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悠たちのアオハル ~大学進学~  作者: すー
1章 大学生時代 一年生
6/13

6 サークル見学の日 前編 ボランティアサークル

 4人はサークル棟にある「赤い鳥」の部室の前にいた。


「こんにちはー」と、悟がドアを開く。


「ああ、いらっしゃい」


 男子学生が快く応じた。サークル紹介のときに登壇していたリーダーの棚田だ。


「新入生?」

「はい」

「ようこそ! 入って入って」


 棚田の招きに応じ、悠たちは部室に入った。部室の壁に貼られた、たくさんの写真が目に入った。


「ああ、それはね、いろんなところでボランティアをしている部員たちの記念写真だよ」


「そうなんですか」と、悠は興味深々に写真を見た。


 子どもたちと遊んでいる写真、外国人と仲良く肩を並べている写真、老人たちの間に入ってにこやかな笑顔を浮かべている写真など、様々な学生の様子が(うかが)えた。


「まあ座って」


 棚田が椅子を勧める。悠たちはその言葉に従った。


「いろんなボランティアがあるんですね」


 悠は写真を見て素朴な感想を述べる。


「そうだよ。 簡単なことなら、たった一回のゴミ拾いだって立派なボランティアだからね」


 棚田が笑顔を見せる。黒縁(くろぶち)眼鏡の奥で柔らかな瞳が細くなった。


「自分が自然に楽しいと思えるボランティアを選ぶことが大切だよ。やってあげている、なんていう傲慢な気持ちでやったら続かない。させていただく、くらいの気持ちがどのボランティアでも必要だ」と、棚田は真面目な顔になった。


「なるほど」と、悠はうなずく。


「実際、ボランティアをする相手から元気をもらえることも、学ぶことも多いんだ。アルバイトもいい経験になるけど、ボランティアはお金ではない関係を作ることができる」と、棚田。


真摯な説明だった。


 悠は壁に貼られた写真を見て、そのひとつに目を止めた。異国の顔立ちをした人たちと、学生らしき人が一緒に写っている。


「それは日本語ボランティアのサークルだね。外国の人を支援するから、異文化に触れられるいい機会になるよ」


 棚田はにこやかに笑った。


「しかし、だ。どこかのボランティアに所属する前に、僕らは皆で清掃活動をするようにしているんだ。残念だけれど、ボランティア自体が肌に合わない学生もいるからね。みんなで一緒に汗をかいてみて、それが心地よければぜひこの『赤い鳥』に所属してもらいたい。これがそのチラシだよ」


 棚田は白黒のチラシを悠に手渡した。見ると、掃除の時間と集合場所が書かれている。


「その日は、一斉に掃除をしたあとで新入生歓迎コンパをやるからね。君たち新入生は未成年だから、ジュースやお茶とお菓子のパーティだよ」

「パーティ! 面白そうね」


 朱里が目を輝かせた。


「朱里はパーティ好きだもんな。親戚どうしが集まるときは必ず参加してたなあ」と、悟が思い出すように言った。


「しかしな、朱里。その前の掃除はどうなんだ。お前が好きそうには見えないぜ」


 洋介が突っ込んだ。


「パーティのためなら、掃除くらい喜んでやるわよ」


 朱里がガッツポーズを作る。


「ははは、頼もしいね。ありがとう」


 棚田が微笑んだ。黒縁眼鏡が隠しているが、棚田の顔立ちはかなり整ったほうと言っていい。


「ねえ、悠」


 朱里はひそひそと悠に耳打ちした。


「何、朱里さん」

「棚田先輩、カッコイイね」


 朱里は顔をほんのりと赤らめていた。


「あたし、ボランティアもいいかもって思った」


 朱里の言葉を聞いて、悠は笑ってしまった。以前ボランティアを「偽善」とばっさり切り捨てたあの態度は、あっという間にどこかへ行ってしまったようだ。


「女の子二人で、何を話しているんだい」


 棚田が首をかしげる。


「そ、その、ボランティアっていいかもって話してたんです」と悠。

「そうです。ぜひ掃除に参加させてください!」


 朱里はキラキラと瞳を輝かせていた。


「何だ、二人とも参加するの? じゃあ僕も」と悟も参加を決める。


「分かったよ、ありがとう。君はどうするんだい?」と、棚田がひとり残った洋介に聞いた。


「すみません。もうすこし、ほかのサークルも見てから決めたいっす」


 洋介は頭をかいた。


「分かったよ! 掃除は六月だから、それまでにいろんなサークルを見てから決めたらいい」と、棚田が洋介の肩をポンと優しく叩いた。


「ありがとうございます」


 四人は礼を言って、部室を出た。


「洋介。あんたが行きたいサークルってどこなの?」


 朱里が尋ねる。


「笑われるかもしれんが……演劇に興味があってな」


「演劇サークル?」と悠も聞く。


「俺はずっと舞台を見るのが好きだったんだ。作る側になったら面白いかもしれんと思って」


「なるほど」と悠。

「仕方がないわね、付いてってあげる」


 朱里が微笑んだ。


「演劇か。洋介らしいよ。お前、昔から芝居好きだったもんな」と、悟もうなずいた。


「じゃあ、行ってみよう!」と元気よく悠が言った。


 しばらくして、四人はほかのサークルよりもすこし大きめの部室に着いた。演劇サークル「パスカル」の看板があった。

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