表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/40

8



 翌日。一行は二手に分かれた。一方は生存者を連れて帰還するグループ。もう一方は周辺の調査をして帰還するグループ。皆の意見からリートは薬師として生存者に同行すべきとなりかけたが、ストップをかけたのはヴィディーレだった。


 「悪いんだが、ソイツは薬師兼軍師でな。調査にその豊富な知識と洞察力が欲しい」

 「俺もその案に賛成だ。俺の知る限り、この手の調査でもっとも成果をあげるのはリートだ」


 ラフェも賛同し、結局押し切られるままに、リートも調査組へと配属。森に分け入る事になった。


 「で、どうする軍師?何か策は?」


 生存者護衛組を見送り、他の仲間を集めたヴィディーレはリートに尋ねた。先程から白い指を小さな顎に当てて何事かを思案していたリートは、一瞬だけ顔を上げたが、すぐに目を伏せた。


 「ない」

 「っておい」


 あっさりと見捨てられ、がっくりと沈み込むヴィディーレ。周りの視線が若干痛い。真面目な話をしているんだが、と喚くもリートは煩そうな視線を向けるだけ。


 「だから言っているだろう。お前たちは自分の仕事をしろ」

 「……?」


 ピタリと黙り込んだヴィディーレがリートの顔を窺う。その表情は投げやりでも何でもない。となると、何か別の考えがあって指示を出しているのだろう。


 「俺たちはただ魔素溜りを探せばいいと?」

 「正確には、魔素溜りにはあまり興味が無い。この周辺を探して、動き回れ。魔獣にエンカウントしたら、種類と数を報告しろ。それだけでいい」


 あまりにも雑な指示に冒険者達が戸惑い、ヴィディーレに指示を仰ぐ視線を向けてくる。そんな彼自身も、魔素溜りに興味が無いという台詞に戸惑っていたが、意識を切り替える。そんな所で引っかかっていてはリートに置いて行かれる。皆の顔を見回し、頷きかけた。


 調査が始まった。


―――――――――――



 「Eランク!エンカウント!数は5!」

 「こっちはDで3匹だ!」


 あちらこちらで残党と思われる魔獣と遭遇する。とても数が多すぎて魔素溜り探しどころではない。お互いに背を預け合って守り合いながら、徐々に進んでいく。


 「おいおい。冗談じゃない。増えてるとは聞いていたが、ここまでなんて想像してなかったぞ」

 「ああ。まるで魔素溜りを探させないようにも感じるな」


 壮年の槍使い冒険者と息を合わせて魔獣を屠りながら、意見を交わす。はっとした表情でこちらを見てくる彼に、険しい顔を見せる。その会話が聞こえていた周囲の者達にも動揺が走る。このまま魔素溜りが見つからなければじり貧だ。後から後から滲む汗をぬぐい、ヴィディーレはマップを引っ張り出す。


 「つっても、なんで見つからないんだ……?!残りこれだけしかないのに見つからないとか、どれだけ運が無いんだっての」

 「あるいはそうではないのかもな」

 「リート?」


 ゆっくりと後方から歩み寄ってきた軍師が、切り捨てられた魔獣の傍に片膝をつき、観察している。その表情は今までで一番固い。じっくりと観察していたが、優雅な動作で立ち上がり、ヴィディーレを鋭く一瞥した。


 「皆に声を掛けろ。街に戻るぞ」

 「は?」


 そのままさっさと背を向けて馬にまたがるリート。冒険者達も、慣れてきたとは言えいきなりの方向転換についていけないようだ。動きが固まっている。慌ててその細い背中を追いかけると、そのまま追い抜いて前に立ちふさがる。


 「ちょっち待て。説明」

 「面倒……」

 「なんて言ってる場合か!俺たち何が起きてるのか全く理解できてないんだ。お前のよく回る頭を全員持ってる訳じゃないんだから、せめて突拍子もない事をするなら説明しろ!そうでなければ動き様がない!」

 「兵士の仕事は黙って動くことだが……分かったその視線を止めろ」


 何がなんでも吐いてもらうぞ、と座った目を向けられリートはため息をついた。面倒だから簡潔に話す、その足りない頭に刻みつけておけ、と毒を吐くとピンと指を立てた。


 「何度も言っているが、今回の件において俺は魔素溜りに興味はない。何故だかわかるか?」

 「それが分からん。魔獣の大量発生と言えば魔素溜りだろう。見つけなければならないと思うのは当然だ」

 「ああ。それが定石だからな。だが、あくまで定石だ。物事には例外がある」


 すっと指先を魔獣の死骸に向け、リートは疑問を呈する。


 「ここでクエスチョン。先程まで、何度も戦闘が起った。この戦いに関して、なにか違和感を持ったヤツはいないのか」


 あまりに抽象的な問いに対し、皆がその指先を無意識に視線で追いかけ戦闘を反芻する。だが。


 「弱いヤツ、としか思わなかったんだが」

 「俺も」


 ぼそぼそと声が上がる。困惑気味に顔を見合わせていたが、その内の真っ先に声を上げた年若い冒険者に向けてリートの指先が突き付けられる。


 「ザッツライト。その通り、弱すぎる」

 「は?」


 そりゃそうだろう、DランクEランクなのだから、と顔に書く彼ら。まだ分からないのか、とリートは不機嫌そうに言う。


 「ディーレ。魔素溜りが発生しているだろう可能性がある場所は?」

 「?既に調査済みの所が大半だから、マップからして、未調査のこの辺にある……はず……」


 条件反射的に質問に応えたヴィディーレだったが、ふと自分の回答に引っかかりを覚え、思考し始めた。何が引っかかった、と自問自答していると、リートがもう一問出題してきた。


 「愚か者どもにサービスだ。クエスチョン。魔素溜り周辺の魔獣はどうなる?」


 それを聞いた瞬間に、察しの良い者達が何人か顔をあげ、青ざめさせた。その内の一人であるヴィディーレも、どうして気付かなかったのかと愕然としている。


 「魔素溜りがある場所の魔獣は強くなるのが一般的。それがギルドが警戒し、さっさと解決を図る理由。なのに」

 「そう。魔素溜りがあるだろうこの周辺ですら、このザマだ。ランクが低い魔獣でも疑似的に一つから二つランクが上がるのが、それこそ定石。なのにもかかわらず、コイツ等はあくまでレベルに見合った力しか持ち得ていない。どうして低ランクの魔物しか出てこないのだろうな?」


 そこまで来て、事の異常さが分かったのだろう。冒険者達が色めき立つ。その過程で行けば、魔素溜りが存在しないという事になる。そうでなければ辻褄が合わない。だが、それではどうして魔獣が大量発生しているのか。全く読めない状況に置かれている事を理解し、冒険者達の警戒が最大にまで引き上げられる。


 縋るような眼差しを受け、心底嫌そうな顔をしたリートは渋々口を開く。


 「仮説にしか過ぎないがな。とある若い冒険者がなかなか面白い事をさっき口走っていた。それが正解かも知れんぞ」


 そう言って視線を向けた先に居たのは、先程リートの問いに真っ先に応えた青年。多くの視線に晒されたじろいでいる。しかも身に覚えのない話付き。汗を流して記憶を遡っている青年に背を向けたリートは、街に戻るぞともう一度声をかけた。


 「警戒され様子を見られているようだ、だと。なかなか面白い事を言うと思わないか?」


 そう言うや否や、リートは馬に命じて走り出した。キャパオーバーで凍り付いていた男たちであったが、見送って暫くすると、はっと我に返りリートの後を追った。


 既に事は彼らの想像を超えている。ここはリートに従うべきだ。男たちの意見は一致した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ