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 その後もEランク魔獣に追いかけまわされて一時間以上。どうにか目的地に着くと、薬師の指示の下、薬草摘みに邁進する。


 「だぁぁ!つまらん!やっぱり魔獣退治の依頼を受けるべきだって!」

 「そのセリフは魔獣を一匹でも倒してから言え。安全第一。確実性重視。最近では、受付嬢が真っ先に薬草取りの依頼を出してきて、魔獣退治の依頼は隠しているように思えるが?」

 「何匹も倒したことはあるわ!っていうか、其れって差別じゃねぇの⁈」

 「んなわけあるか。妥当な判断だ、喧しい」


 何処までも延長線な口喧嘩、もとい議論を続ける二人。察するに、何度か魔獣退治の依頼を受けては失敗しているのだろう。冷静なギルド受付嬢と薬師の判断を全力で支持するヴィディーレである。とは言え、この口論に参加するのは無駄すぎるのでお断りだが。


 ぎゃおぎゃおと飽きもせず舌戦を続ける二人の声をBGMに黙々と薬草を摘んでいた彼だったが、ふと顔を上げる。同時に、ラフェの声が途絶え、周囲を見渡して居るのが視界に映る。


 やはり違和感が残る。


 ラフェの様子にそんな事を思いつつも、それは一旦放置して二人の意識に触れた何かを探す。


 「どうした?」


 切り替えの早い薬師兼軍師が、鋭く訪ねてくる。手を上げてそれを制したラフェが一瞬ヴィディーレに視線を投げてクイッと顎をくしゃる。その方向が自分の感知した方向であることに気付き、小さく頷くと、二人同時に得物に手をやった次の瞬間。


 ガサガサガサと音を立てて、小さな影が飛び出してくる。


 「おにいさん⁈」

 「君は……」


 慌てて立ち止まったその影は、先日助けた少女だった。驚きに目を見開くヴィディーレにはお構いなしに、少女が飛びついてくる。


 「お願い!助けて!」


 その悲痛な声に、三人は顔を見合わせた後、一転して真剣な顔つきになり、少女を凝視した。


 少女の話を簡潔に纏めると、例のダンジョンに入っていった幼馴染を助けてほしいといる事だった。


 「また入ったのか⁈」


 血相を変えて詰め寄るヴィディーレを押しとどめたのは、リートだった。首根っこを掴み思い切り引っ張って少女から引きはがすと、その華奢な指を細い顎に当てて目を細める。


 「落ち着け馬鹿者。まずは状況の整理だ」


 その鋭利な雰囲気に押され口を噤むヴィディーレ。先程軍師だと自己申告していたのを思い出し、とりあえず主導権を譲ってみる。リートは若干焦点を結んでいない瞳で少女を見やる。


 「まず。最初にダンジョンに入った時の動機と人数」

 「5人、です。ダンジョンに行こうって言いだしたのはプエル……今ダンジョンに入っていった私の幼馴染。あのダンジョンの何処かに、プエルのお母さんの病気を治す薬草があるって言って。私は止めたんだけど、それを聞いていた皆が行こうって。それで」

 「薬草の話は誰から?」

 「……分かんない。聞こうと思って、忘れてて」


 クシャリと顔を歪ませる少女を、リートはチラリと見ただけで顔色を変えることなく何かを考える。


 「それで?ダンジョンに入った後は?」

 「少し歩いてたら広い場所に出て、それで、ここどこだろうって入ってみたら、その、でっかい魔獣が突然出てきて、それで」

 「ヴィディーレに出会った、と」


 今度はヴィディーレを一瞥するリート。ふむ、と思考を巡らせつつ、もう一つ尋ねる。


 「で、今回ダンジョンに入った人数は?」

 「プエル、一人です。一緒に行こうって言われたけど、行っちゃだめって言ったら一人で行くって中に入って行っちゃって」


 そうか。それだけ呟いたリートは俯いて何事か呟き始める。そわそわとその様子を見ている少女を見て、ヴィディーレは歩き出す。


 「おい、どこ行く気だ?」

 「ここで揃って考えていても仕方がない。とりあえず俺は行く」

 「え?じゃあ俺も行く!」


 ラフェが声を掛けてくるのに歩きながら答える。だが、ラフェの元気一杯の返答にガクリと崩れ落ちる。何とか立ち上がりツカツカと戻ってくると、胸倉を掴みあげる。


 「惚けたこと言ってんじゃねぇ。Eランク程度に何が出来る。人の命掛かってる。俺でも厳しい可能性がある。他に守ってる余裕はない。3拍子揃ってんだ。黙ってろ」

 「全くもってその通りだな。我々はその少女と共に街に帰るべきだ」


 あっさりと援護射撃が放たれたのを聞いて、ほら、とラフェに言う。肩を竦めて首を振るリートを見やったラフェではあるが、それでも往生際が悪かった。


 「けどよ。リートは腕のいい薬師でもあるし、軍師でもある。連れて行って損はない」

 「俺?」

 「……百歩譲ってリートのみだ」


 自分が行くと言い張ると思っていたリートが素っ頓狂な声を上げ、ヴィディーレが渋々同意する。するとニヤリと笑ったラフェが続ける。


 「とすれば、だ。万年インドア派のもやしっ子の護衛、必要だろ?」

 「Eランク魔獣に悪戦苦闘していた奴が何を言う」

 「ソレはソレ、コレはコレ。いざとなったら尻尾を巻いて全力逃走するさ。リート抱えてな」


 あっけらかんとした言葉に、ヴィディーレの方が詰まる。先程の反応が脳裏に浮かび、仕方が無いかと思い始める。ヴィディーレと同じ反応を同時にしただけで、その感知スキルの程が分かる。


 逃げ回るだけなら流石のラフェにも出来るだろうし、逆にリートには出来なさそうだ。その痩躯を見て、溜息をつく。プエルが怪我をしている可能性を鑑みて、二人を連れて行くのがベストだろう。


 「……おい、正気か?」

 「……酷く癪に障るがな」


 降参、とばかりに手を上げたのを見て、リートが目を剥く。ラフェを方をガバリと振り返り睨みつける。


 「戦闘能力ないくせに!」

 「それをお前が言うのか?」


 片方の眉を上げて静かに尋ねてくるラフェ。珍しくリートが撃沈し、それでも言葉を探している。しかし。


 「頼む。俺が俺である為に」


 小さく懇願するように言われ、今度こそ完全に沈黙するリート。唇を噛みしめて、何処か縋るように見つめるリート(・・・)。だが、二人の視線は揺らぐことなく交わり、やがて先に逸らしたのはリートだった。


 「よっしゃ!行くか!」


 パン、と手を打って明るく声を上げるラフェ。重々しかった空気が払拭される。最後の空気に圧倒されていたヴィディーレがその音に我に返り、もの言いたげな顔をするが、すぐに気を取り直す。それそれどころではなのだ。


 「一人で帰れるか?」


 俯いたままのリートの隣に立ち、少女に問いかける。気丈な少女はコクリと頷き、助けて、と呟くと街の方へと走り出そうとする。そこに、はっと顔を上げたリートが慌てて声を掛ける。


 「待て!最後に一つ、聞きたいことがある」


 振り返った少女が首を傾げたのを見て、リートが尋ねる。


 「お前たちがダンジョンに入った場所は前回と同じ場所か?」


 その問いにきょとんとする少女。ラフェとヴィディーレもまた疑問符を浮かべる。


 「は、い。そうですけど……」

 「そうか……。分かった。もう行け」


 気だるげに手を振るリートに対し、口を開きかけた少女だったが、結局何も行くことなく走り去っていく。一体どういうことだ、と尋ねようとしたヴィディーレだったが、リートの真剣な目に、一旦黙る。


 「とりあえず急ぐぞ。マズい気がする」


 そう言って走り出したリートの背をあっけに取られ見送りかけるが、ラフェが走り出したのに気付き慌てて追いかける。


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