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 「やっと説明する気になったか」


 サクサクと持って来た地図を引っ張り出しては何等かの印をつけて皆に配っていくリート。それを受け取りつつ、既に疲れたと息を漏らしながら覗き込む。そこには、少し遠い場所がマークされている。


 「今から向かうのはソコだ。ここから11時の方向、距離的には馬で駆ければ左程かからないだろう。そのマップを渡したものは絶対に無くすな。その紙には認識阻害の魔法陣も裏に付けてあるからな」


 言われて裏返すと、銀色のインクで魔法陣が描かれている。魔法陣に使用される言語と文法は独特なもので、読み取る事は出来ないが、リートが言うのだから認識阻害の魔法陣なのだろう。これも系統外魔法の一種なのだが、突っ込むのに疲れた。後で全力で問い詰めてやる、と心に決めてあたりを見回した。紙が配られているのはヴィディーレのグループに、途中合流したグループから何人か。


 「この場所には何がある」


 険しい声で割り込んできたのは、センシア。流石にその情報がないと戦えないぞ、と視線で詰め寄られ、リートは面倒そうに手を振った。


 「走りながら、と言いたいところだがそれで聞き漏らされても困る。集まれ」


 すぐに反撃チームを中心に、皆が集まってくる。その際も警戒を怠らないようにしつつ、彼らは耳を傾けた。


 「そもそもだ。今回は魔素溜りが原因ではないと言っておいたはずだ。では、なにが原因か。諸々考えたが、この状況では一番可能性が高い結論が一つ」


 すっとマップに示された場所を指先で示したリート。


 「知性を持ち、何等かの精神干渉系魔法を使用できる魔物が裏で糸を引いている」

 「そんな事があり得るのか?!」


 流石に突拍子もない結論にヴィディーレが突っ込む。その隣のセンシアも険しい面持ちだ。


 「……高い魔力を持っていたり、長いこと生きている高ランク魔獣には知性を持つものもいると聞いたことがあるが。それに加えて精神干渉だと?そんな奴が居るなら有名になっているはずだ」

 「いい所をつくな。年の功か」


 いい質問だ、とリートは頷く。単純に騒ぐだけの者には興味が無いぞ、とヴィディーレを睨みつけるのも忘れない。とりあえず喧しいのを黙らせて、リートはすっとその瞳の焦点を散らす。


 「これまでの奴らの行動で最も気になっているのは、余りに統率の取れた行動だ。森に入ってきたものにはまず、低ランクの魔物が小手調べとばかりに出てくる。ウチの場合で言えば、最初に探索した際、その後もちょくちょく低ランクの奴らが現れては、軽い戦闘を繰り返した。まるでディーレ君の戦闘能力を調べているかのように。ついでに言えば、その時近くをうろついていた痩せた老人という美味しい餌に対しては、すぐに高ランクの魔物が出てきて狩りをしていた。まるで確実に狩っていけるように、だ」


 はっとした表情をする皆を見渡し、リートは目頭を揉んだ。ヴィディーレはリートの言葉を思い出し、漸く理解する。"警戒され様子を見られているようだ、だと。なかなか面白い事を言うと思わないか?"。


 リートだけがそう感じているのであれば、気の所為かも知れないが、他の者もなんとなく感じていた違和感の正体がそれだったと言う訳だ。明瞭になった違和感に、冒険者たちがざわめいている。


 「しかし、それが偶然の可能性は?」

 「またしてもいい指摘だ。その可能性もある。だが、今回の作戦において、今回弱いものばかりのグループを幾つかはなった所、そのグループに対してはすぐに強いものが現れ壊滅させようとした。転移魔方陣は数の関係でそいつらにしか渡していないが、他の強いチームには応援要請として黄色の信号弾を渡しておいた。それは今だ上がっていない。合流した強いチームの連中は偶然行き会っただけだからな」


 あまりに偶然が過ぎると思わないか?リートがセンシアに返すと、なるほどと納得が返ってくる。偶然が続けばそれは必然。ここからが本題だ、とリートは前置し、ぴっと指を立てた。


 「ここまで統率が取れた動きが出来るってことは、情報収集組と、その情報を元に指示を出す頭、実行する実行部隊がいると考えるべきだ。前者は低ランクの様子見。二番目が頭で、今回の標的。後者が高ランク魔獣とみていいだろう。効率的に撃破するにはそれが一番いい。で、この予想が当たっていると仮定した場合」


 そう言った次の瞬間、がさりと音を立てて、近くからワーウルフが飛び出してきた。


 「敵襲!Cランク、数は……」


 咄嗟に切って捨てた警戒役が視線を走らせて息をのむ。現れたのは、10を下らないワーウルフ。それ以外にもCランクを始めとして、ともすればBランクに匹敵するであろう高ランクの魔獣たちが数押し寄せてきていた。冒険者達に緊張が走る。


 「今回の作戦で、俺は意図的にこちらの頭、つまり軍師である俺がいるであろう場所を検討付けやすいように布陣しておいた。ウヌスを背後に、俺を扇の要の位置に配置し、弧を描くように10のグループを先行させた。ついでにウヌスに仕掛けてきておいた認識阻害の魔法陣で奴らがウヌスを認識しずらくすることで、尚更俺に視線が向く。結果として起こるのは俺のいるチームに対する攻撃だ。頭を潰すのは当然だろう?」


 知性があると言えど、所詮は魔物。例外はあれど、余りに整合的過ぎる、定石的な行動しかとっていない所を見ると発達途上だろうから引っかかるだろうしな。そう言ったリートはさてさて諸君?と大げさに腕を拡げたかと思うと、妖艶な笑みを浮かべて言い放った。


 「さっさとその雑魚どもを始末してくれ給え。そしたら次のフェーズに進むぞ。そうそう。ワーウルフは最初にやれ?狩り漏らしは厳禁。ポカした奴は後で覚えておけ」


 全くもって容赦のない指示である。流石に顔をひきつらせたセンシアが助けを求めるようにヴィディーレを見やってくるが、黙って首を振る事で返答する。こうなったら指示に従うしかない。その諦めに満ちた様子に、センシアは少しリートを軍師に選んだことを後悔した。


 「いや、あの坊ちゃんでなければすでに戦線崩壊していたかもしれんが……」

 「そういう事だ。諦めろ」


 デュランダルをを構えたヴィディーレが乾いた笑いを零す。その次の瞬間、脇から飛び掛かってきたワーウルフを一太刀で切りすて、地を蹴った。


 「死にたく無けりゃ気合入れろお前ら!どうせこの先も無理無茶無謀な指示が次々降ってくるんだ、気ぃ抜くとろくな目に合わんぞ!」


 そんな自棄っぱちな台詞と共に。


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