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 「なんだ……?」


 センシアが困惑気味に槍を振るう腕を止めて様子を窺う。ラフェも怪訝そうな顔で動きを止めた。ヴィディーレはワイバーンが動きを止めたのを見るや一気に詰め寄り、力を込めてデュランダルを引き抜くと、そのまま間合いを取った。


 「今度は何が起こるって?」


 うんざりした表情でラフェの隣に並ぶと、うーんと煮え切らない返答が返ってくる。二人して首を傾げていると、お前らもうちょっと真剣にやれ戦場だぞ、と有難い叱咤が飛んできて首を竦めた。その瞬間。


 「グギャァァァァァ!」

 「グワァァァァァァ!」

 「ウヲォォォォォォ!」


 魔獣たちが一斉に雄たけびを上げ、ラフェ達の方に向かってきたのだ。余りの声量に鼓膜を刺激され、蹲るラフェ達。しかし、襲ってくる魔獣たちを見て、咄嗟に得物でガードする。


 「ぐっ!」

 「何が起こってっ?!」

 「しゃきっとしろ!死ぬぞ!」


 先程とは打って変わって集中攻撃されるラフェ達三人。慌てて他の者達が駆け寄って来て援護に回っているが、全くそれらを気にする様子が無い。唯々三人を襲ってくるその様に、ヴィディーレ達の背に冷たいものが走る。


 「グギャァァァァァ!」


 他の魔獣たちによって作られた時間で一旦距離を取ったワイバーンが大きく息を吸ったかと思うと、グワッと口を開けた。マズい。皆の顔色が変わる。ワイバーンもドラゴンの一種。この体勢が示す意味は。


 「不味いブレスだ!全員防御態勢!」


 いち早くセンシアが声を上げ、体内の魔力を練り上げて全て防御に回す。ラフェとヴィディーレもソレに倣う。その時だった。腕に装着された腕輪型の魔道具がリン、と涼やかな音を立てた。リートからの合図だ。咄嗟に全員が取り出しやすい位置にしまっておいた魔法陣を取り出し、魔力を流す。


 「グォォォォォォ!」


 豪快に炎のブレスが吐き出される。奇しくもその一瞬前に魔法陣が発動し、全員が指定されたポイントに転移させられる。


 「今だ。やれ、ラフェ」


 飛ばされた先に居たのは、不機嫌真っただ中のリート。ギロリとヴィディーレを睨みつけつつ、ラフェに声を掛けた次の瞬間。


 「燃え盛れ」


 低く呟いたラフェの声に呼応して、草原に一本の焔柱が出現する。戦闘の混乱に乗じて、あらかじめマーキングを施したナイフを草原の淵に沿って突きさしておき、それを目印に豪炎を発生させたのだ。灼熱の炎に巻かれた魔獣たちが、おどろおどろしい悲鳴を轟かせている。


 「え、俺がやった以上に派手だろう」

 「黙れこの馬鹿。前回はともかく、今回は誰が雷神召喚しろと言った。作戦を台無しにするどころか、一歩間違っていたら全員死んでたわ愚か者」


 思わず呟いたセリフに、リートが容赦なく切り込む。若干やりすぎた自覚のあるヴィディーレが黙り込むのをいい事に、勢いよく罵詈雑言が飛んでくる。がりがりとHPが減らされていくヴィディーレ。魔法を行使しつつも、怒り狂うリートを宥めようとするラフェ。


 「おい、コイツ等言った何なんだ」


 既についていけていない自覚はあったが、キャパオーバーもいいとこ。呆然としてたセンシアがポツリと呟き、周りの者達がそれに黙って首肯する。とても戦場の中心地と思えない光景を晒していた彼らだったが、徐々に弱まっていく焔柱に気付き、視線を巡らす。


 恐ろしいまでの威力の魔法だったが、それでもワイバーンを始めとした幾つかの魔獣たちは生きているようだ。煙をあげつつも、もがいている。


 「嘘だろ。あれでも死なないのか」

 「ふむ。流石Aランク相当と言ったところか。クエレブレも結局退治し損ねたし、簡単にはいくまいよ」


 呆然と呟く若い冒険者だったが、リートとしては予想の範疇なのだろう。動じる事なく観察している。しかし、はっと我に返ったセンシアが慌てて戦闘態勢を取る。


 「おい仕留められなかったって事はマズいんじゃないのか」


 手負いの獣ほど手が付けられないものはない。それは冒険者たちの常識。センシアの固い声を聞いた者達が慌てて警戒態勢を取った。今にも襲ってくるのではないかと慄く彼らに、しかしリートはあっさり言い放った。


 「いや。おそらくそれはない」

 「何だと?」


 見ろ、と示された先を見たセンシアが目を見開く。なんと、ようよう起き上ったワイバーンたちは、きょろきょろと辺りを見回した後、フラフラとそれぞれ別の方向に動き出していったのだ。呆気ない幕引きに動揺して動けない彼らをよそに、当たりを見回して安全確認したリートがさっさと焼け野原へと降りていく。


 「あ、おい!」


 慌ててヴィディーレとラフェがその背中を追う。リートはスタスタと今だ火だねの残る焼け野原へと歩み寄ると、きょろきょろと何かを探すようにあたりを見回している。


 「何をして」

 「ああ、もしかしてこれか?」


 追いついたヴィディーレが声を掛けるが、聞こえていないかのようにリートがしゃがみ込み何かを慎重に拾い上げた。その手のひらに乗るほど小さなそれは。


 「なんだコレ。動物?巻き込まれたのか?」

 「巻き込まれたとしたら申し訳ないな」


 焼け焦げて今にも崩れそうな小さな体だった。羽の残骸らしきものが見える事から、モモンガか蝙蝠か、と考え込むヴィディーレの隣でラフェが申し訳なさそうに言う。焼いた張本人としては、小さな命を巻き込んでしまった事に罪悪感に襲われているのだろう。しかし、リートの返答は彼らの予想の上を行った。


 「ザッツライト。おそらく蝙蝠だろうな。で、罪悪感を覚える必要はないぞ」


 全く理解できない言葉に顔を見合わせる二人。ニヤリと笑ったリートは器用にも崩れないようにしながら、その焼け焦げた蝙蝠の死体を振る。


 「なにせ、さっきの炎はコレを燃やす為だったんだからな」

 「は?」


 間抜けな声が重なった。

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