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 「ギルドマスターに面会を。下っ端ならともかく、Aランクならば会えるだろう」

 「は、はぁ」


 やけに鼻息荒い精悍な顔立ちの青年と、男の色気を立ち昇らせる美丈夫のコンビ。ついでにいうと、そのがっしりした肩に担がれたるは、女とも見紛う美貌の青年。彼だけはやたらと嫌そうな顔をして逃げ出そうともがいている。


 控えめに言って、変なパーティーである。馬鹿アホ間抜けの三拍子そろった冒険者たちを普段から相手どる百戦錬磨の受付嬢をして、引きつる顔を隠し切れない。しかし、仕事だ、と自分に言い聞かせると慌ててギルドマスターの部屋へと走り去っていった。


 セネクスを救助して、そのまま彼の住む近くの農村へと送り届けた帰り。ヴィディーレとラフェは嫌がるリートを捕まえてギルド会館に寄っていた。


 「ここまで来たら付き合えよ?これまでどれだけ苦労してお前たちに付き合ったと思ってる?少しくらいそれに応じてくれても罰は当たらないよな?」


 などと笑顔で言ったヴィディーレの圧力に負けたなんて言わない。軟弱モヤシ薬師が叶う訳が無いのだ。かくしてこんな様をお見せしている訳だが、謎極まりないそのパーティーに周囲の者達も興味津々だ。


 「そろそろ降ろせ……。視線がいたい……」

 「降ろしたら逃げるだろうが」

 「馬鹿者。軟弱万年インドア派が体力あり余る戦闘職相手に鬼ごっこできると思うてか」

 「うわ……。超機嫌わりぃ」


 暴れ疲れてぐったりしたリートがラフェの服を引っ張って訴えてくる。笑顔で却下したヴィディーレだったが、リートのいう事に一理ある。ふむ、と考え込む彼の脇で、リートを押さえつける任を負ったラフェの引きつった顔は見ない事にする。リートをおろすか否かの論戦は、しかしそれ以上進むことはなかった。


 「ヴィディーレさん。どうぞこちらへ」

 「お?」


 先程の受付嬢が息せき切って現れたのだ。予想以上に早く面会できる事に面食らうヴィディーレ。しかし、ゆるゆると顔を上げたリートはお構いなしに、彼に告げた。


 「阿呆。さっきのジジイも言ってただろう。()()()()()()()()()()()()()、と。分かったらさっさと行かんか」


 はっとした顔で頷いたヴィディーレは、すぐに身を翻して受付嬢の後を追った。勿論、荷物よろしく担がれたリートをそのままにラフェが更にその後を追う。


 ログハウス調のこのギルド会館は、中身もシンプルな作りだったらしい。すぐにギルドマスターの部屋に通された。待っていたのは片目が刀傷によって潰れている壮年の男。もっさりとした口ひげも相まって、厳めしい。ギルドマスターに相応しい威厳、とでも言っておけばよいだろうか。


 「お前さんがAランクのヴィディーレか?俺はここ、ウヌスの冒険者ギルドでマスターをしている、インハーバーだ。よろしく」

 「どうも。ヴィディーレです」


 がっしりと握手を交わす二人。ヴィディーレはチラリとインハーバーと名乗った男を観察した。少し足を引きずるような動きをしている。体つきからみても元はかなりの猛者だったのだろうが、怪我が原因で引退してギルドマスターをしていると言ったところか。


 そこまで一瞬で観察して、隻眼を見つめると、ニヤッと笑われた。観察している事がバレたのだろう。


 「いいさ。観察は冒険者にとって必要なスキルだ」

 「……どうも」


 常日頃から観察しろ頭を働かせ、と勢いよく罵倒されまくっているヴィディーレである。間違った事は言われていないのだが、なんともいない敗北感がある。背後のラフェも苦笑している気配がした。


 「後ろの二人は?」

 「あー。訳あってパーティー組んでる奴らだ。まぁ、その、使えないが使える奴らだ」

 「矛盾してるぞ。大丈夫か」


 呆れ顔で宣ったギルドマスターは、しかし、ラフェを見て怪訝そうな顔をした。


 「おいそこのデカいの。お前さんランクは?」

 「E!」

 「威張る事ではないだろう馬鹿め」


 厚い胸板を逸らすラフェにすかさずツッコミが入る。高ランク冒険者がやってくればもれなく報告に上がるはず。しかし、ヴィディーレ以外の情報は上がってきていないのに、コイツはなんだと確かめようとしたのだろう。インハーバーが更に困惑した顔を向けてくるが、ヴィディーレとしてもコメントしずらい。


 「詳細は俺もしらん。恐ろしく使えないが度肝を抜くくらいには使える奴らだと思っておけばいい」

 「……まぁいい。座れ」


 追求を諦めたのだろう。インハーバーが席を勧めてくるのに応じ、ヴィディーレが座る。その後ろにラフェが立ち、漸く降ろされたリートがブツブツ文句を言いながらシレっとヴィディーレの隣に座る。ここまでの強行軍が彼の薄い体には答えたらしい。ぐったりと寄り掛かっている。


 「……突っ込みたい所は山ほどあるが、そこらへんも、前置も飛ばすぞ。お互い要件は同じはずだ」

 「ああ。それで頼む」


 諸々飲み込んだ顔をしたインハーバーが真面目な顔を取り戻して切り込んでくる。面倒な話を飛ばしてくれ、と冒険者らしいあっさりとした態度で謂れ、頷く。


 「何処まで知っている?」

 「魔獣が大量発生している。狩猟が出来ず、ジビエ料理(特産)に影響し、それが住人の生活に影を落としている。魔獣を退けようとも、冒険者が足りずギルドが動かない」

 「……驚いたな。この街に来てそんなに経っていないだろうに、よくそこまで調べたもんだ」

 「……まぁな」


 隣で以外にも行儀よろしく紅茶を啜っているリートを一瞥し、ヴィディーレは濁した。目を見張っていたインハーバーは、なんとも釈然としない顔をするが、優先順位を違える事をしなかった。話を続ける。


 「大まかにはその通りだ。で、お前さんたちの要求は?」

 「一つ。俺たちも魔獣討伐に参加――」

 「黙ってろ阿呆」

 「ぐぅ!」


 さっさと口を開いたヴィディーレだったが、すかさず隣から鉄肘を打ち込まれ、前のめりに潰れる。地味にクリーンヒットした、と呻く彼を興味無さそうに一瞥したリートが視線を向けると、あっけに取られた顔で固まるインハーバーがいた。


 なんか既についていけねぇ、と呻いた彼は、しかし、逆に吹っ切れたのか、悟りを開いたような顔になった。


 「で、次はお前か?」

 「ああ。要求はまず一つ。知っている情報をよこせ。開示しろ」

 「と言うと?」

 「冒険者ギルドが動かない、と言っていたぞ。どうして動かない。動けない理由は何だ」

 「……なるほど。お前がパーティーの参謀か」


 如何にも貧弱で戦闘職二人に似つかわしくない彼が、どうして帯同しているかを理解したのだろう。若干すっきりした顔で、インハーバーは顎を撫でた。


 「どう思う……と聞きたいところだがその視線から察するに、お前も相当短気だな?……と分かったわかった落ち着けや」


 ギロリと不機嫌そうに睨まれ、苦笑する。すっと目を細めて、真剣な声で説明を始めた。


 「一言で言えば、他ギルドに応援要請が出来ない。基準を満たしていないんだ」

 「基準?そんなモノがあるのか?」

 「馬鹿め。冒険者ってのは基本的に介入を嫌う。その地に根付く者であれば尚更。そのため、下手な諍いを招かないために、態々不可侵条項を盛り込んで、相当な事情が無ければ動けないようにしているのだ」


 口を挟んできたラフェを一蹴するリート。黙って聞いていろ、と睨まれ引っ込む。


 「優秀だな軍師殿。よく知っている」

 「お世辞は言い。先を言え」

 「お前さんなら何となく察しがついている気がするが、まぁいい。おそらくお前さんの予想通り、ギルドに報告される被害が左程酷いものではないんだ」

 「は?」


 復活したヴィディーレが、ポカンと口を開ける。いや、俺たちさっき猟師助けたんだけど?と呟くが、インハーバーは腕組みをして唸る。


 「ああ。憶測で行けば、最近起きている魔獣被害は、恐らくそれなりのランクの奴らなんだろうが、目撃情報はどうもDランクだのEランクだのが多くてな。弱いランクの奴らってのは質より量って感じだから、どれだけ増えても問題として取り上げられない」

 「だが、今回出くわしたのはCランクだったぞ?」

 「頭を使わんか。死人に口なし、という格言を知らないのか」


 冷ややかに切って捨てられ、黙り込む。俺たちもそう考えていてな、とインハーバーが険しい顔で賛同する。


 「だが、証拠がない。お陰でギルドとしてとれる対応が限られていて。お陰で後手後手だ」

 「どうしてそんな事に」

 「分らん。でも、帰ってくる冒険者たちは、この辺は平和だとか言いだす始末でな。弱いヤツとしかエンカウントしないらしい。参るぜホント」


 お手上げだ、と両手をあげるインハーバー。更に状況が混迷していく事に、さしものヴィディーレも険しい顔を崩せない。


 「この手の魔獣大量発生は、魔素溜りによるものだよな」

 「ああ。俺もそう思って、ギルドに懇意にしてくれる実力者にそれとなく探してくれるように頼んでいるんだがな」


 魔素溜り。魔獣の大量発生における一般的な原因として挙げられるものだ。


 理由としては、魔獣は体内に魔力を持つため、濃い魔力を漂わせる魔素溜りに引かれる。動物が魔素溜りの付近で生活している時に、少しずつ体内に魔力をためて魔獣と化したなど。大概見つかりにくい場所――正確には人通りの少ない場所に発生しやすいため、発見するには時間がかかる。


 「見つかっていないのか」

 「ああ。全くやりづらくてしょうがない」


 困ったもんだぜ、と強面の顔を顰めたインハーバーは、そのままぐっと机に肘をついて見をのりだすと、そこで頼みがあるんだが、と切り出した。


 「お前たちには、本格的に魔素溜りを探してほしい。それが見つかればかなり状況が良くなるはずだ。こちらには、今まで見て回った場所で魔素溜りが確認されていない場所をまとめたマップがあるからソレを参考にしてくれ」

 「なるほどな」


 妥当な判断だ、と頷いたヴィディーレは、ふとリートの小さな頭を見下ろした。なんだ、と睨みあげられ方眉をあげる。


 「ああ、何せギルマスの手を取ろうとしたら鉄肘喰らった苦い経験をさっきしたばかりだからな。一応聞いておこうかと」

 「先程のは何も情報が無い中で参戦しようとする暴挙を止めただけだ。俺が真っ先に死ぬわ阿呆」


 ふいっとそっぽを向かれ、苦笑する。何のかんのいいつつ付き合ってくれる程度には面倒見がいい。引き受けよう、と声を掛けると、皺だらけの顔を更にクシャリと皺を寄せてそう来なくてはと近くにあった鈴を鳴らす。


 「ああ、例の物を」


 音を聞いてやってきたギルド職員にそう告げると、すぐに下がっていき戻って来た。手には羊皮紙。そのまま職員から渡され、紐を解いて拡げる。後ろと横から覗き込んでくる気配をそのままに視線を滑らせる。


 「それがマップだ。よろしく頼むぜ」

 「ああ」


 ウヌスを中心にかなりの範囲で魔素溜りが確認されていない場所が記されている。これならばすぐに見つかるだろう、と胸を撫でおろし頭の中で予定を組み立てる。隣の秀麗な顔が、更に険しく歪んでいる事に気付くことなく。


 何か手伝いが必要だったらすぐに言え、という有難い言葉を背に、三人は宿に戻った。既に日は落ち切っている。探索は翌日に持ち越しだ。さっくりと集合時刻を決め、三人はそれぞれの部屋に戻っていった。


 その夜、事件は起こった。


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