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立派な白犬

作者: 黒瀬 新吉

「おいそっちだ、追いこめ」

「ガチャン」と遂にその白犬はオリに入れられた。この町の野犬狩りだ。犬はついこの前までは町の大きな屋敷で「でん」と置かれた立派な囲いの中で暮らしていた、それが老人の愛犬「秋田犬」のタロだ。

老人が死にその遺産は都会に住んだっきりの二人の子供が、ひと月もしないうちにさっさと分けて持ち去った。なんとあっけないことだ。 裏の納屋には老人が大切にしまっていた、兄が初めて歩いた時の靴や小学校で描いた絵や作文。弟の自転車や五月人形もそのまま放っておかれていた。三人の家政婦と不動産屋の目にはそれはもはや「がらくた」としか映らない。それでも納屋の整理に思いのほか時間をかけたのは「お宝」のひとつでもありそうだったからだ。

期待した「お宝」はあったのだろうか。やがて一人そしてまた一人と老人の世話をしていた者も屋敷を離れていった。最後は最近入ったばかりの使用人の女が残った。それまでおとなしかったタロは自分はどうなるのか不安で遂に短く吠えた。その声に驚いて女は顔を上げた。だがそれきり門に向った。しきりに吠えるタロの声は重く頑丈な門が閉まると、外にはもう聞こえなくなった 。

 兄弟はさほど仲が悪くなかった、父親の残した財産はすべて処分されて現金に換えられ、そして半分ずつ二人に分けられた。残った「ゴミ」は老人が残した価値のない昔の思い出と「白い秋田犬」だけだった。どちらから言いだしたのかさすがに殺すのは忍びないと、屋敷の使用人の中で一番若い女に十分な餌代を渡してその白い犬は「処分」された。

 その女のマンションはペット禁止であったことと、不運なことに「秋田犬」という立派な体格では部屋のなかでコッソリ飼うこともできない。結局のところ、タロは帰り道の峠道で輸入物のドッグフードとともに置いてけぼりにされた。


 数週間経ったころには、タロは立派な野良犬のボスに出世していた。

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