1 合格発表の日
まだ風は冷たく、冬の花々がけなげに咲いている季節のことだった。野桜悠は大学の一角に張り出された板の上の大きな紙に、自分の受験番号を必死に探していた。
「えっと、えっと……あった!」
悠は、心臓がどきどきして息が止まるかと思った。不合格よりはよほどいい知らせだった。自分の番号が合格者の中にあったことで、今までの頑張りや気負いが一気に揮発した。
「やった……」
力が抜けた。応援してくれた家族や友人に朗報を知らせることができる。そのことが悠を脱力させ、よろよろと転びかけてしまった。
「おっと!」
力強い腕が悠を支えた。見ると、学生服を着た短髪の、少年の終わり、青年の始まりであるような顔があった。
「あ、ありがとうございます」
悠は礼を告げた。
彼が支えてくれたおかげで、集まる人々の中で転ぶという危険な事態は避けられた。
「いいよ。受かってた?」
青年がにっこりと笑う。
「あ……はい」
悠は正直に答えた。
「良かった。僕もこの大学に通うことになるんだ」
「そうなんですか!? おめでとうございます」と、悠はお祝いの言葉を口にした。
「タメ年だろ、敬語でなくていいよ。僕は蕗村悟だよ」
「わたしは野桜悠……です」
「はは、急にタメ口は難しいか。同じ大学に通うことになるんだ、せっかくだから、今日から大学での最初の友だちになってくれないか?」
悟が真面目な顔になる。
「えっと……いいよ」
悠は何とかタメで答えた。
悪そうな人には見えなかった。悠の高校の時の友人は、みんなまったく別の大学を受けていたから、友人関係が一度リセットしてしまったタイミングだ。悟の申し出は心底ありがたかった。
「悟くん、これからよろしくね」
「ああ。悠ちゃん」
二人は笑い合った。それが物語の始まり。悠たちの新天地での羽ばたきが、いよいよ始まるのであった。