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絶望勇者のやり直し  作者: 和巳
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絶望勇者


赤き閃光と、悲鳴のような轟音。


地を裂くような鳴き声が響き渡り、この世の天災とまで言われていた魔物がまた一匹、その命を散らしていった。


魔物の名はカラミタース。

奴はその名の通り災害そのものだった。

山のような燃え盛る巨体に、見た者に地獄を想像させるおぞましい瞳。奴が息を吐けば辺りは一面火の海となり、奴が地を駆ければ、その地響きで少なくとも国の一つや二つ、滅んでもおかしくはないとされていた。


 それを勇者は一撃で倒した。

炎を纏った奴の咆哮をものともせず、地を唸らす足音に怯えることもなく、ゆったりと余裕を持った動きで聖剣を構え、奴の首を刈り取った。

この間、かかった時間は10分にもおよばないだろう。それくらい一瞬の出来事であった。


カラミタースが滅ぼされたという知らせを聞いた国々は歓喜にうち震え、王公貴族達は勇者を讃え、市民達は祝い事の準備をし、吟遊詩人達は新たな詩を謳った。どの国でも、我らが英雄、世界最強の勇者を迎え入れるつもりでいた。


 新たな富と名声、誉れ、自らに向けられる尊敬と憧れの眼差しを前にした勇者は


「虚しい…」


絶望していた。



 彼の名は草木蓮次郎(くさきれんじろう)、歴代最年少の若さで召喚された勇者にして、僅か1年で魔王を討ち取った歴代最強の勇者である。


蓮次郎は絶望していた。

確かに彼は魔王を倒し、世界を救った。

各地で暴れまわっている災害と呼ばれる魔物を殺し、名誉を得た。今や誰もが蓮次郎を認め、讃え、最も勇者に相応しいとまで言ってくれている。…だがそれがどうした、その果てに蓮次郎が感じたものはただ虚しいという虚無感と果てしない孤独だけだった。


張り合う相手がいない。


最初の仲間は共に行動した5ヶ月目にて、蓮次郎について行けないと離脱した。魔王討伐までついて来てくれた姫さえも、災害を滅ぼしに行く際にはついて来てくれなかった。正直少し傷ついたし、虚しい、寂しいという思いに拍車をかけた。


思えば、最初の5ヶ月はとても楽しかった。この世界の常識もわからず、召喚されたばかりだったが故に、とても弱かった自分を仲間は優しく導いてくれた。


思えば魔王はとても強かった。あれ程苦戦したのはあの魔王で最後だろう。こうなることがわかっていたなら、あんな不意討ちまがいの方法で魔王に戦いを挑まなかった。

正々堂々と立ち向かい、剣を交え、お互いの技をぶつけ合い、魔王との決闘を心から楽しんだ筈だ。奴がそうだったように。


『お前は私と同じ苦しみを抱えることになるだろう。愚かで、憐れな勇者よ。』


思えば、あれは死に際の戯れ言などではなかった。

きっと魔王も今の俺と同じ虚無感を抱えていた。今の俺の様に孤独だった。

だからあんなに安らかに、穏やかに逝ったんだ。


きっと今、奴が生きていたら俺と張り合える唯一の相手だった筈だ。


「…魔王、殺さなきゃよかった。」


ぽつりとこぼれ落ちたその言葉は誰の耳にも入ることはなかった。

ただ一人、勇者本人を除いて。



カラミタースはラテン語で災害だそうです。

なんか辛そうな名前だなぁってなって炎系にした訳ではありません。断じて違います!

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