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悠たちのアオハル ~大学進学~  作者: すー
1章 大学生時代 一年生
3/13

3 入学式の日 後編

 入学式が始まった。学長である初老の男性が登壇し、祝福と訓示を述べている。


「……皆さんはご縁があってここに集っているのです。どうぞ、そのご縁を大切にしてください」


 悠は神妙な面持ちで学長の話を聞いていた。大学の合格と新しい生活への準備でバタバタしていたのであまり気にしていなかったが、今後の4年という時間を考えると結構長いような、それでいて短いような気もする。さすがに大学院までは通うつもりが無いので、この4年で社会人へのステップを踏んでいかなくてはならない。自分にできるだろうか、という不安と、まあ何とかなるさという希望が入り混じっていた。悟という友人が出来たことは心強い。


 式は粛々と進み、厳かな雰囲気の中に終わりを告げた。その後、すこし休憩を入れて大学のサークル紹介が始まった。サークルとは高校で言う部活動だ。多種多様なサークルがあり、それぞれが自分のサークルに気を向けてもらおうと熱弁を振るっている。悠はどのサークルも魅力的に思えた。


「サークル代表の棚田(たなだ)です。うちは細々とボランティアをやっています」


 熱意だらけのサークル紹介のなか、棚田という眼鏡をかけた痩身の男子学生は自分のところを「細々と」と言い切った。それが、悠には奥ゆかしく思えた。ボランティアを学校の行事で体験したことはあるが、サークル活動となると初めてだ。悠はサークル名をメモした。そのサークルは「赤い鳥」という名前だった。


 もろもろの行事が終わり、外に出ると、ワッという勢いで大学生たちがチラシを渡しに来た。


「入学おめでとうございます!」

「ぜひうちのサークルに」


 どれもサークルの勧誘だ。歩いているうちにどんどんチラシが増えていく。演劇の学生劇団。運動系サークル。音楽系サークルと、その中身は幅広い。


「よく考えて入りなさいね。高校のときみたいにひとつに絞る必要はないわ。いくつか回ってみて、自分と相性のいいところを見つければいいのよ」と晴が助言してくれた。


「悠ちゃん!」


 人の集まりの中から手を振る男子学生がいる。悟だ。彼もたくさんのチラシを抱えていた。


「あらあら、オジャマ虫は消えるわね。悠、本当におめでとう。これからを精一杯楽しんで」


 晴が手を振って去っていった。


「悟くん」

「悠ちゃんはもうサークル決めた?」

「……気になってるところはあるんだけど」

「どこ?」

「ええと……『赤い鳥』っていうサークル。ボランティアをやってるんだって」

「へえ、悠ちゃん偉いね、ボランティアをやりたいんだ」

「まだ気になってるだけだけど……」

「じゃあ一緒に行かない? お互いの気になってるサークルを一緒に回ろうよ」

「いいの?」

「もちろん」

「ありがとう!」


 悠は笑顔になった。


「僕、すこし上の兄貴がいるんだけどさ。サークル活動は大切らしいよ。特に、この4月以降にどこのサークルも新入生歓迎会をやるらしいんだけど、これに参加しない手はないらしい」

「そうなんだ。わたしは中二の弟がいるだけだから、大学のことはあんまり分かってないんだよね。そうやって教えてくれるの、とてもうれしいな」

「役に立てて何より」


 悠と悟は笑い合った。


「でも勉強が第一だからね、そこは気を付けなきゃダメだって兄貴が言ってたよ」

「そっかあ。でも、そうやって夢中になれるくらい楽しいんだろうね」

「悠ちゃん。電話番号の交換しない?」

「あ、そうだね。気が付かなった、ごめん」

「いいよ。僕の電話番号はね……」


 二人は互いの連絡先を教え合った。その時、悠は何か首筋にチリチリとした視線を感じた。


「?」

「悠ちゃん、どうしたの」

「なんか、誰かから見られてる気がして。……気のせいかなあ」


 悠は首に手を当てた。


「今日は式やらサークル勧誘やらで疲れちゃったから、授業の履修を決めつつ、サークル見学するってことで」

「うん。これからよろしくね、悟くん」

「こちらこそ」


 辺りでは、それぞれのサークルへ呼び込もうとする学生たちがまだ声を張り上げていた。悟と別れ、もう持てないほどのチラシを抱えて、悠はアパートに帰ってきた。


「ふわぁ、疲れたあ」


 ソファーに身を預けて寝っ転がる。化粧っ気のない悠のこと、バタンキューするにはちょうど良かった。


 しばらく休んでから、母から譲ってもらったフライパンを片手に料理を始めた。一人暮らしの始まりだった。


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