マジキラキラしているよ。魔法?)したまなざしで見つめてくる。
「アイスクリームって言うんだよ。牛乳から作られる至高の食べ物で、今日のはそれにラムって言うお酒に漬け込んだレーズンが入っているんだよ」
≪初めての味なのじゃ。ぎゅーにゅーというものを聞くのは初めてじゃが、これは魔物の肉よりうまいのじゃ。ぬし、ぬし。もっと、もっとちょーなのじゃ≫
お皿に入れたトリプル位のアイスを夢中で食べたタローはおかわりを催促してくる。
≪もっとちょーなのじゃ。うふふふなのじゃ。なんだか、ふわふわきもちよいのじゃー≫
タローがお皿を抱えたまま、フラフラ室内を飛び回る。
「わうん、わんわんんわん」ヨネちゃん、タロー、酔っぱらってるわん。
アルコールに免疫がないのかな。ラムレーズンで酔っぱらうとは。ふわーん。ふわーんとお皿を大切そうに抱えて浮かぶタロー。なんだかなー。かわいいじゃん。
「タロー。危ないから降りておいで」
≪ぬしー、今日は我にとって最上の日じゃ。古竜の数は少なくてな。我と遊んでくれるものはおらんかったのじゃ。ジジとババばかりだったからの。うふふ。今日は、ぬしと蘭丸殿に会えておやつなるものを食べることが出来たのじゃ。楽しいのじゃ。うれしいのじゃ。うふふふふ」
私の腕の中に着地してうれしそうに笑う。そんなにうれしかったのかい。
「私もおばちゃんだよ。五十過ぎだからね、すっかりおばちゃん」
「五十なんて鼻垂れ小僧じゃ。我は二千年生きておるが、ほんの子供じゃ。我の一族のジジは一万年以上生きておる。ぬしと蘭丸殿とはずーっと一緒にいられ……………………」
「わん、わうん」寝ちゃったわん。
「古竜って、想像通り長生きなんだねえ。私も蘭丸もどのくらい生きられるのか分からないけど、生きていられる間は楽しく暮らしたいね」
「わんわん!」そうだわん!みんなで楽しく暮らすわん。
元気にワンワンいうけど、アイスで口の周りがべたべただよ。ぺっぺと飛んでくるし。
「なんだか外に出かける気もなくなっちゃったね。今日はこのまま家でまったりしようか」
「わん。わわん」うん。それがいいわん。
アイスクリームを食べおえて、口が甘くなったからコーヒーを入れる。信じられないくらいまったりだ。美容室の定休日は月曜日と火曜日。本土に研修に行ったり、島で猟をしたりとかなり忙しい毎日だった。それが、異世界生活二日目にしてやることがない。何をやったらいいのかなあ。どこかに人の住む町か村ってあるのだろうか。とりあえず、タローの目が覚めたら聞いてみるか。その前にタローのステータスを確認しておこう。
名:タロウ(米田米子の獣魔)
性別:雄
年齢:二千百歳位
種族:古竜
レベル:999
HP/MP:99999/99999
魔法属性:水、風、炎、闇
魔法種類:属性全種類
神さまの贈り物:鑑定 身体強化 身体異常無効化 低レベルからの物理攻撃・魔法攻撃無効 言語習得
座右の銘:立派なペットになるのじゃ!
うん。タローも十分チートだわ。
************
ぐおぉぉぉぉぉぉぉ!!!
森の中に猛獣の雄叫びが響く。
≪ぬし!あれがブラックベアじゃ!≫
タローが指さす方向には五メートルはありそうな黒い熊。グリズリーか!!物凄くでっかい!
「でかい!さすが異世界の黒熊!タロー、本当に猟をしてもいいの?」
≪もちろんじゃ。この世界、殺らねば殺られる弱肉強食の世界じゃ。ぬしが倒さねば、我が倒すのじゃ!ブラックベアはうまいのじゃ!≫
「わんわんわん!」ヨネちゃんいくでしょ!タローは手を出しちゃだめだわん!
≪えーなのじゃ≫
「おうよ!タローは引っ込んでいて。これは蘭丸と私のリベンジだからね。本土のあいつらに熊を撃ってない奴はマタギじゃないって何度馬鹿にされたか!!私は今日こそ熊を撃ってマタギとなる!!」
どんなに長いこと猟を続けようが、どれだけイノシシ、シカ、キジを撃っていようが、「熊撃ちをしてねえ奴をマタギとは呼べねえ。ふふん」と何度馬鹿にされたことか。思い出しても悔しい!今日こそ、ツキノワグマじゃない巨大な異世界の熊だけど仕留めてみせる。そしてマタギになるんだ!
「ワンワンワン!!!!」いくよ、ヨネちゃん!!オイラだってマタギ犬になるんだわん!覚悟しろー!!
蘭丸が激しく吠えながら熊を追い込む。熊の脚先のサイズしかないけれど、さすが神獣?イノシシ狩りのように熊を追い立てる。
体を狙っても分厚い毛と筋肉に阻まれそうだから、一番弱そうな目を狙う。異世界の熊は目がでかい。スコープでよく狙って、ライフルの弾に魔力を込める。
「命中率UP!威力UP!米子、撃ちます!!」
ドシュッ、ドシュッ、ドシュッ、ドシュッ!!!
立て続けに四発撃ち込む。命中したはず!
ギュアアアアアアアアアア………………!!!!!
ブラックベアが断末魔の叫びをあげて、ズズゥゥンと地響きを立てて倒れる。
≪やったのじゃ、すごいのじゃ。そんな珍妙なものでブラックベアを倒すとは、さすが我のぬしじゃ≫
タローの賛辞が耳に心地よい。
「ぐふふ、ぐふふ!ついに熊を撃った!これで、私もマタギだー!苦節二十年!ついに熊を仕留めたぞー!!」
ライフルを天に掲げて喜びを爆発させる。二度と会えない故郷の猟友に伝えたい。ヨネダヨネコ、五十三歳!ついに熊を仕留めてマタギとなった。やったぜ!!
「わん、わわん!!」やったわん!オイラもマタギ犬になったわん!!
蘭丸も大喜び。犬の世界でも何かあったのかな。
それから、必死こいてブラックベアを解体する。この大きさは捌くより解体だよ。巨大化した(元のサイズに戻ったともいう)タローに足を銜えて吊るしてもらって血抜きして。上下左右に動かしてもらいながらえっちらおっちら頑張った。タローをペットにしてよかった。
毛皮は樹海の外の村で売れるみたいだし。テンプレの魔石もあったので、そのうちまとめて売りに行くことにする。食べられない部分はタローのブレスで消し炭に。その辺にうめておいたら、他の獣が寄ってきそうだから。タロー曰く燃やして失くすのが一番らしい。
巨大な毛皮と大量の肉の保存をどうしようと思っていたら、なんとタローはテンプレの亜空間収納持ちだった。もちろん時間経過なし。まとめて保存しておいてもらう。食べる分だけのお肉は冷蔵庫に。
確かめたところ、複製されるのは日本から持ってきたものだけで、ブラックベアの肉は複製されていなかった。ちょっとほっとした。
こっちのお金が必要になって、なんとなく人恋しくなったらタローに乗って外に出かけようと思う。人のいる所はここから歩くと一週間くらいあるらしい。車庫に軽トラがあるけれど、ここの文化の度合いがわからないから軽トラはしばらく封印することにする。
蘭丸とタローとおしゃべりできるから寂しくもないし。十分充実の毎日だ。島に残してきた仕事が心配になるけど、もうどうしようもできないし。シャンプーがしたくなったら蘭丸とタローを洗って満足する。カットやバリカンは…………、タローは擬人化できないって言うから、タローで遊べない。これはテンプレじゃなかった。ドラゴンにはタテガミもないし。
寝付いたおじいちゃんの髪をいつも切ってたからね、家にちゃんと仕事道具の鋏やバリカンは置いてあるんだよ。練習もしてたしね。後日、毛足の長い動物を捕まえてカットしたのはお約束。
意外にもタローには村に友達がいるらしく、結構な事情通だった。テンプレの引きこもり古竜かと思っていた。ごめん。いつかその人に会ってみようと思う。
でもそれはまだ先の話。今は蘭丸とタローとの静かな生活を満喫するつもり。まったりマタギ生活でいいかな。魔法の使い方もタローに教わっている最中だし。大魔導士らしくなったら、出かけることにしよう。
「わんわん、わわわん!」ヨネちゃん。アイス!アイス食べたいわん!
≪我も食べたいのじゃ。今日は白いのが食べたいのじゃ!蘭丸殿と一緒に食べるのじゃ≫
今日もおやつと騒ぎだす二匹。今では大親友となっている模様。でも、アイスを食べるのはいいアイデア。ちょうど小腹もすいている。アイスだけじゃ物足りないかな。何かあったかな。うーん。
「いいアイデアが浮かんだ!今日はアップルパイにアイスを添えよう!」
お取り寄せの某有名ホテルのアップルパイが冷凍庫に眠っている。温めたパイにアイスを添えて豪華にしよう。
「わうぅぅぅぅ~~~ん!」サイコー!!ヨネちゃんサイコー!!
≪そんなにすごいモノなのか?蘭丸殿がこれほど喜んでおるとは!≫
レンチンしたアップルパイにバニラアイスクリームを添えてテーブルに出す。すでに蘭丸もタローもテーブルに乗って一緒に同じものを食べるようになっている。蘭丸はタローが首の皮を掴んで飛び上がると言う裏技でテーブルの上へ。本当に仲良しだ。
「ほーら。出来たよ」
「わんわわん!」おいしそー!
≪これは!このまばゆい食べ物は何なのじゃ!金色ではないか!何やら木の実の匂いもするのじゃ≫
蘭丸とタローは狂喜乱舞だ。本当にうれしそう。
美味しそうにおやつを食べる二匹を見て私もいただく。有名ホテルのアップルパイは美味なのじゃ。
こんな生活も悪くない。そう思って、この世界で生きていく。
おわり。
読んでいただき、ありがとうございました。
なろうでおっさんを読んでいたら、おばちゃんが出たいとやってきました。
なろうの作法。ステータス表記方法など良く分からず書いています。
誤りやご指摘については、優しくご教授いただけるとありがたいです。