9月某日の突撃
9月某日、新学期が始まったことでクラスの連中とも久しぶりに顔を合わせた。僕は帰宅部なので夏休み中は同じバイトをしている六倉さん、そして千佳と大地くらいしか会っていなかったので学校の面子とはものすごく久しぶりである。
「買った!勝った!」
僕は戦利品であるコロッケパンと焼きそばパンを千佳机に叩きつけた。昼休みになると同時に購買部にダッシュしたので無事に奪い取ることができた。奪い取るといってもちゃんとお金は払いましたのでご安心ください。
「はいはいよかったね」
千佳は顔を向けずに自分の弁当箱を開けた。ぶっきらぼうな返事だが食べずに待っていたあたり千佳は優しい(と思う)。
「買った・・・負けた・・・」
大地がげんなりしながらドーナッツとちっちゃいチョコパンをゆっくり机に置いた。
「勝ったのか負けたのかどっちなのよ・・・」
「パンを買ったけど負けたという意味だ・・・」
「はいはい・・・」
結局千佳の反応はドライなままだった。さすが千佳、ブレない。
そんなことがあって本日もバイト、場所はもはやお馴染みミハラ薬品松野宮店。
「じゃあ朝礼始めるよ」
本日の朝礼のお時間、今日の日程は僕と六倉さんが交互にレジと品出しをすることになっている。
「そういうわけで2人とも今日もよろしくね」
「「よろしくお願いしまーす」」
本日もお勤めスタートだ。
最初に品出しをする僕は早速仕事に取り掛かる。
「相井くん、こっちの方を先に出してもらっていい?」
店長は倉庫の奥の方、紙製品の部分に手招きする。そこに置いておった台車にはティッシュペーパーがダンボール6箱規則正しく積んであった。ちなみに豆知識としてティッシュペーパーのダンボールは相当でかい。1箱だけでも相当な大きさだ。僕としてはダンボールに隠れる必要があるときは是非ともティッシュペーパーのダンボールを使いたい。
「この台車ですか?」
「ああ、頼むよ」
この店ではティッシュを店の外で売っている。そのため僕は店内ではなく搬入口から店の外へ台車を運んだ。外は店内とは違って台車がガタゴト大きな音を立てている。普段は平らな道だと思っていたが意外にもアスファルトは凸凹しているものだった。もしかすると裸足で歩いたら足ツボの刺激になるかもしれない。
「ありゃ、確かにガラガラだぁ」
いつもは山積みになっているティッシュも今は標高が低かった。店長が品出しを頼むわけである。
「さてと・・・」
僕はダンボールの封を開けて中からティッシュを取り出しどんどん積み上げていく、4段目くらいになって後ろから車のエンジンをかける音、お客さんが帰っていくようだ。
ブロロロ・・・
「ん?」
あれ、ちょっと音がおかしいような気もするが・・・
ギュイイイィィィィィ!
「ちょ!?」
気のせいじゃない、明らかに音がおかしいって!
キイイイイィィィィィィ!
「ぎゃああああぁぁぁぁぁ!」
直後、爆発音のようなものが脳内を駆け巡った。
たったったった・・・
誰かの走る音が聞こえてくる。僕、生きているのだろうか・・・
「相井さん!大丈夫ですか!?」
脳内の片隅に六倉さんの声、どうやら生きているようだ。
「・・・・ん?」
だんだんハッキリしてくる意識、気を失っているというよりも呆然としていた感覚だ。
「えっと一体何が・・・うお!」
起き上がった僕の目の前には信じられない光景が広がっていた。
「なんじゃこりゃあああぁぁぁぁ!」
ミハラ薬品松野宮店の正面は1部ガラス張りになっているのだがそのガラスから車が生えていた。周囲にはガラスの破片が散らばっている。よくよく考えてみればガラスから車が生えてくるわけはない、車がお店に突っ込んできたようだ。
「相井さん!しっかりしてください!」
未だ呆然としている僕の耳に六倉さんが叫んでくる。
「あ、ああ大丈夫」
「よかったぁ」
六倉さんの安堵の声に僕まで安心してくる。落ち着いて現場を見てみると車は僕がさっき補充していたティッシュコーナーにストライクしていた。見事にお店に刺さっている。
「うわあぁ、これはひどい・・・」
騒ぎを聞いてやってきたのだろうか店長も駆け足でやってきた。現場を目の当たりにしてこちらも唖然としている。
「あ、店長・・・」
「相井くん、大丈夫だった?」
「生きた心地がしませんよ・・・」
車にはまだ人が乗っているようだった、幸いなことに怪我はないようで自力で出られるようだ。運転していたのは高齢の方だったようでまだ状況をつかめていないように見える。
「六倉さん、すまないが警察を・・・」
店長が目を点にさせている六倉さんに指示を出す。
「うぅ初めての110番がここになるなんて・・・」
まあ滅多に掛けるようなものじゃないよな・・・それにしても人見知りの六倉さんで務まるだろうか?
「相井くん動ける?」
「大丈夫です、落ち着いてきました。何やったらいいかわかりませんけど」
「一時閉店にしよう、すまないがお客さんの誘導を頼む。現場は危険だから近づかせないように、それと倉庫のカラーコーンで辺りを通行止めにしてくれ」
「了解しました」
背が小さくて頼りない感じのある店長だったがこんな時は頼りになるなと感じた。さすが店長である。
無事にお客さんを外へ出した。お客さんは「まあしょうがないよね」と納得してくれた、ありがたい限りである。僕はお店の入口に”営業中止”の張り紙をして、そして110番を済ませた六倉さんととりあえず事務所で待機した。
「運転手の人、かなりの高齢でしたね」
暇なので六倉さん相手にお話することにした。
「ニュースでたまにお店に車が突っ込むなんてニュース聞きますけどまさか出くわすなんで思いませんでした」
事務所のモニターには見事に突っ込んでいる車が写っていた。防犯カメラによるリアルタイムの映像である。
「これ、事故の瞬間も写っているんじゃないですか?」
六倉さんがなんとなく気になっていたようだった。
「見てみます?」
僕自身も気になるし巻戻してみよう・・・ちょっと怖いけど。
「あ、このあたりですね・・・」
僕はリモコンで巻き戻しから一時停止、そして再生に入る。
「とりあえず最初は普通に品出ししているみたいだ」
「自分でやった行動を忘れているのですか・・・」
六倉さんが僕の横でジト目を当ててくる。
「いや、こっちも必死でしたので」
品出しをして数分、僕が後ろを向いた。その瞬間、車が僕の方めがけて飛んできた。
「うわ、紙一重で回避している・・・」
人間、こんな動きするのか・・・火事場のなんとやらであろうか・・・
「すごい反射神経ですね、車を避けたすぐ脇を車が飛んできましたよ・・・50cmもないんじゃないですか」
六倉さんは改めて事故を目撃して唖然としていた。それは僕も同じである。
「ふぅ、やっと警察来た・・・」
溜息と同時に店長が事務所に入ってきた、どうやら警察の人がきたらしい。そして店長は休む暇もなく携帯電話(業務用)を取り出して電話を始めた。話の内容からしてどうも本社に連絡を取っているようである。
「はぁ、もう勘弁してもらいたい・・・」
電話が終わると店長は2度目の溜息、気持ちは察します。
「店長、お疲れですね・・・」
「そりゃあねえ・・・本社には連絡しないといけないし警察には事情をはなさないといけないし・・・それに保険会社とセキュリティ会社にも連絡、防犯カメラの確認もあるし・・・」
だたでさえ毎回忙しそうにしている店長に山のような仕事が降ってきていた。
「それで、私達はどうしたらいいのですか?」
「ああ、現場を片付けてくれるかな?車は撤去したから」
「か、片付けですか・・・」
「これは大変そうだ・・・」
車は片付けたとはいえ店内はだいぶぐちゃぐちゃである。この先が思いやられる。
つべこべ言っても状況は変わらない、僕と六倉さんは事故現場に戻った。
「いざ、事故現場に戻ってきたが・・・」
「どこから手をつけたらいいかわからないですね」
車が撤去してあるとは言え、辺りにはガラスの破片や商品が散乱してある。
「私、軍手持ってきます・・・素手だと危ないですし」
六倉さん、こんな時に気が利く人だ。
軍手を装着して早速作業に取り掛かることにする。
「とりあえず商品から片付けましょう」
散乱しているティッシュペーパーを片付けることにする。ティッシュペーパーはどれもこれも凹んでいた。これでは商品になりそうにない。次に商品を乗せていたカゴ者を動かしたがこのカゴ車も見事に破壊されていた。車の威力は恐ろしいものだ、本当に巻き込まれなくて良かったと思う。
「巻き込まれたことを考えると恐ろしい・・・」
「本当に無事でよかったですね・・・」
想像すると顔が凍りついた、洒落じゃない。ちなみに運転手のおじいさんは端っこの方で警察の事情聴取を受けていた。
「片付いている?」
店長がやってきた、右手にはまだ携帯電話を握っている。あれから電話、電話、電話だったのだろう、おそらく今日の店長の星座占いは最下位だったに違いない。
「まだまだかかりますよ・・・」
初めに比べればだいぶ片付いたとはいってもまだまだ破片は散らばっている、多分この片付けはだいぶ時間がかかりそうだ。仮に破片の片付けを終えたとしても窓に空いた穴はどうすればいいのだろうか。
「とりあえず片付けてくれ、今日はもう閉店だ」
ミハラ薬品松野宮店は非常にローカルなドラッグストアでそのため従業員の数も少ない。現場の片付けに人員を裂いてしまうと何もできなくなってしまうので本日閉店にするのもやむを得なかった。とりあえず今日は閉店なので入口の”営業中止”の張り紙を”臨時休業”の張り紙に変えた。
運転手の事情聴取が終わり店長と僕たちにお詫びを言ってから帰った頃、ようやく現場の掃除が終わった。
「片付け終わりましたー」
六倉さんがうーんと伸びをする、仕事をやりきったという達成感に包まれた表情は見ていて非常に誇らしいが、その表情は店長によってかき消された。
「あー悪いけどその穴を塞いでくれるかな・・・」
店長もものすごく言いづらそうに切り出した。散らばった商品やガラスの破片は片付けたが肝心の穴は空いたままである。
「え、修理の業者とか来ないのですか?」
一気に六倉さんの表情が固まった。
「明日になっちゃうみたいでさ・・・」
「それ、防犯的に困りますね・・・」
ちなみに防犯的な問題でセキュリティ会社にも連絡する羽目になったらしい。セキュリティ会社は本日、寝ずの番である。あっちもこっちも大変だ。
「わ、悪いけどダンボールとガムテープで穴を塞いでくれる?」
まぁ確かに一晩とはいえ大穴の空いたガラスをそのまま放置にはできない。
「あれ、そういえば修理費とかは?」
なんとなく予想はつくが僕は聞いてみることにした。
「そりゃあ相手持ちだよ、保険会社に連絡を取ったから多少は保険料が落ちるだろうけど」
うっひゃあ・・・どれくらいのお金になるのだろうか・・・
結局ダンボールで蓋をしてブルーのビニールシートで覆ったら閉店の時間を過ぎてしまった。むしろいつもよりも長い時間になってしまったと言える。
「あの、悪いけど・・・」
ぐわ、ここでの店長の登場は嫌な予感しかしない、嫌な予感しかしない!
「「ナ、ナンデショウカ・・・」」
僕と六倉さん、同時に同じことをカタコトで返事をする。そして店長は僕たちの予想通りに嫌なものを口にした。
「う・・・あのね、品出しが全然終わっていないんだ・・・」
「あ!」
「忘れていました!」
倉庫には今日搬入された商品がまだ山ほど残っていた。事故のことで頭がいっぱいになっていたのですっかり忘れていた。
「それで・・・コレ、全部出さないと帰れないよ・・・」
さらなる追い打ち!
「う、うわぁぁぁぁぁ」
その場でへたり込んで呻く六倉さんと僕がいた。お客さんがいないので効率よく品出しできるとはいえ、この疲れている中にこの仕打ちはひどい。
「事務作業は終わらせたし自分も手伝うから・・・」
「明日とかじゃダメなのですか!?」
嘆く六倉さん、僕もレッツシャウトしたい。
「いや、明日は明日で別の商品が来るから今日出さないと倉庫が一杯になっちゃう・・・」
「覚悟を決めるしかないみたいですね、六倉さん・・・」
「そ、そうですね・・・」
この日は僕の最長労働時間を更新した、夜もすっかり遅くなってしまったので作業が終わったら六倉さんをタイヤキ屋である家に届けてあげよう。僕はまだ車の免許をとっていないがとった際には是が非でも無事故無違反の安全運転を心がけたい、アクセルとブレーキを間違えるなんてまっぴらだ。




