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終わりの始まり

「君が件の女の子ね⋯⋯」


 病院の診察室で、面倒臭そうに医者はそう言う。


「医者として一つ忠告させてもらう。君は何故ここに来る?ここに来た所で、()なんて一つも無いよ?」


 そんなの決まっている。千真の容態を見に来たからだ。

 私は何度もこの病院に来たが、はぐらかされ続け、医者に会うことすら出来なかった。

 それでも、今までは受け付けの段階で拒否されていたのが、今日は医者に会うことが出来たのだ。


 これは大きな進展だ。


「それにしても、君は彼とどんな関係なんだい?彼氏彼女の関係かい?」


 そんなに質問攻めにされても困ると私は思った。

 それと同時に、彼氏彼女の関係だったら良かったのにとも思った。


「これを聞いてください」


 私は二つ目の質問を無視し、ボイスレコーダーを医者に渡した。


「ふむ、とりあえず聞いてみるか」


 ボイスレコーダーから流れてきた声は、


「君達が更なる進化を遂げる事に、期待しているよ」


 こんな感じの、意味が分からない言葉だった。

 だが、この声には妙な狂気が含まれている様な気がした。何故そう思ったのかは分からない。強いて言うなら、直感と言うやつだ。


「なるほど、これで彼があんな状態になったのも納得できる」


 一人で勝手に納得されても困る。あんな状態と言われても私には分からない。

 そもそも、このボイスレコーダーは()、自分の家の郵便受けの中に入っていた。


  そして、このボイスレコーダーには置き手紙らしき物が貼り付けられてあった。


  そこには『医者に見せろ』とだけ書かれていた。

  どの医者の事を指しているのか最初は分からなかったが、よく考えてみると、今の私の状況を考えると一人の医者しか思い付かなかった。

  だからこの医者に見せたのだが、それは正解だったようだ。


「一人で納得されて困ると言う表情をしているね⋯⋯いいだろう、彼に会わせてあげるよ」


 医者に感情を見透かされている事に驚いたが、それを覆す様な驚くべき発言をこの医者はした。

 今まで頑なに医者に会うことすら拒否され続けていたのに、このボイスレコーダー一つで千真との面会が可能になったのだ。


「良いんですか!?」


 私は思わず聞いてしまった。


「もちろん。君が会いたいのならね」


  医者はそう言い、私の事を手招きした。


 私は大人しく、医者の後に付いていく事にした。



 ――



 コンコン


 病室のドアをノックする。


 すぐに返事は来ない。その間にも私の心臓の脈打つスピードは、急激に加速していく。


「どうぞ」


 ノックして数秒が経つと、聞き慣れた声で「どうぞ」と返ってきた。


 私は返事が来た瞬間、緊張しつつも病室のドアを開ける。


 病室の中に居た千真は、頭に包帯、腕と足にはギプスを嵌めているというとても痛々しい状態だったが、表情や雰囲気は、常の千真と何ら変わらない様子だった。


 千真が病院に運び込まれたと聞いた時は、不安で胸が張り裂けそうになったが、今の千真の様子を見て私の不安は取り除かれた。


 私は思わず飛び付いてしまいそうになったが、それは思いとどまった。

 今飛びついてしまえば、千真の怪我は悪化してしまう。それにちょっぴり恥ずかしい。


「元気?」


  だから私は、当たり障りのない「元気?」という一言を呟き、千真のベッドへと近付いた。


「……元気だよ」


 千真は数秒の沈黙を挟んだ後、「元気だよ」と返してくれた。

  それだけのやり取りだけで私の心は、満たされていた。


「お嬢ちゃん。そろそろ良いかな?」


 医者から遠回しに、病室を出てくれないかなと言われたので、私は大人しく従った。

 会わしてもらえた事だけでも満足なのに、これ以上求めるのは欲張りだ。


「またね」


 私は最後にそう一言残し、千真の病室を去った。

 


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