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悠たちのアオハル ~大学進学~  作者: すー
1章 大学生時代 一年生
4/13

4 初回授業の日 前編

 悠は大学で配られたシラバスに目を通した。シラバスとは、授業の概要や目標、担当教員の情報などをまとめた勉強を進めるための目安だ。冊子で渡されることもあれば、ネットで公開していることもある。悠の大学は冊子で渡された。このシラバスや授業の時間割り表などを参考にして学生は自分の学習スケジュールを組むことになる。


 彼女はスマホで悟に連絡を取った。


『授業、どれにするかもう決めた?』


 しばらくして返信が来た。


『今から決めるとこ! あまり飛び飛びにならないほうがいいんだけどな』

『確かに! 空いた時間のときにはサークルへ行けばいいのかな』

『そうだなあ。でも、サークルの先輩たちも授業でいないかもしれないから、最初は授業後にサークル見学したほうがいいかもな』

『なるほどー』


 大学では、受ける授業を必須科目、選択科目、自由科目から選ぶことになる。高校までの、すべて必須だった頃と比べると、グンと学生自身の自由さが増す。責任も大きくなるけれども。悠はワクワクしていた。自分で授業のスケジュールを組むことが出来るなんて、素晴らしいと思った。


 悟とは学部も学科も同じなので、必須科目は一緒になることが多い。


『明日、授業で会おうねー』

『おう!』


 悠はスマホで文を打つのを終え、ベッドの上に置いた。私服で通学するのも初めてのことだ。一応学びに行くところなので、上の服はお洒落よりも清楚さを選んだ。下はブルージーンズ。ダメージにはしていない、質素で丈夫な印象のズボンだ。


 明日から授業が始まる。


 ワクワクしすぎて、まるで遠足前の小学生のように目が冴えてしまう。睡眠睡眠! 悠は無理やり目を閉じた。そうしていると、いつしか本当の眠りが訪れた。


 朝が来た。悠はベッドから降りて、顔を洗いに行った。窓とベランダの戸を開けて、通気をする。朝ごはんは、刻みネギをいれてだしと醤油で味付けした卵焼きを食パンで挟んだ。それを食べ終えて、サラダの代わりに野菜ジュースを飲む。近くのスーパーにはスムージーもあったから、アルバイトをして生活費に余裕が出たら試してみるのもいいかもしれない。


 朝ごはんを終えたら、シャワーを浴びて歯磨き。今は一人で暮らせることがうれしくて仕方がなかった。家族の温かさと同時にうっとうしさも感じていた悠にとっては、この自由さが何より嬉しかった。最後に授業用のバッグの中身を確認して、戸締りをする。


「行ってきます!」


 誰もいない部屋に声をかけるとき、すこしだけ寂しさを感じた。わがままなものだ。悠は苦笑して大学に向かった。


 授業が始まる10分前には教室に着いた。


「おはよう」


 悟が手を振る。彼の周りには男子学生と女子学生が一人ずつ座っていた。


「おはよう」


 悠も微笑んで挨拶を返す。


 すると、女子学生のほうがツカツカと悠に歩み寄ってきた。


「あんたが野桜って子?」

「……そうです」


 彼女のきつい視線を受け、悠は戸惑いながら答える。


「ふーん。で、あんた悟の何なわけ?」

「悟くんの?」

「あんた、何も知らないの」

「ええと……」

「悟にはあたしがいる。これ知ってた?」


 悠は首を横に振った。


 女子学生は悟の隣に行き、軽く彼の頬にキスをした。


「んなっ!? やめろよ朱里(じゅり)!」

「あたしは梅宮朱里(うめみやじゅり)って言うの。見ての通りの関係よ」

「悠ちゃん……」


 悟がうなだれる。悠は無言だった。悟とは友達だ。仲良くなれてうれしいが、特別な人というにはまだ時期が早い。淡い気持ちが芽生えていないかといえば、嘘になるけれども。


「……朱里、そのくらいにしとけ」


 男子学生が朱里の勢いを(さえぎ)った。


洋介(ようすけ)! あんたこの女の味方なの?」


 朱里が彼に食ってかかる。


「お前がみっともなさすぎなんだ」


 洋介と呼ばれた学生は、淡々と答えた。


「あ、あの」


 悠は首をかしげる。


「俺は柏木洋介(かしわぎようすけ)だ。朱里と悟とは昔からの付き合いさ」

「そうだよ! 悠ちゃん、こいつは幼なじみなんだ」


 悟がほっとしたように告げた。


 電子音で授業のチャイムが鳴る。はいそうですかと悟の横に座る気にもなれず、悠は洋介の隣に座った。悟の隣は朱里が陣取っている。 


 激しい視線を感じる。そう、入学式のときに感じたものと同じだ。あれは朱里がこちらを(にら)んでいたのだろう。


「あの……柏木、くん?」


 悠は洋介の顔を見た。色黒の肌に、優しげな黒い瞳がこちらを見つめ返した。


「何だ?」

「その、ありがとう」

「いいさ。これからよろしく頼むな。朱里も悪いやつじゃないんだ、悟にぞっこんってことを除けばな。だけどあいつらは付き合ってるわけじゃないぜ。長い幼なじみなんだ」

「はい」


 悠たちはそこで話を終え、始まる授業に集中し始めた。


 先ほどの喧騒とは打って変わって、先生の講義する声が教室に響いた。



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