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6月某日の資格試験

 6月某日、梅雨の気配は未だに続いている。先日のチャリティバザーの日は晴れだったのがありがたかった。しかしその快晴も1日しか続くことはなく次の日以降は見事にジメジメの雨模様が続いた。本日も雨なり・・・

「おーい、大地!」

放課後、部活に向かうために教室を出た大地がすぐに戻ってきた。ちなみに今日は雨なので体育館のステージで筋トレらしい。

「何、忘れ物?」

戻ってきた千佳が辛かってくる。言葉から考えて忘れ物をしたように見えないのにあえて忘れ物とボケてきたのである。

「大地、どうした?」

「白沢さんが呼んでいるぞ」

「突っ込んでよぉ!」

嘆いている千佳は置いておいて。白沢先輩が僕に会いにわざわざやってくるなんて珍しい。というかそもそも向こうから会いに来るのは初めてだ。


 教室のドアをくぐるとちょうど1年3組のネームプレートの下あたりに白沢先輩の姿があった。若干柱あたりに寄りかかっているあたり少し待たせてしまったかもしれない。千佳の余計なボケがなかったら待たせることもなかっただろうに・・・

「ああ、進くん」

「お待たせしました。何の用ですか?」

しかし先輩がわざわざ下級生のクラスに来るまでの用事だ。一体どんな用事だろうか。

「実はアルバイトのお誘いを・・・」


「テスト監修者?」

白沢先輩から聞かされたアルバイト内容はテスト監修のバイトであった。

「うん、今度資格の試験を学校内で行うことになって生徒から監修者を出すことになって」

「それで僕ですか・・・」

「お仕事好きの進くんにはピッタリでしょ?」

うむ、ということは学校からの求人か。しかしそういうものは大体ボランティア。無報酬ばかりだ。以前のボランティアはいい経験にはなったが真心が報酬、やってやりたいところだが短期バイトがあるならばそちらを優先したい。

「今回は報酬が出るわ」

「マジですか!?」

「ええ、募集しているのは学校だけど列記としたバイトだし・・・」

「やります!」

よっしゃ!バイトだ、仕事だ!ちょうどその日はシフトに入っていなかったからどうしようかと思っていたんだ。白沢先輩万歳!資格試験万歳!

「お、お金が絡むとやる気ね・・・まぁ誘ってよかったけど・・・」

若干引き気味の白沢先輩の横を大地が通り過ぎていった。

「あれ大地、部活に行ったんじゃなかったのか?」

「今からだよ・・・」

あれ、部活に行く前だっていうのに大地が疲れている。肉体的というよりも精神的に疲れているようだ。

「な、何かあったのか?」

なんか・・・聞かないといけないような気がしました。

「千佳のやつに漫才の練習をされんだ・・・」

「ま、漫才?何があったのよ・・・」

白沢先輩は教室の方をやたらと気にしてくる。中には千佳が不機嫌そうに椅子にふんぞり返っていた。

「あ・・・」

さっきのアレだ。千佳の分かりにくいボケを突っ込まなかったせいで千佳が不機嫌になったのだ。分かりにくいボケをした千佳も千佳だが突っ込まなかった僕たちも僕たちだ。後で1口チョコをあげておかなければ・・・

「え、えぇと、大地くんも試験監修バイトやる?」

ここで誘うのか・・・前回同様に人員不足なのだろうか・・・

「資格試験・・・あぁこの日に部活がなかったのは試験で学校を使うからか」

大地は半径3m位に聞こえるため息をすると・・・

「分かりました、引き受けます」

承諾した。渋々ではないはず・・・




 やってきました試験当日。いつもは試験当日と聞くとげんなりするものだが今回は試験を受けに行くわけではない、試験を監督しに行くのだ。

「こんにちはぁ・・・」

集合場所は職員棟の会議室だ。基本的にこの場所は学校生活で訪れることがない。そのくせして紅葉学園の生徒だから場所は分かるだろと言いたいのか白沢先輩からもらったプリントには会議室集合とは書かれていたけど会議室の場所までは書かれていなかった。おかげで予想よりもたどり着くのが遅れてしまった。

「あ、進くん!遅かったね、風邪でもひいたのかと心配したわよ」

真っ先に白沢先輩が出迎えてくれた。前回のボランティアは僕の方が先に来たが今回は白沢先輩の方が先だったようだ。白沢先輩は僕より1年長く学校にいる上に生徒会なので会議室を使うときもある。勝負しているわけではないが白沢先輩の方が有利だった。

「会議室の場所で迷いました」

ちなみに白沢先輩は“遅かった”と言っていたが時刻は集合時間の10分前である。まぁ僕にしては遅い。

「あぁ、ごめんね・・・場所を教えるのを忘れていたわ。1年生だものね」

「上級生でも知らない人は多いと思いますよ・・・」

「藤和君は一緒じゃないの?」

「ええ、まだ来ていないみたいですね。連絡を取りましょうか?」

時間はまだあるがもしかすると大地は僕同様に校舎内で迷っているのかもしれない。僕は一応携帯を取り出して電話帳から大地の名前を探し出す。そういえば大地の連絡先は“藤和大地”で登録していたか“大地”で登録したか忘れてしまった。千佳は“千佳”で登録してあるから多分“大地”で登録してあるだろう。

「いや、そっちじゃないのだけれども・・・」

「?」

「あぁいえ・・・この間のボランティアの時は千佳さんと一緒に来たから・・・」

後半の言葉はゴニョゴニョしていて聞き取ることができなかった。聞き返そうと思ったらちょうど手元の携帯から着信、ディスプレイには“藤和大地”の文字。

『大地、どうした?』

『すまん、いま学校なのだが会議室はどこだ?』

大地も会議室の場所で迷っていた。もしかすると今、会議室に集まっている生徒の半数以上は迷いながら会議室にたどり着いたのではなかろうか。

『職員棟の2階だ』

『ありがとう、今から行くから白沢さんにも伝えておいてくれ』

僕が返事をする前に電話はツーツーと虚しいさえずりをしていた。

「藤和くんから?」

僕が携帯をポケットにしまうのを待って白沢先輩が髪を揺らしながら訪ねてくる。若干前かがみに訪ねてくるあたりが反則だ。

「今、学校に着いてこれから会議室に行くようです」

「そう、じゃあ大丈夫ね」

大地の名誉のためにも迷ったとは言わないでおいてやろう。


 大地も無事に合流し集合時間の3分前には既に全員が集合したようだ。最も全員といっても全体で10人しかおらずそんなに賑わっているわけでもない。

「じゃあちょっと早いけどみんな来たから打ち合わせを始めます」

打ち合わせの指揮は白沢先輩がとった。今回は人数が少ないとはいえ白沢先輩はこういうリーダーっぽい仕事に慣れているし向いている。

「これからみんなには先生と2人ペアで各教室に待機、時間が来たら解答用紙を配ってください。先生が解答用紙の記入法について説明があるからそれが終わったら問題用紙の配布、あとは適当に周りを見て不正がないか確認してください」

”適当”に周りを見てと言われましても・・・

「時間が来たら解答用紙の回収、問題用紙は持ち帰りOKです。ここまでで質問は?」

「白沢先輩、不正を見つけた場合は?」

このバイトにおいて一番重要そうな項目なので僕は聞いておくことにする。というかそもそもこの話題が出なかったことが驚きだ。

「あぁ、一緒にいる先生に耳元で相談して。テスト中だから静かに・・・」

今は説明の時間なので小声になる必要はないのだが白沢先輩は声のトーンを落とした。

「なぁ進・・・」

「なんだ?」

大地が肘でつんつん突いてきて話しかけてくる。無論小声で。

「このバイト・・・やることあんのか?」

正直僕も思っていた。このバイト、殆どやることがないと・・・


 この資格試験は前半後半に分かれていてそれぞれ1時間ずつ、あいだには15分の休憩がある。まず最初は前半1時間。試験開始前には先生から簡単な注意事項が述べられた。内容は「開始」の合図までは問題見るなとかチェックシートは正しく塗れだとかそんな感じだ。

「じゃあ配って」

先生から解答用紙の束を渡された、ちなみに先生は問題用紙を持っている。先生は問題用紙、僕は解答用紙を配り試験開始の時間を待つ、教室にかかっている時計の秒針まで正確に見て先生は「始めてください」と開始を宣言した。あらかじめ伝えられた「開始」の宣言とは文面が違っているが意味は同じなので問題はないだろう。

 そして無事に解答用紙を配り終わって無事に試験が開始されると僕は予想されていた悲劇を迎えることになる。

(やべえ、すげえ暇だ・・・)

大方の予想通り何もやることがない、しかし何もやることがないとはいえ携帯をいじることもできないしそもそも試験中なので電源を切っている。不正行為のないように見張るという名目の仕事だがそもそも試験があるたびに不正行為があるわけでもなく特別変な行動をしている受験生がいるわけでもない。すべての受験生が黙々と問題用紙とにらめっこをしてゴリゴリとマークシートを黒く染める作業をしていた。

やがて時間が来て先生の「そこまで」の声が教室に響き渡る。この1時間の間、問題用紙のページをめくる音とマークシートを埋める鉛筆の音しか聞こえなかったのでこのくらい騒がしい方がありがたい。僕と先生は手分けして解答用紙を回収して前半が終了した。


 15分の休憩はトイレ休憩とせいぜい伸びをするくらいしか許されず再び問題を配る作業。正直なところ、再びあの退屈な時間が来ると考えると先生の「開始」のコールが鬱陶しく感じた。

「時間が来たので開始でーす」

再び1時間、椅子に座って何もしないという拷問が始まった。あぁ、敵に囚われた兵士ってこんな気持ちなんだろうな・・・

しかし1時間なにもしないというのは厳しいものがある。まだ机に向かって問題を解いている受験生の方がましだ。受験生は受験生で大変そうだがやることがあるだけマシである。

(アカン、これ・・・眠くなる)

睡魔だ、睡魔が襲ってきた。“睡魔”という字には“魔”という言葉がある。悪魔だ、今僕には悪魔が降りかかってきている。いつも試験中の先生は暇そうだと思っていた。僕がテストを受ける時、僕は必死なのに先生は暇そうでずるいと心なしか思っていた。しかし立場が変わると一転、これはもはや拷問に近い。僕が誰かを拷問するときがあるとするならば僕は何もない部屋で何もさせないという拷問をするだろう。本当に先生はこんな拷問の中、寝ないように耐えているとおも・・・

(って寝てるー!)

寝てる、寝てる!先生寝てる!!意識はまだ残っているのだろうが首が時折かくついている。少なくても眠そうだ!

試験終了5分前、まだ先生は起きていない。先生のおかげで僕の眠気はどっかに飛んでいってしまった。もしかすると僕の眠気は先生へ飛んでいったのかもしれない。

試験終了3分前、これは最悪の事態を覚悟しないといけないかもしれない。

試験終了1分前もう行動に移るしかない。僕は立ち上がって受験生の邪魔にならないようにゆっくり先生の元まで歩いていく、静かにしていたつもりだったが足音に気がついて数人の受験生がこちらを見たが別に気に止めることはしなかった。

(先生、先生!)

僕は小声で先生の肩をとんとん叩いた。

「ぬ?」

あぁ、先生がヘンチョコリンな返事をしている。

(そろそろ時間です)

「お、あぁ・・・」

この瞬間が僕の今日1日で最も疲れた瞬間だった。




「おかえりなさい」

会議室に戻る僕を迎えてくれたのは白沢先輩だった。横には随伴の先生もいる。

「えっと、相井くんだね。これが今日の報酬、お疲れ様」

先生から茶封筒を頂いた。名前と金額が書かれた封筒、中には今日の報酬が詰まっていた。金額は・・・労力にしては高報酬だ。精神が持ってかれたきがするが・・・

「お疲れです」

僕に続いて大地が帰還、僕と同じように先生から封筒を頂いた。大地は身長が高いので先生は渡すときに肩を高くしていた。

「意外とやることなかったでしょ?」

白沢先輩がクスクス笑いながら訪ねてくる。どうも僕と大地には「退屈で疲れました」と顔に出ていたようだ。白沢先輩が笑うのもしょうがない。

「そうですね、基本座っているだけですから」

適当に感想を述べる僕の横で大地はてへへと笑いながら・・・

「少しウトウトしてしまいましたよ・・・」

大地の問題発言勃発。嘘だ、絶対に嘘だ。コイツ絶対に寝てた。“眠かった”のではなくて“寝てた”だ。大地は間違いなく寝てた。僕は大地の肩をポンと叩き・・・


「大地、何があっても絶対に寝てはダメだ。こっちの身にもなってくれ・・・」

「は?」

とりあえず寝るなと大真面目に声をかけた。大地の頭上にはハテナマークが浮かんでいたが気にしない。僕は正論を言っているのだ、ハテナマークを浮かばれるような事はしていない。


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