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七話


 一夜明けて、私は職場に電話を入れた。小火騒動の片づけをする為に、午前中は仕事を休むと伝える為だ。一日休めればいいのだろうけど、簡単に休める仕事ではないのだ。

 連絡を入れて小火の片づけをすると言うと、火事なんて起きるの? と不信がられた。それもそうだ。いまは燃えにくい素材の家が主流で、火災が起きないような建物設計になっている。火災が起きるのは人為的な事以外あり得ないとされているのだ。

 私とシュアが一緒に住んでいる事は知られている。こともあろうに、私が火を点けたのかと疑われていたのだ。痴話げんかでもしたのかと聞かれ、私に暴力はいけないと話し合いで解決しないとだめだと、諭された。シュアを疑わないところから、私の日頃の行いが悪いからなのかと少し凹む。

 でも、火災を起こしたのは愛美と陽菜だ。その事を簡単に説明する。そして、三人を引き取る手続きをするつもりだと話した。

 施設で脱走事件を起こしたのだから、また施設に入る事は難しい。もし入れたとしても、良い環境とは言えなくなるだろう。事情を話し引き取るのが一番良いと思った。

ここはシュアの家だ。シュアにこれ以上迷惑、身内の事で迷惑をかけるのは気が引けるので小火の後片付けが終わり次第、残りの日数をホテルに部屋をとり三人と一緒に生活しよう。



 朝食の準備をしようとキッチンに行くと、先に起きていたシュアがいた。昨日は、あの後気絶したまま車に置いてきた昴を客室に運んでくれた。スーツを着ているシュアは少し長めの銀髪を後ろに一つに縛っている。


 朝の挨拶をしてから、私も朝食の準備を手伝う。朝はフレークとヨーグルトとサラダとベーコンを焼いたモノで簡単でいいだろう。ベーコンを焼きながら、今後について話をする。片づけが終わったら、他に所に移ると話すとシュアが少し表情を固くした。

「ここにいればいいじゃないか。部屋は余っている。俺は構わないよ」

「有難う。でも、あの子たちがまた何かやらかしたりするかもしれないでしょ。シュアに迷惑がかかってしまうもの」

「アーネの親族なら、俺にとっても親族だろ。迷惑など気にすしなくていい。家を一つ潰されても、気にしないよ」

「私が気にするよ。そこまでシュアに甘えてはいられないわ」

「俺は甘えてほしいと思うが?」

 ベーコンを焼いている私の後ろからシュアが抱きつく。

「君、一人にあの子たちを任せる事が俺は心配だよ。俺も居た方が心強いと思わないかい?」

 確かに、シュアが一緒にいてくれた方が、三人が何かやらかした時の対処がしやすいだろう。でも、婚約者にそこまで迷惑をかけていいのか悩む。元々、私は兄達三人が来る事を見越して、特別事故処理班に入った。無事に帰すだけの技術を身につける事を目標に生きて来た。

 シュアにプロポーズされたのは二十四歳の時で、結婚を保留のままでいたのは三人を無事に帰すまでは、結婚できないと言っていたからだ。子供願望の強いシュアは、早く夫婦となり子供を作る許可を取りたかったようだが、私の我が儘に付き合ってもらっているのだ。


「シュアがいてくれれば助かるけど」

「それじゃあ、こうしよう。ホテルが決まるではここにいればいい」

「それ、シュアが手を回してホテルを決めさせないとか言わないよね?」

 私は首をひねってシュアの顔を見る。シュアはにっこり笑って肯定としかとれない笑みを浮かべている。そのまま、唇に軽くキスをする。

「シュアは私に甘過ぎると思う」

「奥さんは誰よりも甘やかしていいだろう?」

 ぎゅっと抱かれて何も言えない。シュアの腕に抱かれて、何時も守られていたらそのうち、彼なしでは生きて行けなくなりそうで、少し怖い。また唇が降って来て私はそれを受け入れようとした。でも、降って来る前に音が聞こえて、私はシュアを押してどけさせる。

 そこには、私の寝間着を着て声をかけるべきか考えている様子の、愛美と陽菜がいた。

「あの……」

 私達のやり取りを見ていたのだろうか、二人がどぎまぎとして顔を赤くしている。

「おはよう。良く寝られた?」

 私は、何事もなかったように微笑みかける。親戚にラブシーンを見られたと思うと動揺もするが、それを表に出さないのが大人だ。

「おはようございます」

「おはよ。あの、私達これからどうなるんですか?」

「あの施設に戻されるの?」

 不安な顔を向けて来る。その前に、私は気になる事がある。

「施設で何があったのか聞いてもいいかな?」

 あの施設は本当に親切で、住む人にストレスを与えないように気を使ってくれる。施設の保護官も優しい人が多い。ドームは夫婦に為らないと子供を作る事が出来ない。それでも、不幸や意図せず子供一人になった際に未成年を親の代わりに育ててくれるのが施設の役目だ。

 子供は宝。そんな言葉が施設内から聞こえてきそうなほど優しく接してくれる。

 それなのに、施設に行ってほんの数時間で脱走するなんて余程の事がないとしないはずだ。

「昴がこの施設、本当は奴隷生産施設に違いないって。俺たちは奴隷にされるんだって」

 奴隷生産施設。兄よ。酷い。本当に妄想が酷過ぎる。よりにもよってどうして、奴隷生産施設だと思うのか理解できない。

 頭痛がしてきて頭を押さえる。

「文明が劣っている私達は、奴隷にされるんだって、売られる前に逃げ出そうって事になって」

「監視カメラっぽいものに、モノぶつけて壊して、貰ったブレスレットは発信機がついているだろうからって捨てて逃げたの」

「私達売られるの?」

「人身売買なんてしない。それにあの施設は、そんな危険な事はしていないわ」

 二人は顔を合わせて、それから首を振る。

「でも、異界から来たモノは、高く売れるって。聞いちゃって」

 私は眉を寄せる。もし、本当に施設で人身売買が行われているのなら大問題だ。私の時はそんな事はなかったし、政府の特別事故処理班が関わった子供を売れば、足がつきやすい。それにあの施設の保護官には、私からも三人を頼むと頭を下げた。そんな子供を売るはずがない。

「聞き間違いの可能性は?」

「アーネは私達の事を信じられないの?」

「信じるけれど、その前に正確な情報を得る事は大切なのよ」

「聞き間違いじゃない。本当に言ってたの」

 

「本当に施設の人は言っていたのだろう。唯、意味が違う。異界から入る繊維や、機械は技術が違うので研究するのに高く売買されている。人を指す『者』ではなく、物体を指す『物』だろうな」

 なるほど。確かに、私の時も着ていた服と持っていた懐中電灯は引き取っていいかと言われてあげた。

 しかし、聞き間違えで脱走したのか。脱力してたくなる。でも渡り直後の知らない場所に突然来られて、精神状態は普通じゃないから些細な事でも、神経質になっていたのかもしれない。

「本当にそう言う意味なのかな?」

 愛美と陽菜は顔を見合わせて聞いた時の状況を思い出しながら、話している。


「三人は元の世界に戻るまでこの屋敷で預かる事になった」

 私が言うより早くシュアが言う。

「いいの!?」

「よかったー。なんかアーネさんがいるなら安心が出来るんだよね。不思議と」

 愛美と陽菜が嬉しそうに弾んでいる。

先手を打たれた。住まいというモノは安定しないと、情緒が不安定に為りやすい。喜んでいる所にまた直ぐに、住居の場所を移動すると知らせれば、三人は落着かなくストレスを更に与えてしまうだろう。私は少しシュアを睨む。


「俺はこんなところに住まないからな! 悪の魔法使い!」

 後ろから怒鳴り声が聞えた。昴が私達を指差し怒鳴っていた。

 なんでもいいが、人差し指で指されて後ろにいるシュアがブレスレットに手を掛けて、いつでも拘束できるようにシステムを確認している。指差すのは危険行為で、街中でやれば喧嘩を売っていると勘違いされない行為だ。人差し指で人を指してはいけないと早めに昴に教えておこう。



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