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縄

作者: VISIA
掲載日:2017/10/01

お食事中の方は御遠慮ください。

 昼食後に便意を催した男は、美肌で艶やかな陶器製の水洗和式便器に対し、血便という暴力を奮った。


 尻穴からの出血が、涙のように内股を伝って床に垂れる。


 男は静かに溜息をつき、傷だらけの銀色のレバーを足でグイと踏んだ。


 すると、錆の混ざった頼りない水流が、重い大便をゆっくりと押して、頼りなく窪みに落とす。


 大便は、主との別れを名残惜しむように、下水へ押し込まれるのに対し抵抗を見せたが、最後にはコーティングを剥がされ、ふやけて無力化した。


 そして、力尽き下水へ呑み込まれる瞬間、呪詛を込めた茶色の“汚糞線 ”を便器の壁面に残して、ゴオォと悲鳴を上げた。



 静寂を待ってズボンを上げ、ベルトを強く締めて個室を後にした男は、その時に拭き忘れた尻で、長年履き続けて黄ばんだ木綿ブリーフに新たなシミを増やした。



 夜になって、銭湯での脱衣中に新たな赤茶色のシミに気づいた男は、脱いだ木綿ブリーフを乱暴に手で丸め、ゴミ箱に投げ捨てて全裸になると、前を隠さず体を洗わず奥の大浴場にズカズカ進み、深めの湯船に荒々しく沈む。


 そして、怪獣映画さながら腰まで湯面から出して、移動しながら湯の抵抗を下半身に集中させて身を清め、1分程で湯船から出た。


 そのまま脱衣場に戻り、濡れた体に服を着てズボンを履き銭湯を後にすると、コンビニで買った缶ビールを飲み干し、満月の光で伸びる自分の影で遊びながら、川の堤防沿いの道をフラフラと歩いた。




 ズボンの中もフラフラさせながら家へ帰る途中、男は急に尿意を催す。



 急ぎ立ち寄った公衆便所は、汚れと落書きと芳香剤の臭いが際立つ、女性ならば不安を感じる立入り難い場所だったが、男は故郷の懐かしさを感じ、深呼吸して噎せた。



 ゲホッゲホッと肺を整え、奥の小便器の前に立って床に付くまでズボンを下ろすと、右手で股間のゴムホースを掴んで狙いを定める。



 膀胱から解放された尿が、尿道の出口に達する直前、その小便器の中に、


────仏の顔も三度やで


と、太ももに落書きが書いてある、20cm程の量産品の仏像を見つけ、男は慌てて尿道を指で挟み膀胱を締め、尿を強引に止めた。



 そのまま仏像を拾おうとして、最大限のばした左手で仏像を掴んだ時、男は突然、止められぬ大きなクシャミをした。


 その反動で額を小便器にぶつけ、痛さで仰向けに倒れた男は、思わず右手を離し額を押さえる。



 すると、股間のゴムホースから尿が吹き出し、制御不能になって西へ東へと股間のゴムホースが暴れ出した。


 幸い掴んでいる仏像を汚す事は無かったが、尿の勢いが収まるまで為す術が無く、男は今日7回目の溜息をついた。


 尿の出が途切れた所で、尿道の残尿を振り絞って立ち上がり、汚れた黄染みのズボンをその場で乱暴に脱ぎ捨て、ヤケになって上着も全て脱ぎ捨てた。



 そのまま公衆便所から外に出ると、激しい雨が降っていた。



 濡れた体で自宅に帰る。妻と別れてから荒れ放題の部屋は、凄惨な光景だった。


 先に仏像を置く部屋と場所を決めると、散乱するゴミを足というブルドーザーで半畳ほど整地して、丁寧に仏像を置いた。


────両手を合わせて1分ほど拝む。


 男は、抜けられぬ犯罪組織の中で、自分の犯した罪を悔やんでいた。心の内を全て仏像に打ち明け泣き疲れて、そのまま横になって眠ってしまった。



 翌朝からは毎日、仏像の前にフォアグラなど様々な御供物を置いた。


 すると、男が目を離した僅かな時間に、御供物が消える怪奇現象が起き始め、それが消えた後は必ず、仏像の口の周りが下品に汚れていた。


 その時の仏像は、普段の冷ややかな表情とは真逆の、穏やかで心が癒される頰笑みに変わった。



 やがて、少しずつ太っていく仏像に段々愛着が湧いてきた男は、普段の生活でも肌身離さず持ち歩くようになる。




 それから半年ほど過ぎた頃、男は夜仕事中に、組織に多大な損害を与える規模のミスをした。


 身の危険を感じ現場から逃走して、盗難自転車・盗難バイク・盗難車と乗り継ぎ、その日の夜に2つの県境を越えた男は、


────朝までは大丈夫だろう。


と気を緩め、普段ならば無視する、暗く不衛生の客が居ない定食店に入り、入口近くの席に座った。


 適当に頼んで出てきた料理を、殆ど噛まずに飲み込み続ける。


 腹が膨れた所で、酔っ払った店主が見ているテレビ番組の女性が脱ぎ出したスキをついて、店外に停めていた盗難車に乗り込み発進させ、食い逃げを謀った。


 だが、運転中に突然の下痢と嘔吐で事故を起こし、横転した車内で動けなくなる。


 出血が止まらない男が死ぬ直前、男を囲むように車内から血の気のない男女の腕が生えて来た。


 腕の虫籠に入れられた男は、それらの腕の中に死んだ祖母の火傷の痣を見つけて驚き、目を大きく見開いて口を大きく開け、涙をこぼす。


 それらの腕は、男の体を強引に掴むと、一瞬で男と共に姿を消した。


 その先はアノ世で、男は紅白の凶鬼2匹に拘束された。




 男が連れて行かれたのは、壁や天井が白色で統一された100畳程の独房で、中央には調理済みの湯気立つ食べ物が山のように、汚い畳の上に直接置かれていた。


────奥の壁際にある洋便器が、小さく見える。



 見上げた天井は遥か高く、四隅の角が角砂糖の大きさ程に小さく見え 、その中央に開いた穴から暖かな光が漏れ出ていた。



 男は、落ち着かない様子で、食べ物の傍に正座をして座った。服装は生前のボロ服のままだった。


 仏像は無くなっていた。



『腹が減ったら食え、糞したくなったら便所に行け、好きにしていい。』


としか、凶鬼達からは言われていない。



 本当に自分は死んだのか、男には未だ実感が湧かない。顔を思い切り抓ると、死ぬほど痛かった。


────痛覚が敏感になっていた。



 凶鬼達が独房から去って1人にされた男は、興味深そうに目の前の積まれた食べ物を見上げた。


 スプーンや皿などの食器は周りには無い。恐る恐る利き手を伸ばし、掴みやすい所をちぎって、そのまま口に運ぶ。


────あっあっ


 それは、何処かで食べた覚えのある懐かしい味で、夢中になって次々と食い漁った。昔を思い出して涙ぐみ、さらに派手に食い散らかした。


 食べ物は、ある程度減った頃に上から“ どちゃどちゃ” 落ちて来て一定量補充される。男は遠慮なく食い乱した。




 食べるだけ食べて腹を満たすと、男は便所に行きたくなった。


 奥に進んで、ズボンと下着を下げて洋式便器に座り、幸福感に包まれた下っ腹へ力を込める。


 人尻程度に温められた便座から伝わる熱で、尻に心地よい汗をかいた。



 暫くして腸の中で何かがウネウネと蠢き、尻穴付近で大きく膨らみ、男が攻撃的な異物を感じた時、“ ソレ”が頭をだした。


 “ ソレ”は、尻穴が焼けるような熱くヒリヒリした感覚の後に続いて、内側から目一杯に尻穴を広げて出てくると、出血を伴う激痛を走らせて、乱暴に尻穴を裂いた。



 便座の熱が“ ソレ”を温め、酷い臭いが嗅覚を刺激する。



 激痛が5秒続いた後、流血を伴って便器内の水溜まりに“ ソレ“がボトンと落ちた。その時に跳ねた水飛沫が尻穴周辺を濡らし、一部は体内に取り込まれた。


 だが“ ソレ”の上端は、まだ男の体内に残った。男が産卵時の鮭のように口を開け、泣き叫びながら排便を行った後に便器を覗くと、水の色が紅く染まっていた。


 その紅い水面に、釘バットのような硬く真っ直ぐで太くて厳つい、突起だらけの太い糞が頭を出していた。



────休む間もなく、便意の第2波が襲来する。



 男は我慢出来ず、傷んだ尻穴を更に血だらけにして、苦しみの排便を泣きながら済ませた。意識朦朧でズボンを上げようとして途中で力尽き、うつ伏せにバタリと倒れた。



 そのまま10分ほど過ぎた時、急に腹が減ってきた。


 男は、湧き上がる食の衝動を抑え切れず、食べ物の積まれている所まで、何かに取り憑かれたように這って行った。



 そして、狂気的に笑みを浮かべ、両手で食べ物を毟り取って、口に次々と運び続けた。


 男は、食べるだけ食べた後に、便意が来て嫌な記憶が蘇り正気に戻って顔が青ざめた。直後に来た腹痛を我慢できず便所に走り、再び糞釘バットに苦しめられ、ギャアアという苦しみの叫び声を部屋に響かせた。



 続けて排便することに精も根も尽き果て、便器から離れて何とか辿り着いた食べ物の側で、今度は仰向けに倒れた。そのまま動けなくなり、男は意識を失った。



 暫くして目覚めると、まだ食欲が湧くまで時間が掛かりそうで安心した。


 背中が痛くなって体を起こした時、上の方から太さ3センチ程の茶色の縄が、ゆっくりと男の目の前に降りて来た。


────昔、何かの本で読んだ記憶が蘇る。


 男は、その縄を右手で掴んで起き上がった。少し生暖くヌルヌルした感触が、何時までも手に残って気持悪い。



 だが、コレを登っていけば何か良い事が起きるような気がして、男は体力を振り絞って縄を登り始めた。



 縄を苦労して登って行くと、天井の穴を塞いでいる物から、茶色の縄を生み出し続けている穴が見える。すぐ側には大きく柔らかそうな、金色の皺袋と突起物が揺れていた。


────その光景に見覚えがあった。


 男が死ぬ前日に見た、公衆便所の壁に描かれた落書きの、


『>、*、ε、つ』


という文字列の記憶。



 また、その近くに『仏の顔も三度やで』という文字が見えた。


 男は、更に縄を登り続け、大きな穴に手が届く所まで近づく。


 穴の周りには金色の曲毛が生えていて、手を伸ばして掴み引っ張ってみると、なかなか丈夫そうだった。



────慎重に金色の毛に乗り移る



 すると、男が登って来た茶色の縄が切れて、静かに下に落ちて行った。


 茶色の縄は落下途中で、男が食べていた物に姿を変化させ、数秒の後に床に衝突して、飛沫等を辺りに飛び散らし部屋を汚した。


 男は、金色の毛を頼りに上へ上へと、金色の皺袋とは反対方向へ登っている途中で、縄が見せた変化の一部始終には気付いていない。



────穴がぶるぶると震えて硫黄臭の風が吹き、大きな音が響き渡る。



 夢中で登っていた男が驚いて辺りを見回すと、そこは高い白壁の立つ、殺風景な場所だった。



 ────『>、*、ε、つ』の落書きも見える。



 上からは、空気の流れを作り出す何かが、ぶおんぶおんと唸っていた。



────ココはドコナンダ?



 男は、その疑問が払拭されないまま、大きな皺くちゃの汚れた白い紙に巻き込まれて、下へ落ちていった。


 男は落ちていく途中、別れた妻の臭いを突然感じて、感慨を抱く。


 仏像を拾ってきた次の日、別かれた妻が訪ねてきたが、男が目を離した一瞬で姿を消して行方不明になったアノ日の出来事を思い出した。



────その妻臭の紙も、途中で食べ物に変化した



 何か思い当たって男は苦笑いしながら、床上の食べ物の真ん中へ、激しく突っ込んだ。


 それから間も無く、落ちてくる食べ物が形を保てない程に柔らかくなり、液体が混ざり始めた刹那、未消化の何かが落ちてきた。


 男が近づいて確認すると、何処かで見た事のある、顔の汚い人物だった。


 話を聞いてみると、食い逃げした男が落としていった仏像に食い物を要求され、店の余り物を与えたら腹を下してキレられ、腹癒せに自分も食われたらしい。


 男は苦笑いした。

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