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 そこから少し離れた草地に、何匹もの魔獣たちが寛いでいた。その中に一際大きな影。ドラゴンの頭、コウモリの翼、一対のワシの、ヘビの尾に、尾の先端には矢尻のようなトゲを供えている。チラチラと口から覗く時に赤い舌。ワイバーンだ。


 ふとその視界の隅で、ワーウルフの一匹が何かを気にする素振りをした。その次の瞬間、その頭が矢で射抜かれ絶命する。


 「グルルルル?」


 目を瞬かせて顔を上げたワイバーンの目に飛び込んできたのは、剣の一線。反射的に頭を下げ、頭上を剣が通過していくのをやりすごす。


 「おいおい勘弁してくれ。完璧だっただろ今っ!」


 悪態付いて距離を取ったのはヴィディーレ。最初の一撃、弓使いがワイバーンの視界に入る場所に居たワーウルフを狙い、そちらに気を取られている内にヴィディーレが急所を狙ったのだが、相手もさるもの。咄嗟に避けられた。即座に間合いを取りつつ魔力を練る。


 「切り裂けっ!」


 デュランダルに風を纏わせ弾き飛ばす。鋭い鎌鼬がワイバーンを襲い、それを避けようとしたワイバーンは翼を広げて飛び立つ。すかさずその拡げた場所にもう一発鎌鼬。


 「ギュアァァァァ!」


 薄い蝙蝠の羽が切り裂かれ、体勢を崩す。わずかに高度を下げた瞬間を狙って、鎌鼬で稼いだ時間を使って間合いを詰めたヴィディーレが再びデュランダルを振るう。


 「せいやっ!」


 気迫と共に横薙ぎ。固い鱗を切り裂くように力を入れた剣は勢いよくワイバーンに刺さって。


 「ギュアァァァァ!」

 「ってうっそだろ?!」


 突き刺さったまま、ヴィディーレだけが弾き飛ばされた。草地のため衝撃が吸収され、左程怪我はないが、ヴィディーレは顔を引きつらせる。まさか、途中まで切り裂けたのは良いが、そのまま力が足りず刺さったまま自分だけが放り出されるとは。得物は文字通り敵の懐。そのままワイバーンが追撃してくる。


 裂かれた翼故に落下するのに任せ地に足を付けたかと思うと、そのままぐっと身を乗り出し、接近してくる。後ろに飛びのこうとしたヴィディーレだったが、視界の隅でワイバーンの片腕が上がり、後退した瞬間に鋭い爪で引き裂かれる事を直感する。


 咄嗟に前転してワイバーンの腹の下をくぐりそのまま距離を置こうとするが、今度は尻尾が追撃してくる。


 「ぐっ」


 避けられない事を予感し、左腕を犠牲にして尾をいなす。しかし完全にはその勢いを殺す事が出来ず、腕が嫌な音を立てて激痛が走った。そのまま突き飛ばされるままに距離を取って、左腕をだらりと力なく垂らす。


 巨体に見合わず素早い動きで振り向くワイバーン。突き刺さったデュランダルと引き裂かれた傷からだらだらと血を流しながら、不格好に浮かぶワイバーンがそこはかとなく得意げな顔をしているような気がして。ブツリ。ヴィディーレの頭の中で何かが切れる音がした気がした。


 「あのクソ軍師!いつか絶対ぶっ飛ばすっ!」


 その為に、差し当たってどうやってデュランダルを取り戻すか。あちこちで怒声と悲鳴、戦闘の音が響き渡る中で、ヴィディーレは凄絶な笑みを浮かべた。


―――――――


 「ふむ、人を向かわせるのは寧ろCだ。A――ワイバーンとBは意識を引き付けるだけでいい」


 戦闘が始まる前、リートはそう結論づけ、指示を出した。


 「?だが、目標はワイバーンじゃないのか?」

 「いや。正直ワイバーンとBランクは放置の方向で行く。戦力的にもきついし、俺たちの勝利条件はこの状況を作っている精神干渉系魔法を使用する魔獣を処分し、通常の無秩序状態を魔獣の奴らにもたらす事だ。そうすれば縄張り争いだの何だのでお互いに攻撃し合い、数は減るはずだ。自然原則的にな」


 とんとんと顎を叩きながら、リートは茫洋と視線を惑わせる。


 「ワイバーンには精神干渉の魔法は使えない。使えるヤツが出てきたら、それはもはやSランクに匹敵するだろう。情報が回る。だが、真っ先に注意を促す役目を負うギルドにもその手の情報が回ってきた痕跡はなかった。つまり、目標ではないという事だ。なら、別に放置しておいて問題ない。必要だったり隙があったら屠れ。無理する必要はない」


 すっと意識を元に戻したリートがニヤリと笑う。ここからが本題だ、と宣った彼は全員の顔を見渡した。


 「作戦を説明する。まず、ワイバーンだが、ドラゴン大好きディーレ君に一任。適当に相手してヘイト稼いどけ」

 「雑過ぎる……」


 がっくりと肩を落とすヴィディーレ。しかし、すかさず飛んできた何かに反射的に反応し手でつかむ。


 「チッ。手でつかむくらいなら毒ナイフにしておけばよかったか」

 「俺何時かコイツに殺される……」


 もう嫌だと半泣きになりつつ、手の中に視線を落とした。そこには魔法陣が記された紙がたたまれて握られていた。


――――――


 「何が適当に相手してヘイト稼げ、だ。もう少しマトモな軍略はないのかアイツ」


 作戦会議にならない作戦会議を思い出し、半眼になったヴィディーレ。思いだすだにムカついてくる……というより、徐々にそのムカつきが大きくなっていく。これまでの鬱憤迄そこに便乗し、ユラリと体を揺らしたヴィディーレがギッとワイバーンを睨みつけた。


 「何がドラゴン大好きディーレ君だ。クエレブレと言い、その他と言い、何で俺が一番苦労して一番死にかけてんじゃクソッ!」


 怒りに同調してじわじわと魔力が滲みだす。急激に大きくなっていくその魔力に、ワイバーンの顔がどことなくぎょっとしているようにも見え。クワっと目を見開いたヴィディーレが怒鳴る。


 「そもそも、お前如きが出てくるからこんな事になるんだろうがっ!俺の平穏とジビエ料理を返しやがれ畜生がッ!」


 そして、謎の責任転嫁に繋がり。


 「煌なる雷神の光輝燦然!」


 天をも切り裂く雷神の雷が落とされる。凄まじい光が草原に満ち、轟音であたりが大きく揺れる。敵味方入り混じった悲鳴があ地事で巻き起こり。


 それらが収まった時には、憤懣やるかたなし、と言わんばかりに仁王立ちしたヴィディーレと、デュランダルが刺さったまま思い切りその背に雷を喰らってプスプスと煙を上げて痙攣するワイバーンの姿が。


 すぐ近くで戦闘をしていた者達がようよう起き上がって、絶句している。同じように起き上がった魔獣たちも、何処か呆然としていたが、野生としての本能か、ヴィディーレに背を向けて逃走しようとする。


 「って待てぇい!」


 慌てて我に返った冒険者たちがそれを追う。彼らも嫌に必死だ。さもありなん。下手に逃がそうものなら、後ろに控えている鬼、もとい毒舌鬼畜軍師に何されるかわかったものではない。


――――――


 適当すぎる指示に項垂れたヴィディーレを無視し、リートの指示が続く。


 「そっからそっちの奴らは、たむろしているC以下の雑魚を処分しておけ。数が多いから連携を忘れるな。その為に正規パーティーを二つも連れてきたんだ。一匹も逃すなよ。逃したら後で覚悟しておけ」


 「……分った」


 麗しすぎる笑みに、身の危険を感じたかは彼らのみぞ知る。


――――――



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