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アメコミヒーローがTPPを利用して日本ヒロインをキモヲタから救出する計画を思いついたようです

作者: 斉藤ミツバ

前々から、格闘家にしろ能力者にしろ強キャラである非実在青少年が、たかが一般人ごときに陵辱されてる同人誌は変だなぁと思っていました。

先日たまたま、TPPにおいて著作権は非親告罪というのが話題なったので、思いつくままに書いてみました。とくに政治的意図はありませんので肩の力を抜いてご一読いただければ嬉しいです。

 私はアメイジンライジン。日本ではアメイジングライジングとグをつけて発音されることが多い。

職業はもちろんヒーロー。アメリカ合衆国ニューヨーク在住だ。

日夜、犯罪組織やアメリカ侵略を企む共産主義のエイリアンと死闘を繰り広げているナイスガイさ。


 ある日、私は恐るべき書物を入手した。

ドウジンシと呼ばれるその書物は数ページの漫画本にすぎないのだが、なによりも内容がショッキングだった。

日本の友人、魔法少女ピュアウインドがジャポニーズヤクザたちに乱暴され妊娠してしまう姿が克明に描かれていた。


 なんと愚かな事を……。彼らは自分たちが何をしたかわかっているのか?

ピュアウインドを失って、いったい誰が日本を深海邪神帝国から守護(まも)るというのだ!?


 私は焦りと不安、そして僅かな希望を胸に国際電話をかけた。


 発信音が流れる。

……頼む。出てくれ、無事でいてくれぇ……!


プッ『お久しぶりです、アメライさん!』


 受話器の向こうから、あどけなく元気そうな少女の声が聞こえてきた。

良かった。ピュアウインドはとりあえず無事なようだ。


「ピュアウインド、無事か!? ジャポニーズヤクザから酷い目に合わされてないかい!?」

『ちょっと、どうされたんですか? そんなに慌てて。

 私は魔法少女ですよ。どうしてヤクザが私を酷い目に合わすことができるんですか?

 むしろ私が酷い目に合わせたかもしれません』


 言われてみればもっともである。

日夜、深海邪神帝国の魚人兵と戦う戦士が、普通の人間に遅れをとることなどありえない。

 

 私は、ドウジンシの事を彼女に話した。


「――ということがあったのだよ。てっきり本当の事かと」

『あははっ、あれは深海邪神帝国が嫌がらせでやったことなんですよー。

 全部フィクション。ネガキャンで精神攻撃を仕掛けているんですよ』

「そ、そうなのか?」

『アメリカのことはわかんないですけど、日本じゃ普通ですよー。

 もっとも、それでショックを受けて辞めちゃう子も多いんですよ。

 友達のメルヘンちゃんも……』

「日本のヴィラン(悪者)はえげつないな」

『……ところで』

「?」

『私がヤクザに乱暴された同人誌を読んだんですか?』

「……」

『読んだんですね』

「ソーリー」


 その後、ピュアウインドと近況を報告し合い電話を切ったが、

日本のヒロインたちを追いつめるドウジンシなるものに興味を持ち、知り合いの弁護士に相談することにした。






 数日後、私は友人スティーブの法律事務所を訪ねた。


「よぉ、アメイジンライジン。今日はどのヴィランを訴訟(そしょ)るつもりだい?」

「おいスティーブ待ってくれ。話したろ、今日来たのはそんなことじゃない」

「オウケー、わかってるよ。ジャップのドウジンシ問題。だろ」

「イエス、わかってるじゃないか」

「では、本題に入ろうか」

「おう、頼む」

「そもそも、これはもう解決済の問題だよ」

「なに?」

「そもそも、ドウジンシはジャップのギーク(オタク)が始めたことで、

 アニメやゲームのキャラクターを題材に、漫画やイラストにして個人で出版したものなんだ」

「そうだったのか。じゃあ、著作権で守られてるのか」

「まさか、無許可だよ。

 ストーリーを個人の解釈で曲げたり、性のはけ口にしてるのさ。

 うん、大部分がいかがわしいポルノコミックだ。

 自分の好きなキャラクターが凌辱されてるの見て楽しんでやがる。

 彼らは本当にファンなのか疑いたくなるね。

 もし、これでファンだというなら、とんでもないマゾヒストさ」

「で、どうしてこれが解決済なんだ?」

「君はもちろんTPPは知ってるよな」

「もちろんだとも。ジャップどもはぐずぐず言っているようだがね。

 彼らには敗戦国としての自覚が足らんのだよ。

 なんならもう二、三発 核をぶちこんでフォールアウトさせてやればいいのさ」

「ハハハ、それはいい。

 どうやら日本がTPPに参加するところまでもうひと押しのようだ」

「お、マジか。やっと日本のノロマ政治家どもが動きだしたわけだ」

「で、TPPにおいて著作権の侵害は非親告罪になるんだ」

「……ということは」

「著作者が被害届が出ていなくても、法で裁けるのさ。

 これでいかがわしい変態ポルノはコミケごと地上から一掃されるというわけさ」

「それは凄い。しかし、著作物はそれでいいかもしれないが、

 実際に戦っているヒロインたちには該当するのは肖像権。

 著作権は関係ないのでは?」

「なぁに、ドウジンシにされるヒロインたちは、それなりに有名な者ばかり。

 彼女たちが自分のキャラクターグッズを売りだせばいいのさ」

「なるほど、それなら著作権法違反で奴らをしょっぴける。

 日本のヒロインたちを守れるというわけだ」

「ネガキャンをした悪の組織にも損害賠償請求できるしな。

 そこでだ。君たち合衆国のヒーローたちの力を借りたい。

 悪の軍団の策謀で日本人女性が性のはけ口されている事実を大々的に宣伝する運動をしてほしい。

 日本政府は外圧と世論に弱い。自国の領土すらろくに守れないチキン集団だしな。

 この事実が日本に知れ渡れば、すくなくともギーク以外はドウジンシの人権侵害問題に気付くだろう」



 こうして私を筆頭に合衆国ヒーローたちによるドウジンシ撲滅キャンペーンが始まった。

私は日本で繰り広げられる問題について発表した。アメリカ国民の支持も得て、この運動は大いに盛り上がった。

当然、日本人たちの耳にも入ることになった。人権屋が騒ぎ出す。


「日本を平和守ってくれた少女たちを題材にいかがわしい本を描くなんて恩知らずにもほどがある」

「TPPに参加すれば彼女たちを救えるらしい」

「関税の問題もあるが、同じ日本人女性が辱しめられている現状を看過できない」

「こんなエロ本が流通していること自体が日本の恥。国際社会に顔向けできぬ」

「TPPに参加しよう! 悪の組織の資金源を放っておくことは無い」




 世論に押されて日本政府はTPPに参加することを決定した。

他愛ない。全て思惑通りに事が運んだ。

そして、著作権に違反する同人誌は全て取り締まられた。

オリジナル作品は難を逃れたが、同人産業にかつて勢いは残っていなかった。





 私は暮れなずむ有明の海を見つめていた。

 かつてこの地ではコミックマーケットといって、著作権違反のポルノコミックが大々的に売られていたという。

しかし、今やそのよう不浄で不道徳な悪書は一掃され平穏を取り戻している。

 

「アメライさぁーん」


 手を振りながらピュアウインドが走って来る。


「今回の件はお世話になりました。

 アメライさんの運動のおかげで、深海邪神帝国も損害賠償でぴーぴーしています。

 壊滅できるのも時間の問題なので、そのときはまたご報告させていただきますね」

「いやなに、私は自分ができることをやったまで。

 産まれた国は違えども同じヒーローの危機にはいつでもかけつける」

「ありがとうございます。それではまた」


 彼女は笑顔で去って行った。


 私は少し複雑な思いになった。日本がTPPに加盟したことで関税が撤廃された。

彼女の家計は少なからず影響を受けるだろう。悪い方向に。

しかし、私はアメリカのヒーロー。アメリカの国益が最優先だ。許せピュアウインド。


「死ねやあああああ、筋肉ヤンキーがよおお!!!」


 グサァッ!!


 背中に激痛が走る。一体何事か!?

私を逆恨みしたギークか?

 

しかし、私に気付かれず背後をとるとはいったい何者か?


 戦慄し、ふり返ると黒い魔法少女が立っていた。

なるほど、魔法少女ならば私にダメージを与えることも可能だが、この殺気は……!?


「おいアメ公。アタシの名前を言ってみろ」


 知らない。誰だ?


 そうか、さては関税撤廃に腹を立てているのか。

まったくなんて恩知らずだ。ポルノコミックの魔手から救ってやったというのに。目先の金銭が大事だと言うのか。


 黒い魔法少女は舌打ちする。


「きょとんとしてんじゃねえよ、アホヅラ下げてよォ!

 魔法少女メルヘンメンヘラだよ! ピュアウインドから何も聞いてねえのかよ。

 このクソムシがぁぁあああ!」


 メルヘンメンヘラなる魔法少女は私の血のついた包丁をぶんぶん振り回している。


「テメーが変な運動したせいでアタシの同人誌が全部廃刊回収になっちまったじゃねぇか。

 どうしてくれんだよぉ!」

「な、どういうことだ。君は被害者じゃなかったのか?」

「んあ? そうだよぉ、被害者だよ。

 でもさぁ、たまんないよねぇ、デブでハゲのキモヲタ童貞たちが私のエロ漫画でオナニーしてると思うと……。

 なんか汚されてるみたいで……。

 あ、ちょっとたんま。軽く……うくっん……。はぁはぁ、はぁはぁ。あぁ、ごめん軽く逝っちゃって……。

 って、何でアタシに謝らせてんだよ。謝るのはテメーだろうが!」


 メルヘンメンヘラは、手にした金槌で私の頭を殴りつけた。

彼女の剥き出しの腕に無数のリストカット痕があるのを私は見逃さなかった。

 この女には理屈は通じない。完全にいかれている。逃げなければ。


「アタシの敵対組織がさぁ始めたことなんだけど。人気同人作家に金渡して作ったんだよねぇ。

 最初はアタシもショックでPTSDになっちゃって、しばらく引きこもってたんだぁ。

 でもやっぱアタシ魔法少女だし、恐怖は克服しなくちゃと思って勇気出して同人読み直したの。

 そしたらなんかドキドキしちゃって興奮しちゃって……。

 って、何言わせてんだよ、セクハラジジイ! 訴えるぞ訴訟大国め!

 裁判は得意なんだろぉ?!」


 メルヘンは目を血走らせて意識もうろうとしている私の両足を包丁で切りつけた。

彼女はヒーローをやるにはあまりに心が脆い。凌辱された苦痛を快感とすり替えようとしているのだ。逃避だ。

こんなときに私は妙に冷静だった。職業病か。相手の分析をしている場合ではないというのに。


「えっとぉ、どこまで話したっけ?

 そうそう、そしたら自分の同人誌がもっと欲しくなっちゃって。例の作家の所に行って描いてもらおうとしたら、

 組織との契約は切れたのだの、もっとメジャーなキャラクター……艦○れ? とかいうのを描きたいだのほざいて断ろうとしてんの。

 頭に来たからさぁ、BBQにして食べちゃったァ! ハゲだったから毛を剃るのも楽だったし、油のってて最高だったァ!

 ザマァ! アタシの人生滅茶苦茶にした罰よ。

 きゃははははは!!! おつりはいらないわぁ」

 

 メルヘンは息も絶え絶えに倒れている私に擦りより耳元でささやく。


「ねぇ、おじさん、何でアタシの楽しみ取っちゃったの?

 アタシ、おじさんに何かしたっけ?

 アタシだけじゃない。なんで皆の楽しみとっちゃったの?」


 み皆? 皆って誰の事だ?


 メルヘンは私から離れると誰かを呼んだ。


「ねぇ、皆ァ。出てきていいよぉ」


 すると建物の陰からギークたちの集団がぞろぞろ出てきた。

陰鬱で淀んだ空気が垂れこめている。彼らは死んだ魚のような目で私を睨んでいた。


「ほら皆ァ、あいつがアメイジングライジング。皆から同人誌を奪った悪い奴よ。

 あいつの心臓をアタシの所に最初に持ってきてくれた良い子は……、

 アタシのこと、いっぱい汚していいよ」 


 ギークたちは歓喜とも咆哮ともつかない奇声をあげてゾンビのように私に群がった。

……どうやら、これで私も終りのようだ。反撃しようにも血が流れすぎた。こんな結末を迎えるとは。





 かつてアメリカ合衆国にはアメイジンライジングというヒーローがいた。

彼はアメリカ人であるにもかかわらず、

日本のヒロインたちをキモヲタの性処理から守るために尽力した偉大なヒーローである。


 彼の功績はそれにとどまらない。

日本の世論を動かし、日本をTPPに加盟させ合衆国に莫大な利益をもたらした。

まさしく真の英雄、真の愛国者である。


 しかし、彼の最期は合衆国最高機密とされ、謎に包まれている。

TPP参加による著作権の非親告罪について私は楽観視しています。


だってアメリカ様には、皆がお世話になってるXVIDEOSがあるじゃない!

あれが許されてるんだから。ねぇ? 駄目なの?


お、本日も良さげな動画が……。クリック! カチリッ




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うっぐおおおおおおおお!!!!

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