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8月下旬の海水浴

 8月下旬、夏休みも後半となりもう少しで新学期である。もう当たり前のことではあるが僕は最初の3日で宿題をすべて終わられてしまった。成績の良い六倉さんも僕ほどではないとはいえ宿題を終わらせている。先日、六倉さんは千佳から宿題を見せてと頼み込まれたらしい。いつもは僕に頼み込んでくるので六倉さんの気持ちはよくわかる。千佳の宿題に関して今年は僕の出番がないかなと思っていたが大地が見せてくれとせがんできた。結局僕が宿題を誰かに見せるという運命は変わらないらしい。宿題を終わらせた大地は意気揚々と僕にこう誘ってきた。

「海行こうぜ!」

「・・・・・・」

超ノリノリだった。


 やたらノリノリだった大地によって僕は8月最後の週に海に行くことになった。平日ということもあって海は賑わっているものの混雑というわけではない。

「海だー!」

地下は薄めのオレンジと白の柄の水着での参戦である。久しぶりに千佳の裸(違う)を見たが数年見ていないうちに(そこまで見ていない)予想以上のプロポーションに育っていた。制服の上からではわかりにくいが水着になってみるとそれがよくわかる。

「千佳テンション高いな・・・珍しい」

そうである、今回の千佳は珍しく行動的でいつもなら「日焼けするからヤダ」と断るところだったのだが今回の海水浴には乗ってきた。

「それで香苗ちゃんは?」

千佳が珍しく乗り気だった理由が今、はっきりとわかった。千佳は六倉さん目当てでここにやってきたのだ。どうもあのボランティアで六倉さんに会っていこう千佳は六倉さんを気に入っている。六倉さんの方も楽しそうにしているので特に何も言わないが六倉さんに付きまとっている千佳もなんだかなと思う。そして本日、千佳にとってのメインである六倉さんはというと・・・

「六倉さんは今日来ないよ」

「え!?」

案の定、千佳か固まっていた。

「どうして!?」

「母親の実家に帰るだとかで・・・」

ちなみに六倉さんが8月最後の週に実家に帰ることはずいぶん前に知っていた。バイトのシフトにも3日ほど休みを入れていたのである。しかしそれを千佳に教えてしまうと千佳は海に来ない可能性がある。そうなってしまうと男2人が海にやってくる構図になる。僕はそれでも構わなかったのだが大地が「華がないしナンパ男の集団みたいだ」と反論するので千佳には六倉さんのことを伏せておいた。

「帰る・・・」

「いや、もう水着に着替えちゃったしさぁ」

「まぁあたしもここまで来て変えるつもりはないけどね」

じゃあさっきの発言はなんだ!


 僕たちは浜辺の適当な場所にパラソルを立ててビニールシートを敷いた。この2つのアイテムだが大地の家の奥底から発掘されたものだ。大地は部屋の掃除をしている時にこれを見つけて海に行こうと誘い出したわけである。

「それにしても2人とも水着ひどいわね・・・」

「別に男だからいいだろ」

ちなみに僕は商店街で売っていた一番安いものを選んだ。真っ黒でなんの飾りのない水着である。

「無地はないと思う・・・」

「俺は柄物だぞ・・・」

「「・・・・・」」

僕と千佳はそろって無言になった。

「迷彩柄もなぁ・・・」

大地は言うまでもなく長身の大柄な男である。その大地が迷彩柄の海パンいっちょで浜辺に立っていると自衛隊の訓練生みたいでしょうがない。

「うん、来年は僕も水着に気を付けよう」

「それがいいよ・・・」

「おい、なぜ俺を見る」


 海に行くということは基本的に泳ぎに行くものである。しかし何故か僕らは泳ごうとしない、なぜだろうか。なぜならば僕と千佳は泳げないからである。

「大地って泳げんのか」

「泳げねえよ」

「「・・・・・」」

本日2度目の幼馴染揃った沈黙。

「じゃあ、何故に誘った?」

「パラソルとビニールシートが出てきたら海かバーベキューだろ!」

何故か大地は熱弁だった。

「進も千佳も泳げなかったのか?」

「僕は全然ダメ、水すら怖い」

僕は水場恐怖症である。

「あたし、子供の頃に海で溺れかけたことがあって・・・その時から海に入るのすらヤダ」

あれは小学生の頃だっただろうか、その時は僕もいた。千佳が大泣きだったのを思い出す。

「多分僕もそれ見てから海が怖くなったな・・・見る分なら大丈夫だが・・・」

「じゃあなんで来たんだよ!?」

大地の激しいツッコミ、しかし言いだしっぺは言うまでもなく大地である。

「大地に言われたくはないのだけど・・・あたしは香苗ちゃん目当てだったし」

その六倉さんは不在である。しかし幼い頃のトラウマを振り切ってやってきた千佳とは一体、そして六倉さん効果は素晴らしい。今まで千佳を操ることのできるものは一口ちょこくらいかと思っていたが新たなアイテム(人物)が現れたようだ。

「僕は大地が哀れに見えたからな・・・来たところで別に入らなくてもいいし」

「哀れって・・・おい」

海まで来てなにをやるのか分からなくなってきた。ここは何をするべきであろうか・・・

「生き埋め?」

千佳からとてつもなく物騒な単語だった。まあ多分、砂に埋めるあれだろう。

「砂に埋めるとして誰を埋めるんだ?」

同じく理解した大地が早速やる気満々である。腕まくりまでして(服は着ていない)いたのだが。僕と千佳の意見は同じだった。

「大地は体が大きいから埋めがいがあるよね・・・」

「同感だ・・・」

埋める対象をロックオン。

「は、えっ・・・ちょ、たま・・・ぎゃあああああああああ」


 数分が経って見事に山が完成した。大地は190cm近い身長な上に横幅も広いので実に埋めがいがあった。ここまで埋めがいのある人間も珍しいだろう。その手のコンテストがあったら是非とも大地には出場してもらいたい。

「しねえよ!」

聞かれていたようだった。ちなみ大地はまだ埋められたままである。

「大地が埋められているのは別にいいけどそろそろお昼にしない?」

日焼けを気にして上着を着ている千佳による提案、時刻は確かにお昼すぎだった。

「海の家だな、何する?」

「大地を埋めたままの方がなんだか面白いからテイクアウトで」

「ひでぇ!」

どうも大地は今日1日砂の中にいる運命を背負っているらしい。

「じゃあ焼きそばあたりを買ってくる」

僕はのっそりと立ち上がって足についた砂を払った。しかしこのままだと本当に海に入らずに過ごしてしまそうだ。


 時間が時間だったので海の家は混んでいた、座るところなんてないような状態だ。テイクアウトで良かったと思っている。

「おかえり、遅かったね」

「結構混んでいたよー」

「昼間だからねー」

とりあえず千佳に焼きそばのパックを渡す。大地にも渡そうとしたが大地の両手は砂の中、しょうがないので腹の上に置いておくことにした。

「あたしが食べ終わったらあーんしてあげるねー」

あ、ちょっと羨ましい。僕が埋められておくべきだっただろうか・・・

「しかしさっき並んでいて思ったのだけど・・・」

「何?」

「海の家ってバイト募集していたらしい」

焼きそばを買おうと並んでいたら短期の募集をしているポスターが目に入ったのだ。

「はぁ・・・」

「来年はやろうかな・・・」

「はぁ!?」

千佳の声のボリュームが上がった。

「来年な」

「え、来年もバイトづくしにするつもりなの?」

「そういえば海の見張るアレのバイトもあるらしいよ」

埋もれたままの大地が顎で浜辺の監視員を指した。テニスコートの脇にあるような脚立っぽいアレ(名前なんだろう)に登って周りを見張っている人がいた。

「でもアレって泳げないと無理なんじゃない?」

「・・・・・無理だ」

監視員は何かあったら動けなければならない。無論、海辺の監視員は泳げないと務まらないだろう。

「来年は海の家にするか・・・」

「ああ、結局バイトはするんだ・・・」

やるに決まっているだろう。何を当たり前のことを・・・

「ところで俺の焼きそばはいつ食べられるのでしょうか?」

「あぁ、忘れてた・・・まって、今開けるから」

さて、ここから水着美女のあーん大会が始まるところであるが・・・

「そこ鼻!鼻!」

千佳は大地の口元10cmの位置から焼きそばを投入、当然入るはずもなく麺は鼻に引っかかった。

「もうちょっと大きく開けてくれないかな?洗面器くらいに」

「無理だろ!」

なんだかんだ楽しそうだったのでこれはこれでいいだろう。


 そのあとはいい加減に大地を解放しビーチバレーと行くことにした。千佳が張り切って持ってきていたらしい。意外に大きく膨らませるのはそれだけ大変だったが泳げない(というより恐怖症)の僕たちが海で出来ることは生き埋め、棒倒し、そしてビーチバレーであった。3人で円陣を組み結構な時間をビーチバレーで過ごした。そして疲れ果てて再びパラソルの下で座り込んでいる3人。

「あ、ナンパ男・・・」

千佳の指す方向にはチャラい水着を着てチャラい髪型をしたチャラい男が2人並んでいた。案の定男はナンパ男のようで水着美女に声をかけたがあっさりと断られてしまった。

「今時あんなナンパ男がいるのだな・・・」

そして大地は呆れていた。まぁ確かにあそこまでチャラ男といえるチャラ男は絶滅危惧種かもしれない。保護しておくべきだろうか・・・

「あたしってさ、ナンパされるのかな?」

「は?」

千佳が突然わけのわからないことを言い出した。

「だからあたしが浜辺でテキトーにたっていたら声かけられるかなと」

ここは千佳を持ち上げておくことにしよう、面白いことが起こるような気がする。

「そうだな!千佳ならきっと声をかけられるだろう!」

「進、なにノリノリなんだよ・・・」

「じゃああたし、その辺りをぶらついているね~」

「いってらー」

さて、どうなることやら・・・


 僕と大地は遠目から千佳を見守ることにした。

「たまにセクシーポーズをさりげなくやっているのがムカつくな」

さすがにバレバレなポーズはしないが少し前かがみにするといった体勢はしてくる。それほど挑発的な水着ではないとは言え胸を強調するのはどういうものだろうか・・・ちなみに一応千佳はそれなりの胸がある。

「お、さっきのナンパ男」

大地が真っ先に気づいた。ち先ほどのナンパ男2人組が戻ってきた、千佳に近づいてくる。

「声かけられたぞ!」

ナンパ男が千佳に声をかけてきた。こうなってくると面白くなってくる。

「テンション高いなおい・・・」

「千佳がそれなりに可愛いという証拠じゃないか」

「まあそうだけど・・・」

「あ、帰ってきた」

しばらく経って千佳が帰ってきた。なんか様子がおかしいような気がするが・・・

「よー千佳、お帰・・・ふご!」

帰ってきて真っ先に頭のてっぺんをチョップされた。

「一体何だよ!」

「それはこっちリフ!」

千佳の口からよくわからないセリフが出てきた。多分”こっちのセリフ”と言いたかったのだろう。

「仲がいいようで・・・」

「あんたもよ!」

「じゃじゃ!」

大地も脳天チョップを食らった。多分身長が1ミリくらい縮んだかもしれないが大地はもともと背が高いので問題はないだろう。

「で、なんでご立腹なんだよ」

「フツーさあ!ナンパされている彼女がいたら助けるものでしょう!」

「別に付き合っているわけじゃないだろうが・・・」

あぁ、ナンパされていて助けを待っていたのか。

「いや、自分でナンパされに行って助けろって理不尽だな」

大地がごもっともなツッコミ。

「でも女の子は白馬に乗った王子様に憧れるものよ!」

めずらしい、千佳が涙目になっている。自分にナンパされに行って実は怖かったのだと思う。多分千佳は死んでも怖かったとは言わないだろうが・・・

「こ、怖かったんだな・・・」

「断るの大変だったけど怖くなかったぁ!」

強がっているが間違いない、千佳は怖かったようだ。

「これは難解だな・・・」

大地が頭を掻いている。

「見栄張るなよ、怖かったんだろ?」

今度は僕が千佳の頭にチョップ、ただし優しくだ。

「・・・・ぐす」

「千佳?」

千佳が突然黙り込んだ、すすり泣く声だけが漏れていて千佳は本格的に泣き出してしまったようだ。

「やっぱ怖いんじゃないか」

手の向きをチョップの形から90度左回転して頭をポンとおいてやる。

「まあ強がっていたあたしもあたしだけどさ・・・」

千佳はついに観念した。長い前髪が邪魔でよく見えないが千佳は目元を真っ赤に染めている。

「相変わらず仲がいいな・・・」

このまま終わっていれば綺麗に終わったのに大地が余計なことをつぶやいた。

「そんなわけあるかー!」

目を赤くしながら千佳が水平チョップ、大地の鼻先に向かって飛んできたそれは見事に命中した。

「ぎゃああああ!血が!鼻血が!」

目と同じように顔まで赤くなっていた千佳だったが嬉しそうだしテンションもいつも通りに戻ったようだったのでよかった。


千佳の機嫌が戻ったがなんとなく大好きな一口チョコをあげておこうと思った。ちょうど切らしてしまっていたので今度買っておこう。


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