12 TRPG部で「The North Legends」プレイの日 (最終話)
木々の新緑が美しく、太陽に向かって勢いよく伸びる頃になった。大学の授業にも、少し慣れてきた悠は、改めて、悟、洋介、朱里の授業がちょうど終わる日を合わせて、TRPG部の部室にやって来た。
部長の佐伯が四人を招き入れ、四人がくつろげる大きさのテーブルと椅子に案内した。
「ようやく久しぶりに『The North Legends』がみんなでプレイできるよ! うれしいなあ」と悟が笑った。
「お待たせしたわね。はい、ダイスよ。好きなものを使っていいわ」
佐伯がテーブルの上に、三角の形をしたり、サイコロの形をしたり、二十面体のように幾何学的な形をした、半透明のダイスを転がした。
「これは……何ですか?」と悠。
「ダイス。TRPGを遊ぶための一番大切な道具よ」と佐伯。
「そうそう! 今からプレイする『The North Legends』は、基本、ふつうのサイコロである六面体ダイスを三つ使って、ゲームの中でのいろんな行動を判定するんだ」と、悟が続いた。
「まずは、プレイキャラシートを渡すわ。自分の分身となるキャラクターを作って」
佐伯が、様々な能力値や所持金、道具などを書きこむ欄があらかじめ印刷されたキャラクターシートを、テーブルに集まった四人の前に置いていく。
「TRPGはね、ルールブックに基づいて作られた世界のなかで、行動するキャラクターを自分で作るんだ。この『The North Legends』では、剣と魔法の世界で冒険するキャラクターだから、人間、エルフ、ドワーフ、巨人、フェアリーの五つから種族を選んで、職業を、敵と戦う戦士、回復役の神官、魔法使いであるルーンマスター、お宝を調べるトレジャーハンターから組み合わせてキャラを作るんだよ」と、悟が言った。
「ええー! なんか面倒くさそう」と朱里。
「そんなことないよ! 魔法使いであるルーンマスターは、確かにルールブックから覚える魔法が多いし、どの魔法がどのシチュエーションで有効か考える手間があるから初心者には向かない場合もあるけど……戦士とトレジャーハンターなら、そのあたりは楽だし」と悟が諭す。
「ん! じゃあ、あたしトレジャーハンターやる!」
「そっか。朱里さんがトレジャーハンターなら、わたしは戦士にしてみようかな」
「……ルーンマスターは、悟がやれ。俺は神官をやってみる」
「おっ! それぞれの職業がバランス良くばらけたなあ」と、悟が笑った。
四人のキャラクターは、こう決まった。
お宝担当のトレジャーハンター、素早く戦闘では不意打ちの得意なフェアリーの少女、ジュリ。
剣を振り回す、筋力のある人間の戦士、弱い味方をかばう能力もある少年、ユウ。
戦うこともでき、回復魔法も使うことのできる巨人の男性神官、ヨー。
知恵に長けたエルフの魔法使い、ルーンマスターの女性、サト。
「……用意は出来たみたいね。始めるわよ?」と佐伯がにっこりした。
佐伯は語りだす。
冒険者たちが集う酒場に、君たち四人は足を踏み入れた。ひよっこ冒険者である君たちを、酒場のマスターが集めて言う。
「やあ、君たちのようなちょうど初めての冒険に相応しい依頼があるんだ。ちょっと聞いてみるかい……?」
剣と魔法の世界「The North Legends」での、四人の冒険が……今、始まる。
新型コロナウイルスの蔓延で、授業がオンラインになったり、いつもソーシャルディスタンスとして人と人との距離をとらなくてはならない生活が通常化しようとしているなか、アナログにみんなで集まってワイワイ楽しむボードゲームやTRPGが、気楽にやれていたことが、どれほど恵まれていたのか、ということを感じます。ひととひととがじかに触れあうことのできる日常が戻ってくる。それを願って、この物語を完結と致します。
最後までお付き合い頂き、ここまで読了くださった方々、感想やコメントやブクマや評価などの応援を下さった方々、本当にありがとうございます。