7 サークル見学の日 中編 演劇サークル
「あ、え、い、う、え、お、あ、おー!」
部室の中から奇声が聞こえる。悠たちは顔を見合わせた。
「何してるんだろ……?」と恐る恐る悠が言う。
「あれは発声練習だ」
洋介が答えた。
「発声練習?」
「舞台の上で滑舌よくしゃべれるように練習しているんだ」
「へえ。洋介、あんたよく知ってるのね」と朱里。
「高校の時、演劇部の友だちがいたからな。あれは演劇に関わる奴なら日常だ」
「そうなんだ……」
悠は説明を聞いてすこし緊張を解いた。
「開けるよ?」と悟が皆の顔を見た。
ガチャリ、とドアを開ける。
「か、け、……何だ、もしかして新入生!?」
発声練習をやめ、部室の中にいた数人の学生がこちらを向いた。声をかけてきたのは大人びた男子学生だ。
「サークル団長の横井です。見学なら大歓迎だよ!」
横井と名乗った男子学生は気さくな笑顔を見せた。甘いマスクに浮かぶ笑顔はモデルのように整っている。
「悠!」
朱里がまた悠に耳打ちした。
「何、朱里さん?」
「無茶苦茶カッコよくない!?」
「う、うん」
「あたし、この大学に来て良かったかも!」
朱里はほくほくの笑顔になっていた。
「演劇は初めて?」
「はい」と、横井の問いに悟が答える。
悟は横井に、洋介を紹介した。
「こいつは柏木洋介って言うんですけど。こいつに演劇部の友人が居たくらいで」
「そうか。せっかくだから、舞台稽古を見ていったらいいよ。ちょうど新入生歓迎公演を控えて練習しているところだからね」
「ありがとうございます」
悠たちは礼を言い、部室の一角に腰を下ろした。
「か、け、き、く、け、こ、か、こー!」
部員たちの発声練習が続く。発声をひととおり終えた後、彼らはストレッチを始めた。二人一組になって、一人の背を押して足と手を懸命に伸ばしている。
「せっかくだから、君らも参加しなよ」
横井が悠たちを促した。
悠と朱里、悟と洋介でペアになり、ストレッチに参加した。
「い、痛い痛い! 悠、もうちょっと緩めにしてよ!」
朱里が悲鳴をあげた。
「はい。……こんな感じ?」
悠は少し手を緩める。
「うー。あたし、固いなあ」
「ははは。初めは皆そんなもんだよ。毎日やることで、だんだん体が柔らかくなっていくんだ。演劇は体を使うから、文化系サークルとはいえ、ジョギングや今のようなストレッチ、柔軟体操もやるんだよ。痩せたかったらぜひうちのサークルに」
そう言いながら、横井が新入生歓迎公演のチラシを渡した。
銀河鉄道の夜。チラシにはそう書いてあった。
「宮沢賢治の?」と悠。
「そうだよ。新入生歓迎公演は、うちがどんな芝居をしているかを新入生に紹介する大事な舞台だから、分かりやすい芝居を選んでいるんだ」
「へえー」
「うちの舞台は大学内で公演する限り無料だから、気軽に見に来てね」
「はーい」
朱里が甘い声で返事をした。
「見学させて頂き、ありがとうございましたー」と、悠は部員たちに礼を言った。
四人で外に出る。
「演劇も面白そうね」と朱里。
「ああ。一緒に新入生歓迎公演を見に行こう」と洋介が言った。
「楽しみがひとつ増えたね」と悠は微笑んだ。
「芝居かあ。俺は、舞台に上がる勇気がちょっとなあ」と悟が頭をかいた。
「これで見学はおしまい?」
悠が首をかしげる。
「いや、もうひとつだけ! TRPG部に行ってもいいかな?」と悟が聞いた。
「てぃーあー……?」と悠は部の名前をうろ覚えに反芻する。
「テーブルトークRPG部の省略だよ。俺、そこが見に行きたいんだ」
「分かった。時間もまだあるしな、さっそく行こう」と洋介。
「ありがとう!」と悟は笑顔になった。