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 その魔獣には、名前が無かった。元々は、ただの蝙蝠だったからだ。だが、ある日突然住処の近くに巨大な魔力の塊ができた。魔素溜りだ。当時その魔獣にはそれが何かは分からなかった。ただ、何かあるなと認識していただけだ。


 しかし、それ以来生活は一変した。魔獣たちが近くをうろつくようになったのだ。ただの蝙蝠には、絶対的な捕食者として彼らの姿は映った。どうにか逃げ回りつつ生きていたが、ついにその時が現れた。魔獣の狩りの標的となり、追いかけまわされたのだ。


 蝙蝠は逃げた。逃げて逃げて、逃げ回った。次第に翼破れ、体もボロボロになって、ついに飛べなくなって落ちた。ワーウルフの群れが回りを囲み、ここまでか、と蝙蝠は覚悟した。そして、最後の抵抗として精一杯の声を上げた。本来ならば何も意味が無いが、せめてもの反抗だったのだ。


 そこで奇跡が起きた。その声を聞いたワーウルフの群れが動きを止めたのだ。何事かと思いつつ、それでも必死に叫んだ。「何処か行け!」と。すると不思議な事に、ワーウルフの群れが去っていったのだ。何匹かは突然仲間が方向転換したことに戸惑いながら、それでも群れの習性として従い去っていった。一人残された蝙蝠は、危機が去った事をしり、呆然としていたが、すぐに我に返り住処に戻った。


 そんな経験が何度も続いた。そして蝙蝠は気付いた。自分の声が、相手に対して何等かの影響を与え、言う事を聞かせられるという事に。蝙蝠は魔素溜りの傍に住み続けて魔獣になっていたのだ。そして体内に溜められた魔力が声――超音波に乗り、相手の脳を刺激した。音を使った一時的な催眠状態を作り出せるようになっていたのだ。


 そこから蝙蝠は考えた。この力があれば、もっとうまく生きていける。魔獣となった蝙蝠は、ワーウルフを見つけ、催眠を掛けた。食料が手に入りやすくなり、魔獣と出くわしても護衛として使えるようになった。調子に乗った蝙蝠の魔獣は、ワーウルフを催眠に掛け続けた。


 そして失敗した。


 ワーウルフには厳格な上下関係があり、下っ端を催眠に掛けても上のワーウルフが出て来ればかみ殺される。学習した。次はその強いワーウルフに催眠を掛けようとした。失敗した。蝙蝠の魔獣が使う催眠の能力には限界があった。当然だ。声を媒体にする限り、近くに居なければ――声が届かなければ成功しない。死にかけた。学習した。


 それからは簡単だった。怪我を覚悟で力の強い魔獣に近寄った。相手は蝙蝠の魔獣が弱い為に油断して、簡単に催眠に掛かった。蝙蝠の魔獣は強い手駒をどんどん手に入れていった。群れの長さえ手に入れば、そのしたに催眠を掛けなくても意のままになる事を知った。蝙蝠の勢力はどんどん強くなっていった。


 そして、また失敗した。相手の力量を見誤り、手駒を皆失ったのだ。その時は偶然にも、蝙蝠の魔獣が余りに弱かったもので、敵対していた魔獣の群れが、蝙蝠の魔獣の群れのトップだとは思わず見逃してしまったのだ。


 蝙蝠の魔獣は逃げた。そして、逃げた先には、豊かな自然に満ちたよい場所があった。そこで一からやり直した。そこに住む魔獣たちの群れの長を催眠に掛け、手駒とした。鹿やイノシシと言った獣たちを効果的に狩っては、貢がせた。自分の縄張りたる森に入ってくる侵入者に対しては、前回の失敗を糧に、先ずは弱い捨て駒たちで様子を見て、相手の力によっては見逃したり襲ったりした。全てが順調だった。


 そして、悲劇は繰り返す。


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